偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

目次(映画)

〈あ行〉
アンダー・ザ・シルバー・レイク
エターナルサンシャイン
オリーブの林をぬけて



〈か行〉
キートンの探偵学入門
きみに読む物語
きみに読む物語その2
キングスマン
キングスマン : ゴールデン・サークル
狂い咲きサンダーロード
軽蔑



〈さ行〉
サスペリア
サスペリア(ルカ・グァダニーノ版)
三月のライオン
シェイプ・オブ・ウォーター
シャークネード・シリーズ(1〜5)
シャークネード6 ラストチェーンソー
スウィート17モンスター
スプリット
そして人生はつづく
ゾンゲリア



〈た行〉
ダンケルク
チェイシング・エイミー
ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌
ドグラ・マグラ
友達のうちはどこ?
トラフィック
トリプルヘッド・ジョーズ
ドント・ブリーズ



〈な行〉




〈は行〉
ハイテンション
バッファロー'66
HOUSE
パラドクス
フォレスト・ガンプ/一期一会
フォロウィング
冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜
ザ・フライ
ベイビー・ドライバー
ボヘミアン・ラプソディ



〈ま行〉
マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり
ムーンライズ・キングダム



〈や行〉



〈ら行〉
ラースと、その彼女
ルチオ・フルチの新デモンズ



〈わ行〉
若者のすべて




〈その他映画記事〉
失恋の傷口に塩を塗る恋愛映画7選
【閲覧注意】極私的、ランク別どんでん返し映画紹介
好きなゾンビコメディ15選
My Favoriteホラー映画10選のリスト〜〜。








〈今月のふぇいばりっと映画〉
2018/9
ジャンゴ 繋がれざるもの/レディプレイヤー1/P.S.アイラブユー/禁断の惑星/巨大クモ軍団vs GoGoダンサーズ

2018/10
サタデー・ナイト・フィーバー/ニュー・シネマ・パラダイス/カビリアの夜/プールサイド・デイズ

2018/11
エンドレス・ポエトリー/君の名前で僕を呼んで/マルホランド・ドライブ/ストレイト・ストーリー/早春 (DEEP END)

2018/12
柔らかい殻/普通の人々/フィールド・オブ・ドリームス/メッセージ/時計仕掛けのオレンジ/ブロンド少女は過激に美しく/ドライヴ/エド・ウッド

2019/1
お熱いのがお好き/リバディ・バランスを射った男/ストレンジャー・ザン・パラダイス/ソナチネ

2019/2
アクアマン/新婚道中記/道

2019/3
夜の大捜査線/ヤコペッティの大残酷/タワーリング・インフェルノ

目次(音楽・漫画・その他)

〈音楽関連〉

indigo la End

02nd AL『幸せが溢れたら』
04th AL『Crying End Roll』
05th AL『PULSATE』


スピッツ

〈アルバム〉
08th『フェイクファー』
15th『醒めない』

〈曲〉
「エンドロールには早すぎる」
「子グマ!子グマ!」



年末ランキング
2017年、私的アルバムランキング!
2018年、私的アルバムランキング!!





〈漫画関連〉

駕籠真太郎
『殺殺草紙 大江戸無惨十三苦』
『ブレインダメージ』

加藤元浩
Q.E.D 証明終了』全巻読破計画
① 1巻〜10巻
② 11巻〜20巻
③ 21巻〜30巻
『C.M.B 森羅博物館の事件目録』全巻読破計画
① 1巻〜10巻

さくらももこ
『ちびしかくちゃん』(全2巻)

アンソロジー
怪談マンガアンソロジー『コミック幽』





〈その他雑文〉
感想を書くときに気をつけていること

目次(小説)

≪あ行≫

青山文平
『半席』

朝井リョウ
『世にも奇妙な君物語』

芦沢央
『今だけのあの子』

飛鳥部勝則
『堕天使拷問刑』

伊坂幸太郎
『火星に住むつもりかい?』

井上ひさし
『十二人の手紙』

井上夢人
『ダレカガナカニイル』

歌野晶午
『ずっとあなたが好きでした』

海猫沢めろん
愛についての感じ

浦賀和宏
《安藤直樹シリーズ》
1.『記憶の果て』
2.『時の鳥籠』
3.『頭蓋骨の中の楽園』
4.『とらわれびと』
5.『記号を喰う魔女』
6.『学園祭の悪魔』
7.『透明人間』
《萩原重化学工業シリーズ》
8.『HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件』
9.『HELL 女王暗殺』
10.???
《メタモルフォーゼの女シリーズ》
1.『Mの女』
2.『十五年目の復讐』
《ノンシリーズ》
『こわれもの』
『ファントムの夜明け』
『姫君よ、殺戮の海を渡れ』
『緋い猫』
『ハーフウェイハウスの殺人』


小川勝己
『撓田村事件』



≪か行≫

加門七海
『蠱』

楠田匡介
『いつ殺される』

倉野憲比古
『スノウブラインド』

甲賀三郎
『蟇屋敷の殺人』

小林泰三
『忌憶』
『殺人鬼にまつわる備忘録』


≪さ行≫

坂木司
『和菓子のアン』
『アンと青春』

桜木紫乃
『ホテルローヤル』

朱川湊人
『都市伝説セピア』

住野よる
『君の膵臓をたべたい』



≪た行≫

太宰治
『人間失格』
『走れメロス』

多島斗志之
『クリスマス黙示録』
『不思議島』
『少年たちのおだやかな日々』
『私たちの退屈な日々』
『追憶列車』
『黒百合』

谷崎潤一郎
『谷崎潤一郎マゾヒズム小説集』

辻村深月
『かがみの孤城』

積木鏡介
『誰かの見た悪夢』

友成純一
『ホラー映画ベスト10殺人事件』



≪な行≫

夏目漱石
『こころ』

七河迦南
『アルバトロスは羽ばたかない』

西澤保彦
『小説家 森奈津子の華麗なる事件簿』
『夏の夜会』
『いつか、ふたりは二匹』

貫井徳郎
『修羅の終わり』※全編ネタバレのみ)

法月綸太郎
『頼子のために』
『一の悲劇』
『ふたたび赤い悪夢』
『犯罪ホロスコープ Ⅰ』



≪は行≫

深緑野分
『オーブランの少女』

深水黎一郎
『大癋見警部の事件簿』

藤野恵美
『わたしの恋人』『ぼくの嘘』
『ふたりの文化祭』
『おなじ世界のどこかで』



≪ま行≫

柾木政宗
『NO推理、NO探偵?』

道尾秀介
『月と蟹』
『カササギたちの四季』
『水の柩』
『透明カメレオン』

三津田信三
『碆霊の如き祀るもの』

武者小路実篤
『友情』

望月拓海
『毎年、記憶を失う彼女の救い方』

森見登美彦
『ペンギン・ハイウェイ』



≪や行≫

山田風太郎
『伊賀忍法帖』

米澤穂信
『真実の10メートル手前』



≪ら行≫

連城三紀彦
『明日という過去に』
『白光』
『小さな異邦人』



≪わ行≫




≪海外作家≫

陳浩基
『13・67』

トマス・H・クック
『夏草の記憶』
『心の砕ける音』
『蜘蛛の巣のなかへ』
『緋色の迷宮』



≪アンソロジー

角川ホラー文庫「現代ホラー傑作選」
2.魔法の水
3.十の物語

『謎の館へようこそ 黒』

『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』

≪その他≫

2017年に読んだ小説ベスト20
2018年に読んだ小説ベスト10

道尾秀介『月と蟹』読書感想文

はい、道尾リバイバル第4弾。
2009年から毎回連続で直木賞候補に名前の上がっていた道尾さんがついに5度目の正直で受賞を果たしたのが本作。
その当時には「あ、道尾秀介とったじゃん」と思ったものの、個人的には道尾離れの時期だったのでそれから放置していました。結果的にはその当時じゃなくてそれなりに人生経験を積んだ今読んだのが正解だった気がします。

月と蟹 (文春文庫)

月と蟹 (文春文庫)


主人公は、海辺の町に住む小学5年生の慎一くんという少年。彼は父親を亡くし、母と祖父との3人で暮らしていますが、母は最近男に会っているよう。その相手の男というのが、慎一のクラスメイトで慎一の祖父のせいで母親を亡くした鳴海ちゃんの父親なのでした。
慎一はクラスにうまく馴染めていませんが、同じような境遇の春也くんと意気投合し、毎日山で遊んでいます。しかしこの春也くんもまた複雑な事情を抱えており、2人の鬱屈した少年達はある日、ヤドカリを焼くことで"ヤドカミ様"が願いを叶えてくれる......という遊びを考案します。やがてそこに鳴海も加わり、3人の少年少女、そして周りの大人達の関係は徐々に変容していきます......。


直木賞受賞作」というご大層な肩書きはあるものの、だからといって普段と格段に変わるわけではなく、普段通りにチャレンジングな試みも丁寧な描写もある、普段通りの傑作です。

まず、序盤は正直なところ単調なんですよね。なんていきなりディスっちゃいましたが、いわば緩急で言えば緩。
ただ、ドラマチックな展開こそないものの、例えば春也と祖父と3人で遊びに行くシーンで友達と祖父が自分そっちのけで仲良くなった感じがしたりとか、子供の頃ってこういうことあるある!っていうリアリティが凄かったり。家に友達連れてきたらなんか親と話が盛り上がってつらい、みたいな。あれって親の立場からするとどういう心境なのかな。まだ分かんないすけど、とにかくこういう個人的でありながら普遍的な感情を描いてスッと読者を物語の世界に引き込む技がお見事です。
あるいは、クラスの女子と夜に散歩したりだとか、"静の舞"を見るシーンだとかには、甘ずっぱい美しさがあったり。
こういう、地味に心に残る場面の積み重ねが、後からじわじわと効いてくるんですよね。


で、こういうじわじわを積み重ねておい
てからの、第4章くらいから、つまりは本書の半分を過ぎたあたりから、物語は一気に面白くなっていくわけです。
あ、別に結末のネタバレとかはしないけど、以下で後半の展開にも触れていくので知りたくない方はご注意を。









というわけで、母への苛立ちや、春也や鳴海との関係性がじわじわと描かれていた前半から一転し、後半は一気に物語のスピード感が上がります。
といっても、外面的に起こることはやはりそこまで派手ではなく、主に慎一の内面の変化、まぁ言っちゃえば、鳴海に対して恋心を抱くとともに、鳴海が春也のことを好きらしいと感じて嫉妬に狂っていくわけです。そこに母を鳴海の父親に取られたくないという、そっちでの嫉妬も加わり、とても小学生とは思えぬ嫉妬の塊になっていってしまうのです。
ことここに至ると、もう鳴海と春也が出てくる全ての描写がつらみ成分100%配合になっちゃうわけで、オカンが出てくるところには大人の汚さが(読者からすれば大人たちの気持ちにも分かる部分は大きいのですが、三人称とは言え慎一視点で書かれているだけに......)満ち満ちているように感じられます。
特に私は初恋時代に同じようなことがあった、つまりは友達と好きな子がとても仲がよくて無理やり張り付けたような笑みを浮かべていたクチですから......もうエモ散らかしましたね。読んでる途中でため息ついて外を自転車で走り回りたくなりましたよ(自転車持ってないから未遂に終わったけど)。
伊集院静による解説には、「道尾作品の少年少女は自らが少年少女であることに戸惑っている」というようなことを言ってましたが、まさにそんな、思春期特有の気持ちを持て余して暴走させてしまうような危うさが、物質的に派手な事件は起きなくても、内面的な緩急の「急」として、後半、とくに終盤で畳み掛けてくるので、後半は徹夜必死、寝坊覚悟で読むべきでありますことよ。
個人的に特に刺さったのは、鳴海の踊りのシーンと、ヤドカリの交尾のシーンですね。セックスというものを知らないけどその気配を感じているような、この時期ならではの気持ちにノスタルジックなエモを感じました。
また、作者本人が苦労したと語る、(ネタバレ→)観念上のヤドカミ様が暴れまわるシーンも、(これは例えば『水の柩』の"解決"にも通じると思いますが)映像でやればバカバカしくなるけど小説だからこその切実さを持った名場面です。



そして、結末もまたいつもながらに過不足なくまとまってますね。
これ以上補足説明を加えれば無粋で、かと言って何も語らなければあまりにモヤモヤする。その間を縫って絶妙に狂騒の後の余韻を残してくれる、見事な幕引きでした。

終わりよければ全てよしとは言いますが、終わりもいいし過程もいいから本当に全ていい傑作でした。
たぶん中学の頃に読んでたら「ミステリ要素ないけどね」みたいないらん茶々を入れてしまっていただろうから、今読んで正解でした。

伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』読書感想文

最近中学の時にハマってた道尾秀介の未読作品を補完していってるのですが、その流れで同じく中学の時にハマってた伊坂幸太郎の未読作品も読みたくなって買い揃えてしまいました。そんなわけで、しばらくは道尾と伊坂を行き来するような生活が続きそうです。

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)


「平和警察」が設立され、犯罪予防の名の下に"危険人物"とされた一般人たちが拷問や公開処刑される世界。
平和警察制度の対象である「安全地区」となった仙台では、全身黒ずくめで謎の武器を使う「正義の味方」が現れ、平和警察へのテロ行為を開始するが......。
という設定の、監視社会と魔女狩りのような警察権力の執行を描いたディストピアSFです。

伊坂作品ではしばしば「正義」とか「勧善懲悪」というモチーフが使われますが、本作はそれらへの考察がこれまでよりもう一段 上のステージに登ったような印象の力作にして問題作です。


一般市民が警察に監視されてめちゃくちゃされちゃうってとこは『ゴールデンスランバー』にも通じるものがありますが、ほぼ主人公視点に固定されていたあちらに比べて、本作は常に三人称で書かれた俯瞰の視点で、この世界そのものが主役のような印象でした。
特に序盤は、視点人物が一段落ごとに変わりながらあちこちに話が飛んでいって、まさに神の視点からこの世界を俯瞰している印象。

そんな中で、色んなところで胸糞悪い出来事が起こります。
この胸糞悪さはまさに伊坂幸太郎の真骨頂ではあるのですが......。
ええ、今までの伊坂作品では、城山とか、ペット殺しとか、サイコパス野郎とか、1人(1組)の分かりやすい悪役が出てきてそいつが最後ぶち殺されてYeeeeeah!みたいなノリだったわけですが、本作に関してはそう単純な話ではないわけです。
なんせ、ここは無辜の一般市民が「平和警察に目を付けられた」という理由で危険人物としてギロチンで公開処刑される魔女狩りの国。そして、その公開処刑を人々が「正義の執行」だと思って見物しにくる国。
そう、その設定があるので、読者の我々もまた胸糞悪い奴が酷い目にあって「ざまぁみろ」と思うたびに、「ざまぁみろと思った自分も公開処刑を見にくる奴らと同じなのではないか」という自己批判をさせられるのです。あるいは、嫌な奴が殺されるかと思わせて殺されなかった時の「ああっ、もうちょいでこいつぶっ殺せたのに!」という感情とか。
故意にだと思いますが、そうやって読者の中にある「正義感」による制裁願望を揺さぶることで読者を野次馬の立場にまで堕として「正義」とはなにかについて考えさせるという仕掛けが本作では至る所に仕込まれているわけです。だから油断ならない。
このへんの、勧善懲悪の相対化というのがこれまでの作品と大きく異なるところだと思います。

で、そうやって読者へも鋭い刃を向けておいてから、第2部以降では徐々に主要人物らしきキャラクターも登場して、いよいよ物語らしくなってきます。
本作の一応主役的ポジションになるのが、平和警察の刑事二瓶と、警視庁から来た特別捜査官の真壁。真壁さんは、伊坂作品では陣内や西島や河崎的なポジションの、いわゆる切れる変人。一方二瓶くんは武藤や北村や椎名のポジション......ではありながら、平和警察の真面目な捜査官なので、必要とあらば何でもやるような危うさを秘めています。
そんな2人が探偵コンビのように正義の味方を探していく様は伊坂作品には珍しい刑事ものとして面白かったです。
第1部は胸糞悪かっただけに、この辺からは(もちろん胸糞事案もありつつですが)かなりエンタメに振り切っていて一気に読めましたね。
こっから先の展開はあんまり書くとネタバレになってしまいますが、変人あり、伏線回収あり、意外な展開あり、分かりやすいけど一応どんでん返しもありで、伊坂長編の醍醐味てんこ盛り。

そして、こういう話でありながら結末に後味の悪さがないのが伊坂幸太郎の良さですよね。
「正義」という大きすぎるテーマに挑んでどう話を畳むつもりなのか、どう落とし前をつけるのか、と心配していたのですが、杞憂でした。そもそも、何が正しいのかなんて答えのないことですが、答えはなくてもスタンスはある。そんな、前向きな諦めとでもいうような答えが深いです。これまでの作品より、一歩先を行くような。作中のとある台詞やタイトルの意味とともに、爽やかでありつつも不穏さもある独特な余韻が残ります。

ストレートなエンタメでありつつ、テーマ性は格段に深化した、伊坂幸太郎の新たな代表作と断言できる傑作でした。

道尾秀介『カササギたちの四季』読書感想文

My道尾リバイバルブーム第3弾は、ミステリ界隈でも話題になったこの作品。

リサイクルショップを営む華沙々木と、その友人で唯一の店員である日暮、そして店に入り浸る中学生の菜美ちゃんの3人が四季折々に出会うちょっとした事件たちを描いた日常の謎連作短編集です。

カササギたちの四季 (光文社文庫)

カササギたちの四季 (光文社文庫)


さて、そんなわけで日常の謎連作なんですけど、本書の"とある趣向"が発表時にミステリファンの間で話題になりました。
その趣向というのが、名探偵・華沙々木が披露する誤った解決を、助手の日暮くんが真実に見えるように手回しをしていきつつ、ちゃんとした真相も見つけるという、麻耶雄嵩ばりの探偵/助手関係のヒネリなのです。
で、どうしてそんなことをするのか?ということは本書の第1話を読んでいただけば分かりますが、そこには道尾さんらしい心温まる理由があって、いわば麻耶雄嵩に人情味が宿ったような作品と言えるでしょう(麻耶にたいへん失礼)。

また、各話の内容も非常にハートウォーミング。ミステリとしても、あっちょんぶりけなはちゃめちゃダミー解決の後で、それ以上の意外性はありつつ説得力もある真の解決、というのを短編のサイズでやっちゃうのがとても技巧的。
......でありながら、日暮くんの地の文での語り口や主人公たちの会話には泡坂妻夫を彷彿とさせるような惚けたユーモアがあります。米澤穂信の解説の言葉を借りれば、技巧的なのに斧鉞の跡が見えません。この、涼しい顔をしてさらっとすごいことをやってのけるあたり、道尾秀介のあの整った顔に滲むドヤ顔を想像してしまって悔しいかな惚れ直しました。道尾ファンでいてよかった!
ついでにもひとつ、米澤穂信の解説から、本書の、ひいては道尾秀介という作家の魅力を見事に言い表した評があるので引用しておきます。

かつて私は連城三紀彦の小説を読み、ミステリであることは小説としての何かを諦めなければなさないことを意味しない、と思った。
いま道尾秀介を読み、同じことを再び確信している。

とか言ってる米澤さんの作品もそんな感じだと私は思いますが、ともあれ若い世代の作家さんたちがこうして連城三紀彦のような魅力を持ちつつ独自の作風を確立したミステリ小説を書いてくれていることは、いちミステリファンとして幸せなことだと実感します。

では、以下各話の感想を少しずつ。





「鵲の橋」

リサイクルショップ・カササギを訪れた怪しい子供と、倉庫で燃やされた鳥の像。頻発する怪事を調べるうち、華沙々木たちはとある一家の遺産相続争いに首を突っ込むことになり......。


第1話ということもあり、キャラ紹介的な側面もあるお話です。
序盤で、語り手の「僕」こと日暮くんが調査のために「自分には子供がいる」と嘘をつく場面があります。彼がその嘘で言った子供をだんだん実在するように感じて、事件関係者に子供をディスられて思わず「うちの子は心優しい子なんですから!」みたいにキレるところが最高でした。道尾作品に通底し、本書のテーマでもある「嘘」を使って惚けたユーモアのある心地よい空気感を初っ端から見せつけて一気に彼らに愛着を湧かせてくれる見事な"つかみ"ですよね。
で、事件の方ですが、こちらは本書の中では一番微妙に感じてしまいました。事件自体の魅力もそんなにだし、ダミーの解決がそこそこ真っ当でバカミスっぽさが薄いです。とはいえ真の解決は意外性と切なさを両立したもので、何とも言えないラストの余韻の中に浸ってしまい次の話を読む前に一息つかなきゃいけないハメになりました。微妙って言ったけどキャラ紹介の第1話としては素晴らしいと思います。





「蜩の川」

山奥にある木工所に、新弟子となった若い女性・早知子の部屋の家具を配送しに行った華沙々木たち。彼らはそこで神社から加工を依頼された御神木が傷つけられる事件に遭遇し......。


はい、ここからが本番とばかりに一気にクオリティが上がってきます。
この話では家を飛び出して男ばかりの木工所に弟子入りし、ついに夢を叶えて本弟子になれた早知子という女性が登場します。
日暮くんが彼女を気にかける時の、恋愛とはまた違うけれどそれにも似たところもあるような微妙な気持ちというのが描かれていて胸がしめつけられましたね。道尾氏、こういう名前のない関係を描くのも上手いですよね。
そしてダミー解決と真相のバランスも絶妙で、華沙々木の推理でバカミス的トンデモ感を楽しんだ後に、真相では人間の心の複雑さを見せつけられてめちゃくちゃ納得するという、ミステリとしても文学としても2度美味しい解決になってます。こんだけ方向性の違うネタを1話にさらっと納めちゃうのが凄いですよね。
そして、ラストシーンの余韻もばっちし。思わず次の話を読む前に一息コーヒーブレイクを入れてしまいましたよ。





「南の絆」

1年前、菜美の母親は、別れた夫の家具などを二束三文で売るために華沙々木たちを呼んだ。父親のものが売られていくことに不満を持つ菜美を見て罪悪感を覚えつつも買取を済ませた華沙々木たち。その夜、菜美の家に泥棒が入る。しかし、盗まれたのは猫だけで......。


華沙々木たちが菜美と出会うきっかけとなった事件です。
まだ華沙々木たちのことをよく知らない菜美ちゃんのツンケン具合が可愛いですね。道尾さんツンツンした女の子描くの上手い。
で、菜美が抱えているものというのも明かされるわけですが、最初は、例えば他の道尾作品に出てくる女の子たちに比べて思ったほど重くないことに肩透かしを食らったような気にもなりました。しかし、彼女はまだ中学生。リアルに中学生の頃に、しかもそれまではめちゃくちゃ幸せな家庭だったのにこんなことが起きればそりゃつらいよね、と。冷静に考えてみれば、他人の不幸と比べて大したことないと思ってしまった自分の不明が恥ずかしいですね。ともあれ、これで日暮くんの"動機"もはっきりして、これまでのお話にもまた深みが増してくるのが素敵。
事件の方はと言いますと、これもダミーの解決にいい意味でのトホホ感が強くて、真相はハートウォーミング系なギャップが楽しい話であります。日暮くんの暗躍具合が一番凄い話でもあるかな。





「橘の寺」

いつもの和尚から「寺にみかん狩りに来ないか」と誘われた日暮は、胡散臭さを感じつつも3人で寺へと向かう。その夜、大雪のため寺に泊めてもらった彼ら。そして、朝目覚めると、寺に泥棒が入り、和尚が大切にしていた貯金箱が割られていて......。


型があれば最後は崩すのが連作短編集の面白さでありまして。冒頭からいつもとはちょっとだけ違う展開で、黒幕的存在(と言うにはあまりにほのぼのとしてますが)である和尚さんが満を持してがっつり登場するわけです。
なんせこの人がたぶん本書の登場人物でも一番キャラが濃いので、この話に至ってはほぼ常にコメディ調でめちゃくちゃ面白かったです。この感想の最初の方で本書の全体の雰囲気を泡坂妻夫のようなユーモアと書きましたが、この和尚さんこそ特に泡坂キャラっぽい味わいがありますよね。丁々発止のドタバタを繰り広げつつも、和尚の過去にちょっとしんみりしつつ、でも油断はならぬ......というあまりに平和的な疑心暗鬼が最高です。
ミステリ部分に関しては、こちらも型を崩してきたと見せかけて......というちょっとしたズラしの遊び心が良いですね。
で、やっぱりしんみり泣かせてくれつつ、最後の最後に本書で最大の嘘の存在が仄めかされ......と、各方面への余韻が幾重にも残る素晴らしい最終話でした。



読み終わった寂しさでどうしても続編を期待しちゃいますが、作者本人は一度完結した話の続編はあまり書きたくないと公言しています。でも私はもうすっかりハマってしまったので「そこをなんとか」と道尾秀介を締め上げて続編書かせたい気持ちでいっぱいです。ミザリーみたいに。

道尾秀介『水の柩』読書感想文

というわけで、道尾熱が再燃したことによる道尾秀介強化月間の第2弾です。


老舗旅館の息子の逸夫は、中学校の文化祭をきっかけに同級生の敦子と親しくなり、彼女にタイムカプセルに入れた手紙を取り替えるのを手伝ってくれと頼まれる。普通な自分の退屈な生活に倦んでいた逸夫はその頼みを受けるが、敦子にはある思惑があった。
一方、逸夫の祖母のいくは、とあるきっかけか、ダムの底に沈んだ故郷での過去に囚われ憂鬱な日々を過ごすようになる。
祖母と敦子の過去が、やがて逸夫の人生をも変えていき......。

水の柩 (講談社文庫)

水の柩 (講談社文庫)


もうね、小説が上手いとしか言いようがないですよね、道尾先生。
本書は少年とその周りの人々との交流を描いた、言っちゃえばわりと地味な話。それでもここまで一気に読ませて最後には泣かされちゃうんだから、もう、上手いですよね。

本書は別にミステリーではないと思いますが、冒頭で話の本筋の出来事から1年近くが経った時点からはじまり、不穏な感じの仄めかしをしつつ本編に入る......という、広い意味でミステリー的なフックが初っ端から仕掛けられていることで一気に読めちゃう。このへんのミステリ作家としての技術を駆使して小説を書いてるところが道尾さんの良さですよね......。よい......。

で、本筋の方はと言いますと......。

まずは、ロケーションが良いですよね。
山の中の、温泉だけが取り柄の田舎町にある老舗旅館。そして、山のさらに奥にある、祖母の育った村を飲み込んだ巨大なダム......。
主人公は自分の退屈な日常を嘆いていますが、彼にとっては退屈でも読者からしたら旅館の息子の普通の日常ってだけで非日常ですからね。

で、そんな彼の退屈な日常に、2つの事件が降りかかります。
ひとつは、同級生の敦子とタイムカプセルを掘り返すことになること。
もうひとつが、祖母の過去に関する話を聞いてしまい、祖母と気まずくなること。

どっちもそうドラマチックとは思えない出来事ですが、しかし道尾秀介はこの2つの出来事を大冒険のような魅力を持って描いていくのです。

まず敦子の件については、自殺を考える敦子の気持ちに逸夫は気付けるのか、というところでハラハラさせつつ、逸夫視点からは退屈な日常に訪れるささやかな冒険へのワクワクも伝わってきます。
で、彼と彼女の関係性がまた良いんですよね。恋ではないんだけど、なんか気にしちゃう感じ。2人でいるとちょっと気まずいけど、居心地は悪くない感じ、といいますか。分かりやすい名前が付かない関係だからこそ、2人がどうなっていくのかこっちも気になっちゃうんですよね。良い。

そして、婆さんの方はもう婆さんのキャラの濃さが良いっすわ。騒がしいんだけど、その言葉にはなんか納得しちゃうような説得力があってこの人が騒ぎ出すとついにやにやしちゃいます。それだけに気落ちした後との落差もあって、逸夫の日常にぽかっと喪失感を穿ってくれます。この婆さんの不在感がシリアスな引きとなってページをめくらせてくるわけですね。

そして、敦子といく婆さんの2人のドラマが合流するクライマックスは地味に圧巻。
婆さんの過去が感情をぶち揺さぶり、敦子の未来が疾走感を持って迫ってくる。その果てにあるあの光景は、映像だけ考えたら馬鹿馬鹿しいようなものですが、ここまで彼らの心情を読んできたことにより、すっと受け入れられてじわじわと感動が広がっていきます。
完全に泣ける話なんだけど、でも登場人物たちがわざとらしくお涙頂戴してこないあたりも真摯さを感じます。
また、ミステリ読者にはすぐ分かってしまうものとはいえ、さらっとミステリ的な技法も入れ込んでくることで一捻り加えるあたりも器用ですよね。
全体にかなり切ない話ですが、それでいて後味が悪いとは思えない、絶妙な畳み方がまた上手くて、うん、やっぱり道尾秀介は小説が上手いんだと思わされました。