偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

目次(映画)

〈あ行〉
アンダー・ザ・シルバー・レイク
イット・フォローズ
エターナルサンシャイン
エンジェル、見えない恋人
オリーブの林をぬけて



〈か行〉
キートンの探偵学入門
きみに読む物語
きみに読む物語その2
キングスマン
キングスマン : ゴールデン・サークル
狂い咲きサンダーロード
軽蔑



〈さ行〉
サスペリア
サスペリア(ルカ・グァダニーノ版)
三月のライオン
シェイプ・オブ・ウォーター
シャークネード・シリーズ(1〜5)
シャークネード6 ラストチェーンソー
スウィート17モンスター
スプリット
そして人生はつづく
ゾンゲリア



〈た行〉
ダンケルク
チェイシング・エイミー
ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌
チャイルド・マスター
ドグラ・マグラ
友達のうちはどこ?
トラフィック
トリプルヘッド・ジョーズ
ドント・ブリーズ



〈な行〉




〈は行〉
ハイテンション
バッファロー'66
HOUSE
パラドクス
バリー・リンドン
フォレスト・ガンプ/一期一会
フォロウィング
冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜
ザ・フライ
ベイビー・ドライバー
ボヘミアン・ラプソディ



〈ま行〉
マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり
ムーンライズ・キングダム



〈や行〉



〈ら行〉
ラースと、その彼女
ルチオ・フルチの新デモンズ



〈わ行〉
若者のすべて




〈その他映画記事〉
失恋の傷口に塩を塗る恋愛映画7選
【閲覧注意】極私的、ランク別どんでん返し映画紹介
好きなゾンビコメディ15選
My Favoriteホラー映画10選のリスト〜〜。








〈今月のふぇいばりっと映画〉
2018/9
ジャンゴ 繋がれざるもの/レディプレイヤー1/P.S.アイラブユー/禁断の惑星/巨大クモ軍団vs GoGoダンサーズ

2018/10
サタデー・ナイト・フィーバー/ニュー・シネマ・パラダイス/カビリアの夜/プールサイド・デイズ

2018/11
エンドレス・ポエトリー/君の名前で僕を呼んで/マルホランド・ドライブ/ストレイト・ストーリー/早春 (DEEP END)

2018/12
柔らかい殻/普通の人々/フィールド・オブ・ドリームス/メッセージ/時計仕掛けのオレンジ/ブロンド少女は過激に美しく/ドライヴ/エド・ウッド

2019/1
お熱いのがお好き/リバディ・バランスを射った男/ストレンジャー・ザン・パラダイス/ソナチネ

2019/2
アクアマン/新婚道中記/道

2019/3
夜の大捜査線/ヤコペッティの大残酷/タワーリング・インフェルノ

2019/4
暗殺のオペラ/ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ/地球に落ちてきた男/地上より永遠に

2019/5
search サーチ/怪怪怪怪物!/クーリンチェ少年殺人事件/ヘレディタリー 継承

2019/6
ブルー・ベルベット/パターソン/ライフ/11:46/カランコエの花

目次(音楽・漫画・その他)

〈音楽関連〉

indigo la End

02nd AL『幸せが溢れたら』
03rd AL『藍色ミュージック』
04th AL『Crying End Roll』
05th AL『PULSATE』


スピッツ

〈アルバム〉
08th『フェイクファー』
13th『とげまる』
15th『醒めない』

〈曲〉
「エンドロールには早すぎる」
「子グマ!子グマ!」


サカナクション

『834.194』感想 -東京version-



年末ランキング
2017年、私的アルバムランキング!
2018年、私的アルバムランキング!!





〈漫画関連〉

駕籠真太郎
『殺殺草紙 大江戸無惨十三苦』
『ブレインダメージ』

加藤元浩
Q.E.D 証明終了』全巻読破計画
① 1巻〜10巻
② 11巻〜20巻
③ 21巻〜30巻
『C.M.B 森羅博物館の事件目録』全巻読破計画
① 1巻〜10巻

さくらももこ
『ちびしかくちゃん』(全2巻)

アンソロジー
怪談マンガアンソロジー『コミック幽』





〈その他雑文〉
感想を書くときに気をつけていること

目次(小説)

≪あ行≫

青山文平
『半席』

朝井リョウ
『世にも奇妙な君物語』

芦沢央
『今だけのあの子』

飛鳥部勝則
『堕天使拷問刑』

伊坂幸太郎
『火星に住むつもりかい?』

井上ひさし
『十二人の手紙』

井上夢人
『ダレカガナカニイル』

上田早夕里
『魚舟・獣舟』

歌野晶午
『ずっとあなたが好きでした』

海猫沢めろん
愛についての感じ

浦賀和宏
《安藤直樹シリーズ》
1.『記憶の果て』
2.『時の鳥籠』
3.『頭蓋骨の中の楽園』
4.『とらわれびと』
5.『記号を喰う魔女』
6.『学園祭の悪魔』
7.『透明人間』
《萩原重化学工業シリーズ》
8.『HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件』
9.『HELL 女王暗殺』
10.???
《メタモルフォーゼの女シリーズ》
1.『Mの女』
2.『十五年目の復讐』
《ノンシリーズ》
『こわれもの』
『ファントムの夜明け』
『姫君よ、殺戮の海を渡れ』
『緋い猫』
『ハーフウェイハウスの殺人』


小川勝己
『撓田村事件』
『イヴの夜』



≪か行≫

加門七海
『蠱』

楠田匡介
『いつ殺される』

倉野憲比古
『スノウブラインド』

甲賀三郎
『蟇屋敷の殺人』

小林泰三
『忌憶』
『殺人鬼にまつわる備忘録』


≪さ行≫

坂木司
『和菓子のアン』
『アンと青春』

桜木紫乃
『ホテルローヤル』

朱川湊人
『都市伝説セピア』

住野よる
『君の膵臓をたべたい』



≪た行≫

太宰治
『人間失格』
『走れメロス』

多島斗志之
『クリスマス黙示録』
『不思議島』
『少年たちのおだやかな日々』
『私たちの退屈な日々』
『追憶列車』
『黒百合』

谷崎潤一郎
『谷崎潤一郎マゾヒズム小説集』

千澤のり子
『シンフォニック・ロスト』

辻真先
『郷愁という名の密室』(牧薩次名義)

辻村深月
『かがみの孤城』

積木鏡介
『誰かの見た悪夢』

友成純一
『ホラー映画ベスト10殺人事件』



≪な行≫

夏目漱石
『こころ』

七河迦南
『アルバトロスは羽ばたかない』

西澤保彦
《腕貫探偵シリーズ》
『腕貫探偵』
『腕貫探偵、残業中』
森奈津子シリーズ》
『小説家 森奈津子の華麗なる事件簿』
『小説家 森奈津子の妖艶なる事件簿 両性具有迷宮』
《ノンシリーズ》
『殺意の集う夜』
『死者は黄泉が得る』
『夏の夜会』
『笑う怪獣』
『いつか、ふたりは二匹』

貫井徳郎
『修羅の終わり』※全編ネタバレのみ)

法月綸太郎
『頼子のために』
『一の悲劇』
『ふたたび赤い悪夢』
『パズル崩壊』
『犯罪ホロスコープ Ⅰ』



≪は行≫

深緑野分
『オーブランの少女』

深水黎一郎
『大癋見警部の事件簿』

藤野恵美
『わたしの恋人』『ぼくの嘘』
『ふたりの文化祭』
『おなじ世界のどこかで』



≪ま行≫

柾木政宗
『NO推理、NO探偵?』

松井玲奈
『カモフラージュ』

三田誠広
『永遠の放課後』

道尾秀介
『月と蟹』
『カササギたちの四季』
『水の柩』
『光』
『笑うハーレキン』
『鏡の花』
『透明カメレオン』

三津田信三
『碆霊の如き祀るもの』

武者小路実篤
『友情』

望月拓海
『毎年、記憶を失う彼女の救い方』

森見登美彦
『ペンギン・ハイウェイ』



≪や行≫

山田風太郎
『伊賀忍法帖』

米澤穂信
『真実の10メートル手前』



≪ら行≫

連城三紀彦
『明日という過去に』
『白光』
『小さな異邦人』



≪わ行≫




≪海外作家≫

陳浩基
『13・67』

トマス・H・クック
『夏草の記憶』
『心の砕ける音』
『蜘蛛の巣のなかへ』
『緋色の迷宮』



≪アンソロジー

角川ホラー文庫「現代ホラー傑作選」
2.魔法の水
3.十の物語

『謎の館へようこそ 黒』

『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』

≪その他≫

2017年に読んだ小説ベスト20
2018年に読んだ小説ベスト10

三田誠広『永遠の放課後』読書感想文

夏です。夏ですよ。July she will flyですよ!

夏になると読みたくなるのが、青春小説。
積ん読の中から一番青春っぽいのを探した結果が本書でした。

永遠の放課後 (集英社文庫)

永遠の放課後 (集英社文庫)


まず、章題が良いんですよ。

これ見ただけでもう胸が締め付けられませんか?


もちろん、内容もやっぱりエモいっすよ。

主人公は、ギターだけが趣味の大学生、笹森ヒカルくん。
本書は、彼が中学時代から抱き続けてきた親友の恋人への恋心と、彼が「青い風」というバンドの復活ライブに参加することで音楽の道を志すようになる様の2つを軸にした、青春恋愛小説です。


冒頭、中学時代の話から物語ははじまり、序盤は紗英という少女に恋をし、彼女の恋人らしい杉田という男共親友になってしまい、3人でギターを弾き歌うというような場面が描かれていきます。
三角関係の話ではあるものの、笹森くんは恋にも友情にも真摯で、その純粋さは切ないと同時に羨ましくもなってしまうものです。

中盤以降は、大学生になった彼が、ボーカルを亡くした青い風というバンドに加わる話なのですが、このバンドの中でも、死んだボーカルとリーダーの築地という2人の男が共にサイドボーカルのヒミコに惚れていたという三角関係が明らかになっていき、さらには笹森くんの両親もまた......というように、なんと3つもの三角形が現れてしまうなかなか凄い小説なんですね。
なんですけど、この大人たちもやはりみんな真摯な人たちなので、これだけこんがらがった人間関係が描かれるにも関わらずドロドロ感が一切ないのが一番すごいですね。
それだけに余計に切なくもなるんですけどね......。

また、この大学生になってからの、中学時代から遠くへ来てしまった感じというのも凄くリアル。
すでに大学生ですらない私のようなおっさんからするともう痛いくらい。
中学時代にカースト上位にいたなんでも出来る親友が、大学生になってなんでも出来ることはなにも出来ないことだと気付いてしまうくだりとかね、つらい。
一方主人公はもとから低いところにいるから案外如才なくマイペースにやってるけど、やはり自分がなにをしたいのかが分からない。
そんな、アイデンティティや存在意義、いわゆるひとつの「僕って何?」状態に陥る彼らの姿に親近感を覚えます。というか私なんてこの歳になってもまだそんなようなこと言ってますからね。はは。



で、それと、音楽の描写が良いです。
あんまり専門的なことは描かれず感覚的な描写が多いので、ギターとか触ったことない私にもライブの高揚感とかデュエットの緊張感や気持ち良さなんかも伝わってきて、読んでて楽しかったし「青い風」のアルバムを聴いてみたくなっちゃいましたね。
また実在の曲もいくつか出てくるんですけど、ビー・ジーズ(ステインアライブとかの路線になる前)やサイモンとガーファンクルといった知ってるけど超メジャーではない絶妙なチョイス。ああいう1970年前後くらいのアコースティックでスロウで切ないフォーク・ロックのイメージが作品の淡いトーンにぴったり合っていて、Apple Musicでそのへんの曲聴きながら読みました。

そして、詳しくは書きませんがラストも素敵。
なんかこう、まだ若い彼らにはその後があって、そういう意味ではここはゴールでもなんでもない通過点ではあるんですけど、でも一つの物語の結末としてはぴったり絶妙にここで終わりな感じなんですね。

『永遠の放課後』

このタイトルが改めて胸に迫ってきて、これまで読んできた物語が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、その余韻の中であの名曲たちのメロディもまた頭の中に流れ出し......うん、最高でした。


なんていうか、私には中高の頃にこんな甘酸っぱい経験がなかったけど、恋愛経験自体はなくもないので、こう、「こんな学生時代を送りたかった!」という羨望と「わかる!!」という共感の両方でエモ散らかしちゃうんですよね。はぁ......。

とりあえず夏なのでまたいくつか青春小説を読んでいきたいです。

今月のふぇいばりっと映画〜(2019.6)

はい、先月のふぇいばりっとは以下の5本!
あんま映画見れなかったけど観たのが結構面白いの多かったのでラッキーでした。ではでは。




ブルー・ベルベット
パターソン
ライフ
11:46
カランコエの花




ブルー・ベルベット


野原で人間の耳を発見したジェフリー。それを届け出たことがきっかけで刑事の娘サンディと親しくなり、事件に関係していると思われるドロシーという女のアパートに忍び込む。そこでフランクという男とドロシーの倒錯的な行為を目撃したことで、ジェフリーは徐々に事件の渦中に巻き込まれていき......。


アンダー・ザ・シルバーレイク』のパンフとか見たら『マルホランド・ドライブ』の影響がデカイとか書いてあったけど、むしろこれやないですか!
なんかへにょっとしたちょいキモいイケメンの主人公が色々覗きまくったり夜道を散歩したりするっていう......。
また、本作は一見シンプルなサスペンスの筋立てなんですけど恐らくそのテーマは表と裏というか、表面と水面下、みたいな、それこそシルバーレイクの下には......みたいなニュアンスのお話なんですよね。
絶対これのが下敷きにしてるよ〜。


てわけで、そう、筋立て自体はかなり分かりやすく、好奇心から誘拐事件に巻き込まれた主人公が解決のために動かざるを得なくなる......みたいな感じで、美女の登場やヤバい敵キャラが出てくるのも描かれ方こそ個性的ですが王道な展開。
ラストもぱっと見「イイハナシダナー」くらいの爽やかさで逆にびっくり。

しかし、そんな爽やかっぽいラストシーンで描かれるアレがアレをアレしてるというのが本作のテーマを象徴しているようで......。
牧歌的な日常の中で耳から悪夢に入っていき、耳から悪夢よりの生還を果たしたようでいて、もう世界はそれ以前には戻れない......みたいな、シンプルなんだけどやっぱり捻くれた演出がエグいっすね。

で、その悪夢の中身というのは、ほんとに倒錯的なのに観ていてついつい引き込まれてしまう異様に美しい映像な訳ですから。それに好奇心を抱いて悪夢の世界に引きずり込まれてしまったらそれが最後......それこそ『アンダー・ザ・シルバーレイク』の主人公のようになってしまいそうで恐ろしい作品でしたよ......。




パターソン


パターソン市に住むバス運転手のパターソン。愛する妻と暮らし、日々心に浮かぶ詩を書き留める彼の1週間を淡々と描いた作品です。


月曜日、妻と眠っている主人公がベッドの上で目覚めるところから始まり、火曜日、水曜日と似たような毎日を繰り返す構成。
しかし、日々は同じことの繰り返しのようでいてほんの少しずつ違います。そして、そのほんの少しによって毎日は特別な一日一日の積み重ねになっていく......というようなメッセージが込められてるんですから、優しいですよね。

日々に起こることには特に山もなくオチもなく、行きつけのバーでおしゃべりしたり、詩人の少女に出会ったり、妻がギターを始めたり......そんな些細なことばかり。
でも、映像や会話がとにかくステキだから全然飽きずに観ちゃうんですよね。たら〜っとだけど。コーシーを飲んだりごろごろしながらね。

主人公のパターソンは詩を書いていて、仕事の場面などでその詩がモノローグみたいな形で出てくるんですけど、彼の詩もまたこの映画のように日常の尊さを感じさせるもの。逆に言えば、この映画自体が一冊の詩集のようでもあり、観終わった後にお気に入りの場面を頭の中で再生しながらちょっと元気が出るような、そういう効能があります。

私は奥さんが壁に模様を描いてるシーンが印象的でした。あんなオシャレ生活をしたいよね。あと、ブルちゃんが可愛かったです。ブルちゃんの可愛さをはじめて知りました。
あと、カーラ・ヘイワードがモブで出てるんですけどめっちゃ可愛かったです。どタイプなのでビッグになってほしい。




ライフ(2017)

ライフ (字幕版)

ライフ (字幕版)

SF映画を見ていて、誰もがこう思ったことがあるはずです。
「なんで宇宙人って地球人と同じフォルムなん?」

あるいはサスペンスやパニック映画を見ていて「あぁ、もう、こいつ自己中すぎ!」「なんでそこでそうするの!頭悪すぎ!」と思ったことも幾度となくあるはずです。

6人の宇宙飛行士が火星で発見した生命体に襲われるという筋立ての本作は、そんな映画ファンのつっこみどころあるあるを完封してくるリアルなエイリアン・パニック映画なんです。

まず、エイリアンの姿が人型じゃないのが面白いです。
まぁかの『遊星〜〜』も人型ではないけど、あれは人に入りますからね。本作のカルビンは、人型じゃないけどそいつ自体と戦うっていう即物的な恐怖ではあるんですよね。それは例えば水族館でタカアシガニを見て「こいつに襲われたら絶対殺されて内臓食われるな」って思うみたいな、そういう怖さがあります。
なんせ、カルビンはすべての細胞が目であり脳であり筋肉、ですからね。脳みそが筋肉でできているとはまさにこのことでしょう(違)。
グロ描写も刺されたり食われたりとかじゃなくてもっとエグいっすね。とはいえグロいのはわりと前半だけで、後半はどんどんサスペンス性を出す方にシフトしていきます。

で、ここでキャラ造形のことなんですが、この6人の乗組員について、うだうだと人物描写がされることはないけどさらっと出てくるセリフやエピソードでなんとなくどんな人か分かってしまうのが上手いです。
全員が真っ当な知性と自己犠牲の精神を持ったいい人たちなので、1人のわがままで和が乱れたりする苛立ちもなくかなり感情移入して見ることができるようになってます。
だから、人が死ぬ時もいちいち結構ショッキングな感じで「あいつやっと死んだわ〜↑」みたいなテンションにはならない。
好き好きですけど私はこういうシリアスなB級映画っていう違和感が素敵だと思いましたね。

そして、ラストも想像通りではあったもののやはりインパクトは強く、カルビンちゃんの触手的なフォルムのせいでなんとなーく某作を思い出したりもしてしまいます。

脳筋バトルアクションは好きじゃないけどB級パニックは好きな私みたいなのにはちょうどいい塩梅の野心作でした。




11:46

11:14 [DVD]

11:14 [DVD]


これはやられましたね。

地下鉄の中で突如新興宗教団体の信者たちが乗客を殺し始め、主人公らまともな人々が地下トンネルの中を逃げ回るっちゅうパニックサイコスリラー。


(フィルマークスの点数ってのはあんまり信用しすぎても痛い目見ることがあるんですけど、これもその典型的な一例でした)

ミステリ映画の本で、確か三津田信三だったかが紹介していたので気にはなってたんですが、いやはや面白かったです。


地下鉄(のトンネル)って舞台がまず良いですよね。見知らぬ他人が居合わせる場所としても説得力があるし、暗くて狭い閉塞感もあって、何より外の様子がわからないから「ここで助かっても外の世界はもう終わってるのでは?」という恐怖も追加されますからね。

で、こういう知らない同士でパーティーを組む感じのやつ好きなんですよ。シャマランの「ハプニング」とか。そういう居合わせた人たちがそれぞれ意見を戦わせたり疑心暗鬼になったり協力したりするっていうだけでなんか物語のロマンを感じますよね!
本作も、主人公を含む狂信者じゃない人たちのパーティーでそれぞれキャラが立ってて入り込んじゃいました。

それ以上に、敵側のキモい青年がめちゃくちゃ良い味出してます。こいつわりとクズではあるんですけど、宗教上の理由で童貞なんだけど今から世界が終わるって時に女とヤってみたい!という、信者側の規範からも外れた立ち位置が美味しいし何より男としてその気持ちは分かってしまうから!最初はなんだこいつと思ってたけどだんだん嫌な奴ながら愛着が湧いちゃう、良い悪役でしたね。


で、スリラーとしては、ゾンビじゃないけどゾンビパニックものなんですよね。言葉は通じるとはいえ、話が通じない集団の殺人者たちというのはまさにゾンビみたいなもん。もちろん人間だから走る!28日後みたいな!
そして、主人公たちの側の、狂信者たちを殺すことへの葛藤はゾンビ以上にあるわけで、それがあるだけで不利になるのがまたスリラーとしては美味しいですよね。

で、最後の方まではそんな感じでアクション気味にくるわけですが、ラストまで見ると大抵の人はぽかーんとしちゃうんじゃないでしょうか。
なんせ、これなかなか分かりづらい仕掛けになってて。
詳しくは書けないけど、私も最初見たときは分からなくて単に後味悪い系だと思って見ちゃったんですよ。なんせ、単純な後味悪い映画だと思ってもそれはそれでとても面白いオチなんですからね。

ただ、他の方のレビューのヒントを見て、え、そういうこと?と思って最初から見返して、その周到さに舌を巻き巻きしちゃいましたよ。これは凄え!凄えけど分かりづらっ!

私はたまたま他の方のレビュー見たから良かったものの、気付かずに見てたらたしかに評価も半減でしょう。そりゃ低評価なのも納得ではあります。
ただ、伏線の張り方とかが分かりづらいけど、話の内容自体は難解とかではなくスッキリ分かるものなので、「なんだこの終わり」と思った方にはもう一度最初の方だけでも見返して違和感の正体に辿り着いて頂きたいですね。

というわけで、ミステリ映画のようにも見れるアクションパニックスリラーという私好みかつ贅沢で捻りの効いた傑作でしたよ。好き!


ちなみにめちゃくちゃ関係ないけど似たタイトルの「11:14」というドタバタコメディミステリもかなり面白かったのでついでにオススメしときます。




カランコエの花

カランコエの花

カランコエの花


とある高校のクラスで突然行われたLGBTの授業。
「このクラスにそういう奴がいるんじゃね?」
クラスの中心的な男子生徒は、遊び半分で犯人探しのようにその生徒を探そうとし......。



39分間という短さで真正面から差別問題に切り込んだ作品。
おそらくこの短さは実際に高校や大学の授業で流せるサイズという意図なのではないでしょうか。短いからこそ鋭く、強く、問いかけを投げかけてくる傑作です。

凄いのは、このテーマを描ききるために様々な演出上、脚本上の技法が非常に効果的に使われていて、ある種物語作りのお手本みたいな作品でもあること。

例えば、作中であえて「この人がLGBTなんじゃないの?」と思わせるレッドへリングをいくつも忍ばせることで、無意識に観客である我々もまた「誰がLGBTなのか?」というフーダニットに参加させられてしまう。それによって、そういう人を特別な存在として意識してしまっている自分を浮き彫りにされるわけです。

また、セリフが台本にあるものとアドリブのものとがあるようですが、アドリブ部分でいい意味で素人っぽいリアルさが出ている一方、ところどころで的確に心を抉るセリフが入ってくる、しかしこの2つが分離して感じられないのは役者さんたちの対応力の高さなんでしょう。

あるいは、分かりやすい伏線を張ることで短い中でもキャラクターの動きに説得力が出てるっていうシーンも二箇所ほどあったり、真意のわからないシーンがあって観客に想像させたりっていうテク。

そして、あの構成も。あれは泣くでしょ。あの、青春映画としてのエモさがあることで登場人物たちが一気に身近に感じられるのも凄いっすよねぇ......。


そんな、39分の短さに技巧を凝らしまくり、ある1人の高校生を描くことでマイノリティへの差別というテーマを問う(そう、答えを押し付けるわけではなく、こちらに問いかけを突きつけるんですね)、そして単純に青春物語としても抜群に面白いという傑作でした。
本編より長いコメンタリー・インタビューも見応えあり。

サカナクション『834.194』感想 -東京 version-

はい、サカナクション6年ぶりのアルバムです。
もうね、この6年間私がどれだけ待ちわびていたか!毎年のように「今年は出す」と言う山口一郎を信頼してその度に幾度裏切られてきたか!むかつく!
しかしそのことについての恨み言なんて、この際もう言いませんよ(言った)。

そう、今はただ、この大傑作の誕生を祝いましょう。


834.194

834.194


いや、実際本作は最高傑作とか、名盤とか、ヤバイとか、そんなありふれた賛辞では言い表せない作品なんです。
なんせ、一郎は6年間歌詞書いてましたからね。6年もの時間をかけて紡がれた作品を、たった一言で褒めるのも失礼ですからね。
私も6年とは言わないまでもそれなりには時間をかけてしっかり感想を書いていきたいと思います。



まず、アルバム全体の流れについて。

本作は9曲ずつのディスクが2枚組で計18曲という構成になっています。
うち、既発曲はリミックスも含めれば9曲。6年も待たせといて半分知ってる曲かよ!......なんて、聴く前は思ってたわけですが......。
いざ聴いてみれば、この6年間で少しずつリリースしてきたバラバラのシングル曲たちが、このアルバムのために書き下ろしたかのようにぴったりとあるべき場所に収まっていたから驚きました。
なんと言っても、単体で個性もバンドにとっての意味性も強すぎる「新宝島」という曲が本作のコンセプトに組み込まれていることには、なんかもう良質なミステリのどんでん返しを食らったような衝撃が走りましたね。やりやがったぞ......と(詳細は後述)。

で、本作のテーマは、2枚のディスクの最後に、「セプテンバー」という曲の東京バージョン及び札幌バージョンがそれぞれ収められていることからも分かる通り、東京と北海道。
それはつまり、過去のサカナクションと今のサカナクション、すなわちサカナクションというバンドそのもの、更には山口一郎という人間、そして郷愁と死とセックス......。
......みたいに、いろいろ重層的なテーマが含まれているんですが、それら全てを、東京と札幌の距離を表す「834.194」というタイトルに込めてしまうことで、2枚合わせてひとつのコンセプトアルバムとして成立させてしまうという、6年かかっただけの労作にして大作になっているんです。

また、各ディスクはそれぞれ単体でもひとつの物語のようになっていたりもして、片方だけ聴くも良し、通して聴けば感動100倍みたいなヤバいことになってます(褒める語彙が尽きてきた......)。


てなわけで、以下ではとりあえずディスク1 (通称:東京盤)について、全体の感想と、曲ごとの一言感想を書いていきます。

なんせ2枚分書くとめちゃ長くなるので、この記事は「東京バージョン」と題させていただき、ディスク2については別記事でまた書こうかと思います。





......というわけで、東京盤について。

あ、正しくは東京のスタジオの座標を表す長ったらしい数字がディスクのタイトルとしてついてますが、いちいちそれ書いてると煩雑なので東京盤という呼称で統一します(札幌盤も同じく)。

まず、ディスク全体の流れについて。

この東京盤は、山口一郎曰く「作為性」、つまり、簡単に言うとオーバーグラウンドに向けての曲、『魚図鑑』でいう浅瀬にあたる部分のサカナクションを出したものだそうです。

このディスクのテーマをざっくり言うなら、「東京から想う郷愁」と、サカナクション復活の巻!」という感じです。

まず、M1は、タイトルの通り「忘れられないの」と歌う曲で、本作の2枚のディスク全体にも通底する「郷愁」というテーマへの入り口として機能している、アルバムの幕開けにふさわしい一曲です。

続く、M2〜4までは、それぞれ郷愁を描いた短編集のような形になってます。
M2は夜、M3は日暮れ、そしてM4は昼をイメージする曲で、進むにつれて曲中の時間が遡っていくことでも郷愁を表している......と思うのですが穿ち過ぎですかね?

そして、派手な曲が続く中、ディスクの真ん中で真打ち登場とばかりにM5、新宝島パイセンが姿を現します。
丁寧丁寧丁寧に描くよ、という言葉が、シングルの時にはタイアップ先の映画「バクマン。」にかかっていましたが、本作の流れの中だとここまでの郷愁編の3曲を描いてきたことも想わされます。

そして、続くM6の「モス」という曲こそが、この東京盤のクライマックスにして肝心要な曲。
「このまま君を連れていくよ」と歌う新宝島がシングルリリースされて以降、しかし一向にニューアルバムの世界へ連れて行ってくれなかったサカナクションに我々ファンは正直業を煮やしていました。
しかし、この曲のラストの「連れてく蛾になるマイノリティ/君はまた僕を思い出せるなら」というフレーズで、私は山口一郎に惚れ直しましたよ。
いや、別にサカナクションのことを忘れていたわけじゃないんですけど、個人的な事情や、アルバム出す出す詐欺などのせいでどうしても聴いてない時期が結構あったんですね。
でも、かつてはスピッツに次ぐ大好きなバンドだっただけにサカナクションへの想いは「忘れかけていただけか」であり、本当のところは「忘れられないの」だったんです。
そんな私に、山口一郎は「君はまた僕を思い出せるなら」と語りかけてくるんですよ。
......なんかこう、例えが下手だけど、夫が海に出てしまうとなかなか戻ってこないけど、だからこそ帰ってきた時にはめちゃくちゃ安心しちゃう漁師さんの妻みたいな感覚......って伝わりますでしょうか。
とにかく、このアルバムを初めて聴いた時に、この曲のこの部分を聴いて、ようやく本当にサカナクションファンに戻れた嬉しさを実感したんですよね......。
あの、これも伝わりにくいけど、少林サッカーの「......みんなが戻ってきた」の場面みたいな。そういう気分ですよね。


そして、続くM7は、連れてく連れてくと言ってたサカナクションに実際に連れ込まれた先はリキッドルームでした!みたいな。
そういう「新宝島という曲でサカナクションを知ったファンたちを連れていく先がリキッドルーム(=NF)である」というコンセプトはこの曲が新宝島カップリングとしてシングルに入った時からあったらしいです。
しかし、その2曲の間に「モス」が加わることで3部作のような形になってより感慨深いものがあります。

そして、M8とM9は共に札幌盤に入る曲のリミックス、リアレンジ。
東京盤の最後にこの2曲が入ることで、東京にいながら札幌を想うような、あるいは、札幌にいた頃の自分が東京に染められていくような感じもあり、札幌盤へのイントロダクションのようにもなっています。
そして............と、これ以降は札幌盤の方になってくるのでまた次回の記事で書かせていただくことにします。


というわけで、ここまでは東京盤全体の構成について。
以下では収録曲それぞれについても単体で少しずつ触れておきます。




1.忘れられないの

サカナクション / 忘れられないの - YouTube

ちょっとこのPV最高すぎません?
我々の親世代だと杉山清貴じゃん懐かしいwってなるし、うちら世代だとなにこれ逆に新しい!ってなる、サカナクションらしい80sへの愛に満ちたビデオ。
お姉ちゃんと向かい合ってややニヤつく山口一郎の顔を見て、なぜか「俺はこの人のことが本当に好きなんだなぁ」と実感させられました。からの、サビのダサい振り付けがかっこよ過ぎて早くカラオケで真似したい🎤
サカナクションのPVの中でも、スローモーションに次ぐ2番目に好きなやつに既になっちゃいました。あとは多分風とかユリイカあたりかなぁ。


っていうふざけ......遊び心に満ちたPVですが、曲自体は切なさと美しさと、どこか暖かさも感じるいい歌です。なのにPVの映像が思い出されて聴いてると笑っちゃう体になってしまったやないか......ちくしょうめ......。
音的には何と言ってもベースがひゅーちゃーされてるのが最高。スラップをキメまくったベースソロはかっこよ過ぎて気が狂いそうになるし、サビに入る直前のとこも好き。
サカナクションの曲でスラップベースのってほかにほとんど思いつかない(「もどかしい日々」とかはそうだったかな)ので、新鮮な感じで良いですね。
そして、アウトロでフェードアウトしながらギターが流暢に歌い出すあのパターンも、具体的に何っぽいとかは思いつかないけどすごく懐かしさを感じます。

歌詞は夢を追って上京した主人公が、札幌に置いてきた恋人を想う......まぁ地名はアルバムに引っ張られてますが、そういう感じの歌。
最初の

忘れられないの
春風で揺れる花
手を振る君に見えた

というところでもう切なすぎて吐きました。

一人称は「僕」ですが、タイトルは「忘れられないの」という女性的な言い方。そういうタイトルにして女々しさのようなものが滲み出ていますが、それをこうやって美しい曲にしちゃうことで女々しくてもええやんって肯定されるような優しさも感じるんですね。

あと、サビの「夢見たいな"この"日を」の、「この」っていう言葉がめちゃくちゃ良い。
この曲は歌詞を180パターンも書いてようやくたどり着いた完成形ということで、文字数を削ぎ落として生きながらこういう一言のニュアンスで行間が広がっていくような、そういう洗練のされ方がとても美しいと思います。




2.マッチとピーナッツ

からの、いきなりエロい曲でびびります。

まずイントロのどエロいシンセの音と、少し遅れて入ってくるバスドラのリズムとのギャップにつんのめりそうになって、この時点でもうめちゃくちゃ好きになりました。

歌が始まるとなんかビーナスがどうのこうの言ってると思ったら滑舌が悪いだけでピーナッツの話でした(突然の悪口)。
滑舌といえば、ヴィーダン!ヴィーダン!とかテュラシタ!テュラシタ!のとことかもサイコーですよね。

しかし、この歌詞がとてもエロい。
マッチとピーナッツとか、湯呑みの水という小道具の昭和感......。
どうやらつげ義春の世界観をイメージして書いたらしいですが、つげ義春の作品を読んだことないのでさっぱり分かんなくて悲しいです。
でも、良い。

深夜に部屋でひとり座っている男......というあまりにもソリッドなシチュエーション。
でもそこに満月の光やマッチの火の仄かな明かりが映像となってハッとさせられます。
そうした明かりがあるからこそ夜の暗さが強調され、そうした火であの頃の幸せのように消えたピーナッツを探すという映像に仮託された心象の虚脱感というか倦怠感のようなものの表現がすごい。
それはまるで射精したあとの倦怠感のような、いや、ようなではなく、実際にそういう、いわゆる賢者タイムを描いた曲のようにも聴こえるし......。

まぁなんにせよ、タイトル見たときに近藤真彦スヌーピーを思い浮かべたことを謝りたいくらい、完璧なタイトルですよね。「マッチとピーナッツ」って。

そして、歌詞カードも綺麗です。
シンメトリックな字組が最後の一箇所だけで崩れているところに視覚的にもドキッとさせられて、繰り返される「心が〜」という音の中に取り残されたような気分にさせられます。

そして、なんといってもね、最後の一郎の喘ぎ声(?)ですよ。今までサカナクションにあまり(直接的な)色気とかを感じたことがなかったのでふぇっ!?って思いました。




3.陽炎

この曲が映画の主題歌になった時、私はまさにサカナクションいやいや期で、そんな中でたまたま映画館に行ったら予告編で無理やり聞かされて、不覚にもかっこいいと思わされてしまったというクソどーでもいい逸話のある曲です。

めっちゃ聴き覚えのあるイントロのモンキーマジック部分には笑っちゃいます。
そこから先は、新宝島以降のサカナクションらしい非常にキャッチーなポップチューン。
しかし歌い方は完全に新機軸で、やけにこぶしの効いた「くあぁ〜〜げろう!くあぁ〜〜げろう!」は、最初「映画バージョンだけこれでアルバムバージョンはもうちょい大人しくするんじゃね?」と思ってたけどこのままでしたね。
映画バージョンとの違いは、大サビの前の部分がちょっと追加されて1分ほど長くなっていること。映画バージョンはわりと短めだったので、アルバムの前後の曲と合わせる意味もあって長くしたんじゃないかと思いますがどうでしょう。

で、音はキャッチーだけど歌詞は説明が少なくて感覚的。
ほとんど風景描写でありながら、その具体性のなさは現実の風景というより心象風景を描いているようで、夕日とともにやってくる何か決意のようなものが感じられます。
このへんもっと聴き込めばもう少しはっきりと掴めるのかもしれませんが、掴みどころが分からない状態でもその力強さとノスタルジックな雰囲気は聴いてて気持ちいいので好きです。
気持ちいいといえば、歌として歌った時の語感の良さはピカイチですよね。ついついカラオケで歌いたくなっちまう(でもあのこぶしは無理)曲ですわよ。




4.多分、風。

サカナクション / 多分、風。 -New Album「834.194」(6/19 release)- - YouTube

サカナクションファンが風邪を引いた時に「多分、風邪。」とツイートすることでおなじみのこの曲です!

アネッサのUVなんちゃらのCMソングとして2016年の夏に放映され、さぁサカナクションが今年最高のサマーアンセムをぶちかますぜ!......と思っていたら、例の「歌詞が書けません」によって秋も深まる季節にリリースされたという経緯を持つ一曲です。歌詞書き直すついでに「渚のアップビート」というダサ懐かしい仮タイトルもちょっと落ち着いて「多分、風。」へ。

YMOくらいしか知らないけど80sテクノポップ感全開ながら今風なオシャレ感もありーのなサウンドがツボりましたね。ポポポン ポポポン ポポポンっていうドラム(シンセドラム?)の音が最高。

歌詞も頑張って書いてただけあって良いですね(笑)。

知らない女の子とすれ違う瞬間を描いた歌詞。こういう一瞬を切り取るのが詩らしくて良いですよねサカナクション
実体験とは関係なく、なんかこう人類共通の郷愁のようなものに襲われる凄まじい歌詞なんですが、私の家はそこそこ田舎で中学の頃とかには畦道とは言わないけど河原の道を自転車で走る君を追いかけたりもしてたので、個人的には忘れかけていたあの頃を思い出す曲でもあります。

とはいえ、もう昔のことですからそこまで自分を投影することもなく、頭の中では理想のショートヘアの美少女を思い描いて聴いてますけどね。

で、タイトルの出てくる

畔 走らせたあの子は 多分 風

というフレーズは、なんかこう、あの子が風になって消えていくような、あるいは最初からいなかったかのような儚さがあって、「風〜」がディレイしてくことでよりいっそう白昼夢の中にいるような感覚になります。
ちょっと違うけど、夢の中で知らない女の子と恋をするようなことが昔は結構よくあって(キモいって言わないでください)、その瞬間だけの、恋というには短すぎるけれど何か後を引くあのざわざわした気持ち。それを、「ざわざわ」という曖昧な言葉に逃げずに詩として描き出した見事な作品だと思います。

ちなみに、「連れて行かれたら」という最後のフレーズが、意味こそ違いますがそのまま次の「新宝島」に引き継がれる構成も上手いっす。




5.新宝島

サカナクション / 新宝島 -New Album「834.194」(6/19 release)- - YouTube

で、これ。
もはや説明不要ですが、インパクトのあるイントロからしてカッコよくてキャッチー。イントロの音がもうなんか揺れたり震えたりしてる感があって良いっすね。

歌詞はやはり長いこと書いてただけあって、バクマンのストーリーとサカナクションのストーリーの両立された、ある種ダブルミーニングみたいな歌。
しかしこれ、このアルバムが出るまではあまりにキャッチーだしサカナクションの延期癖の象徴のようであんま好きじゃなかったんですよ。
ただ、前述の通り、「モス」によってこのアルバムのここに位置付けられることで、ようやくちゃんと好きになれた気はします。

特に歌詞カードを見ると、字組がサビで「連れて行くと」と言ってるとこと「連れて行く"よ"」と言ってるとこで改行されてて胸熱でした。それは、今ようやく、とりあえずニューアルバムに連れて来てもらえたからというのも大きいですけどね。

あと、どうでもいいけど最初は丁寧丁寧丁寧のところを「ベイベーベイベーベイベー」だと思ってて、なんやこのキザったらしい曲!ってキレてました。




6.モス

山本リンダ感なイントロで始まるこれまた浅瀬側のキャッチーな曲ではあるんですが、歌詞が良い。

アルバムの流れにおけるこの歌詞の凄さについては前述の通りで、わりと説明的な詞ではあるのでこれ以上にあまり語ることはないのですが......。
「繭割って蛾になるマイノリティ」というフレーズがとにかく素敵ですよね。
この場合のマイノリティというのは捻くれ者みたいな意味でもあって、蛾であることをアイデンティティとして生きていこうと肯定された気持ちになります。
まぁ、正直なところを曝け出すならば、私は虫の蛾がこの世でも片手の指に収まるくらいに嫌いなので聴くたびに少しだけ「うえっ、蛾じゃん」という気分になってしまうのも事実ではあるんですけど......。

ちなみに、MVはなんぞこれ手抜きやんという気持ちが半分ではありつつ、後半の演技の上手さに笑ったのと、オチが秀逸だったのでオッケー。なにより、最後に出てくるあの人を演じてる方のことを知った時にもう一度「繭割って蛾になるマイノリティ」というフレーズを思って衝撃を受けました。そこまで含めて作品になっているのが凄いので、MV見た方は「あの可愛い女の子誰〜?」くらいの気持ちで役者さんを調べることをお勧めします。




7.『聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに』

で、これは個人的にサカナクションの曲の中でもトップクラスに好きな曲です。
今アルバムで初収録の完全な新曲を除けば、この「聴きっドルーム」と、「スローモーション」と、「mellow」が私の好きなサカナクションの曲ベスト3だったりします。

これはちょうど草刈姐さんの産休中に作られた曲で、ベースはモッチが弾いてて、だからギターはなくってリズムとキーボード主体のオシャレ感全振りな音になってます。

ファルセットのコーラスパートは、全然詳しくないけどアースウィンド〜っぽさがあって気持ちいいですよね。
あと、間奏(?)のキラキラ〜っていう音と「おお〜〜おお〜〜」ってとこもなんかこう、終わりゆく夜の特別感への愛着が湧いてきて切なくなります。

で、歌詞は「新宝島」でサカナクションを知ったリスナーを連れて行く先としてのクラブイベント"NF"のことを描いたものだと本人は言ってますが、そういう小理屈は置いといて......。夜にクラブでだけ会う名前も知らない君のことを描いたラブソング未満な儚いお話だと思います。

リキッドルームってのは東京は恵比寿にあるライブハウスで、名古屋民の私にはピンと来ませんが、キャパは900人ということだから名古屋で言えばダイアモンドホールとかあんくらいの、小さいとまでは言わないけどホールとかアリーナにはない一体感もあるような、そういうイメージですかねきっと。

そこでしか会えない君。
それは「多分、風。」で一瞬すれ違ったあの子への感情も彷彿とされ、あるいはこの歌の僕は君を待ちながら「多分、風。」のあの子を思い出しているのではないか、なんてことも想像しちゃいます。

そんな君と過ごす時間は、しかし夜明けとともに終わりゆく。
コーラスのパートで「続きまして夜は朝に変わります」「続きまして夢は朝には覚めます」と丁寧語で宣言されるのが儚くも、それを受け入れつつも最後の抵抗とばかりに「AM5時から始まるこの夜を踊ろう」と歌うのがうーん、エモい(語彙を喪失した)。

あと、「僕は東京生まれのフリをして」というとこも、地方民からすると東京という街への想像が膨らみますね。




8.ユリイカ(Shotaro Aoyama Remix)

からの、「ここは東京」と歌うユリイカのリミックスです。
こちらのリミックス版では、「いつも夕方の色 髪になじませてた君を」「空を食うようにびっしりビルが湧く街」「なぜかドクダミとそれを刈る母の背中を」といった具体的な情景描写は排され、「東京」「生き急ぐ」といった部分が強調されています。
そのため、東京盤の終盤にはぴったり。
また、この曲と次のセプテンバーで、「札幌にいた自分たちが東京に染まっていくこと」が体現されているようにも感じられてそこも感慨深いですね。

音的には、難しいことは分かんないすけど、オリジナルのギターのリフとかを印象的に使いながら静かに始まってだんだん踊らせてくる感じがカッケェすね。
ただ、私は最近は平日は車くらいでしか音楽を聴けないので、この曲の頭の方は走行音にかき消されて全く聴こえないのが悩みです。静かな車が欲しいよ......。




9.セプテンバー -東京 version-

この「セプテンバー」は、山口一郎が中学か高校かくらいの時に書いたという、初期とか以前の曲ですが、こちらの東京バージョンは打ち込み感の強いアレンジでオシャレな仕上がりになってます。
最後が「セプテンバー」というタイトルコールでアウトロもなく終わるので、そのまま札幌盤の方も聴きたくなってしまいます。

曲自体の感想は、10代の頃の原曲に近い札幌バージョンの方で改めて書くことにします。
ひとつだけ。「ここで生きる意味 探し求め歩くだろう」という歌詞の「ここ」がこの東京バージョンだと東京の街としてイメージされるのが良いですね。





というわけで、6年ぶりの新作『834.194』のディスク1=東京盤について語っただけで1万文字近く費やしてしまいましたが、長いこと待ったんだからそれくらいは語らせてくだせえ。たぶん次の感想札幌バージョンについてはもうちょい短くなるだろうと予測されるので、いずれはそちらの方もよろしくお願いいたします......(本当に書ききれるか不安やけど)。

それでは、長々とお付き合いいただきありがとうございました。ここで一旦ばいちゃ!

西澤保彦『腕貫探偵、残業中』読書感想文

『腕貫探偵』に次ぐシリーズ第2弾となる短編集です。

腕貫探偵、残業中 (実業之日本社文庫)

腕貫探偵、残業中 (実業之日本社文庫)


前作は各話で「腕貫さんの簡易相談所を訪れる語り手」という形式を踏襲していましたが、今回はちょっとハズしてオフタイムの腕貫さんが出会う人々の物語になっています。
そのため、前作もバラエティ豊かでしたが今回はさらに話の構成からしててんでバラバラで、良いか悪いかは好み次第ですが、シリーズ物っぽさが薄い短編集になってます。

個人的には1冊でサスペンスから恋愛ものから倒叙まで色々味わえるのが面白く、前作にも劣らないステキな一冊だったと思います。

以下各話についてちょいちょい。





「体験の後」

行きつけのレストランで食事をしていると、迷彩服の男たちが乱入し、店に立て篭もった。リーダー格の男は店主に恨みがあるようだったが......。


初っ端からまさかの立て篭もりサスペンスで驚かされました。
とはいえ、このシリーズらしく、緊迫感よりもゆるさと悪い意味での人間味に溢れる一編ですのでご安心を。
まず語り手が初老に近い男性なんですけど未だに学生気分というのが面白いですね。西澤さんはそういうの似合うし、私もそういうの好きだから、彼のキャラ造形だけでニヤニヤしちゃいました。そんな青い彼のキャラ造形がラストの行動にも説得力を持たせてますしね。
ミステリとしては、なんとなく読めてはしまうものの、伏線といい真相への飛距離といい、なかなか面白く、幸先のいい短編集のスタートだと思います。





「雪のなかの、ひとりとふたり」

ユリエと同じマンションに住む男が妻を殺害したとして逮捕された。しかし、ユリエがたまたま撮った写真には彼が一晩中乗り回していたと供述する車に雪が積もっている光景が写っていて......。


映画の『キサラギ』みたいな、落着した事件に改めて疑問点が出てきて推理していくと......みたいな話って良いですよね。
事件の内容こそ全然違うものの、本作もそういうタイプのお話だったのでその時点で無条件に引き込まれてしまいました。
不倫ものなのでドロドロしそうな予感はあったものの、やはり嫌な話になっちゃうのが良いですね。外枠がユリエちゃんと腕貫さんのラブコメなだけに余計、事件の構図のやるせなさが際立ちます。





「夢の通い路」

高校時代に片思いしていた女子との、あり得ないはずのツーショット写真が見つかった。当時の親友や彼女当人に話を聞くうちに、過去の火事の記憶が蘇り......。


魅力的に見えた写真の謎自体はかなりしょうもないことで拍子抜けですが、その分他の思わぬところから出てくる意外性にやられました。そして、同窓会ラブ的な(同窓会じゃないけど)、学生時代のマドンナとの再会っていうストーリーも良いじゃありませんか。読んでる間、頭の中で斉藤和義がずっと好きだったんだぜ〜と歌ってましたよ。





「青い空が落ちる」

無趣味で特定の友人もいない、いわゆる"面白みのない"タイプの元教師が自宅で病死した。その死には事件性は認められなかったが、彼女が死の間際に五千万円もの大金を銀行から下ろしていたことがわかり......。


冒頭のノスタルジックでありながらどこか不気味さの漂うモノローグからして素敵。
そこから一転、事件の謎は地味ながら、他人との関わりが薄い人物の突然死と死ぬ直前の不可解な行動というのはこれまたどこか不気味で、不可解なだけで特に事件性もないくせにちょっとホラーのような雰囲気さえあります。
そして、西澤保彦らしい歪んだホワイダニットとしての真相もまた不気味で、本書の中でも一際異端な感じの一編でした。





「流血ロミオ」

夜中に隣の家に住む想いを寄せる少女と窓越しに話すことを楽しみにしていた中学生。ある日、初めて彼女に部屋に誘われたが、その後、少女は殺害され、彼も暴行を受けて重体に。さらに同じ頃、少女の叔父と友人が不審な事故死を遂げていて......。


少年少女の青春物語自体にも男女の温度差という悪意を込めてくるあたりは非常に西澤保彦
事件の内容自体はあまりにも大惨事になりすぎてもはや誰が何をしたのであろうがみんな死んでるけどな!という謎の興味の持てなさがあったりしますが、それでも歪んだ真相はやはり西澤保彦で楽しめました。





「人生、いろいろ。」

浮気相手と共謀して同棲する女性をホテルで殺害しようとしていた大学生。計画が狂い、殺害は中止されたが、その後思わぬ小さな事件が彼の身近に起きて......。


本書の最終話です。
倒叙ものなんですけど、主人公の計画に倒叙ものらしいスマートさが感じられないのが面白いところで、こいつ大丈夫かよとニヤニヤしながらもハラハラしちゃいます。
しかし動機は大学生ながらドロドロしてて西澤ってますね。
で、そんな倒叙ものとして読んでいると、話は急展開して意外なところから謎が飛び出してきます。この奇抜な構成が面白い。
正直ここまで来ちゃうとオチはなんとなく読めちゃうけど、なんとも言えん余韻も含めて不思議な味わいが魅力的な一編です。