偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

目次(映画)

〈あ行〉
アンダー・ザ・シルバー・レイク
エターナルサンシャイン



〈か行〉
キートンの探偵学入門
きみに読む物語
きみに読む物語その2
キングスマン
キングスマン : ゴールデン・サークル
狂い咲きサンダーロード
軽蔑



〈さ行〉
サスペリア
サスペリア(ルカ・グァダニーノ版)
三月のライオン
シェイプ・オブ・ウォーター
シャークネード・シリーズ(1〜5)
シャークネード6 ラストチェーンソー
スウィート17モンスター
スプリット
ゾンゲリア



〈た行〉
ダンケルク
チェイシング・エイミー
ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌
ドグラ・マグラ
トラフィック
トリプルヘッド・ジョーズ
ドント・ブリーズ



〈な行〉




〈は行〉
ハイテンション
バッファロー'66
HOUSE
パラドクス
フォレスト・ガンプ/一期一会
フォロウィング
冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜
ザ・フライ
ベイビー・ドライバー
ボヘミアン・ラプソディ



〈ま行〉
マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり
ムーンライズ・キングダム



〈や行〉



〈ら行〉
ラースと、その彼女
ルチオ・フルチの新デモンズ



〈わ行〉





〈その他映画記事〉
失恋の傷口に塩を塗る恋愛映画7選
【閲覧注意】極私的、ランク別どんでん返し映画紹介
好きなゾンビコメディ15選
My Favoriteホラー映画10選のリスト〜〜。


〈今月のふぇいばりっと映画〉
2018/9
ジャンゴ 繋がれざるもの/レディプレイヤー1/P.S.アイラブユー/禁断の惑星/巨大クモ軍団vs GoGoダンサーズ

2018/10
サタデー・ナイト・フィーバー/ニュー・シネマ・パラダイス/カビリアの夜/プールサイド・デイズ

2018/11
エンドレス・ポエトリー/君の名前で僕を呼んで/マルホランド・ドライブ/ストレイト・ストーリー/早春 (DEEP END)

2018/12
柔らかい殻/普通の人々/フィールド・オブ・ドリームス/メッセージ/時計仕掛けのオレンジ/ブロンド少女は過激に美しく/ドライヴ/エド・ウッド

2019/1
お熱いのがお好き/リバディ・バランスを射った男/ストレンジャー・ザン・パラダイス/ソナチネ

目次(小説)

≪あ行≫

青山文平
『半席』

朝井リョウ
『世にも奇妙な君物語』

芦沢央
『今だけのあの子』

飛鳥部勝則
『堕天使拷問刑』

井上ひさし
『十二人の手紙』

井上夢人
『ダレカガナカニイル』

歌野晶午
『ずっとあなたが好きでした』

海猫沢めろん
愛についての感じ

浦賀和宏
《安藤直樹シリーズ》
1.『記憶の果て』
2.『時の鳥籠』
3.『頭蓋骨の中の楽園』
4.『とらわれびと』
5.『記号を喰う魔女』
6.『学園祭の悪魔』
7.『透明人間』
《萩原重化学工業シリーズ》
8.『HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件』
9.『HELL 女王暗殺』
10.???
《メタモルフォーゼの女シリーズ》
1.『Mの女』
2.『十五年目の復讐』
《ノンシリーズ》
『こわれもの』
『ファントムの夜明け』
『姫君よ、殺戮の海を渡れ』
『緋い猫』
『ハーフウェイハウスの殺人』


小川勝己
『撓田村事件』



≪か行≫

楠田匡介
『いつ殺される』

甲賀三郎
『蟇屋敷の殺人』



≪さ行≫

坂木司
『和菓子のアン』
『アンと青春』

桜木紫乃
『ホテルローヤル』

朱川湊人
『都市伝説セピア』

住野よる
『君の膵臓をたべたい』



≪た行≫

太宰治
『人間失格』
『走れメロス』

多島斗志之
『クリスマス黙示録』
『不思議島』
『少年たちのおだやかな日々』
『私たちの退屈な日々』
『追憶列車』
『黒百合』

辻村深月
『かがみの孤城』

積木鏡介
『誰かの見た悪夢』

友成純一
『ホラー映画ベスト10殺人事件』



≪な行≫

夏目漱石
『こころ』

七河迦南
『アルバトロスは羽ばたかない』

西澤保彦
『小説家 森奈津子の華麗なる事件簿』
『夏の夜会』
『いつか、ふたりは二匹』

貫井徳郎
『修羅の終わり』※全編ネタバレのみ)

法月綸太郎
『頼子のために』
『一の悲劇』
『ふたたび赤い悪夢』
『犯罪ホロスコープ Ⅰ』



≪は行≫

深緑野分
『オーブランの少女』

深水黎一郎
『大癋見警部の事件簿』

藤野恵美
『わたしの恋人』『ぼくの嘘』



≪ま行≫

柾木政宗
『NO推理、NO探偵?』

三津田信三
『碆霊の如き祀るもの』

武者小路実篤
『友情』

望月拓海
『毎年、記憶を失う彼女の救い方』

森見登美彦
『ペンギン・ハイウェイ』



≪や行≫

山田風太郎
『伊賀忍法帖』

米澤穂信
『真実の10メートル手前』



≪ら行≫

連城三紀彦
『小さな異邦人』



≪わ行≫




≪海外作家≫

陳浩基
『13・67』

トマス・H・クック
『夏草の記憶』
『心の砕ける音』
『緋色の迷宮』



≪アンソロジー

角川ホラー文庫「現代ホラー傑作選」
2.魔法の水
3.十の物語

『謎の館へようこそ 黒』


≪その他≫

2017年に読んだ小説ベスト20
2018年に読んだ小説ベスト10

目次(音楽・漫画・その他)

〈音楽関連〉
indigo la End
02nd AL『幸せが溢れたら』
04th AL『Crying End Roll』
05th AL『PULSATE』

スピッツ
「エンドロールには早すぎる」
「子グマ!子グマ!」

年末ランキング
2017年、私的アルバムランキング!
2018年、私的アルバムランキング!!





〈漫画関連〉

駕籠真太郎
『殺殺草紙 大江戸無惨十三苦』
『ブレインダメージ』

加藤元浩
Q.E.D 証明終了』全巻読破計画
① 1巻〜10巻
② 11巻〜20巻
③ 21巻〜30巻
『C.M.B 森羅博物館の事件目録』全巻読破計画
① 1巻〜10巻

さくらももこ
『ちびしかくちゃん』(全2巻)

アンソロジー
怪談マンガアンソロジー『コミック幽』





〈その他雑文〉
感想を書くときに気をつけていること

〈日記まがいのなにか〉
静岡旅行

連城三紀彦『白光』読書感想文

ひっさしぶりの連城三紀彦
旧サイトにはたくさん感想のっけてるようになかなかのファンではあるのですが、少なくともこっちのブログ初めて以降は読んでなかったですね。この度久しぶりなので短めの長編でなおかつ評判もいい本書を選んでみましたが、うん、正解。
もうべらぼうに面白くかったし、今までは連城三紀彦には読みづらいイメージがあったのですが、本作が特別なのか、私が読書家として成長したからか、今回は一気読みしちゃいました。
もうほんと、寺生まれって凄い、改めてそう思いました(寺生まれでわない)。

白光 (光文社文庫)

白光 (光文社文庫)



はい、それでは本作の内容を紹介していきます。

夫と娘、痴呆が酷くなってきた舅と暮らす主婦の聡子。一見ごく普通に見えるこの家庭で、4歳の少女が殺される事件が起きる。殺された少女は聡子の妹である幸子の娘。幸子が出かけるために預かっていたが、歯科医に行くためボケた舅と2人で留守番させていたところだった。警察は舅を疑うが、やがて両家の抱える問題が次々に浮き彫りになり、事態は混迷を極める。

といった具合に、少女を殺した犯人探しが一応の本筋ながら、その過程で見えてくる関係者たちの秘密と嘘が主眼となっています。
特徴的なのが、複数の人物の一人称 or 単視点三人称で物語が語られていくこと。
そのため、連城作品ではお馴染みの、嘘や思い込みといった心理描写のどんでん返しを幾度も味わえる贅沢な作品になっています。
なんせ、この人の作品はいつもそうですが、「私はこう思った、というふりをしてこう思った、ように見せかけて実はこう思った、のだがそれは周りにそして何より自分についた嘘で本心はこうだった、というのは勘違いで......」みたいに、際限なく反転していく心理描写。ここまでくると、もはや人間心理の枠を超えた"なにものか"の範疇に足を踏み入れてしまっているようにさえ感じられ、心理描写に凝りすぎて却って不自然で人工的になってしまっているという歪さがあります。これぞ、連城作品でしか味わえない異様な醍醐味ですよね。
まぁ、これって連城作品のどれにも当てはまることではあると思うのであれですが、本書はこうした心理的どんでん返しが短いページ数で何度も決まった、連城作品の中でも特に傑作の部類に入る作品だと思います。



で、これだけだと連城三紀彦自体の感想みたいになっちゃうので、以下はネタバレありでもう少しだけ本書特有のよかったところについて書いていきます......。

























はい、ではこっからはネタバレコーナー。

なんと言っても、解説でも指摘されていた通り芥川龍之介の「藪の中」を具体的な"解決"のあるミステリの範疇でやってしまうという大胆不敵な構成が面白いです。
全員がある程度読んでいて納得のいく論拠の下で犯人だと名乗り出て、それがまた別の人物の告白によって覆され......といった形でどんどん事実だと思っていたことが反転していく面白さ。その末にある解決では、もはや被害者や故人までが"真犯人"の称号を奪い合い、結局のところ起こった出来事自体は明確になりながらも、心理的な意味ではみんなそれぞれ犯人でした!みたいな、なんとも複雑な構造が見事......というよりはちょっと巧すぎて怖いくらい。
その中で、両家族にとって完全によそ者であるはずの平田青年だけが少女の命を心配し守ろうとした、という皮肉もまた悲しいですね。

そんなどろどろ昼メロからのイヤミス的しんどいミステリですが、小説としては全員に部分的ではあれ感情移入できる余地があるのがまた小憎たらしいところでして......。
全員がどこか歪んでいて最初は感情移入できませんでしたが、歪むに至ったプロセスがじわじわと解きほぐされていくにつれて、全員にどこか同情してしまうようになり......。もちろん、何の罪もないのに大人たちの勝手な業を投影されて殺された(殺すような動機を全員から持たれていた)少女のことを思うとつらいですが、だからといって誰が悪いとも言い切れない感じがね......。ずるい。
また、「白光」というタイトルも良い。登場人物それぞれが見た白い光として物語全体を儚く覆っていて、筋立てとは関係ないですが象徴的なモチーフとして印象付いた素晴らしいタイトルだと思います。
きっと、本棚に並ぶこの本の背表紙を見るたびに、あの島の白い光が、そして少女が最後に求めたあの白い光が、私の脳裏にもふわっと差してくるのでしょう。

静岡旅行

静岡旅行で撮ってきた写真のまとめです。
日記でも土産話でもないただの自分用まとめなのでオチも何もないです。面白く日記が書ける世のブロガーたちはすごい。
ただ、思い出はほっておけば消えていってしまうので、全てを詳細に書かなくてもなにか記憶を留めるための依り代になればと思いまとめました。





小國神社。なぜかゆめかわスイーツの温床でめっちゃ恋させようとしてきた。神社にはもっと硬派であってほしい。





清水で食べたうにいくら丼。清水ではまぐろを食べるべきかと思いつつ、なんかセールしてたので。いくらの皮の部分がかたくてぷちぷち感がえぐかったし雲丹も臭みがなくてクリーミーで美味しかったし何よりお店のお姉さんがめっちゃ可愛かったです。



さっきちびしかくちゃんの感想で言ってたちびまる子ランド。ディズニーランド的なランドかと思いきや商業施設の中のワンフロアでしかなかったけど懐かしの駄菓子コーナーとかまる子グッズとかあって楽しかったです。




なんか旅館の近くにあったレインボーブリッジ。私の家のそばと同じくらいのど田舎なのに急にこんなんあってすごいびびった。もっと繁華な場所に建てればいいのに。




三保の松原
富士山を見るはずが曇ってて見えなかったけど綺麗な場所でした。




「ななや」さん。1〜7まで濃さが選べて、7は世界一濃いという抹茶アイス。
店員さん「抹茶がよっぽど嫌いじゃなければ3は食べれます。それ以上になると人によって濃厚と感じるか苦いと感じるかが変わりますね。ただなんだかんだいって女性人気が高いのはほうじ茶ですけどね」と落語のようなオチのある話をしてた。
そしてインスタグラムは偉大(上と下の比較)。





舘山寺。とにかく絶景。30分程度で回れる軽めのハイキングロードになっててなかなか良かったです。















竜ヶ岩洞。こういう鍾乳洞って名古屋の風天洞しかりB級スポット感がめちゃくちゃ濃くて好きです。鍾乳洞のあの凹凸自体もどこかエロティックな感じがするので、いかがわしさがついて回るのかも。
ここでは日本一のハメ撮りも出来ました。

さくらももこ『ちびしかくちゃん』(全2巻)を読みました。


静岡に旅行に行ったんですよ。
そんで、ちびまるこランドに行ったらこの本がお店に並んでて、「なんぞこれ」と思って思わず家へのおみやげに買ってきちゃったんですけど、読んでみたらまぁ〜いい意味でしょーもないセルフパロディ漫画で、ニヤニヤが止まらんですわい。


主人公は「まる子」ならぬ「しか子」ちゃん。そのまんま四角い顔。
家族構成はまる子と同じだけど、家族全員顔四角い。クラスメイトたちもまる子と近いけどどっかちょっとずつ違う。
しか子ちゃんはまる子みたいに要領よく世の中を渡っていけない引っ込み思案な女の子なんですが、そんな彼女を取り巻く家族や友人はみんな「ちびまる子ちゃん」のおなじみの面々よりちょっと性格悪い。
お母さんはすぐキレるし、お姉ちゃんはお姉ちゃんという立場を利用していじわるばっか言うし、おじいちゃんも孫は可愛いけど我が身が一番可愛いという保身主義者。
そして、親友の「だまちゃん」が、「たまちゃん」とは違って最低の人間だったり......。

各話数ページのショートストーリーなんですが、どれももう話もめちゃくちゃで、人間社会のつらみがのしかかってくるオチで、でもなんかにやにや笑えて......。
ちびまる子ちゃん」の世界をパロディにしつつ、「さくら先生がこれ見たら草葉の陰から泣くでしょ......」というようなヒッドいパロディをまさかのさくら先生本人がやってるんですねぇ。お前自分で書いたんかーい!(ズコーッ!)

私は中学生の頃さくらももこのエッセイをいくつか読んだんですが、どれもめちゃくちゃ面白かったんだけどさくら先生の性格の悪さが滲み出てて「絶対友達になりたくないわー」と思ってそれ以来あんまり関わらないようにしていたのですが、やっぱり皮肉めいたゆるさでは日本一ですよね。
もちろんアニメのまる子は見てましたが、エッセイを読んでから実に10年ぶり、漫画を読むのは初めての今作で、ちょっと本家の「ちびまる子ちゃん」も原作ちゃんと読んでみたいなという気持ちになりました。そのうち「ちびまる子超おもしれー」ってツイートしだしますので温かく見守ってください。

多島斗志之『クリスマス黙示録』読書感想文

クリスマスが近づき、「リメンバ・パールハーバー」として反日感情の高まる季節を迎えた米国で、日本から留学していた女子大生のカオリがアメリカ人の少年を轢いてしまう事件が起こる。
少年の母で現職警察官のヴァルダ・ザヴィエツキーは、カオリへの復讐を宣言して行方をくらませた。
FBI特別捜査官のタミ・スギムラらは、カオリを護衛しながらザヴィエツキーの行方を追うが......。


クリスマス黙示録(双葉文庫)

クリスマス黙示録(双葉文庫)


もはや最近の私の読書の常連となった多島斗志之によるサスペンスアクション小説です。
これまで多島作品ではミステリ系のものしか読んでなかったので、サスペンスってどうなるんだろうと思っていましたが、これまたべらぼうに面白かったです。

本書の見どころをざっくりと説明するなら、スピーディな展開のサスペンスでありながら主人公のタミの苦悩と成長を描いたドラマでもあり且つ「人の争いにおける正義とは何か?」という問いかけでもあるという、読みやすいのに重層的な物語性でしょう。



冒頭、"パールハーバーを思い出せ"と煽るアメリカで、日系人である主人公のタミは喧騒から逃れるように映画を借りに行きます。
ワーキングガール」「フィールド・オブ・ドリームス」を借りようとしたけど貸出中だったから「ダイ・ハード」を選ぶのですが、これらの映画はどれも1988年ごろの作品なので、作中の時代も恐らくはその頃なのでしょう。
この中で私が見たことがあるのは「フィールド・オブ・ドリームス」だけですが、この映画はThe・アメリカといった内容。ワーキングガールはたぶんタイトルの通り働く女性の話でしょう。ダイハードについては作中でもワンシーンが取り上げられている通り日系人が出てくるシーンがあるようで、冒頭に出てくる映画のタイトルのチョイスが今後の物語のテーマを端的に暗示しているんですね。映画マニアの多島氏らしいスタイリッシュな引用の効いたオープニングがたまらなくって、ここでもう一気に引き込まれましたね。



本編については、まず全てのはじまりとなる事件の構図がキーポイント。
反日感情の高まる街で、アメリカ人の少年たちが留学生の日本人女性にからみ、怯えた彼女が少年らの1人を轢いてしまうという事件です。
この事件、どっちが悪いと思いますか?......というのが本書全体を覆う一つのテーマで、先に手を出したのはアメリカ人、殺してしまったのは日本人という構図は、真珠湾ヒロシマナガサキの構図の入れ替えとも取れます。ここで、どうしても私の中の日本人としてのアイデンティティによって「先に絡んできたんだからアメリカ人が悪い」という感じを持たされてしまいます。
巧いのが、そのあと登場する加害者の日本人女性カオリちゃんの人間性を見て、今度は「こんなくそ女だったら復讐されてもええやろ」と思わされること。このように、事件自体を客観的に見るということは我々には実は難しくて、人種だったり当事者の人格だったりの先入観をついつい加味して判断してしまう。そういう人間の善悪感が本書全体に単なる娯楽大作には終わらない重たい問いかけを投げかけているわけです。



また、もう一つ本書の深みを作っているのが主人公タミのキャラ造形。
アメリカのFBIにおいて、国籍はアメリカ人でありながら日系人、そして男社会の中での女性という、いわば二重のマイノリティであるタミ。本書では彼女がそうした性別や人種によって嫌がらせのような目にあうことについてもちょいちょい触れられています。
しかし、それよりもまず、あくまで1人の人間として仕事への向き合い方や過去の追想などがしっかり描きこまれているのが素晴らしいです。
思えば、「過去への追憶」というのは多島作品には頻出のテーマでありまして、今まで私が読んだ作品でも15年前のトラウマがキーとなる『不思議島』や、少年時代を語る形式の『黒百合』、タイトルそのまま『追憶列車』と、過去へ向かう想いというのは多島斗志之という作家の一つのテーマであるようにも感じます。
本書でも、サスペンスというスピード感が大事なジャンルでありながら、タミは事あるごとに過去を思い返します。そして、「仕事つらいわ〜学生時代に戻りてえ〜」と私のツイートみたいなことを思うのです(つっても、もちろん私ほど見苦しくはなく、等身大ながらカッコいい主人公なのでご安心を......)。
で、そうやってタミが思い返す過去の出来事が、理屈抜きに面白いから好きです。いたずら好きのお爺さんのところへボランティアに行った話なんか、それだけ切り取って一本の短編になりそうな良いエピソード。
本書は人々の一つの事件に対しての態度(個別の事件が人種の話として語られるような)ってのがテーマとしてありつつ、単純に娯楽性の高い壮大なサスペンスだったりもしますが、やはりそれ以上に主人公タミを応援したくなっちゃうお仕事小説だと思うんです。

といってももちろん、サスペンスとしても文句なし。
背景の様々な問題を除けば「現職警官が息子を轢いた女に復習しようとしていて、FBIがそれを阻止する」という単純明快な筋立て。敵キャラであるザヴィエツキー(名前が既にラスボス感😂)の一人軍隊みたいな強さが現実離れしすぎない範囲で圧倒的で、それだけに攻防戦の緊迫感が凄いです。また、ザヴィエツキーがこちらに仕掛けてくるやり口のそこまでやるか感はそのままミステリのトリックとしても面白くて、そういう意味ではミステリファン的にも満足いく作品ではないでしょうか。
また、終盤の緊迫感のあるアクションシーンなんかは一気読み必至の見どころ。まさに映画のようなクライマックスでありながら、映像であれやったらたぶんなかなか上手くいかないので小説ならではとも言えるドキドキハラハラ。
......ですが、その後のタミのとある行動があるからこそ、単なるエンタメに終わらず「読んでよかった」という深い余韻を残します。

結局のところ、私の感想はあちこちに散乱してしまいましたが、そうした色んな要素を含みつつ、そう長くない一本の長編にまとめ上げた傑作だというふうに捉えていただければいいかと思います。面白いよ!