偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

目次

〈あ行〉
エターナルサンシャイン☆4.3

〈か行〉
キートンの探偵学入門☆4.0
きみに読む物語☆5.0(満点)
キングスマン☆4.0
狂い咲きサンダーロード☆4.0

〈さ行〉
サスペリア☆3.6
三月のライオン(由良宣子。将棋じゃなくてね!)☆3.8
スウィート17モンスター☆3.8
スプリット☆3.7
ゾンゲリア☆3.8

〈た行〉
ダンケルク(クリストファー・ノーラン監督)☆4.1
ドグラ・マグラ(1988年の映画版だポコ!)☆3.6

〈な行〉

〈は行〉
HOUSE(大林宣彦監督)☆3.8
フォロウィング☆4.5
冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜☆0.6

〈ま行〉
マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり☆4.0

〈や行〉

〈ら行〉
ルチオ・フルチの新デモンズ☆2.8

〈わ行〉

〈その他映画記事〉
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【閲覧注意】極私的、ランク別どんでん返し映画紹介
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〈音楽関連〉
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スピッツ「エンドロールには早すぎる」
スピッツ「子グマ!子グマ!」

2017年、私的アルバムランキング!

〈小説関連〉
井上夢人『ダレカガナカニイル』
歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』
太宰治『人間失格』
七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』
貫井徳郎『修羅の終わり』※全編ネタバレのみ)
柾木政宗『NO推理、NO探偵?』
陳浩基『13・67』

2017年に読んだ小説ベスト20


〈漫画関連〉
駕籠真太郎『殺殺草紙 大江戸無惨十三苦』感想(は特にない) ※R18
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indigo la End『幸せが溢れたら』の感想だよ

今更ですが、最近なんかindigo la Endしか聴けなくなってしまったので、彼らの2枚目のアルバムについて書きます。







私ってば旧弊な人間なので、これだけ曲単体のダウンロードが一般的な時代でも"アルバム"という形への憧れや愛着が忘れられません。で、indigoのアルバムはいっつも"アルバム"単位で一枚の作品という作りになっているから好きなんです。
で、このアルバムはそんな彼らの作品の中でも、「失恋」という最も明確なコンセプトのもとに作られたアルバムです。
構成も緩やかに三部構成のようになっていて通しで聴きやすくなってます。

また、本作からベースの後鳥さんがサポートから正規メンバーに格上げされ、これまでのギターを全面に押し出したスタイルからベースが強調された音に変化しています。

個人的にベースの音は大好きですし、失恋ものも歌に限らず大好きなので、本作はindigoの中でも『Crying End Roll』に次いで好きなアルバムなのです。


では以下各収録曲についてちょっとずつ。


1.ワンダーテンダー

アルバム1曲目。
イントロはほぼなく、いきなり始まる歌い出しの言葉は「あの街から出てきて少しばかり生意気になったんだ」。そしてこれまでのアルバムの曲とは異なりベースがスラップも交えつつうねりまくるAメロ。

......と、前作『あの街レコード』からバンドが変化したことを歌詞でも演奏でもバン!と宣言するような出だしでアルバムの世界に一気に引き込まれます。

タイトルのワンダーテンダーという響き、良い感じですね。英語が苦手なので一応辞書で単語の意味を調べたところ、ワンダーは「驚異の」、テンダーは「柔らかい」「感じやすい」など。
要は「びっくりするほどおセンチ」みたいな?それとも「驚異的/感傷的」と並列のニュアンス?なんにしろ、indigoの、そしてこのアルバムの曲の恋愛観を端的に表した良いタイトルだと思います。
歌詞で好きなのは「吐き出すたび弱くなっちゃって」「あなたを好きでいれたらよかったなと歌詞で書いた側からまた失って」という部分。作者の意図とは合ってない気がしますが、失恋した辛さをツイッターとかで言うたびにだんだん好きだった気持ちが失われていく寂しさを私は感じました。また最後も良いですね。
いろんな意味でアルバムの一曲目として素晴らしい曲です。


2.瞳に映らない

indigo la End - 瞳に映らない - YouTube

行ったり来たりしないでよ 心変わりとか言って 行ったり来たりしてるのを私のせいにしないでよ あなた

イントロもなく前の曲から間髪入れずに強気な女性一人称の歌い出しで始まります。最初のこのフレーズだけ聞くと浮気性の彼氏の話かと思いますがこれはミスリードで、それからどちらかと言えば背景の見えないぼんやりとした歌詞が続きます。
ぼんやりとはしていながらも、

あなた あなた あなただけ 私の声が聞こえたら
どうか どうか 忘れてないと答えて安心させてよ

というサビのフレーズが、古風な「あなた」という呼びかけが繰り返される音の響きの気持ちよさと相俟って胸を締め付けやがります。
死んだ人に対して「あいつは死んでなんかいない。俺たちの心の中で生き続けてるんだ!」という慣用句がありますが、逆に言えば、誰かに忘れられた時、我々はその人の中では死ぬわけなのです。
別れることになった「あなた」にせめて自分を覚えていてほしいと願う「私」の姿が切ないです。

......にしてもそれこそ死んだみたいな口ぶりだなぁ、などと思っていると、2番サビの最後で

あなた あなた あなたのことばっか 空から想うよ

と、衝撃の事実が明かされます。そう、この「私」、本当に死んでたのです。大どーんでーん返し!(違)

というわけで、ここまで聴くと死者の視点の物語だと言うことが分かり、分かってみると2回目聴いた時に歌詞全体の何を言っているのか分かりづらい部分にも納得がいく、という仕組みになっているわけです。
そうしたらもうボロ泣きですよ!
そして続く

終電車に遅れないように 走らなきゃって 戻らなきゃって

は彼女が亡くなった時の記憶でしょうか?はっきりとは分かりませんが、もしそうだとしたらここでそのシーンをフラッシュバックさせるのはキますね。

さらにその後の「答えて安心 させてよ」の「させてよ」がね。聴いて貰えば分かりますけどヤバイですね。はっきり言って川谷絵音氏、歌は上手くはないですが、こういう表現力が最近かなり凄くなってきてるように感じます。この曲100回は聴いてますけど未だにここ聴くとぞわっと鳥肌立ちますもん。

そして、最後に曲のタイトルが出てくるフレーズに、焦燥感を煽る切ないギターの音が印象的なアウトロへと、音も含めて小説や短編映画のようなストーリー性の強い楽曲になってます。
個人的にindigoを知らなくてゲス不倫のイメージしか持ってない人に聴いてほしい一曲。


3.夜汽車は走る

indigo la End 「夜汽車は走る」 - YouTube

ここで従来のindigoらしいギターフレーズが印象的なイントロが流れてちょっとほっとします。
全体の印象としては、めちゃくちゃ歌謡曲っぽいです。メロディーの美しさももちろん、歌詞の感じも。一方音はもちろんロックテイストも強くて歌謡ロックですよね要は。こういう曲好き。

ストーリーは会えないあなたに会いたいっていう王道失恋ものでして。
夜汽車に乗ってあなたに会いに行くという意味とも、会いたいけど会えないもどかしい気持ちを夜汽車に例えたとも読める歌詞です。

「モノトーン」の詩的な使い方や、あなたの中に私がいないことを思わせるフレーズなど好きなところはたくさんありますが、特に凄いのがサビで出る「夜汽車は走る」のフレーズの使い方です。

1番では「ただ夜汽車は走る」
2番では「まだ夜汽車は走る」
ラストの大サビでは「まだ夜汽車よ走れ」
と、夜汽車三段活用がなされているのです。
これによって最初はただ単に会いたい気持ちを、次に未練がましさを、最後に未練がましいことは分かっててそれでも会いたいという切実さを、と、段々気持ちが強くなっていく、あえて言えばストーカーとして悪化していく様子が描かれているのです。

そうすると、最後の最後の

あなたを忘れない それだけは自信があるの
困ったような顔が浮かぶわ

の、一歩間違えばサイコスリラーな未練たらたらストーカー感の切なさも増すってもんですよね。


4.心ふたつ

ここまでの3曲はわりとアップテンポな曲たちでしたが、ここでバラード調の6分を超える大作の登場です。

渇く前に君に触れるんだ 遠回りしたけど触れるんだ

という歌から始まるこの曲。
このフレーズをはじめ、「笑った顔どんなだっけ?知ってるはずなのにな」「君からもらった分だけ こぼれ落ちていくんだ」など、二人の思い出が、自分の中の彼女の存在が、君への気持ちが、だんだんと無くなっていく、そんな喪失感が全編に蔓延していて聴いてて常につらい気持ちになります。

ところで、この歌の「君」はどうしていなくなったのでしょうか。私の想像だと、恐らくこれは死別の歌なのではないかと思います。

「揺れた街で何かが君を連れ去った」や、「『私のことばっか』って笑うんだ きっとそうだろ」という言い方は、自分の意思で「僕」をフっていなくなった「君」へのものとはちょっとニュアンスが違いますよね。

そうすると、「君が言うなら(略)生きるか」は切実に響きますし、「今でも好きなんだよな 君のことが好きなんだ」と未練を叫ぶところにもぐっと来ます。
喪失感に包まれながらも彼女を愛していたことを誇るような力強さを感じる素晴らしい歌詞で身につまされます。

「心ふたつ」とは僕の心と君の心がふたつ寄り添った状態、みたいなことでしょう。返ってこない心ふたつ分を返してよと叫ぶこの歌は、このアルバム全体のテーマを端的に表したアルバムのリード曲だと言えるのではないでしょうか。


5.まなざしの予感

というわけで、壮大なバラードの次は男女の短いポエトリーディングによる幕間。

幸せが溢れたら
本当に溢れたら
何の間違いでもなく
君を忘れてしまうかもしれない

散々「君を忘れられない」みたいな曲が続いてからのこれはズルい。君を忘れたくないけどそれじゃ幸せになれないんじゃ!そして......。


6.実験前

楽器が暴動起こしたみたいなカオティックな大騒ぎから、お得意のスラップベース、そして鋭いギターのメロディへと、このアルバムで最もハードロックな演奏からはじまります。が、歌詞の内容はなかなか女々しくて女々しくて女々しくてつらいですよ。

マッドサイエンティストの主人公が危険な実験に挑戦しては案の定失敗して半身を失うお話です。
私も成功率の低い実験に挑んでまんまと大失敗した経験があるので、

実験前の方が なんだかんだ楽しかったな

というサビのフレーズにはとんでもなく共感しちゃいます。
そうなんです、実験前の方が楽しいんですよ。実験中はどんどん苦しくなったいくばかり。一度実験を始めたら進めば行き止まり、戻る道はなく、中断すれば地獄が待っています......。それでも人は実験せずにはいられない。なぜなら知的探究心が人を人たらしめているからです。
しかし、この曲の最後の

出来損ないだけどさ 次も失敗するとは限らないじゃない

という前向きさにほっとします。一方でこの曲と地続きだった前の曲の「幸せが溢れたら」というフレーズが呪いのようにまたじわじわと効いてきます。


7.ハートの大きさ

引き続きロック色ゴリゴリなナンバーです。
この曲、「瞳に映らない」のシングルのカップリングだったのですが、アルバムの中では若干浮いてるんですよね。というのも、他の曲はみんな歌詞の内容が分かりやすく共感できる失恋ソングとして書かれてるんですが、これだけは最近のindigoに近い難解な詞で失恋感も(そう読めなくもないですが)薄いです。

どちらかと言えば、音楽シーンについて、というか川谷絵音のインタビューを見るに音楽シーンというもの自体のどうでもよさについてなど、メジャーデビューするにあたっての様々な心情を詰め込んだような歌詞に見えます。最初の方の歌詞なんかかなり皮肉っぽいですよね。

ただ、抽象的な詞なので、本作に入っていることで失恋的な意味合いも取り出せるような気がします。

やんなったあれも全部
やんなったこれも全部奪って
「心の中で疲れきったろ?」
君は笑って言った

やんなったあれも全部
やんなったこれも全部歌って
「言葉の中で疲れきったろ?」
涙も枯れちまった

こういう悶々としたというか鬱々としたというかで悩んでことにも疲れたような感じはフられた後の気持ちですよね。
だからアルバムの中で若干浮いてはいるものの、なんというか、聴いてる時の気分としては馴染んでるんですよね。要は、直接的に失恋を歌ってはいないけど、そういう時に聴いてすっと沁みてくる曲なんです。


8.花をひとつかみ

スラップベース、キターー!!
というわけであまりの気持ちよさに痙攣しながらぶっ倒れそうなゴリゴリのベースイントロが最高で、indigoの中でもイントロが1、2を争うレベルで好きな曲です。(ちなみに争ってる相手はギターのメロディが美しい「X day」)

そのままべんべんいいながら雪崩れ込むAメロの

捕まえたから離さないよ
今考えたら恥ずかしいな
でも君はいつも舌出して
僕の手からすり抜けたね

で、僕と君の関係性が既にハッキリと分かってしまうのが良いです。こういうロマンチストな男はこういう猫みたいな女の子に惹かれるんです。分かります。しかもなんか西尾維新みたいに各行の文字数揃えてるし。

はっきりとキャラ描写をした後はもう単刀直入で、

花をひとつかみした僕は まだ君を重ねる 離れても離れても

花をひとつかみした君は またすぐに忘れる 離れれば離れるほど

と、シンプルに忘れられないことを歌っています。
素晴らしいのが2番の歌詞。
映画の話の具体性が「花をひとつかみ」なんていう抽象的な歌にリアリティの輪郭を与えていますし、コンビニの話は忘れられないことと時の流れの対比を残酷に描き出しています。

その上で、

悲しくなったら悲しくなっただけ 君を思い出せばいい

という開き直ったような未練の肯定が悲しくも力強く、「ああ、思い出していいんだ」と思わせてくれて泣けます。失った人を思い出さずにはいられない私たちへの優しさに満ちた大事な歌です。


9.つぎの夜へ

静かで、切なさや不穏さを感じさせる音のイントロ。二音を繰り返すところはゆったりとしたサイレンのようです。

時計の時刻はもう
0時をさす前に止まった
あの時間から僕は
ずっと動けないよ

と、まだ抜け出せないところを描きながら

つぎの夜へ つぎの夜へ
心変わり するなら今だよ
つぎの夜へ つぎの夜へ
頭の中で歌うよ

と、抜け出せないまま、そんな気もないのに「つぎの夜へ」と虚しく歌っている......ような気がします。

実は結構長い曲ですが、幕間のような雰囲気もある曲です。
そして、第3部がはじまります......。



10.さよならベル

indigo la End 「さよならベル」 - YouTube

indigoらしい、ギターの音で始まるアップテンポながら切なさ満点のキラーチューンです。もちろん歌詞も殺人級。
何が凄いってもう冒頭の

あれからここに来るたび 君を思い出しては泣いて
霧雨降る坂の途中の自動販売
「喉が渇いたの。」って言いながら 涙を流す君をそっと抱きしめられなかったことを思い出す

これですよ!
自動販売機」という身近な名詞と「喉が渇いたの」というセリフ。こういう具象的なディテールを描くことでリアリティを出す一方で、「霧雨降る坂の途中の」という形容からは、坂の上も下も霧雨に隠され、自販機と僕と君だけがスポットライトの中にあるような幻想性が漂います。
この、限りなくリアルでありながら幻のような感覚がそのままサビで

ハイファイな夢を見てたんだ

と、「ハイファイな夢」という一言で言い表されています。

そう、この曲は主人公が見る夢の中の世界。
サビ以外の部分では"あの坂道"での君と僕のやりとりが描かれます。あの時僕は上手く振る舞えなかった。君を傷つけてしまった。そんな後悔が僕にあの場面の夢を見せるのでしょう。

そして、サビでは夢を見ているということを自覚した状態なのでしょうか、

起きたらまた上手くいくよな

と、こうくるわけですが、しかし、最後のサビではこれまで「起きたらまた上手くいくよな」と言っていた部分で、

ああ、目が覚めたら君はいない

と。
夢の中で別れる場面を見たけれど、「これは夢だから、起きたら君はいて僕らは今まで通り上手くやってるんだ!」と、ぼんやり思っていた。でも目が覚めてみれば君はもういないことを思い出してしまうのです。

取り返しのつかない、後悔の残る場面を夢にまで見ておきながら、目覚めても君はいなくてやり直すことすらもうできない。そんな、喪失感+強い自責の痛みの二重苦を歌った苦しすぎる名曲なんですね。
そして......。


11.幸せが溢れたら

indigo la End 「幸せが溢れたら」 - YouTube

アップテンポで邦ロック色の強い前の曲から一転、バラード調のラスト曲です。

サビ前の部分では別れた彼女のことを思い出すという、このアルバムでこれまで散々繰り返されてきた物語がまたぽつぽつと語られます。
しかし、サビの直前の「だけど僕のこともう知らないんだ」という言葉に引っかかります。「知らない」?「忘れた」ではなく?
すると......。

「もうあなたを忘れてしまう」
涙を浮かべた君は 病のことをしどろもどろに

ぐわー!そう、この曲実は彼女が記憶障害というストーリーなのでした......。
記憶を失うことをテーマにしたラブストーリーというと、私などは映画が好きなので「50回目のファーストキス」とか「きみに読む物語」あたりを思い出します。しかし、記憶を失う彼女とそれでも一緒にいるというこれらの映画とは違い、この歌では

「もうあなたを殺してしまう」
涙を流した君は 僕のことを強く抱きしめた
もう壊れてしまうとわかった 途端に僕は逃げだした
ずるかったな ずるかったよな

と、なかなか残酷な仕打ちをしちゃってるわけです。
一瞬だけめちゃくちゃ個人的な話をしますが、私もこういう経験があるので(別にここまで大きいことではないですが)ここは「もうやめて〜〜」と思います。なので正直なところこの曲はあまり聴きません!はい、直視できない。

それはともかく、こないだふと気づいたんですが、前の曲「さよならベル」の、「涙を流す君をそっと抱きしめられなかったことを思い出す」「長い間言えなかったことがあるんだって」「さよならも言えず走り去ってしまった」というところはぜったいこのことですよね!
「さよならベル」はシングルとしてリリースされた曲ですが、それをこうしてアルバムに組み込んでさらに深めるところにもindigoというバンドがアルバム形式を大事にしていることが明確に伝わってきて惚れ直しました。
というか、PVがわりと露骨ですけどね。あんまりPVみない人間なので、この記事書くために見直すまで気づきませんでした......。
(PVといえば、あれのラストは納得がいかねえ)

で、その上での

君の幸せが溢れたら少しだけ 許されるような気がしてしまうよ

と、こういう形でアルバムタイトルが出てきて、このフレーズがここまで散々歌われてきた失恋へのひとつのあまりに消極的なアンサーになっています。
そしてアルバムを締めくくる最後の歌詞が

もう今更遅いのは分かってる
だけど今でも好きだと伝えたい
それだけだよ それだけなんだよ

そう、結局11曲分歌って伝えたいのはそれだけなんです。
でも、それだけの、出したところでどうしようもない答えだと分かっていても、言葉の中で疲れ切ってしまうほどあれこれ悩む、それが失恋なのです。




まとめ

っつーわけで、indigo la End『幸せが溢れたら』についてでした。

改めてアルバム全体の魅力をざっくり言うと、

恋愛小説を読むようにも、実体験に照らし合わせても読める歌詞の物語性とリアリティ。
ベースをフィーチャーしディープ感の強化した演奏。
一方でポップネス全開のメロディ。

といったところですかね。
そして次作から歌詞のテーマも演奏もよりディープになっていくindigoの、J POPアルバムとしての総決算的な作品でもあるように思います。

まぁなんだっていいけど、要は失恋の渦中にいる人に残酷ですが優しく寄り添ってくれる一枚です。忘れ得ぬ人を想って聴いてください。ふはは!
では、ばいちゃ!

加藤元浩『Q.E.D 証明終了』全巻読破計画② 11巻〜20巻

遅くなりましたが、先日上げた記事に続きQ.E.D全巻読破計画を。今回は11〜20巻です。


各話採点基準↓

★1 →→→→→いまいち
★★2 →→→→まあまあ
★★★3 →→→普通に面白い
★★★★4 →→とても面白い
★★★★★5 →めっちゃんこ面白い




11巻


「寄る辺の海」★★★★4

40年前の子供の水死事故。事故の関係者一同に「あの事故について話したい」という手紙が届く。しかし関係者が揃った矢先、子供の友達だった男があの事故と同じ状況で水死し......。


まずは冒頭で可奈ちゃんの水着姿を拝めることに感謝しましょう。アーメン。
本編の内容も面白かったです。現在に起こる2つの事件にはそれぞれ違った切り口のトリックがあり、犯人に迫るロジックも明快です。特に第2の事件の(ネタバレ→)大自然が仕掛けた壮大な物理トリック......を下敷きにした心理トリックというのが見事です。過去の事件の真相はミステリ的な驚きはないですが人間ドラマとしての驚きは確かにあります。また、最後の燈馬と可奈ちゃんのやり取りも余韻が残っていいですね。飛び抜けたインパクトはないですがトリック、ロジック、ストーリー三点セットで楽しめる良作です。



「冬の動物園」★★★3

冬の動物園での殺人事件。幽霊になった作家志望の"僕"は、自らの死の真相を明かしてもらうため、生前に出会った少年探偵を動物園に呼び出す......!


幽霊が語り手という異色作です。霊の力によって動物園に誘いだされる可奈ちゃんの姿がなんとも可笑しく、前半はかなりコメディタッチになっています。ただ、解決編より前に明かされるとあるトリックにはやられました。そしてそれ以降はややシリアスに。
ここまでくると事件の方はその後そのまんまな解決を迎えるのがやや物足りないですが、あまりにも間抜けなのに哀愁漂う結末は好きです。




12巻


「銀河の片隅にて」★★2

TVの討論番組でUFO研究家が「宇宙人がいる証拠」として提出した噴飯ものの絵を、宇宙人否定派の大学教授が「興味深い」と言い話題になる。その後、絵は何者かに盗まれてしまい......。


一つのエピソードに大量のネタを仕込み、たとえネタの一つ一つが多少いまいちでも量で楽しませてくれるのがこの漫画の良さですが、今回はセコいネタが一つだけでミステリ的にはかなり物足りないです。確かにパズルとしては良く出来てますが、それをミステリのトリックにしちゃうと犯人の行動が怪しすぎてモロバレといった感じで......。
まぁ次の話(=「虹の鏡」)が長めの話なため分量も少なく詰め込めないのは仕方ないのですが。
ちなみに可奈ちゃんの最後の行動にはきゅんきゅんしましたし、次の話への繋ぎも良かったです。



「虹の鏡」★★★3

可奈の家で"あの絵葉書"を見た燈馬が失踪。可奈、優、ロキの3人は燈馬を探すためマサチューセッツへ。しかし、燈馬の足跡を辿る3人は、行く先々であの事件の関係者が変死を遂げるのに遭遇し......。


「魔女の手の中に」の続編となる話です。燈馬の行く先々であの事件の関係者が死んでいくという不穏な発端が魅力的。また、伏線の張り方もさすがで、特に絵として見せるあの伏線には驚きました。
ただ、(ネタバレ→)こんなことを言うとキャラの不幸を喜ぶようでいやらしいですが、アニーの死が燈馬の探偵役としてのスタンスに大きく影響していたというのが「魔女の手の中に」の感動ポイントだったのに、なんでえ結局生きてたんかーい!ってとこでちょっと複雑な気持ちになりました。まぁ魅力的なキャラクターなのでせっかく生き返らせたなら今後もぜひ再登場してほしいですね。
ともあれ、重要エピソードの続編として満足のいくエモいお話でしただよ。





13巻


「災厄の男」★★★3

燈馬は世界屈指の大企業の会長・アランからエイプリルフールの騙し合いゲームを挑まれる。レンブラントの絵を巡るゲームに燈馬は勝てるのか......?


メインのネタだけ見れば普段ならこういうのは好きじゃないんですけど、話の構成が上手いので気にならず普通に楽しめました。
「災厄の男」のキャラも良くて、普通に嫌なやつですけど、この漫画なら必ず燈馬が勝つと分かっているため、どこか憎めない小悪党という感じがします。
また、可奈ちゃんの悩みも にやにやしちゃいました。
というわけで色々面白さの詰まったお話でしたね。



「クラインの塔」★★2

燈馬はとある村にある栄螺堂・"黄泉の塔"の調査を依頼される。その塔では過去に、所有者が堂内で消失し、1年後白骨化して再出現したという曰くがあった。そして再び怪事件が......。


二重螺旋の栄螺堂というモチーフは雰囲気バリバリでいいです。そこで起きる事件も外連味ゴリゴリでいいです。ただ、トリックがあんなセコいことかよ!ってところで雰囲気とかが良かっただけに肩透かしでした。




14巻


「夏休み事件」★★★3

夏休み。剣道部が練習している体育館へ突如バスケットボールが窓を割って飛び込んでくる。避けようとした可奈は受け身を取り損ねて捻挫。しかし、剣道部員が外へ出てみるとそこには誰もおらず......。果たしてボールはどこから飛んできたのか?
更に、この夏休みには他にも怪事件が起きていて......。


夏休みの学校で起きるちょっとした事件を題材にした日常の謎系の話です。日常の謎とはいえ、起きる事件の数が多く、メインのバスケットボールの謎は不可解と、なかなかに外連味のある事件でわくわくさせてくれます。
解決の方も、一つ一つは小粒なもののたくさんアイデアが投入されていて楽しかったです。特に(ネタバレ→)けんすい遊びまでが伏線とは......。この作者は印象的でありながら読んだ時には伏線とは気づかないような見事な伏線を張りますよね。
最後の胸キュンなセリフもぐわーっ!と思いました。ぐわーっ!

青春したい。



「イレギュラー・バウンド」★★★3

市会議員の豊田氏が何者かに刺されて意識不明に、また彼が建設会社から受け取った政治献金100万円も消失。容疑者は、豊田氏が100万円を持っていることを知っていた建設会社の社員に絞られる。可奈は草野球で出会った建設会社の社員・里見を怪しいと睨み、調査をはじめるが......。


いかにもいい人な最有力容疑者里見さんや、いかにもヤな奴の被害者のキャラがいいですね。最後とかちょっともにょるけどほっこりしました。
ただミステリーとしてはちょっと分かりやすすぎる気がします。こうきたらこうだろというのが、論理ではなくパターン的に分かっちゃって、ほぼ全部予想した通りでしたから......。




15巻



ガラスの部屋★★★3

可奈の友人である夏美の祖父・大矢悦郎氏が刺殺された。被害者の趣味だった真空管に飾られたガラスの部屋は何を語るのか......?

ミステリーとしては、インパクトこそ弱いですが、推理をこねくり回す面白さと地味ながら鮮やかなトリックが合わさって読み応えがあります。また犯人の決め手も良くできてます。
また、お話としても被害者の最後のメッセージに笑いながらホロリときました。



デデキントの切断★★★★4

MITのドーン教授が燈馬に会いに日本を訪れた。過去に鍵のかかった教授の研究室を荒らされた事件の際、燈馬が呟いた「デデキントの切断」という言葉の意味を聞くために。しかし、燈馬は「忘れました」とはぐらかす。一体過去に何があったのか?


数学用語の「デデキントの切断」がモチーフになった作品ですが、当然ながら文系の私はそんな言葉知りませんでしたし、説明されても可奈ちゃんと同じで「どゆこと???」という感じでした。ただ、それが事件の中でどういう意味を持ってくるかは非常にわかりやすくて文系のバカにも理解できるので凄いです。
ミステリーとしてはたった一点のある事柄から全てに説明がつくというものですが、重い話なので真相に爽快感よりもショックが大きくなってます。そう、数学者の苦悩や業を描いた物語としての重厚感こそ、この作品の一番の見どころでしょう。余韻の残るお話です。




16巻


「サクラ サクラ」★★2

公園で花見の場所取りをする可奈は、隣に座った女性から会社で書類をなくした話を聞く。なくなるはずのない状況で書類はどこへ消えたのか?
一方、燈馬は、先輩の父親が社長を務める企業からヘッドハンティングを受け......。


まずミステリー部分はというと、燈馬くんが話を聞いただけで失せ物さがしをするという、日常の謎安楽椅子探偵。なんてことはない真相ですが、「そうやってものなくすことあるある〜」ときっちり納得出来る見事な答えにはなってます。
また、燈馬と可奈の2人の関係に一つの答えが出るエピソードでもあります。そう、このお話では、周りからよく聞かれる「燈馬はなぜ日本で高校に入り直したのか?」「燈馬と可奈は付き合っているのか?」という疑問に、燈馬本人が答えているのです!
「あの桜の花みたいなものです」という燈馬の言葉の真意が明らかになった時、「この2人をこれからも見守っていきたい」と思わされる、シリーズ上重要なエピソードです。なのでミステリー部分から採点は低めにしましたが、シリーズの中でも好きなエピソードの一つです。



「死者の涙」★★★3

休暇を利用して知人の住む村へ釣りに来ていた水原父娘と燈馬。その村でDVを受けていた女性が失踪する事件が起こる。捜索の末、女性は警部の知人の家のマネキン工場から遺体で発見された。しかし、遺体は最後に一筋の涙を流していた......。
犯人は誰なのか?そして、遺体の涙の意味とは......?


トリックは豆知識の域を出ないものですし、その割に豆知識としての説明も少なめでどことなく投げやりな感じもしてしまいます。
が、それより何より解決の後の信じられないもう一つの真相が......ミステリ的な意味ではなく物語的な意味でですが、衝撃的でした。と同時に、死者の涙というタイトルがじわじわと沁みてきてやりきれない余韻にこちらも涙しそうになりました。
............あと、水原警部がカッコよかったです。




17巻


「災厄の男の災厄」★★★3

"災厄の男"アランは、懲りずに燈馬ら優秀な人材を自らの会社に入れるためある策略を巡らせた誕生日パーティーを開く。しかし、その策略が裏目に出て、400万ドルが紛失する事件が起きてしまう。


出ました、災厄の男。相変わらずめちゃくちゃウザいんですけど、なぜだか彼の再登場を待っている自分がいました。秘書のお姉さん綺麗だし。
ストーリーはやっぱりアランが優秀な人材をヘッドハンティングするためにゲームを仕掛けるという前と同じパターンですが、今回は事件の構成の面白さで魅せてくれます。
当然今回も燈馬くんのが一枚上なわけですが、それでめげるアランでもないでしょうし、また登場してくれるのを楽しみに待ちたいですね。



「いぬほおずき」★★2

燈馬たちはひょんなことから日本の巨匠・大沢監督の新作映画の撮影を見学する。しかし、主演女優が主演俳優を小刀で刺すシーンの撮影で、模造品の小刀が本物とすり替えられていた!


巨匠監督の映画の撮影中に事件が起こる話です。監督や女優さんのオーラが凄くて普段の話よりもシリアス感が強く出ているのでぐいぐい引き付けられました。
トリックらしいトリックは取って付けたような感じで、正直なところわざわざ密室殺人が起こる意味もないように思ってしまいます。だって彼殺され損ですよね、つらい......。
しかし、それとは別に、華々しい世界にいる人たちの闇の部分が描かれる心理ドラマが大きな見所になっています。そうした心理の盲点を突いた小刀すり替えトリックにはゾクッとしました。ボカしますが、こういうの好きです。
また、虚構と現実のリンクした先に見える動機も見事。第二の被害者さえいなければ深い余韻が残る話なんですが、第二の被害者が可哀想すぎて............。




18巻


「名探偵"達"登場」★★★3

咲坂高校探偵同好会の面々は密室状況の部室でチーズケーキが何者かに食べられる"事件"に遭遇する。調査を進める探偵同好会は、学校で噂される幽霊に遭遇......。犯人は怪しい男女二人組(燈馬&可奈)なのか......?


女王様キャラの美女、エナリー・クイーン会長と助さん角さんの三人組、探偵同好会のキャラが立っててそれだけでミステリファンには楽しいです。ほら、私って美人好きだし。
それはさておき、ミステリとしても、一つ一つは小ネタながらいくつものトリックとロジックによる怒涛の解決編は見応えばっちり。(ネタバレ→)幽霊は燈馬と可奈、ケーキや部室荒らしは探偵研の面々それぞれと、登場人物全員が何かしらの"犯人"であるという構図もお見事です。



「3話の鳥」★★★3

水原警部の部下・笹塚刑事は、故郷で起きた13年前の心中事件のことをニュースで知る。事件は笹塚ら仲良し三人組がよく遊んだ秘密基地の近くで起きていた。しかし、笹塚はその当時のことがどうしても思い出せない。彼の記憶の中に事件の鍵が眠っているのか......?


子供時代の記憶の中の思い出せない"何か"......というホラーなんかによくあるような題材のため、いつもよりシリアス調の雰囲気が新鮮です。
真相は想像の範囲内ではありますが物語として印象深く、ミステリとしては小さいアイデアでもストーリー性で見事に面白いお話に仕上げた一編です。




19巻


マクベスの亡霊」★★★3

マクベス」の舞台の練習中、主演の大物俳優・山崎にイビられた若手俳優・河岡は山崎を殺してしまう。
アリバイ工作をして事故に見せかけた河岡だったが、それから山崎の亡霊に悩まされ......。


たまにある倒叙ものです。
犯人が分かっていながら犯行方法が部分的に隠されていることで小粒なネタですがハウダニットの要素もあり。そして、犯人特定の細っかいロジックにも感心しました。今だったら(ネタバレ→)スピーカーモードで話してたって言えば、言い訳はできると思いますが、当時は燈馬くんのおっしゃる通りですよね。
また、殺人を犯してしまった男が劇の通りに亡霊に悩まされるという物語も魅力的でインパクトのあるラストカットが目に焼きつきます。



「賢者の遺産」★★★3

ひょんなことから昭和初期にタイムスリップした可奈は、そこで燈馬くん......ならぬ塔場くんに出会う。
燈馬くんそっくりの彼は、進学資金を援助してくれるはずの富豪が亡くなり困っていた。見かねた可奈は塔場くんに富豪の隠し財産探しをけしかけるが......。


しれっとタイムトラベルしちゃって驚きますが、このへん漫画ならではの強みでしょう。というかそもそもがサザエさん時空なので、タイムトラベルくらいはすんなり受け入れられます。
ミステリとしては心理的矛盾から犯人を突き止めるのがメインになります。殺人事件の場合は物証なしの心理面だけの推理では不確実な感がありますが、兄弟間の遺産争いくらいなら物証より納得しやすくていいですね。
また、最後の富豪が遺したものの正体も非常によくできています。
ラスト1ページの強烈な余韻も見事で、作者のエンタメへの造詣の深さすら感じられます。




20巻


「無限の月」★★2

燈馬は中国の警察から、マフィア組織・西興社に関する捜査協力を依頼される。燈馬の友人である胡という男が西興社による関わっているというのだ。しかしその矢先、西興社の4人のボスが次々と殺されていき......。
胡の「φの場所で待つ」という言葉の意味とは?そして連続ボス殺害事件の真相は?


殺人の構図といい、数学にまつわるメッセージといい、外連味溢れる謎は魅力的です。しかし、そのわりにどちらも真相はあまり捻りがないように思えます。それでも、名犯人の姿は珍しくシリアスすぎるエンディングも相俟ってとても印象深くなっています。



「多忙な江成さん」★★★★4

エナリー・クイーンこと江成さんの祖母に恋人ができ、親戚一同は遺産の取り分が減ることを恐れ不穏な空気に。クイーンは祖母に悪いことが起きないようにと可奈に祖母の護衛を依頼する。
しかし、それからというもの祖母の周りで妙なことが相次ぎ......。


江成さん率いる探偵研究会再登場です。
いや〜、想定の範囲外です。言われてみればあからさまなくらいの伏線の山ですが、これは考えないよ〜。
何を言ってもボロが出そうなので簡潔にいきますが、連打される謎の乱れ打ちをそれを収束させるたったひとつの事実。複雑でありながら単純明快な構成。江成さんの多忙さへの笑い。そして何とも言えない粋なラストなどなど、全てが素晴らしい傑作です。






というわけで、11〜20巻感想でした。
個人的にベストはダントツで「多忙な江成さん」、偏愛枠としては「夏休み事件」を挙げておきます。
ミステリーとしてはもちろん面白いんですが、だんだん作者も書き慣れてきたのかストーリーとしてもグッとくる話が多かった印象があり、続きも楽しみです。と言いつつ、これから姉妹編のC.M.Bの方も読んでいこうと思うので、恐らく次回の更新はそちらになると思います。博物館の話とかワクワクすっぞ!
ってな感じでばいちゃ。

「きみに読む物語」ネタバレなし感想+ネタバレ解説


「ちゃん、ちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃん」
(宮城道雄『春の海』より)




はい、皆様あけましておめでとうございます。誰か見てる〜?


えー、みなさん昨年はいかがでしたか?新年の抱負はありますか?

私はですね、一昨年、昨年と人生最低の年を更新し続けて参りましたので、今年はそろそろ幸せになりたいなぁなどと思います。なんたって24歳、年男ですからね。

で、ど初っ端だし景気付けに王道な胸キュン・ラブストーリーでもと思って、世の中の映画で最も「王道なラブストーリー」のイメージが強いこの映画を観ました。

それがどうしてでしょう、こんな作品だったなんて......。



きみに読む物語 [DVD]

きみに読む物語 [DVD]





製作年:2004年
監督:ニック・カサヴェテス
原作:ニコラス・スパークス
出演:ライアン・ゴズリングレイチェル・マクアダムスジェームズ・マースデンジーナ・ローランズジェームズ・ガーナー

☆5点



私の今年の年賀状です。かわいくない?



閑話休題
最初に言っておくと、これはただの「王道なラブストーリー」ではありません。物凄く巧妙に作られた物語です。別にどんでん返しとかがあるわけじゃありませんが、最後まで観てその作り込まれた構成に鳥肌が立ちました。その辺、私のようなミステリファンにも勧めたい傑作だと思います。

一方で、ネットで色んな人の感想を見てると「ベタなラブストーリーでまぁ普通かな」とか、「王道の純愛もので泣けましたぁ〜😂😂」とかいう感想をよく見かけて、それは別にいいけどさ、こんな凄え話をベタだの王道だので片付けて、本当に内容わかってる?とか思ってしまった(性格悪い)ため、今回はネタバレなしの感想ネタバレ有りの解説の二段構えでつらつら書かせてもらいます。

もちろん、「ちゃんと分かってるよ」という方には今更私なんぞの解説なんざ余計なお世話だと思うので読まないでおいてください。




《ネタバレなし感想》

まずは終盤のネタバレは無しでの感想です。中盤までの展開には触れるので真っさらな気持ちで見たい人はご注意。


とある病院にて。認知症の老女の元に老人が一冊の本を持って読み聞かせに訪れます。
その本は、アリーという少女と、ノアという若者の数奇な恋の物語。

この映画は、その本の内容を中心に、ときどき枠となる老人と老女の話を挟みながら展開していきます。



まず前半は2人が出会ってから一夏の淡い恋の日々を描いた王道ラブストーリーです。

ヒロインのアリーは箱入りのお嬢様。友達の友達くらいの間柄でしょっちゅうナンパしてくる若者ノアを鬱陶しく思っています。しかし、ノアの言動には箱入り娘のアリーが今までに触れたことのないものがありました。それを意識した時、2人は一気にFallin' Love!! The ありがち!!
ありがちなんですけど、夜の街路のシーンややたらと熱いキスシーンなど2人の度を越したイチャイチャぶりはもはやファンタジーの世界の出来事で、リア充爆発しろ」とすら思わず菩薩のような微笑みを浮かべながら観てました。

しかし、そんなアツアツの2人でしたが、厳格な家に育ったお嬢様のアリーと肉体労働者の負け犬ノアでは身分が違いすぎました。
ノアは彼女が夏の間滞在する別荘で彼女のご両親に会うものの、けちょんけちょんにディスられてしまいます。ショックを受けたノアはアリーと喧嘩になって帰ってしまいます。その後アリーが大学進学のため遠くの街へ行ってしまうことで2人は引き裂かれてしまうのでした Of The ありがち!!😂😂
両親に肉体労働者のクズめ!とか言われるあたり自分を見ているようでイライラして「死ねババァっ(アリーのご母堂)!!!」と思いましたが、後のババァのとあるエピソードを見て、最終的にはババァのことも嫌いにはなれず......。


と、まぁ斯様にここまでとてもありがちな流れになっていますが、この後から本作の本領が発揮されます。



第2部(?)

大学に入って三年。アリーは、まだたまにノアのことを思い出しながらも、ロンという富豪の御曹司と恋に落ちて婚約します。

一方、ノアはもう世界の終わりですよ。紅茶飲みながら静かに待つなんてもんじゃなく、あの夏アリーが暮らした別荘を買い取って改装して人に売ると見せかけて「やっぱ売らないよ〜ん」という迷惑行為に及んじゃって街の名物おじさんと化してますよ〜。ここ泣けます。

そして、そんな名物おじさん・ノアのことを新聞で見てしまったアリーは、彼を心配して婚約指輪をつけたまま、あの夏のあの家に行き......。

その夜、何があったかは想像がつくと思います......。
そこから、この映画は純愛ものだと思っていたのにまさかのゲスな三角関係、いや四角関係へと発展していきます。これには川谷絵音もびっくり。
ただロンがいいやつなんですよね。これでこいつが嫌な金持ちだったらこいつを憎めるんですけど、誰も悪くない。だからこそこの辺のドロドロの展開は観ててつらいです。

そして終盤に至ると、ちょっとした仕掛けと感動の結末が待っているわけですよ......。


※以下ネタバレ解説に入っていきま〜す

P.S.
この解釈が制作側の意図と合ってるかどうかは分かりません。もしかして見落としてるだけで反証があるかもしれません。ただ、合ってなかったら私の解釈の方がこの映画より面白いとすら言い切る自信はあります。




《ネタバレ解説》

というわけで、ここからはネタバレ有りで私の解釈を書いてみます。
んじゃ、さっそくいきます。

まずは終盤の展開を段落ごとにざっくり文章化します。以下の考察ではこの段落の数字を使ってみていきます。


老人と老女が暗い部屋でディナーをする。読み聞かせの物語はもう終盤。
「彼女はどっちを選んだの?」と急かす老女に、老人は続きを語る。


ロンは、アリーにノアとのことで小言を言うが、そのあと「愛してる」「アリー、初恋は忘れられないものさ」と彼女の過ちを許すようなことを言う。アリーは「分かってる。私が誰を選ぶべきかは......」


そこで、老人が「めでたしめでたし」と言い、老女は「誰がよ?」と尋ねる。
少しの沈黙の後、老女は「そうよ」と言う。


家で目覚めたノア。車の音に気付き、ベランダに出てみるとそのにはアリーが。抱き合う2人。


老女は、「思い出した。それは私たちのことね。ノア......」と言い、老人を抱きしめ2人で踊る。
2人は孫の"ノア"のことなどを話すが、老女は突然また記憶をなくし、錯乱して老人に「あなた誰よ!?」と叫ぶ。


老人は2人の幸せな頃のアルバムを見る。そのあと今まで読み聞かせていた本をめくると、そこには「アリー・カルフーン著。愛するノアへ」と書かれている。
その後、老人は気を利かせた看護師に甘えて、錯乱状態の後で眠っている老女に寄り添って眠る。

朝、看護師は寄り添って冷たくなっている2人を見つける......。

まとめると、ざっとこんな感じです。


ぼーっと観てると④⑤のシーンから、一見、
老人=ノア
アリーはあの後結局初恋に従ってノアを選び、2人は死ぬまで純愛を貫いた

......という風にも見えます。

でも騙されちゃいけません。
本当はそうじゃなくて、老人はロンだという風にも観ることが出来るのです。

その根拠として、まず⑥のアルバムを見る場面で、アルバムに写っている写真がノア、ロン、どちらの顔でもない(恐らく老人役の俳優の若い頃?)ことが挙げられます。
そして、老人がロンであると思って見れば......。
③のシーンで老人は「めでたしめでたし」と物語を締めくくっています。
すると④の、アリーがノアの元へ行くシーンは、本に書かれた物語の結末ではなく、老女が思い出した(と思っている)光景であることが分かります。
また、老人と老女の孫が「ノア」という名前であることも、祖父の名前を付けたのではなく、あの後2人の共通の友人となったノアから取った、とも考えられますよね。

以上のことから、老人=ロン説を取ると、老人がノアであると考えるよりも更に切なく更に強い純愛の形が浮かび上がってきます。

あの後ロンはアリーと結婚、子供や孫にも恵まれて幸せな日々を送っていた。しかし、年老いたアリーはある時アルツハイマーになってしまう。
何も分からなくなってしまった彼女がたまに思い出して語ることは初恋の人・ノアとのことばかり。更に、ロンは入院して家からいなくなった彼女の部屋から、ノアとの思い出を描いた物語風の日記を見つけてしまう。
しかし、たとえ自分以外の男との思い出に浸っていても愛するアリーが幸せならと、ロンはノアのフリをしてアリーに合わせることにする......。


これは大変なことですよ。愛する人がボケて自分のことを忘れて他の男のことしか思い出さなくなってしまって、それでも彼女のために尽くすロン。これってものっっすごい純愛じゃないですか?
そして、この説を取ると、②のロンの「初恋は忘れられないものさ」というセリフが効いてきて、アルツハイマーになったアリーの状況と、ロンがそれに尽くそうとする心理にきちんと納得がいくんですよね。こういう伏線の巧さが私がこの作品をミステリファンにも勧めたいと言う理由なわけですが、それはともかく......。



じゃあ老人=ロンなのか?いえいえ騙されちゃいけません。

これはあくまでアルバムの写真やロンのセリフから「観客」である私が「作者の意図」に見えるものを切り取って読み取っているに過ぎません。

そう、上に挙げた手がかりは全て物証ではなく状況証拠にすぎず、このストーリー自体は、老人はあくまでノアでもロンでもあり得るという立場を取っているんです。

そして、ノアだと考えれば紆余曲折を経て初恋が実るというロマンチックでベタで王道なラブストーリーになります。
一方、ロンだと思うと、切なくて苦しい純愛ものになるわけです。

ところで、恋愛の目的って何でしょう?恋愛のゴールとは?
結婚?それも確かに一つの到達点ではあるかもしれませんが、そこで終わることもあればそこから続くこともあるような気がします(結婚どころか恋愛もロクにしたことないのによくもまぁ偉そうに言えたもんだ!)。
畢竟、恋愛のゴールがあるとすれば、それは相手のことを想って満足して死ぬことしかないのではありませんか?私は心中したい!(映画の趣旨と外れる)。

そう考えると、この物語は老人がノアでもロンでも結局のところめちゃくちゃ切ないけど最強のハッピーエンドなのかもしれません。



というわけで、結局老人がどっちなのかハッキリさせないリドルストーリーのような体裁を取り、どちらだと考えるかでそれぞれ違った味わいの、しかしどちらも素晴らしい恋愛映画になるという構成は凄過ぎます。

一つの映画でありながら同時に二つの物語として存在するシュレディンガーの猫的映画で、さらにはノアのセフレやアリーの母親の物語も観客に想像させ、観終わった後に頭の中を様々な物語が乱反射するような、大変な傑作ですよこれは。余韻が終わりません。

歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』読書感想文

『葉桜の季節に君を思うということ』でお馴染み、歌野晶午大大大先生による13編の恋愛小説短編集です。



恋愛小説とはいってもそこは歌野晶午で、各話にミステリらしい捻りがあったり、中にはしっかりトリックの使われたミステリ度の高い話もありと、ファンの期待を裏切りません。


また、恋愛小説としての恋愛観の部分もかなりヒネてて、人を騙すことばっかり考えてるミステリ作家ならではのビターな恋愛小説集だとも言えるでしょう。
しかし、そんな恋愛のビターな部分を多めに配合した擦れた感じの恋愛小説が多いようでいて、どの話にも恋のキラキラした輝きもちゃんと詰まっています。たとえ結末が恋愛なんてものを信じられなくなるくらいヒネてたとしても、素晴らしい恋の瞬間も確かにあったのだと思い、もう一度恋を信じてみようと思える作品集でもあるように思います。あくまで作品への批評としてであって、私はもう恋はしませんけどね。あんなクソゲーは二度とごめんだぜ。
そして歌野晶午らしいちょっとした意外性もあるので、ミステリファンにももちろん勧められる傑作であります。
ちなみに個人的に好きな話は「黄泉路より」「別れの刃」ですね。
では以下各話感想。



「ずっとあなたが好きでした」

恋とは想像の賜物である。相手のことをあれこれ考え、気分が高まったり落ち込んだりする心象風景が恋である。

中学生のストレートな恋愛を描いたお話です。
衝撃の結末......ええ、ジャンル分けすれば"衝撃の結末モノ"に含まれるとは思うのですが、正直なところこれは見え見えでした。作者が恋愛小説家だったらあるいは騙されたかもしれませんが、表紙を見ると「歌野晶午」と書いてありますもんね。それならただでは終わらないだろうと思うともうこれしかないよな、と。
問題は、ネタが明かされた時の物語的感動が薄いところで、まぁ私が(ネタバレ→)BL嫌い(とか言うと殺されそう)ってこともありますが、それ以前に(ネタバレ→)宗像のエピソード自体薄いから、彼の心根が見えたところであまり切なくなったりしないため、どんでん返しのためのどんでん返しであるように思えてしまうからでしょうか。とはいえバイトの恋というシチュエーションや、恋の一喜一憂感はとてもよかったです。



「黄泉路より」

おかしいものですか。みんな最初は初対面だったのですよ。光源氏と紫の上も、ボニーとクライドも、ジョンとヨーコも

「ネット上で知り合った人たちと集団自殺しに行く」という発端が衝撃的で、不穏な雰囲気がヒリヒリします。そんな中での主人公の愛の告白がなんとも場違いで愉快な気持ちになってしまいます。その後ミステリにシフトする展開も面白く、"何が起きたのか?"という謎が、状況や演出も相俟って強烈に迫ってきます。その真相もなかなかインパクトが強いです。
そして、そこから恋の虚しさと人生への希望を同時に見せてなんとも言えない余韻を残す終わり方も見事です。



「遠い初恋」

その晩弓木はなかなか寝付かれず、それは遠足や運動会の前日でもこれほどではないというほどであった。

歳をとるにしたがってどんどんなくなっていって、大学生になる頃にはほぼなくなった、男子・女子という感覚。それが最も根強いであろう小学生たちのお話。
東京から来た可愛いい転校生のネックレスが盗難される事件が話の主軸ですが、「男子がとったんでしょ!返しなさいよ!」みたいなノリが懐かしかったです。なんで女子っていつも男子のせいにするんだろう、嫌いだわ~、と思ってましたね、当時。
本編中、恋とか好きとかいうワードは全然出てこず、なんかもやもやとした気持ちだけがある感じも初恋の懐かしさが感じられて良かったです。何も分からないですからね、あんな頃は。まぁ今も何も分かりませんが。
ミステリとしては盗難事件の犯人当てが主眼ですが、あえて最もしょーもないオチをつけてきてますね。このミステリとしてのしょーもなさが物語に強いリアリティを与えているのでこのしょーもなさは故意犯でしょう。
一方でもう一つ捻りを加えてきてますが、こちらもミステリとしてだけ見れば特殊知識が必要なうえ脱力系のシロモノですが、結末のなんとも言えぬ余韻に繋がっているので物語としては不可欠。
要するに、ミステリとしてのいまいちさまでを見事に物語に組み込んだ実験作だと思います(※個人の感想です)。



「別れの刃」

男女の関係を神聖視するのは欺瞞だということ。それはあとづけの幻想。

これ大好き。大学のサークルの話って個人的に一番突き刺さるのです......。
一回りも年上のお姉さんに誘惑されちゃうお話。このお姉さんの変人キャラ造形がよくって、客観的に読んでる読者からするとちょっと痛いくらいですが、こんなお姉さんにちょっかいかけられたらひとたまりもないですよね。
で、展開がまた面白いんですけどそれはネタバレになるのであまり触れないことにして......。
「恋愛を神聖視するのは欺瞞」というテーマはグサグサ刺さります。今の私が「畢竟、恋など肉欲と承認欲求の合いの子にすぎぬ」といったモードになってるせいかもしれませんが、グサグサ刺さりました。ただ表題作にあったようにそれを乗り越えたところに愛があるのかもしれませんね。希望は捨てないでおきましょうよ。
さて、そんなこんなで恋愛小説として素晴らしいんですけどそれだけにラストわざわざあんな展開にしなくてもよかったんじゃないかという気もしちゃいます。精神的な怖さの後に物理的な怖さが来る必要があるのか?という。ともあれ傑作ですが。



「ドレスと留袖」

この安らぎがあるから、明日も一日がんばろうと、疲れた体にネクタイを締めることができる。

結婚して有名な会社の重要な役職に就いている平均以上に幸せな主人公が、愛する人に付きまとう謎の男の正体を暴こうとするお話。
主人公がかなり恵まれた立場にいるので正直ザマーミロ感もなきにしもあらずですが、とはいえ付きまとわれる気持ち悪さはなかなか。特に何をされるわけでもないから余計に理由も分からなくて怖いですね。
そして、その男の正体と目的には驚きました。と同時に、(ネタバレ→)結婚というものへの不信を感じさせられました。恐ろしい......。



「マドンナと王子のキューピッド」

勝ちたいのなら、自分も上を目指せ。

ラジオ番組への投稿を趣味とする、所謂ハガキ職人の高校生が、一目惚れをした同級生のために恋の応援番組「マドンナと王子のキューピッド」に投稿するお話。
転校してきて友達もできなかった主人公をラジオが救うくだりは好きです。やはり青春とラジオは切っても切り離せませんよね。
恋愛小説としては、一目惚れってのが私好きじゃないものであんまり乗れなかったですけどね。ただ分かりきったラストが分かりきっていながらも良かったです。



「まどろみ」

自分はこの女性を愛していない。

なんぞこれと思いました。なんせ、寒くてベッドから出れないカップルが裸のまま妄想お料理ごっこ(からのセックス)や、しりとり(からのセックス)をして遊ぶだけの話なんですもん。よくこんな酷えもんを書けたもんだぜとぷりぷり怒ってしまいましたが、会話のテンポと誰もさわれない二人だけの国のこっ恥ずかしいアホくささが見事です。こんだけの話で読ませるってのも文章力ですよね。
それでいてラストはビターな味わいだから上手いですよね。



「幻の女」

謎めいた女は、それだけで魅力的だ。

本書中最も普通のミステリっぽい話で、恋愛要素は薄いです。謎めいた女のことが気になるという、恋愛以前の感情ですかね。
ただミステリ部分はさすが。幻の女の正体と、自分が酔っている間に起こった殺人事件という、それぞれ別々の意味で強烈な謎が提示されます。その解決もなかなか驚かされました。なるほど。
そして、そんな事件に巻き込まれたことで主人公にある変化が訪れるラストシーンも味わい深いです。
他の短編からやや浮いているような気もしますが、普段のミステリ作家としての歌野さんを感じられる一編です。



「匿名で恋をして」

姿形がわからない女性と対面し、その姿形がどうであっても、フィーリングが合うから問題ないと恋愛を続けられるのか?

掲示板で知り合い、メールのやり取りをする女性(自称)と実際に会ってみるお話。
捻りっぽいものはあるものの、お話的にそりゃそうだよなと予想がついてしまうもので特に驚きはありませんでした。ただ、ネットで知り合った顔も知らない女への謎の期待がすごくリアルですね。正直ちょっとはそういう気持ちあると思います。まぁその後のアレは主人公がヤリ目クソ野郎すぎて呆れましたけど。結果ああなっちゃうのが意地悪ですね、読者に対して。歌野さんのドS~。



舞姫

ジョジョはフランソワーズのなにに惹かれたのかわからない。しかしジョジョはフランソワーズとつきあううちに、彼女の中に深く沈み込んでいった。恋とはそういうものなのかもしれない。

うーん、これは......。
フランスに留学(のようなもの)に行った男が現地でフランス人の踊り子と同棲することになる......という森鴎外本歌取り短編です。
主人公が働くレストランで高価なワインの盗難事件、さらに殺人事件が起こるというミステリ味の強い作品でもあります。ただその解決はそこまで捻ったものではなく、フツーだなと思っていると思わぬところからの一撃が......くるんですけど......正直こっちのどんでん返しも「で?」という感じでした......。唐突すぎてだからなんなのかが分からないとでも言いましょうか。その後を想像すると「あ~」ってなりますけどね。



「女!」

誰?

「まどろみ」に続くなんぞこれシリーズ第2弾!(?)



「錦の袋はタイムカプセル」

吉凶はすべてタイミングだ。いくもの成功と、その何百倍もの失敗の繰り返しから、そう悟るにいたった。

老いた男がひょんなことから初恋の人に再会してあの頃の気持ちを告白するという話。一度好きになった人をそう簡単に忘れられるものじゃありませんよね。詳しいことは割愛しますが、素晴らしいです。



「散る花、咲く花」

(ネタバレ→)新しい恋を見つければ、始まりの時の格別さをまた味わえる。

前話のその後のお話です。毎週花を買って病院に義父の見舞いに行く彼女と、それに付き合う彼。しかし来るたびに花が捨てられていたり義父の体に引っかき傷があったりと、病院からの虐待を思わせる出来事が続き......。
本書の最終話ですが、いい意味で脱力するといいますか、感動的にしすぎないことで逆にリアルな余韻が残るように思います。ミステリとしても予想外のところから真相が出てくる演出が良いです。そしてラストの一文が味わい深いですね。





というわけで、恋愛小説としても歌野作品としても素晴らしい本書。実は私読む前からネタバレされてたんですけどそれでもめちゃくちゃ楽しめました。
恋をしたことのある全ての人にオススメします。まじで。みんな読んでね。

2017年に読んだ小説ベスト20

明けましておめでとうございます😆😆嘘です。メリークリ🌰🐿ス🎅🎄🎁Fuck the Christmas!

さて、今日は私が今年読んだ本ベスト20(旧作含む)という非常にどうでもいいランキングをお届けします🙄🙄これが新刊ランキングなら今年のミステリ界のひとつのまとめになるんですが、残念ながら新刊はあまり読んでないのです😝😝

というわけなので9割9分は自分用備忘録、コメントも書きませんのでご了承ください。もっともこのブログを読んでいる人自体ほとんどいないだろうから関係ないですけどね🤔🤔



20位

三津田信三『どこの家にも怖いものはいる』

19位

依井貴裕夜想曲

18位

早坂吝『双蛇密室』

17位

島田荘司『奇想、天を動かす』

16位

青木知己『Y駅発深夜バス』

15位

エラリー・クイーン『レーン最後の事件』

14位

乾くるみ『匣の中』

13位

法月綸太郎『頼子のために』

12位

山田風太郎『十三角関係』

11位

陳浩基『13・67』

10位

西澤保彦『黄金色の祈り』

9位

歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』

8位

住野よる『君の膵臓が食べたい』

7位

積木鏡介『誰かの見た悪夢』

6位

柾木政宗『NO推理、NO探偵?』

5位

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』

4位

藤野恵美『わたしの恋人』『ぼくの嘘』

3位

浜尾四郎『殺人鬼』

1位

浦賀和宏『透明人間』及び安藤直樹シリーズ(1stシーズン)



以上です。総評としては今年はミステリ以外がたくさん入ってますね。ミステリ作品でもミステリ部分以外で評価が上がった作品が多かったです。まぁ色々読むようになったんですね。
というわけで2017年は色々読んだ年でした〜(雑)。
それではばいちゃ。

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』読書感想文

『七つの海を照らす星』に続く七海学園シリーズ第2弾。オーソドックスな連作短編集だった前作に対し、今作は中心となる転落事件の描かれる「冬の章」の合間合間に、各季節の短編をカットバック式に挟み込んだ形の、半分長編みたいな短編集になっています。



なお、今作から読むより前作から通して読んだ方がいい作品なので、未読の方はまずは前作からどうぞ。



ではまず各短編について。



「春の章 ーハナミズキの咲く頃ー」

内に籠もりがちな少年・界が珍しく学園のピクニックに参加するという。しかし、ピクニックの最中にあるきっかけで暴れ出してしまう。春奈が話を聞くと、彼は母親に殺されかけたという過去を語り出し......。

結末の方向性こそ見えてしまいますが、(ネタバレ→)界の母親の性格までが推理に説得力を与える伏線になっています。こういう(ネタバレ→)キャラの考え方のクセをトリックに使うあたり、わたしの大好きな泡坂妻夫みが感じられていいですね。その説得力が更に(ネタバレ→)推理を語る意味という物語としてのテーマにも説得力を与えているのが見事です。重い話ですが、テーマとキャラクターたちの優しさのおかげでどこか爽やかな余韻が残ります。


「夏の章 ー夏の少年たちー」

施設対抗のサッカー大会の日、決勝戦の後、片方のチームの選手が全員失踪してしまう。しかし、会場にいた人の話を突き合わせると、彼らが会場から抜け出す隙はなかったことが分かり......。

トリック自体も面白いんですが、前作のとある短編の応用編といった感じで目新しさはありません。ただ、そのための(ネタバレ→)共犯者の多さというミステリ的には弱点になりそうな要素を物語としての感動に繋げることでカバーしているのが上手いですね。


「初秋の章 ーシルバーー」

前の学校でもらったお別れの色紙を大事にする樹里亜。しかし、その色紙が何者かに盗まれてしまう。樹里亜は学園の少女・エリカに盗まれたのだと疑うが、果たして......?

このネタをメインにされたら普通「そんだけかい!」と怒ってしまいそうですが、(ネタバレ→)隠れた文が太字で浮かび上がった時にあまりのおぞましさに鳥肌が立ってしまい、それどころではありませんでした。つらい話ですが、海王の最後の話に少しだけ救われます。


「晩秋の章 ーそれは光より速くー」

学園に突然、「娘に合わせろ」と男が押し入る。人質状態になってしまった春奈はどう危機を乗り越えるのか......?

......というサスペンスっぽいあらすじのお話ですが、春菜、侵入者、たまたま居合わせたおっちゃん、学園の幼児の4人が噛み合わない会話をしてドタバタする様はむしろユーモアミステリの読み心地です。なので「まさか春菜が刺されることもあるまいし......」と油断してにやにや笑いながら読んでいたら、自分の方がぶん殴られました。あの真相は完全に予想外。と同時に、その後さらに笑える展開になるのも凄い(?)です。最後の海王さんのセリフが刺さるものの、基本的には笑いながらも最後に驚ける傑作です。


そして............


「冬の章」

四つの季節の章が終わると、本書全体を貫いていた、瞭という少女にまつわる物語もついに結末に向かいます。
殺人事件を扱うシリーズではありませんが、転落事件の犯人当てというはっきりした形があり、オーソドックスな"ミステリの解決編"に近くなっているのが特徴的です。

ここで明かされる真相自体かなり衝撃的なもので、びっくり度だけでもここ数年で読んだ作品でも屈指でした。
(ネタバレ→)冬の章を分割することで語り手が違うことを不自然に思わせないところや、(ネタバレ→)冒頭から「北沢春菜です」という誤認爆弾を仕掛けてるあたり巧妙過ぎて引きました。ドン引き。

また、凄いのが伏線や手がかりの膨大さ。細かい部分まで拾ってるとキリないですが、大きいところでは......(ネタバレ→)夏の章と晩秋の章では人物自体の誤認や入れ替わりが、春の章と初秋の章では人物像の見え方の反転が、それぞれトリックになっていました。冬の章を見ると、被害者と語り手の誤認、モーリ像と暸から見た春菜像の反転と、それまでの4つの短編に使われていたトリックが(メタ視点からではありますが)そのまま大仕掛けの伏線/手がかり/ヒントになっているあたり鳥肌ものですね。

強いて難点を挙げるなら(ネタバレ→)上記のように各短編が全て人物/人物像の反転を扱っているため、各短編のバリエーションの豊かさでは前作に軍配が上がるかと思います。
というか前作も本作も(ネタバレ→)実は佳音ちゃんでした(。・ ω<)ゞてへぺろなのでちょっと(ネタバレ→)春菜ちゃんがハンカチ噛んでる光景が思い浮かびますね......。

ともあれ、細部までよく考えられたド傑作ではあるのですが、読み終わってちょっと放心してしまいました。この先、彼女らがどうなるのか......続編が待たれます......。

なお、本作はツイッターで読書会をやったんですが、その際に私と違って知的で聡明なフォロワーの皆様の深い読みに本作の楽しみ方を教えてもらいましたのでここに謝意を示して終わらせていただきます。メリー天皇誕生日!ばいちゃ。