偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

目次

〈あ行〉

エターナル・サンシャイン - 偽物の映画館 ☆4.3

 

〈か行〉

キートンの探偵学入門 - 偽物の映画館☆4.0

キングスマン - 偽物の映画館☆4.0

狂い咲きサンダーロード - 偽物の映画館☆4.0

 

〈さ行〉

サスペリア - 偽物の映画館☆3.6

三月のライオン(由良宣子、将棋じゃなくてね!) - 偽物の映画館☆3.8

スプリット - 偽物の映画館 ☆3.7

ゾンゲリア - 偽物の映画館☆3.8

 

〈た行〉

ダンケルク(クリストファー・ノーラン監督) - 偽物の映画館☆4.1

ドグラ・マグラ(1988年の映画版だポコ!) - 偽物の映画館☆3.6

 

〈な行〉

 

〈は行〉

HOUSE(大林宣彦監督) - 偽物の映画館☆3.8

フォロウィング - 偽物の映画館 ☆4.5

冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜 - 偽物の映画館☆0.6

 

〈ま行〉

記事一覧 - 偽物の映画館☆4.0

 

〈や行〉

 

〈ら行〉

ルチオ・フルチの新デモンズ - 偽物の映画館☆2.8

 

〈わ行〉

 

〈その他映画記事〉

失恋の傷口に塩を塗る恋愛映画7選 - 偽物の映画館

【閲覧注意】極私的、ランク別どんでん返し映画紹介 - 偽物の映画館

 

〈音楽関連〉

スピッツ「子グマ!子グマ!」を聴いた男 - 偽物の映画館

indigo la End『Crying End Roll』の感想だよ - 偽物の映画館

 

〈小説関連〉

太宰治『人間失格』読書感想文 - 偽物の映画館

貫井徳郎『修羅の終わり』読書感想妄想憶測文(※全編ネタバレのみ) - 偽物の映画館

井上夢人『ダレカガナカニイル』読書感想文 - 偽物の映画館

柾木政宗『NO推理、NO探偵?』読書感想文 - 偽物の映画館

 

〈漫画関連〉

駕籠真太郎『殺殺草紙 大江戸無惨十三苦』感想(は特にない) ※R18 - 偽物の映画館

柾木政宗『NO推理、NO探偵?』読書感想文

 

でーん!第53回メフィスト賞受賞作!


誕生日が10月なので誕プレとしてフォロワーさんに頂きました。

 

見えそうで見えない表紙を、本の角度を変えたら見えないかな〜と奮闘していると、帯のハイテンションな惹句が目に入ります。


メフィスト賞史上最大の問題作!!」「『絶賛』か『激怒』しかいらない」


やれやれ、なかなかメフィってやがるぜ。
さらに本を裏返してみると錚々たる先輩作家先生方からの推薦文が。そのメンツが......

 

法月綸太郎青柳碧人円居挽、早坂吝、白井智之

 

......地雷だ!!!
というわけで、これから中学校に入学する少年のように期待と不安を胸に抱えて読み始めたわけですが......。

 

 

 

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

 

 

 

......プロローグでそっと本を閉じました。もう10月だからかやけに寒気を感じます。
いやいや、でもでも、最後まで読んだら意外と面白いかもしんないじゃんっ!というわけで、気合いで読み終えたわけですね。偉い。頑張ったよ、私。

 

 

では本題。まず全体のことについてです。
えー、本作は5編の短編からなる連作集になっています。問題作たるゆえんはその設定です。


主役は名探偵のアイちゃんと助手のユウの女子高生二人組。ある事件がきっかけで推理能力を失ったアイちゃんですが、ユウはこれを機に、アイちゃんをロジカルな推理などというしちめんどくさくて退屈なことをしない、パッとする名探偵にしようと目論見ます。

 

このように設定自体がミステリパロディ色の強いものなので、文章も地の文でメタなことを言ったりしつつ女子高生2人が漫才のような掛け合いをするものになっていますが......笑えねぇ............。

笑いってのは難しいですよね。テレビでお笑い番組を見ていても自分の好きじゃない芸人が出てきて全然笑えずにぽかーんと見てる時ってなんかこっちが悪いことしてるみたいな気分になりますが、本作もまさにそんな感じで、全体にギャグがつまらなすぎて謂れのない罪悪感を覚えました。しかも、当然ながらメタなギャグをやるために人間を描くということもハナから捨てていますので、主役の2人にそもそも全く愛着を持てず......。紙の上に書かれた文字としてしか認識できない女子高生が延々と滑り続けているのを読んでいくという萌えもひったくれもないある種未体験ゾーンの読書体験が出来たとは思います。

 

それでは以下、各話のざっくりとした感想、及びそれぞれ10点満点での採点を。

 

 

 

 

 

第1話「日常の謎っぽいやつ」

 

点数:★☆3点

 

アイちゃんとユウは公園で綺麗な石が等間隔で並んでいるのを見つけます。アイちゃんを推理しない探偵に仕立て上げようとするユウは「.これだ!今回のテーマは日常の謎ね!」と石の謎を無理やり事件にしてしまい......。

 

謎があまりに瑣末なのはパロディとしてのネタの一つでしょうからいいとして、ノリが本書でも一番鬱陶しかったです。


まず、地の文をポエム文体にするギャグくどい。一回や二回なら「滑ってんなぁ」で読み飛ばせますが、全編これだからもうつるつる滑りすぎてルームランナーみたくなっちゃってます。
あと2人の小学生が出てきますが、こいつらのキャラがエグい。「更田(さらだ)トマト」くんに関しては名前だけでもう生理的に無理。名前だけで聴く気がなくなる最近の邦ロックバンドみたいなもんです。おいしくるメロンパンとか。でもおいしくるメロンパンは聴いてみたら意外と良かっ......何の話だ。

 

おいしくるメロンパン「色水」 - YouTube


で、トマトくんの相方は常に誰よりも全力で滑ってるのですが、地の文では何故か上手いこと言ったような扱いになっているのが痛々しくて「もうやめてあげて!!」と叫びました。


でも日常の謎としてのネタ自体は小粒ですけど意外と嫌いじゃないです。あー、なるほどね、と。ただ、こういうネタなら加納朋子みたいな温かみが欲しいところで、このキャラとこの文体でちょっと良い話っぽくやられても心は凍りついたままですが。

 

 

 

 


第2話「アクションミステリっぽいやつ」

 

点数:☆1点

 

タイトルの通り、2人がゾクの抗争に巻き込まれるアクションミステリ......ってか、うーん、アクションスラップスティックコメディ(ただし笑えない)です。


真相の「実は......」ってのが後出しでいくらでも出来る上にキャラへの思い入れがないので「実は俺が黒幕だ!」とか言われても「あー、そう」としか。卑怯なのがそのことを作中でもネタにしてることですよね。ディスられる前に自虐ネタにして誤魔化そうとする魂胆が自分を見ているようで嫌悪感を催しました。あ、もしかして本作のつまらなさへの苛立ちはただの同族嫌悪なのかもしれません。私も今この文章を読んでもらっていたら分かる通りつまらないことしか言えませんから。


それはさておき、もう一つムカつくのが、一番の見せ場っぽいところで某名作のネタバレをかましてるらしいこと。某名作を未読なので読めなかったです。ちゃんと「ネタバレあります」って断ってはいますが、それすら「ミステリのマナーとして、ちゃんとネタバレありますって断ってるよ。へへん!」というアピールに見えてウザいです。


ただ、一つだけ良いところを挙げるなら、ゾクのチーム名が某作家縛りっていうのは笑いました。特に「スター・シャドー・ドラゴン三代目総長」のそのまんますぎるネーミングは良かったです。

 

 

 

 


第3話「旅情ミステリっぽいやつ」

 

点数:★★4点

 

警視庁刑事の兄から、埼玉県警の知り合いが担当している事件について聞いた2人は、埼玉県川越市へ向かう......「旅情ミステリ」をやるために。

 

......ってか旅情ってのはWikipediaをコピペしたかのような説明文のことを言うんですかね?

東京から埼玉というプチ家出程度の旅行とガイド本の丸写しでは旅情ミステリっぽさすらないでしょ。してることだってただの散歩じゃん。旅情ならせめてなんかもっとこう、温泉とか、、、温泉とか、、、発想が貧困で温泉しか思いつきませんね。


あと、うんこのネタ引っ張りすぎ小学生かよ!まぁ男なんていくつになっても小学生みたいなもんですけどね。

 

ただ、この話は悔しいけどやってることはちょっと面白いんですよね。まともなミステリでは必然性を付与するのが難しそうなトリックが、本作のノリなら「語り手の悪ふざけ♡」で許されちゃいますもんね。ある意味本書の設定を逆手に取ったトリックの異世界ミステリとも言え......いや別にそんなことはねえわ。

 

 

 

 

 

第4話「エロミスっぽいやつ」


点数:★☆3点

 

「っぽいやつ」だしこの作風だから分かりきったことではありましたが......エロくない!
今回はアイちゃんが容疑者に色仕掛けで迫るというネタですが、尋常じゃなくエロくないです。一応タイトルにエロと冠しているんだからもうちょいエロくしてくれてもいいのにと思います。その点エロミスの大家・早坂吝先生の股間に直接響く身も蓋もないほどのエロ描写はやっぱり凄えんだな、と。


トリックに関してはまぁ小学生向けのなぞなぞみたいな話なんでノーコメントで。

 

 

 

 

 

最終話「安楽椅子探偵っぽいやつ」

 

点数:★★★★☆9点

 

最終話、9点です......9点!?
そうなんですよ、今まで散々つまらないだの面白くないだの滑ってるだのと言ってきましたが、この最終話でほぼ満点近くを付けるほどに認識を改めました。

 

あまり詳しい内容を言っても興醒めなのでぼかしながらですが、連作としてのまとめがやがて予想もしない方向に飛び、これまでの4つの短編が、これまで出てきたつまらないギャグの数々が、そしてさらにメタ的な部分まで、本作の全てがこの一発ネタをやりたいがために書かれていたと明かされます!!!
それはもう、文字通りの「一発ネタ」です。正直なところ、最終話の中でもこのネタ以外の部分は上手いこと言ってるように見せかけて実は納得いかないことの方が多いです。でもここだけ、このネタの衝撃と笑撃だけでもう充分なんですよ。ここまで本書を読み進めながら「今まで読んだメフィスト賞作品でも一番の駄作では......?」と思っていました。でもそんな苦行に耐えてきたことがラストで報われました。

 

この景色、世界がひっくり返るようなこの景色を見るためだけに、私はここまで険しい道を読み進んできたんだ。
急勾配、道なき道を汗水垂らして登ってきたからこそ、頂上から見るこの景色は美しく爽やかで、読了後泣きました。

 

今までディスってきたことへの申し訳なさ、ミステリでは過程がつまらなくても結末で傑作になる作品があることを忘れていた情けなさ、そして何より純愛に涙しました。

 

そう、この作品は作者の純愛が書かせた、本格ミステリメフィスト賞への愛の告白なのでしょう。

 

ミステリのことが好きだけど、その憧れをロジカルな正統派ミステリを書くという形では表せなかった作者。そんな彼が一世一代の大仕掛けだけを引っさげてミステリへの愛を叫ぶ。本作は、そんな不器用な男の、ただの純愛の物語なのだと思います。

 

マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり

はあぁ〜〜、出会い、、無え〜〜......。

あ、いきなりため息ついてすみません。こんにちは。

 

いや〜実はさいきん彼女募集中なんですけど、出会いってその辺に落ちてないですよね〜。学生の頃は友達はほぼいなかったですけど、それでも部活とかでそれなりに女の子の知り合いもいたし恋に破れたりもしてましたけど、、、働き始めるとマジで無い。皆&無。

職場の人とはビジネスライクな関係でしかないですし、職場以外で出かける場所なんてTSUTAYAくらい。TSUTAYAで偶然私と同じ『死霊のしたたり』 を手に取ろうとするような悪趣味な女性もいないので、手が触れて「あっ......///」ってやつも出来ません。

というわけで、彼氏欲しがってるホラー映画とミステリと邦ロックが好きで可愛くて巨乳の女の子を知ってる方がいたら紹介してください。ではまた次の記事でお会いしましょう!アディオス!

 

 

 

......じゃなくて......。

 

 

 

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https://movies.yahoo.co.jp/movie/マン・アップ!+60億分の1のサイテーな恋のはじまり/355260/

 

製作年:2015年
監督:ベン・パーマー
出演:サイモン・ペグ、オフィリア・ラヴィボンド、レイク・ベル、オリヴィア・ウィリアムズ

 

☆4.0点

 

〈あらすじ〉

34歳フリーのナンシーは、両親の結婚記念日パーティーに向かう途中で見知らぬ男に声をかけられる。男はジャック、40歳バツイチ野郎だ。
ナンシーのことを、SNSでやりとりしていて初めて会うデート相手と間違えているもよう。出会いがなく焦っているナンシーは、ジャックが好きな映画のセリフを引用したことが気になって、つい本物のデート相手のフリをしてしまう。

 

 

映画チャンネルのCMでタイトルを知り、サイモン・ペグが出てたのでなんとなく観てみましたが......良い!!!

 

冒頭、パーティーの場面で散々主人公ナンシーのコミュ力のなさを見せられます。「大丈夫かこいつ......」と思ってしまったらもうこの作品の術中に陥ってると言っていいでしょう。彼女の空気読めない言動と凍りつく周囲の人々ににやにやが止まらなくなります。一方、彼女が出会う男、サイモン・ペグ演じるジャックも、コミュ力が変な方向に飛んでます。喋るタイプのコミュ障です。そんな2人が出会うわけですから「大丈夫かこいつら......」というデートになるわけです。

 

でもねでもねでもでもね。一緒にいるうちに変な奴同士でけっこう気が合うことがわかります。お互いに映画の話などフィーリングがパチンと合っちゃう瞬間があって、もうにやにやが止まらないけどちょっと羨ましくて泣いてましたけど、それくらい良い2人なんです!彼らへの気持ちが「何だこいつら」から「がんばれ〜」になったらぐんぐん面白くなっていきます。

 

キャラの良さでは、彼らの前に現れるナンシーのストーカーのショーンも良いですね。ほんっっっとにクソ野郎でそのキモさに引き攣った爆笑をしてしまいました。素でやばそうな顔してるけど大丈夫かこの役者さん。

 

好きなシーンはジャックの元妻とその新しい恋人とのやり合いです。ほぼ下ネタの独演会ですが、内容のめちゃくちゃさに爆笑。Duran Duran で踊りながら大喧嘩するシーンももう......。喧嘩しながらも2人がもう互いのことを知り尽くしているような、喧嘩なのに阿吽の呼吸な感じが可愛すぎます。てかそもそもThe Reflexという曲のイントロってカッコ良すぎて反則だしそれがかかるタイミングが完璧で「ふぁ!?リフレックス!?」とテンション爆上げでした。

 

Duran Duran - The Reflex - YouTube

 

で、終盤では2人のダメなところがまた出てきつつ、あの人が実はめちゃくちゃ良い人だったりパリピも案外いいやつらだったりとぐんぐんエモい展開になっていって最高のラストシーンを迎えます。なんなんだこの多幸感は!

 

王道なラブコメですが、オシャレさと下品じゃない下ネタとキャラへの愛着という、私がコメディに求める全てが入っていて、恋愛に関する良いセリフもたくさんあってと、好みドンピシャでした。

最後に好きなセリフを引いてしめさせていただきます。

 

彼女への未練じゃない 過去の愛情への未練よ

井上夢人『ダレカガナカニイル』読書感想文

岡嶋二人の文章担当の人のソロデビュー作です。

 

警備会社に勤める主人公の悟郎は山奥にある新興宗教団体の修行施設を警備することになる。その夜、悟郎は自分に目に見えない何かがぶつかるのを感じ、直後、悟郎と同僚の目の前で施設から出火。焼け跡からは死体が見つかる。そして東京に帰った悟郎は、頭の中で誰かの声が聴こえるようになり......。

 

 

 

ダレカガナカニイル… (講談社文庫)

ダレカガナカニイル… (講談社文庫)

 

 

 

 

裏表紙のあらすじに「ミステリとSFと恋愛小説の奇跡的融合〜っ」みたいなことが書いてある通り、多ジャンルがミックスされた作品です。ただ、SFといってもかなりオカルトとかファンタジーに近いとは思います。

 

やたらと評判良い気がしますが、個人的には以下の2つの理由でそこまでハマれませんでした。

 

まず1つは、いや、あの、これ言っちゃ野暮もいいとこですけど......こういうファンタジー設定だと、オチに「そんなん作者のさじ加減やん」って思っちゃうんですよね、ハイ、スミマセン。
確かに序盤からきっちりと伏線が張られて、解決シーンになって解説されるとすぐに「あ!あの時のアレがそういう意味だったのか!」となる、この辺はさすがに上手いなぁとは思います。が、設定がファンタジーなので、極端に言えばいくらでも都合のいい伏線を作れるわけで......。ちょっとその辺で素直に驚けなかったのが一点です。

 

それからもう1つの減点ポイントは恋愛描写です。これもこんなこと言ったら野暮ですけど......
この女、男の欲望の産物やん?
そうなんですよね。ヒロインの晶子ちゃん、ラノベとか少年漫画に出てきて世の女性に「こんな女いねーよw」って言われる女の典型みたいな感じに見えちゃって。
特に意味もなく主人公のこと大好きだし、薄化粧でも可愛い清楚系美人のくせにちょっと好きって言えばすぐエッチなことできるし、周りに人がいないからってらんらんらん〜♪って歌い出しちゃうし......狙ってんだろ!どうせ童貞はこういう女書いときゃ喜ぶとか思ってんだろ!童貞ナメんな!......いや、喜んだけどさ......。
あと主人公も主人公ですよ。元からいる彼女のことセフレくらいにしか思ってなくて新しく可愛い子に会ったらすぐ乗り換えやがって。しかも仕事だって転職しまくってふらふらしてるような将来性のない野郎ですよ。なんでこんなんが好かれるんだよ!羨ま......じゃなくて晶子の男見る目おかしいだろ!人間が書けてない!
......ふぅ......ちょっと興奮してしまいましたが、要は、恋愛小説とミステリの融合を歌ってるくせに恋愛部分が浅いのがいまいちでした。恋ってのはなぁもっと大変でめんどくせえもんなんだよ。こんなイージーモードな恋愛にラストの切なさだけで共感しろだなんて甘いんですよ。いや、僻みじゃないからね?

 

とまぁ、個人的にそこまでハマれなかった割に世間での評価が高いので、今回敢えてディスることを目的にこの感想を書き始めたわけですが、とはいってもやっぱり面白い小説だと思います(掌 くるりんっ♡)

 

何がすごいって、700ページほどの長さがありながらさらっと一気読みさせるところ。
散々キャラをディスっといてこんなこと言うのもアレですが、読みやすさと言う意味では、分かりやすいキャラ造形と引き込まれる語り口の一人称が大きな武器になっていることは事実で......。
序盤で頭の中に他人がいる状況のディテールと、その"誰か"と「お前は俺の妄想だ」「いえ私はここにいるわ」という言い合いにかなり分量が割かれています。そのおかげで読者には体験しようもない「誰かが中にいる」現象がリアルに見に迫ってくるあたり、さすがは元・岡嶋二人。そうやって地盤を固めたからこそ、中盤以降の"誰か"の声との脳内同居生活を読者が自分のことのようにのめり込んで読めるようになっています。
また、ファンタジー設定ならなんでもありやんとは言ったものの、それでもラストで真相が明かされることで作品全体が緻密な構成になっていたことが分かるところではやっぱり唸りましたよ。よく出来てんなぁ、と。

 

というわけで、上に書いた理由からそんなに絶賛はしないけどなんだかんだ読んでてとても面白かったことは確かです。勧めてくれた某アホなフォロワーさんに圧倒的感謝。

駕籠真太郎『殺殺草紙 大江戸無惨十三苦』感想(は特にない) ※R18

久しぶりに駕籠真太郎読みました。当然のように特に感想もないですけど、まぁせっかく読んだので紹介だけ。

 

有名な怪談、昔話、江戸の風物、はたまた江戸と関係ないものまであらゆる題材を使って描く駕籠真太郎流エログロバカ何でもあり御伽草子連作短編集です。


短編9編に、おまけの4ページ程度のショートショート4編を加えた地獄のような全13話が収録されています。

 

ちなみにどう見ても同じシリーズっぽい『殺殺草紙 大江戸奇想天外』という本もありますが、そちらとは一切繋がりはない別物ですのでご注意......ってかシリーズだと思ってたら騙されたわちくしょう!

 

 

殺殺草紙 大江戸無残十三苦

殺殺草紙 大江戸無残十三苦

 

 

 

 

◯収録作
「岩と伊右衛門
「呪いの舌切り雀」
「惣兵衛のガラカポン」
「四季亭六馬の秘密」
「裁縫無情」
「恐怖のつぎあて地獄」
「史上最大の侵略」
「新たなる夜明け」
「勢辺戸爺さんと檜男」
+ショートショート『殺殺つれづれ草』4編

 

 

 

さて、内容についてですが、まぁいつも通り最低ですよ。

 

前半は普通の短編集です。
ほとんどの話で、まず出オチみたいなネタを一発出しといて爆笑させ、そっからさらにエスカレートさせてちゃぶ台返しみたいなオチで大爆笑させるという黄金パターンを踏襲しています。

 

例えば、舌切り雀のおじいさんの子孫である遊女が主役の「呪いの舌切り雀」
この話では、雀の呪いで舌が体の至るところの穴に移動するようになってしまった主人公の遊女が、舌を性器に移動させ、その超絶テクで指名率ナンバーワンになるという、何とも馬鹿馬鹿しい設定です。

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しかし、彼女はある時大事な舌を失ってしまいます。
困った彼女は自ら雀の舌を切りまくってまた呪いで舌を得ようとします。
この発想もバカバカしいですが、こうして呪いで新しく得た舌はなんと巻尺みたいに出しても出しても出てくるものになってしまいます。

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そして平賀源内先生はそれをバカバカしい"あること"に使う、というオチになります。

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......といった塩梅で、バカな着想を更にエスカレートさせて雪だるま式にバカが巨大化していくストーリー展開は天才的だと思うのです。

 

テーマも女性器、男性器、臓物、人体破壊など限られたもの。なのによくもまぁマンネリ化せず毎度毎度違った奇想が飛び出してくることよ......。

 

しかし、後半になると本書全体を貫くストーリーが立ち上がってきて徐々に長編化していく気配を見せます。
これまでの短編の主要キャラたちがメインを張って江戸を襲う危機に立ち向かう......かと思いきや、もちろんそんなしっかりした話でもなく......。


出オチを積み重ねる作風なので何が起こるか書けないので分かりづらくなってしまいますが、長編化してからはとにかく奇想が広がっては別の奇想が産まれといったように奇想の大繁殖、想像力が制御を失って脈絡もなく暴走していくだけの話になっていきます。


だから、終盤はもはやストーリーの軸なんか一切なく、第8話で特にオチもなく長編化したと思っていた話が終わって、第9話は全く別の短編になるという滅茶苦茶さ。こんなこと他の作家がやったら本を壁にぶつけてからシュレッダーにかけてウサギの餌にでもしますが、駕籠真太郎だから許される。なんせ元から酷いこと前提で酷いのを期待して読んでますからね。ズルいわ。

 

ってわけで、特に感想もないですけど、久々に駕籠真太郎読みましたって話です。いつも通り笑いましたよ。ええ。

ダンケルク(クリストファー・ノーラン監督)

昨日観に行ってきました!クリストファー・ノーラン監督の最新作。

 

この作品、ノーランが初めて挑む実話を基にした戦争映画であることが公開前から話題になっていました。


正直に言うと、「戦争アクションとかキョーミないし観に行くか行かないかどうしよっかな〜〜」くらいの気持ちでいましたが、結果的には観に行ってよかったです。

 

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映画『ダンケルク』オフィシャルサイト

 

製作年:2017年
監督:クリストファー・ノーラン

☆4.1点

 

 

 

ダンケルク」とはフランスの地名。本作は、第二次大戦中にドイツ軍に追い詰められた英仏40万人の兵士の撤退作戦を描いています。

 

 

......というと、普通なら、故郷の家族を想う優しい父親が主人公で、作戦を指示する頭の切れる若者や、人間離れした戦績を収める英雄なんかが出てきて、観客は超絶アクションと感動のクライマックスと反戦のメッセージに感極まりながらほくほくと映画館を後にする、といった作品になりそうなものですが............そうじゃない。ノーランは考えることが違います。ホントこの人はどういうアタマしてるんでしょう。

 

今まで観たことないタイプの映画で、感想がうまくまとまらなかったので開き直って徒然なるままに書いていきます。

 

 

 

さて、仕事を終えた私は映画館に行き、席に座ります。場内が暗くなり、高須クリニックのCMが終わり、本編が始まりました。

すると、いきなりシンとした市街を歩く兵士たち、空からばら撒かれる「お前たちは包囲されている」という敵軍からのビラ、そして何の説明もなく突然の戦闘開始に、興奮というよりも当惑と恐怖と緊張感を感じます。実はこの当惑、恐怖、緊張が本作が全編に渡って観客に与える感情の全て。


そう、これはエンタメ性の高いアクション超大作などではなく、メッセージ性の強い反戦映画でもなく、ただの画面越しの戦争疑似体験なのです。

 

 

 

映像と音響は確かにド迫力ではあります。

でも、それはアトラクション的な気持ちのいい迫力ではなく、理不尽な死が轟音と共にやってくるというどちらかと言えば不快ですらある迫力です。


陸では爆音と共にクジ引きのようにアトランダムに人が死骸に変わっていきます。

海では荒波や敵の攻撃で船がグラングランと揺れ、観ているこちらも船酔いしそうになります。

空では高速で回転や急降下をして目が回ります。

閉所や暗所や高所の恐怖症をお持ちの方は直視できないであろう映像ですのでご注意ください

 

音も、BGMはメロディがなく情景音に近い音楽やカチカチという時計の音。それに爆音やら飛行の轟音やらが加わり、音で怖がらせるホラー映画のようにびっくりさせられます。でもホラーなら音でびっくりさせられた後「なぁんだ風でドアが閉まる音か」みたいな安堵がありますよね。この作品では、爆撃で自分は死ななくても仲間が死んでいたりするし、そもそも一回爆撃を逃れてもまたいつ来るかわからない、そんな緊張感が常に続くんです。どちゃくそ疲れます。

 

 

 

そんな映像と音による臨場感を、構成がさらに増幅しています。

 

この作品は、構成的にいうと、

 

1.陸で救援を待つ兵士たちの一週間
2.海で救援に向かう民間船の一日間
3.空で敵と交戦する戦闘機の一時間

 

という、期間の違う3つの視点が交差した作りになっています。
時系列操作は「フォロウィング」や「メメント」を、時間の長さのズレは「インセプション」や「インターステラー」をそれぞれ彷彿とさせますが、この作品ではそれらはどんでん返しやパズルとしてではなく戦闘をより立体的に描くために機能しています。だからミステリやSF系の作品と同じような知的カタルシスを期待して観ると肩透かしになっちゃいますが、それぞれのパートを無駄なくすっきり観せるためには効果的な構成だと思います。

また、あえて少し分かりづらい構成をとることで次に何が起こるか分からない理不尽さを強調しているようにも思います。

 

無駄なくと言えば、ノーランには珍しい上映時間の短さも特徴です。
ノーラン監督作で2時間に満たないものというと、「フォロウィング」「メメント」......あと「インソムニア」とかいう映画もありましたね(遠い目)......に続く4作品目らしいです。

観る前は「2時間ないなんて物足りなくないかな?」とか思ってましたが、観てみるとこれほどの臨場感で2時間以上あったら疲れて途中でダレるだろうな、と。

観客の心身が保つギリギリの長さが106分だったのでしょう。

 

 


そして、この映画で最も賛否が分かれそうなのが、物語性の薄さでしょう。

 

この作品に主人公はいません。それぞれのパートで一応中心的な人物はいるのですが、彼らについてもその過去や人間性や家族などの背景はほぼ語られません。

登場人物全員が、ダンケルクという戦場にたまたま居合わせた名もなき人間にすぎません。主要キャラっぽい人が何の前触れも意味もなく死んだりします。
また、戦争が臨場感をもって描かれるだけの映画なので、反戦のメッセージなどもありません。
物語の展開も、一応控えめなクライマックスこそありますが、それも一瞬のカタルシスを感じさせてくれた後はもう「まだ戦争は終わっていない......」という気持ちにさせられ、観終わった後も爽快感ゼロでどんよりした気分で映画館を出る羽目になります。


だから、これまでのノーラン作品とは違って、面白いとか楽しいとかいう気持ちにはなれません。

 

ではこれは駄作かと言われると、そんなことはなく、映画史を塗り替える傑作と言っても過言ではありません。

 

というのも、物語がなくても、メッセージ性がなくても、戦争というものをただ臨場感を持って疑似体験させる。そのことだけで、観客は押し付けがましい反戦のメッセージなんかを見せつけられるよりもよっぽど強く、「戦争はしたくない」「こんな風に意味もなく死ぬのは嫌だ」と感じます。
つまりこれは、言葉ではなく映像の力を信じて、とにかくただ臨場感というパラメーターににポイントを全振りしたことでメッセージを使わずに強烈なメッセージ性を獲得した作品なのです。

小説には真似の出来ない究極の映画表現であり、ヒット作を出し続けていながらこれだけ無謀な実験作を撮って、それすら成功させてまたヒットさせちゃうノーランという人は只事ではないです。

 

 

ちなみに観終わった後、どんよりした気分になるとは言いましたが、同時に、今自分がこんな戦場にいないことがありがたくなって、生きてるだけで幸せだという風にも思えたので、むしろ元気になりたい人にも勧めたい映画ではありますね。

 

 

というわけで、出来れば映画館で体感してほしい作品ですが、どうしても映画館で観れなくて「DVD出てから家で観よう」という人は、部屋を真っ暗にしてヘッドフォンして周りを全て遮断して没入してほしいです。

indigo la End『Crying End Roll』の感想だよ

夏が終わりかけている今日この頃、いかがお過ごしですか?私は特に夏らしいこともせず無為な毎日を過ごしています。

 

さて、今回は夏の始めに買ってまだしょっちゅう聴いているこのCDを紹介します。

 

 

 

 

2017年7月12日発売、indigo la Endの4枚目のフルアルバムです。

 

色々と騒動を起こして活動休止も挟みつつ、前作『藍色ミュージック』から1年ちょいというハイペースでのリリースなのはさすがですね。しかもその間ゲスのアルバムもDADARAYの曲作りもボカロユニットの活動もしてるから驚異の速筆ぶりです。
そんでもって、今作『Crying End Roll』も一曲一曲がハイクオリティだから凄いです。生き急ぎすぎてて心配になるほど。

 

......いや、正直なところ発売前は「2曲Remixで2曲が幕間みたいな感じなんでしょ?手抜きやん?」とか思ってましたけどね。ごめんなさい!
Remixや、幕間にあたる「End Roll I・II」含めてハズレ曲なし......どころか全曲大当たりの名盤でした。

 

普段知ってるアルバムを聴く時ってどうしても好きな曲ばっか聴いてそうでもないものは飛ばしちゃうんですけど、このアルバムはこの先も折に触れて全曲通して聴くだろうなと、それくらいアルバムとしての流れも込みで気に入ってしまいましたし、捨て曲がないです。

 

製作時には特にコンセプトなども定めず、出来た曲を録り溜めていたのをまとめたアルバムらしいです。そのため、様々な曲調の曲が点在するような贅沢なアルバムになってます。また、一貫したコンセプトがないからこそ、一周聴き終えても腹八分目くらいでもう一周聴きたくなっちゃうような飽きない美味しさにもなっているように思います。
一方で、曲順は凝ったものになっているような気がします。アルバム全体が「End Roll I・II」という幕間の2曲を挟んで3つのパートに分かれていて、それぞれ

 

第1部→別れの予感を湛えた恋愛ソング
第2部→『藍色ミュージック』からの流れの命の歌
第3部→第1部の続編のような、別れの後の恋愛ソング

 

という感じでざっくり曲の雰囲気が近いもの同士纏まっているので、強いコンセプトはなくてもアルバム通して聴きたくなっちゃうようになってます。また、後半にいくにつれて曲がマニアックになってる気もしますね。

 

持ち前のキャッチーさと、聴けば聴くほどスルメのように味の出る渋さの両方を備えた、何度でも聴ける名盤だと思います。

 

それでは以下簡単に各曲の感想を。

 

 

 


1.想いきり

 

indigo la End「想いきり」 - YouTube

 

CDを再生すると、お馴染みの美しいコーラスと焦燥感のある早めの演奏が流れてきて、一気にindigoの世界に引き込まれます。
1曲目らしくキャッチーな歌謡ギターロックですが、『藍色ミュージック』以降のシリアスさや演奏のオシャレ感もあって、「ああ、indigoの新譜を聴いてるんだな」という感慨が湧いてきます。つかみはおっけー。


演奏は全体にかなりシンプルですが、間奏からCメロで急に激しくなり、一瞬のブレイクの後で大サビに入るところが好き。めっちゃ気持ちいいです。

 

音やメロディと同じく歌詞もキャッチーめです。とは言っても川谷絵音の書く歌詞って結構説明が少なくて全部理解できたことがないんですよね。でも、だからこそ気になるし、気に入ったフレーズを作者の意図はガン無視で自分の心境にバシッと当てはめて聴いても切なくなれるので好きです。

 

嫌な部分の方がさ 口をついてたくさん出る でもそれだけ愛したい部分が増えるよ

 

好きな部分は少し 他は嫌いな方がさ 君のこと想いきれる気がした

 

本当は嫌な部分も含めて好きだったけど、嫌なところを考えることで想いきろうとしてるっていう失恋ソングですかね。ど初っ端からまぁ切ないですね。

 

ちなみにサビ前のベース、技法の名前は知りませんけどスピッツがよく使うやつですよね。この音好きです。

 

 

 

2.見せかけのラブソング

 

indigo la End「見せかけのラブソング」 - YouTube

 

気怠げだけどリズムは踊れる感じの、たらたらと体を揺らしながら聴いちゃう感じの、ふにゃっとした心地よさのある曲です。
歌詞もアンニュイで皮肉めいた感じ。というか、タイトルからして皮肉ですよね。女性目線で口先の言葉だけの男に愛想尽かしかけてるような歌で、もしかして主人公は「想いきり」で「私で何人目なの」と言った彼女かもしれません。
川谷絵音の歌い方として、サビでファルセットを多用するっていうイメージは一般にも強いと思いますが、この曲は珍しくAメロからファルセット全開で、細く高く歌っているのでそれもまた気怠げ。「さらば鳥達よ 鳴き声は止んだ」の後の「いえー」とか気持ち良すぎますよね。

 

 


3.猫にも愛を

 

今までありそうでなかったバラード曲です。バラードといってもミスチルみたいな壮大なやつではなく、小市民的な、日曜日の昼過ぎにアパートの部屋でごろごろしながら聴きたいような感じの歌です。
最近は車を運転しながら音楽を聴くことが多いのですが、これを聴くとつい心地よくてうとうとしてしまうのでいつも飛ばしてます←。でも、聴いた回数は少なくてもお気に入りの曲です。

というのも、この曲実は私の敬愛するスピッツの「猫になりたい」という曲のオマージュ(たぶん。違ったらごめんけど、この歌詞でスピッツを念頭に置いてないはずないよね......)なのです。
スピッツの「猫になりたい」のサビの歌詞が

 

猫になりたい 言葉ははかない

 

というものですが、「猫にも愛を」は、言葉をはかなんで猫になってしまった男の物語......という読み方の出来る、二次創作......じゃなくてなんて言うの?続編的?パスティーシュ?とにかくそういう歌です。

 

僕は猫 気持ちを言葉にできないから愛される 僕の特権さ

 

というサビですが、この後さらにこう続きます。

 

でも今日は伝えたくて 鳴いてみたけどニャーって響いただけだった

 

一見可愛らしい歌詞ですが、文字通りの猫の気持ちの歌ではなく、自分を猫に喩えた歌だと読みます。
すると、本心を言葉にしないことで愛されたけれど、そのせいで本当に伝えたいことも上手く言えないようになってしまった僕の姿が見えてきます。
その1回目のサビに続く歌詞が、

 

君と同じだったら 僕なんか愛されなかった
性格本当は悪いんだ でもそんなとこも知ってほしかったな、なんて

 

自分の言葉を持っている君への憧れと、本心を隠して、性格が悪いのも隠して、人に嫌われないように当たり障りなく生きている自分への冗談めかした自虐。「知ってほしかった」と過去形になっていることから、君との関係が終わっている、もしくは終わりを予感しているような感じもして切ないですね。

 

寓話的で物語性がありながら、歌詞の余白に色々な解釈が入る余地のある歌で、私の読み方もその一つに過ぎませんが、猫を被って借りてきた猫のように生きている私にはこのように聞こえて、音は心地よいけどちょっと鋭いものを突きつけられている気分にもなる曲です。

この歌の主人公、「見せかけのラブソング」で見せかけのI love youしか言えなかった彼と重なるところもある気がします。

 

ちなみに、最後のサビで、「気持ちを言葉にできないから許される ぁ、僕の特権さ」と、「ぁ、」で一拍置くところが気持ち良いです。

 

 

 

4.End Roll I

幕間のインスト
音楽的な教養が全くないため、技法的にどういうことをやっているのか全く分かりませんが、綺麗なピアノの旋律が段々とヘンテコに展開していくのが面白い曲です。

ストーリー性のある「猫にも愛を」の余韻を殺さないまま、アルバムのリード曲「鐘鳴く命」へと聴いてる私の気分を切り替えてくれます。

 

 


5.鐘泣く命

 

indigo la End「鐘泣く命」 - YouTube

 

ドラマ版「ぼくは麻理のなか」の主題歌になった、言ってみればこのアルバムのリード曲に位置付けられそうな曲です。
最近のindigoはベースの音がメインでギターは以前より一歩引いたところから絶妙に効いてくる感じがしますが、この曲はギターのフレーズがどかんと前面に打ち出されたイントロです。

完全に余談ですが、indigoのイントロのギターだと初期の「楽園」「X Day」が好きなんです!って言いたかっただけですすみません。

 

歌詞は、比較的分かりやすい恋愛ソングが続いた第1部とは打って変わり難解に。......というか、正直なんのことやらよく分かっていません。人の解釈を読むと引きずられちゃうのであまり読みたくないんですけど、この曲はもう分からなすぎて「鐘泣く命 歌詞 解釈」とかいって探してみたものの、誰も書いてないんですね。みんな分かんないのかなやっぱ。とはいえそもそも歌詞なんて受け手が勝手に楽しめばいいので「分かる/分からない」というの自体ナンセンスかもしんないですね。
分からなければ分からないなりに

 

蒼き花束を抱えた 君が夢を泳いだ
抱きしめようとした瞬間 溺れてしまった

 

とか綺麗な光景ですよね。謎だからこそ、不思議な言葉の並びに聴いてて心がざわつくような歌だと思います。

 

 


6.知らない血

 

轟音、と呼んでもよさそうなヘビーなサウンドで幕を開く曲で、どちらかと言えばアンニュイでそれこそ藍色っぽい印象の曲が多いこのアルバムの中で異彩を放っています。


たた歌詞はこれも難解ですね......。音楽的なことが分からないくせに歌詞まで投げてちゃしょうがないですけど、難しいです。
最初の

 

重い半生を繋いだ高名な血筋 それがないなら 軽くなくても世は軽んじる

 

までは、文字通り血筋の話かと思い、頭の中のマルフォイが「汚れた血め!」と騒ぎ出しました。でもその後はさーっぱり。何百年何千年とか幾度回転してもとかで、輪廻や世代の話かな......とも思いつつ、うん、分かりませんねぇ。でもなんとなく曲調と言葉遣いと歌い方でシリアス感は伝わってきます。こんな雑な感想でいいのか......。

 

 

 

7.ココロネ(Remix by Qrion)

 

ひとつ前のアルバム『藍色ミュージック』に収録された曲のリミックスです。
原曲はベースがぶいぶいしてて、ダフト・パンクの最新アルバムみたいな雰囲気のあるダンスミュージックでしたが(そういえばダフト・パンクって今何してるのかしら)、このリミックスはもっとこう、エレクトロ感?っていうの??......ジャンルとか分からないけど、無機質だけど繊細な美しさがあって、原曲と甲乙つけがたいですね。リミックスしてるQrionさん、私と同い年の1994生まれでこれはすごいです。

 

せっかくなので歌詞についても触れると、私はこの歌詞は子供を作ることについてだと思ってます。もちろん下ネタ的なエロい歌じゃなくてもっと真摯な。歌詞の中に一人称が出てこないのも、そうした重いテーマの普遍性を表現するためかな、とか。

とはいえこれも全部のフレーズに説明がつくほどには分かってませんが←、断片的に読むとそうも読めると言う感じで......。

 

詩のついたメロディー 与えあっても
死のついたメロディー 奏できるまで

多分途切れない悲しい連鎖が産声を上げたあの子を巻く

 

詩のついたメロディーは言葉、死のついたメロディーはいつか死ぬ人生と捉えました。言葉を与え合う=人と関わっても、人生を奏できる=死ぬまで、悲しいことが途切れることはない。そして、そんな宿命は生まれたばかりの子にも既に巻きついて離さない。

 

いつの間にかあの子たちも はしゃぐ雫が涙になってく

 

無邪気にはしゃいでた子供達もいつか人生が悲しみの連鎖だと気付く、ということですかね。そして、

 

誰しも感じるはずなのに何故か 終わらないんだね

 

そう、誰でもそのことに気づいているはずなのに、命は続いていくんです。思ったことありませんか?「誰が産んでくれって頼んだよ!」反抗期拗らせてますね。でも実際、頼んだわけでもないのに我々はこうしてこのつらい世界に生まれてきました。なんでなんでしょう?
この曲は最後こんな詞で終わります。

 

そして抱きしめ合えたら 救われる 先に意味を持たせなくても
安らぐ心があるだけで 他に何もいらないはずさ
ほら、雫が降ってきた

 

そういうことなのよね。

 

 

 

8.End Roll II

 

そして、幕間その2。こちらもIと似たような音ではありますが、完全なインスト曲だったIとは違い、ポエトリーディングのように呟かれる詞が付いています。
曲の最後で、

 

エンドロールが聴こえる 戻らなきゃ あの日に戻らなきゃ 君の元に

 

と言って「プレイバック」に続くのが粋ですね。

 

 

 

9.プレイバック

 

indigo la End「プレイバック」 - YouTube

 

「あの日に戻らなきゃ」から続いて流れ出すコーラスと焦燥感のある演奏は、1曲目「想いきり」にプレイバックしたかのよう。もちろん全然違う曲なんですけど、イントロにちょっと既聴感があることでこの曲の歌詞にある「繰り返す」というフレーズが暗示されているようにも思います。

演奏の展開が多い曲で、なおかつその展開が歌詞に描かれる気持ちの揺れを表しているような曲です。


このアルバム全曲好きで、どれが一番とかは選べないですけど、キャッチーさもあって一番よく聴くのはこの曲です。

 

まず、開口一言目の歌詞が

 

歩いては 歩道橋で折り返す 切なさを纏っては立ち止まって

 

indigoの曲でよくある手法ですが、最初の方で具台的な風景や出来事のディテールを一つ描いておくことで、全体には抽象的な歌詞を現実に繋ぎ止めてリスナーの共感を深めにきています。
余談ですが、こういう手法の歌詞では「夜明けの街でサヨナラを」の、「バイトのユニフォームのポケットから出てきた なんてことない手紙で あなたを好きになったんだ」も大好きです。この曲についてもそのうち書けたら............。

 

......そして、続く

 

振り返る 繰り返す 季節は変わった

 

のところの、「繰り返す」あたりで一瞬演奏が激しくなるのがカッコいいんです。お馴染みのスラップベースが過去を振り返る主人公の気持ちのざわめきを表しているような、演奏と歌詞が見事にリンクした一節ですね。
季節は変わった、というのも切ない。

 

時間を掴んで引き寄せれたら どんなに優しくなれるだろう

 

彼女に優しくできなかったことを後悔しているんでしょうか。私だって戻れるものならもっと優しくしてますよ。続くサビで、

 

プレイバック プレイバック
穏やかな気持ち二つ分

 

と、君と僕の二つ分の「穏やかな気持ち」をプレイバックしていることから、別れ際は穏やかじゃない、なにか酷い喧嘩別れのようになったのかなぁ、なんていう想像もしてしまいます。

 

この曲、言ってしまえば歩きながら別れた彼女への未練たらたらな物思いにふけっているだけの歌(だと思う)ですが、それがこんなにも綺麗に歌われてしまうというのは危ないですよね。

 

プレイバック プレイバック
美しい言葉に聞こえる
プレイバック プレイバック
進むから美しいはずなのに
もう一度だけ プレイバック

 

進まなきゃいけない、進むことが美しい、振り返っているのは女々しいってことくらい分かってる、だけど感傷に浸ってしまう。そんなダメな状況を綺麗に書いちゃった名曲です。

 

 

 

10.天使にキスを

 

無機質なリズム。不気味さすら感じるような、抑えていながら存在感の強いギター。演奏がめちゃくちゃ良い曲です。なんだか分からないけど自分は今ヤバいものを聴いてしまっている!!という危機感すら感じます。

歌詞は相変わらず理解しきれない謎かけみたいですが、なにか君との間の決定的な隔たりとか違いとかに気づいてしまったような感じですかね?内容はうまく把握できないまま、音も相俟ってイメージの切なさが襲ってきます。

 

天気を軽く掴んで 双六みたいに雪降らした

 

という表現が綺麗で好きです。

 

 

 

11.エーテル


「夢のあとから」を夜じゃなくて夕暮れにしたような静かなイントロ。切ないけど優しい感じの音で、歌詞の雰囲気を見事に表しています。

 

歌詞には出てこないタイトルの「エーテル」という単語、私世代だとFFでMP回復に使うアイテムのイメージしかありませんが、ウィキペディアで調べてみると神学、物理、化学の用語でもあるらしいです。ただ、その語源は「輝くもの」という意味らしく、このタイトルではその意味で使われています。

 

いつもよりズルくなって 何故かいつもより優しい そんなとこが愛おしかった

 

「愛おしかった」と過去形なのが切ないですね。

 

弾ける思いは海のよう 塩っぱくて顔が崩れてしまった

 

という歌詞がありますが、このアルバムでリミックスである次の曲を除けば最後の曲がこの歌詞なのはアルバムタイトル『Crying End Roll』を想起させます。

 

輝いてしまうよ 何年も何年もきっと

 

というのは、君との思い出のことでしょうか?最後の「眩しい」も、輝いてしまっている君との思い出を悲しむでもなく戻りたいというでもなく、ただ眩しがっているのだと思うと切ないです。

 

全体に、また会いたいとかまだ未練があるとかではなく、思い出を大事にするしかないという諦念が感じられ、もしかするとこれは死別の歌なのかな......?とも思いました。そこは想像次第ですが、そうも読めるような書き方だとは思いますね。

 

追記:最後の「眩しい」はゆらゆら帝国の「美しい」のオマージュなんですね。言われてみれば同じです。

 

 


12.夏夜のマジック(Remix by ちゃんMARI)

 

indigo la End「夏夜のマジック」 - YouTube

 

というわけで、シングル『悲しくなる前に』のカップリングでありながら、PVが作られ『藍色ミュージック』にも収録されと、シングルA面並みの扱いを受ける曲のリミックスです。やっぱメンバーもよっぽど気に入ってるんですかね。私もシングルで初めて聴いた時からindigoでも指折りの好きな曲です。
原曲は、indigoがはじめてがっつりブラックミュージック的なアプローチで作って曲調の幅を拡張するきっかけにもなった曲......って人の受け売りですけど、そんなブラック感が心地いい曲です。
今回リミックスを手がけたのはゲスの極み乙女。のキーボード担当、ちゃんMARI。ピアノがフィーチャーされつつ、ヘンテコなリズムも印象的です。原曲のような歌モノというよりは、歌も含めて演奏の一部みたいな、矛盾してますけど歌詞のあるインスト曲のような聴き心地のリミックスになっています。

過去を振り返っているような歌詞ですが、今夜だけのマジックが解けたら前に進めそうな、そんな予感もあって、切ないけれど前向きなような歌で、とにかくこの曲がアルバム全体を救っている気もします。
だから、「エーテル」の感想で「この曲がCrying End Rollである」というふうに書きましたが、じゃあこの「夏夜のマジック」はアルバムが終わった後のボーナストラックかと言われると、そうではないんですよね。

映画の喩えで言うなら、エンドロールが終わった後、劇場に明かりがついて席を立つまでの間の余韻......みたいな。映画の醍醐味の一つはその余韻だと思いますし、この曲も、(上に書いたインスト感も相俟って)余韻が音になって流れているような満足感を味わわせてくれます。

歌詞も全部好きですが書き出すと長くなるので一ヶ所好きなフレーズを。

祭りの音が聞こえ始める時間に 決まって鳴く野良猫の顔が嬉しそうだ
君の方が僕より夏が好きだったね

野良猫の声が掻き消されない程度に祭りの喧騒から遠いところで、夏が好きだった君のことを思い出してるこの感じ、好きです。完膚無きまでにどうでもいいですが、私の実体験の場合は「君の方が僕より冬が好きだったね」という感じでした。嫌いだった冬を少し好きになった時の気持ちが(季節こそ反対ですが)この曲を聴くと蘇ってきて泣きそうになるんです。でもぼくちゃん強い子だから泣かないもんねっ。

 

 

 

 

おわりに


というわけで、indigo la End 4th Album『Crying End Roll』感想でした。音楽の技術面が分からないままアルバムレビュー書くの大変でしたし深いこと言えず自己満になっちゃいますけど、誰も読んでないしまぁいいや。どうせこの世は諸行無常。こんだけハマったアルバムも他の好きなバンドの新譜が出たら聴く頻度減っちゃうから、今ハマってるうちと思って書きました。

ちなみに初回盤の付録のライブDVDもめっちゃ良かったです。楽園とか秘密の金魚とかのライブ見れるなんて......!