偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

目次(音楽・漫画・日記)

〈音楽関連〉

indigo la End

1st 『幸せが溢れたら』
2nd 『藍色ミュージック』
3rd 『Crying End Roll』
4th 『PULSATE』
5th 『濡れゆく私小説』


スピッツ

〈アルバム〉
1st『スピッツ』
8th『フェイクファー』
9th『ハヤブサ』
10th『三日月ロック』
13th『とげまる』
14th『小さな生き物』
15th『醒めない』
16th『見っけ』

〈曲〉
「エンドロールには早すぎる」
「子グマ!子グマ!」


サカナクション

『834.194』感想 -東京version-
『834.194』感想 -札幌version-





アルバム年間ベスト

2017年、私的アルバムランキング!
2018年、私的アルバムランキング!!
2019年、私的アルバムランキング!!!




その他まとめとか

夏メロ


〈漫画関連〉

駕籠真太郎
『殺殺草紙 大江戸無惨十三苦』
『ブレインダメージ』

加藤元浩
Q.E.D 証明終了』全巻読破計画
① 1巻〜10巻
② 11巻〜20巻
③ 21巻〜30巻
④ 31巻〜40巻
『C.M.B 森羅博物館の事件目録』全巻読破計画
① 1巻〜10巻
② 11巻〜20巻

さくらももこ
『ちびしかくちゃん』(全2巻)

田島列島
『子供はわかってあげない』(上下巻)

吉富昭仁
『地球の放課後』(全6巻)

アンソロジー
怪談マンガアンソロジー『コミック幽』





《日記》


恋バナ
話す
考える
思い出が

目次(小説etc)

≪あ行≫

相沢沙呼
『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』

葵遼太
『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』

青山文平
『半席』

朝井リョウ
『世にも奇妙な君物語』

芦沢央
『今だけのあの子』

飛鳥部勝則
『堕天使拷問刑』

阿津川辰海
『紅蓮館の殺人』

綾辻行人
『十角館の殺人』
『深泥丘奇談・続々』
『Another エピソードS』

伊坂幸太郎
『火星に住むつもりかい?』
『AX』
『ホワイトラビット』

石持浅海
『相互確証破壊』

井上ひさし
『十二人の手紙』

井上悠宇
『誰も死なないミステリーを君に』

井上夢人
『ダレカガナカニイル』

今村昌弘
『屍人荘の殺人』

上田早夕里
『魚舟・獣舟』

歌野晶午
『ずっとあなたが好きでした』
『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』

海猫沢めろん
『愛についての感じ』

浦賀和宏
《安藤直樹シリーズ》
1.『記憶の果て』
2.『時の鳥籠』
3.『頭蓋骨の中の楽園』
4.『とらわれびと』
5.『記号を喰う魔女』
6.『学園祭の悪魔』
7.『透明人間』
『透明人間』(再読)
8.『HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件』
9.『HELL 女王暗殺』
10.???
《八木剛士・松浦純菜シリーズ》
1.『松浦純菜の静かな世界』
2.『火事と密室と雨男のものがたり』
3.『上手なミステリの書き方教えます』
4.『八木剛士 史上最大の事件』
5.『さよなら純菜 そして不死の怪物』
6.『世界でいちばん醜い子供』
7.『堕ちた天使と金色の悪魔』
8.『地球人類最後の事件』
9.『生まれ来る子供たちのために』
《メタモルフォーゼの女シリーズ》
1.『Mの女』
2.『十五年目の復讐』
《ノンシリーズ》
『こわれもの』
『ファントムの夜明け』
『姫君よ、殺戮の海を渡れ』
『究極の純愛小説を、君に』
『緋い猫』
『ハーフウェイハウスの殺人』

大槻ケンヂ
『くるぐる使い』

大山誠一郎
『赤い博物館』
『アリバイ崩し承ります』

小川勝己
『撓田村事件』
『イヴの夜』

尾崎世界観
『祐介』


≪か行≫

加門七海
『蠱』

木々高太郎
『木々高太郎集』

楠田匡介
『いつ殺される』

倉野憲比古
『スノウブラインド』
『墓地裏の家』
「双子」

甲賀三郎
『蟇屋敷の殺人』

小林泰三
『忌憶』
『殺人鬼にまつわる備忘録』


≪さ行≫

坂木司
『和菓子のアン』
『アンと青春』
『先生と僕』
『何が困るかって』

桜木紫乃
『ホテルローヤル』

沢村浩輔
『夜の床屋』

島田荘司
『夏、19歳の肖像』

下村敦史
『闇に香る嘘』

朱川湊人
『都市伝説セピア』
『いっぺんさん』

住野よる
『君の膵臓をたべたい』

蘇部健一
『木乃伊男』



≪た行≫

太宰治
『人間失格』
『走れメロス』
『きりぎりす』

多島斗志之
『クリスマス黙示録』
『不思議島』
『少年たちのおだやかな日々』
『私たちの退屈な日々』
『追憶列車』
『黒百合』

谷崎潤一郎
『谷崎潤一郎マゾヒズム小説集』

千澤のり子
『シンフォニック・ロスト』

辻真先
『郷愁という名の密室』(牧薩次名義)

辻村深月
『かがみの孤城』

積木鏡介
『誰かの見た悪夢』

友成純一
『ホラー映画ベスト10殺人事件』



≪な行≫

中西鼎
『東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う』

夏目漱石
『こころ』

七河迦南
『アルバトロスは羽ばたかない』

西澤保彦
《タック&タカチシリーズ》
『黒の貴婦人』
《チョーモンインシリーズ》
『夢幻巡礼』
『転・送・密・室』
『人形幻戯』
『生贄を抱く夜』
『ソフトタッチ・オペレーション』
《腕貫探偵シリーズ》
『腕貫探偵』
『腕貫探偵、残業中』
森奈津子シリーズ》
『小説家 森奈津子の華麗なる事件簿』
『小説家 森奈津子の妖艶なる事件簿 両性具有迷宮』
《城田理会シリーズ》
『殺す』
《ノンシリーズ》
『殺意の集う夜』
『瞬間移動死体』
『死者は黄泉が得る』
『黄金色の祈り』
『夏の夜会』
『パズラー 謎と論理のエンタテインメント』
『笑う怪獣』
『いつか、ふたりは二匹』
『からくりがたり』
『春の魔法のおすそわけ』

貫井徳郎
『修羅の終わり』※全編ネタバレのみ)

野崎まど
『【映】アムリタ』

法月綸太郎
『頼子のために』
『一の悲劇』
『ふたたび赤い悪夢』
『パズル崩壊』
『犯罪ホロスコープ Ⅰ』
『怪盗グリフィン、絶体絶命』



≪は行≫

深緑野分
『オーブランの少女』

深水黎一郎
『大癋見警部の事件簿』

藤野恵美
『わたしの恋人』『ぼくの嘘』
『ふたりの文化祭』
『おなじ世界のどこかで』

穂村弘
『もしもし、運命の人ですか。』



≪ま行≫

柾木政宗
『NO推理、NO探偵?』
『ネタバレ厳禁症候群』

松井玲奈
『カモフラージュ』

三田誠広
『永遠の放課後』

道尾秀介
『向日葵の咲かない夏』
『月と蟹』
『カササギたちの四季』
『水の柩』
『光』
『笑うハーレキン』
『鏡の花』
『透明カメレオン』

三津田信三
『碆霊の如き祀るもの』
『わざと忌み家を建てて棲む』

三山喬
『ホームレス歌人のいた冬』

武者小路実篤
『友情』

村上春樹
『夜のくもざる』
『レキシントンの幽霊』

燃え殻
『ボクたちはみんな大人になれなかった』

望月拓海
『毎年、記憶を失う彼女の救い方』

森下雨村
『白骨の処女』

森見登美彦
『ペンギン・ハイウェイ』



≪や行≫

山田風太郎
『伊賀忍法帖』

山田正紀
『ブラックスワン』
『人喰いの時代』

米澤穂信
『真実の10メートル手前』
『巴里マカロンの謎』
『いまさら翼といわれても』



≪ら行≫

連城三紀彦
『明日という過去に』
『白光』
『小さな異邦人』



≪わ行≫

綿矢りさ
『蹴りたい背中』
『憤死』


≪海外作家≫

アレン・エスケンス
『償いの雪が降る』

陳浩基
『13・67』

トマス・H・クック
『死の記憶』
『夏草の記憶』
『心の砕ける音』
『蜘蛛の巣のなかへ』
『緋色の迷宮』

トマス・フラナガン
『アデスタを吹く冷たい風』

マーガレット・ミラー
『まるで天使のような』

メアリー・シェリ
『フランケンシュタイン』



≪アンソロジー

角川ホラー文庫「現代ホラー傑作選」
2.魔法の水
3.十の物語

『謎の館へようこそ 黒』

『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』







≪ミステリ10選シリーズ≫

作中作ミステリ10選
切断ミステリ10選
恋愛ミステリ10選
青春ミステリ10選
見立てミステリ10選





《読書履歴書》

私の読書履歴書 その1
私の読書履歴書 その2
私の読書履歴書 その3




≪小説年間ベスト≫

2017年に読んだ小説ベスト20
2018年に読んだ小説ベスト10
2019年に読んだ小説ベスト10(ミステリ編)
2019年に読んだ小説ベスト10(非ミステリ編)

目次(映画)

〈あ行〉
アバウト・タイム 愛おしい時間について
アンダー・ザ・シルバー・レイク
イエスタデイ(2019)
イディオッツ
イット・フォローズ
1917 命をかけた伝令
エターナルサンシャイン
エンジェル、見えない恋人
オリーブの林をぬけて



〈か行〉
奇跡の海
キートンの探偵学入門
きみに読む物語
きみに読む物語その2
キングスマン
キングスマン : ゴールデン・サークル
狂い咲きサンダーロード
軽蔑
(500)日のサマー



〈さ行〉
サスペリア
サスペリア(ルカ・グァダニーノ版)
三月のライオン
シェイプ・オブ・ウォーター
シャークネード・シリーズ(1〜5)
シャークネード6 ラストチェーンソー
ジョジョ・ラビット
スウィート17モンスター
スプリット
そして人生はつづく
ゾンゲリア



〈た行〉
ダンケルク
チェイシング・エイミー
ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌
チャイルド・マスター
天気の子
ドッグヴィル
ドグラ・マグラ
友達のうちはどこ?
トラフィック
トリプルヘッド・ジョーズ
ドント・ブリーズ



〈な行〉




〈は行〉
ハイテンション
バッファロー'66
HOUSE
パラドクス
バリー・リンドン
フォレスト・ガンプ/一期一会
フォロウィング
冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜
ザ・フライ
ブルーバレンタイン
ベイビー・ドライバー
ボヘミアン・ラプソディ



〈ま行〉
マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり
マンダレイ
ミッドサマー
ムーンライズ・キングダム



〈や行〉



〈ら行〉
ラースと、その彼女
ルチオ・フルチの新デモンズ



〈わ行〉
若者のすべて
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド





〈映画特集記事〉

失恋の傷口に塩を塗る恋愛映画7選
【閲覧注意】極私的、ランク別どんでん返し映画紹介
好きなゾンビコメディ15選
My Favoriteホラー映画10選のリスト〜〜。





〈今月のふぇいばりっと映画〉
2018/9
ジャンゴ 繋がれざるもの/レディプレイヤー1/P.S.アイラブユー/禁断の惑星/巨大クモ軍団vs GoGoダンサーズ

2018/10
サタデー・ナイト・フィーバー/ニュー・シネマ・パラダイス/カビリアの夜/プールサイド・デイズ

2018/11
エンドレス・ポエトリー/君の名前で僕を呼んで/マルホランド・ドライブ/ストレイト・ストーリー/早春 (DEEP END)

2018/12
柔らかい殻/普通の人々/フィールド・オブ・ドリームス/メッセージ/時計仕掛けのオレンジ/ブロンド少女は過激に美しく/ドライヴ/エド・ウッド

2019/1
お熱いのがお好き/リバディ・バランスを射った男/ストレンジャー・ザン・パラダイス/ソナチネ

2019/2
アクアマン/新婚道中記/道

2019/3
夜の大捜査線/ヤコペッティの大残酷/タワーリング・インフェルノ

2019/4
暗殺のオペラ/ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ/地球に落ちてきた男/地上より永遠に

2019/5
search サーチ/怪怪怪怪物!/クーリンチェ少年殺人事件/ヘレディタリー 継承

2019/6
ブルー・ベルベット/パターソン/ライフ/11:46/カランコエの花

2019/7
トゥルーマン・ショー/スリザー/ラストベガス/セブン/メリーに首ったけ/愛と青春の旅立ち/ネクロノミカン

2019/8
ベンジャミン・バトン 数奇な人生/とらわれて夏/孤独なふりした世界で/メイクアップ 狂気の3P/世界一キライなあなたに/トイストーリー4/チャイルドプレイ(2019)

2019/9
アス/イングロリアス・バスターズ/サスペリアpart2

2019/10〜11
レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで
/ふたりの5つの分かれ路/ことの終わり/ワンダーランド駅で/マローボーン家の掟/映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ

2019/12
ハッピー・デス・デイ/ハッピー・デス・デイ2U/スクリーム4

2020/1
死霊の罠/死霊の罠2 ヒデキ/ミスト/悪魔のいけにえ/要塞警察/サマー・オブ・84

2020/2
ウォールフラワー/undo/来る/グエムル 漢江の怪物

2020/3
ウィッカーマン(1973)/アメリカン・サイコ/DAGON/処刑山2 ナチゾンビvsソビエトゾンビ/桐島、部活やめるってよ

2020/4
ビルとテッドの大冒険/スラムドッグ・ミリオネア/捜索者

2020/5
スターマン/未来世紀ブラジル/インビジブル/ブラックブック

2020/6 ①
グレート・ウォリアーズ 欲望の剣/スターシップ・トゥルーパーズ/ショーガール/トリック

2020/6 ②
ブラックシープ/ロスト・イン・トランスレーション/UFO少年アブドラジャン/ネクロマンティック/ネクロマンティック2

スピッツ『三日月ロック』今更感想


2002年9月11日発売の10thアルバム。
つまり、9.11のちょうど1年後に発売されたアルバムです。

三日月ロック

三日月ロック

  • アーティスト:スピッツ
  • 発売日: 2002/09/11
  • メディア: CD


マイアミショックから『ハヤブサ』という名のロック宣言によって立ち直ったスピッツですが、しかし9.11という世界的な大惨劇に触れて音楽をやる意味を見失います。
そんな中で、CMタイアップの依頼をきっかけに再び音楽に真摯に向き合って作られたのが本作ってわけ。

あと、本作からプロデューサーが亀田誠治に代わり、その体制が現在にまで続いています。
まぁ私にはプロデューサーによる違いとかまではあんま分かんないんすけど、このあたりの作品から、なんというかちょっと力が入ったというか、良くも悪くもインディー感が抜けて大作感やJ POP感が出始めたような気はしますね。


また、本作はセルフタイトルのデビュー作以来となる収録曲にタイトルトラックがないオリジナルアルバム。
『三日月ロック』というアルバムタイトルは本作をレコーディングしたスタジオの名前から採ったものだそうです。
しかし、収録曲にも(珍しく)夜っぽい曲が多いため、結果的にはアルバム全体の印象を簡潔に表したドンピシャなタイトルになってると思います。


私が本作を初めて聴いたのがいつだったのかは記憶が曖昧ですが、おそらく高校一年の頃だったと思います。
友達いなかったから当時愛用していたiPodでこのアルバムを聴きながら通学していたことを、通学路の風景と併せて今でもよく覚えています。
赤いレンガの家の前の信号を渡るところで「海を見に行こう」を聴いていたなぁ、とか、時々そんくらいのレベルで聴きながら見た風景とかを思い出せるから音楽って凄いですよね。



それでは以下で一曲ずつ感想を。




1.夜を駆ける

これまでのアルバムでは1曲目は短めの曲が多かったですが、ここに来てそのジンクスが破られ、1曲目のこの曲がアルバム中で最も長い曲になってます。

これ、最近のマイブームからは外れてるものの一時期はスピッツで一番好きだった時期もあるくらい好きな曲。

幻想的なピアノのリフと儚げなアコギ、どこか不穏なリズム隊と、イントロからしていつになく曲の世界観に引き摺り込もうとしてきます。
淡々としていながら今までになく壮大でドラマチックでもあるのは亀田プロデュースならではって気も。

サビでは歌もかなり盛り上がりますが、何よりドラムのリズムが好き。気持ち良いですよね。


歌詞はまた今までになくストーリー性が強くて、歌詞から1本のショートムービーが撮れそうな感じ。
それでいてやはりシチュエーションははっきりとせず、人によってどんな映像でも描けてしまう余白の多さが素敵。

世間的には不倫説が濃厚っぽい感じもしますが、個人的にはそこまで世馴れていない少年少女の禁じられた遊び的なイメージで聴いてしまいます。
駆け落ちのような、あるいは心中行のような、不穏さと、先行きへの不安と、2人だけの無敵感と、そんなようなエモたちが渾然となって迫ってきます。

研がない強がり 嘘で塗りかためた部屋
抜け出して見上げた夜空

という歌い出しからして、閉塞からの解放と、しかしそれが世間的に"正しいこと"からはズレているんだろうという予感を感じさせます。

似てない僕らは 細い糸でつながっている
よくある赤いやつじゃなく

というとこの切れ味も素晴らしい。
映画の『卒業』とか『小さな恋のメロディ』のラストをなんとなく思い出します。

そして、

壁のラクガキ いつしか止まった時計が
永遠の自由を与える

というところが甘美な死を思わせます。
夜を駆けて行く2人の行く先はどこなのか。
「きっと地獄なんだわあぁぁぁ」と私の心の大槻ケンヂがシャウトしますが、現世での滅びの定めに従うよりも断然いいですよね。

ただ、今聴くとそれなりに歳をとって現実的な視線も出てきたので、異性と結婚して男が働いて女が子供を産んで育てて......という常識の檻に囚われたくない恋人たちへの応援歌のようにも聴こえたり。

ともあれ、大学生の頃にバイトの帰り道とかでこの曲を聴きながら自転車で駆けた思い出なんかも蘇ったり。一生付き合える名曲ですわね。

そして余韻を引きずるようにフェードアウトするアウトロ




2.水色の町


からの、「じゃら〜ん」というギターの音とともにいきなり始まる歌い出しの繋ぎ方が最高。
シングル表題とは思えぬ憂いとか倦怠とか諦念とかその裏の甘美さとかがある、初期を思わせるような陰気系エモ曲です。

この曲に関しては地味にギターが好きで、イントロの「じゃら〜ん」も印象的だし、「優しくなって〜」のバックのちゃらちゃらちゃらちゃらちゃららら〜んもめちゃくちゃ良いし、サビの後ろのカッティングっぽいのもゲロエモいし。
そもそもサビが「ららら〜ううう〜」だけなので、その分ギターが目立ってますよね。スピッツの曲はどうしても歌と歌詞を聴いちゃうからね。たまにはこういう歌と演奏の比重が同じくらいのサビも新鮮。


そして、歌詞は通説通りですがさすがに後追い自殺の話にしか聴こえません。
「夜駆け」に心中のイメージを持ったのも、この曲との繋がりのせいもあるのかも。

詳しい説明はもう省きますが、そうだとするととにかく切ないですよね。
君に会うために全てを捨てるというか、君だけが全てというか、そういうある種依存的な危険な愛に哀しくも憧れてしまうのです。
プレゼント持ってるのも切ない。

あと、「頸の匂い 明るい瞳」と一瞬だけ描かれる君の断片的な思い出が非常にリアルでハッとさせられます。

なんかもう言葉では説明できないけどめちゃくちゃ好きな曲なんですよ。




3.さわって・変わって

陰気な2曲からガラッと180°雰囲気を変えて明るくポップでテンション上がる感じのこの曲。

「夜」とか「水色の街」とかいうぼんやりした舞台設定から一転して「天神駅」という具体的すぎる地名が出てきたりもして、なんつーかこの世に帰ってきた感じ。

この曲ではベースとドラムが好きで、2番の「三連負後......」ってとこからいきなり激しく動き出すベースが気持ちいいのと、大サビあたりのドラムの躍動感がすげえ好き。


で、歌詞はもうズバッと直球でセックスの歌なんですけど、初期の「俺が曲作るときのテーマは死とセックスだけなんで......でゅふふ」とか言ってた頃の草野マサムネのセックスに対する畏れはもうふわっと蒸発してしまってただのエロ賛歌みたいになってて笑います。

最後の

言葉より確実に俺を生かす

というとこなんかもう、そのままですよねw
そのままではありつつも、

行き交う人の暗いオーラがそれを浮かす

という鋭い情景描写や、

ぬるい海に溶ける月 からまるタコの足

という独特のエロ表現など、ただのエロい人では書けないエロ詩人の面目躍如たるフレーズも盛りだくさんで楽しい1曲です。

また、

愛も花もない夜を超えて

というところから、たぶん「君」が主人公にとってはじめての相手だということも伝わってきて、そうすると3連敗後3連勝もなんだか微笑ましく応援したくなってしまったり妙に身につまされたりします。
タイトルの「変わって」というのも、卒業しましたってことだよねきっと。

ともあれ、なんか昔のスピッツの影響でセックス=怖いというイメージが定着してしまったので、こういう「セックスって初めてやってみたけど最高やん!」みたいなバカげた曲もあってくれると気が楽になりますよね(?)。




4.ミカンズのテーマ

これはまたヘンテコな曲ですね。

イントロがもう、ぽくぽくと木魚みたいな音と2本のギターが変な掛け合いを延々繰り広げてるのをバックに「初めましてのご挨拶〜」と歌い出す、なんかズレてる感が堪らんですわ。
一回ぐっと盛り上がったかと見せかけてもっかいABメロやってからのサビでは急にオシャレなギターカッティングが入ってきたりと、アレンジの奇妙さがもう最高に楽しいっす。

ただ、歌詞はちょっと皮肉っぽいんですよね。
というのも、前作『ハヤブサ』の直前にスピッツはレコード会社に勝手にベストを出される、いわゆる「マイアミショック」という事件を経て、「もう解散して別のバンド名で出直そうか」なんてことを話し合っていたらしく......。
その「別のバンド名」の中の案の一つが「ミカンズ」だったってわけで......。ハテナッチセブンクエスチョンズ的なね(違)。

つまりは、スピッツが一度死んで再出発するって歌なんですね。

......っていうバンドのストーリーに、悩みながらも恋を諦めない健気な青春ソングをひっかけてもいて。
デビュー曲でバンド紹介しつつベタなラブソングでもあるっていう趣向自体がなんか古き良き感じがして笑っちゃいます。
ミカン→甘酸っぱい→恋愛、というベタな......。

で、あくまでミカンズの曲だからか、スピッツの曲には珍しい表現が多々出てくるのも面白いです。

「紹介しよう」と「前頭葉」のゆるい韻の踏み方とか、「がんばってやってみよう上向いて」という捻りのない応援ソングみたいな詞とか、「変わんねー」という雑な語尾とか、スピッツには(なくはないけど)珍しいですもんね。

あとは、オチの「実は恋も捨てず」の「実は」が好きだったり。

全体にしっかりしたまとまりはなくも、なんとなーく細部の部分部分を楽しみながら聴ける曲ですね。




5.ババロア

またスピッツには珍しい打ち込みサウンドを前面に押し出した曲です。
ファンの間ではそこそこ人気がありつつも、こないだの『見っけ』の特典ライブディスクで草野マサムネご本人に「存在を忘れてた曲です」なんて言われちゃった可哀想ないらない子でもあります()。

印象的なギターのリフと、宇宙的な広がりを感じさせるシンセの音、そこに入ってくる絶妙にチープな打ち込みのずっちーずっちーと、やけにごりごりしたベース。
リズムは打ち込みだけどところどころでちょっと遠いところから響いてくるような音色で生のドラムも聴こえて、非常に不思議な、しかしダークで格好いいサウンドになってます。
全編にわたって打ち込みとシンセが幅をきかせてるからこそその隙間に入る生音が印象的で、打ち込みなのに全然泥臭さも感じさせて、いい意味でオシャレじゃないところがスピッツの良さだと思ってます。めちゃ好き。


歌詞はまた非常に難解、つまりはわけわかめなんですが、2番のサビで「君がいた夏の日から止まらないメロディ」というフレーズがあることから、今はいない君に会いに行きたいと願う話......という大枠はなんとなく理解できます。

あとはもう細部からイメージを膨らませるだけ。
とりあえず、全体に厨二病臭いワードが飛び交うのが草野正宗の歌詞としては珍しくて面白いですよね。
星とか宇宙はいつものことですが、ニセモノとか闇を這う風とかがなんとも香ばしくて素敵です。

輝くためのニセモノで、驚いて欲しいだけの見え透いた空振りをかますようなダサい俺が、柔らかな毛布を翼に変えて無様なやり方で......っていう、引きこもり感ですよね。
デジタルサウンドに引っ張られてるのかもしれないけど、妙に現実味というか身体感のない描写が目立って、全て妄想なのではという気もします。
その中で、「真っ直ぐに咲いた白い花」だけが生々しく存在している感じも。
そうなると、いつかの夏を共に過ごしただけの君の思い出を部屋の中で思い返しては会いに行こうと画策するストーカー気質な歌にも聴こえたり。

曲が持つ切迫感が、なんにしろ穏やかではない解釈へと導いてくれる、ダーク系スピッツの名曲ですね。




6.ローテク・ロマンティカ

ややデジタル感がありつつギターリフの印象的なイントロからしてちょっと遊んでる曲。
ノリが良くて激しいんだけど、サウンドはチープな感じでカッコ良さ6に対して情けなさ4くらいのちょいショボロックチューンです。

聴いてると楽しいし好きではあるんだけど、いまいちどういう気分のときに聞けばいいのか分からないような変な曲ではありますね。


歌詞は煮え切らない男のうじうじを強がりの犬に見立てて描いたもの。弱い犬ほどよく吠えるという意味で「スピッツ」のテーマとも言えるのかもしれません。

冒頭の歌詞からは同棲カップルとかなんかそんな感じの悪からぬ仲の2人を連想させますが、聴いていくとどうもそれも妄想なのではないかという感じもしてきます。

本当は犬なのに サムライのつもり
地平を彩るのは ラブホのきらめき

というとこが好きで、強がってるけど遠くに見えるラブホの煌めきに憧れや嫉妬を抱きつつエンジンだけは吹かし続けてるという、それは空吹かしであっても。

なんというか、性欲と純愛への憧れと性への畏れとが渾然となってるのがめちゃくちゃ良いっすよね。

そして、カオスな間奏明けの

思い切り吠える 岬から吠える

というところが性欲の吐露のひとつのクライマックスとなり、その後Aメロが転調されながら続いていきHuh〜で終わるあたりのわちゃくちゃが悶々とした感じを見事に表していて面白いですね。
私も若かりし頃に遠くに見えるラブホの明かりを眺めながら聴いたものです。



7.ハネモノ

9.11の衝撃を受け、音楽をやることの意味を見失っていたスピッツ
そこに舞い込んできたのが、カルピスのCMタイアップの依頼でした。
外部からの働きかけを受け、それならリスナーの不安を和らげるような音楽を作ろうと再起して作ったのがこの曲なんだそうです。

そんな制作背景を知っているからか、この曲からは普段のスピッツのエロとかゆるさとは一味違った真摯さや暖かみを感じたりします。
普段からしょっちゅう聴くことはないけど、気持ちが弱ってる時に聴くとじんわりと染みてくる大事な曲です。

ただ、暖かみはありつつもサウンドは引き続きかなりデジタル寄り。
イントロからロボットの鳴き声みたいなのが入ってたりします。
そこに綺麗なギターの音色と案外ゴリゴリした音のベースがいい違和感となって入ってくるのが素敵。
あと、この曲は歌声がヤバいっす。
「絡み〜ついた〜」のところの掠れ具合とかめちゃくちゃ良い。耳が幸福ってやつっすわ。サビ終わりの「う〜うう〜」の突き抜け方も気持ちが良い。

最初は静かだったのが、曲の展開と共にどんどん力強いサウンドになっていくところも、制作背景を知ってると勇気付けられます。


印象的なタイトルは「羽のような生き物」という造語。後の「ナサケモノ」と並ぶ架空生物シリーズです。


歌詞はまたいつにも増して分かりづらいというか、わりかし分かりやすい曲が増えてきたこのアルバムの中で唯一まるで何のことか分かんない曲です。

それでも、「カルピスのCM」「9.11ショックからのリハビリ」という2つの外的要素からなんとなーく「暑苦しくない夏の応援歌」という印象は伝わってきます。

夏ソングも応援ソングも普通は暑苦しいものなんですけど、スピッツの場合は暑さにうだりながらも「部屋でゆっくりしようぜ」、みたいな感じで、全然押し付けがましさとかがないんですよね。
でも「転びながらそれでもいい調子」「思い通りの生き物に変わる」といったフレーズになんとはなしに元気付けられるような、まさにカモミールのような癒し効果のある、そんな一曲です。

あと指先とか文字化けというワードからはケータイのメールの話なのかな、とも思いつつ、特にそれに関して具体的な解釈は今のところ持ってないです。




8.海を見に行こう

癒し系のハネモノに続いて、これまたのほほんとして癒される曲です。

初期の「海とピンク」にも通じつつ、もちろんより洗練されたイントロの弾き語り風サウンドの海感が素敵。
曲中にはチェンバロやフルートも使われていて、押し付けがましくはない程度にワクワクさせられます。


歌詞はタイトルの通り、明日海を見に行こうって話。
そう言ってる今日はまだ日常の中にいて、そこから海というほんの少しの非日常を想う、そのことが逆に日常の愛おしさを感じさせるような、そんな歌詞なんですよね。

何もない? 何かある? この道の彼方に
フツウだけど 確かに僕の目の前に広がる

というフレーズが好きで、この曲もたぶん9.11という異常な出来事があつたからこそ、フツウの人生の尊さを歌っているんだと思います。
フツウの未来でも、2人で過ごせば、それでたまに海を見に行くくらいの幸せな非日常があれば、やっていけるよね、みたいな。

昔はただのデートに誘う歌だと思ってたんですが、なんだかこの歳になって聴くと染みますね。




9.エスカルゴ

激しいドラムの連打から始まる、このアルバムの中でも特にロックな一曲。
イントロのドラム連打の後の部分はなんかしら昔の洋楽にありそうなフレーズですよね。何かはパッと思い付かないけど。

そして演奏の激しさに耳が行きがちですがサビのメロディもエグい。
さらっと歌うから全然すごく感じないけど、カラオケで歌えないのはもちろん頭の中ですら歌えないです。私には出せないメロディなんですよね、これ。

だめだな ゴミだな さりげない言葉で溶ける心

という歌い出しがインパクト大。
この1行だけでもう俺かよという感じで一気に共感しちゃいましたね。
タイトルの「エスカルゴ」は、

孤独な巻き貝の外から
ふざけたギターの音がきこえるよ

というところから。
殻にこもるにしても巻貝ですから、めちゃくちゃ拗らせてて面白いです。
しかし、そこでふざけたギターの音が聞こえることで2回目のAメロは

湯けむり 陽だまり 新しい光に姿さらす

と最初とは正反対の明るいワードになってる遊び心も楽しいですね。
たぶんふざけたギターの音ってのが恋の始まりで、そっからよれながら加速して行った先に

ハニー 君に届きたい もう少しで道からそれてく
何も迷わない 追いかける ざらざらの世界へ

というサビ。
真っ直ぐなようでいて、道からそれてるしざらざらっていう。
でもざらざらってのが絶妙ですよね。良い意味にも悪い意味にも取れるというか。




10.遥か

イントロの「う〜う〜」の美しさからして一気に引き込まれ、バンドサウンドの入り方もカッコいい。
ミドルテンポのスピッツのシングルの王道な感じでちょっと地味な曲......というのが最初の印象でしたが、聴いてるうちにどんどん染みてくるスルメ曲でもあります。

この曲に関しては2001年の5月にリリースされたシングルなので9.11とは関係ないですが、しかしやはりシリアスで真摯な印象があり、どちらにせよこの時期のスピッツはそういうモードだったのかなという感じがしますね。

「ゆーーめーーかーーらーー」とじわじわ伸ばすサビの歌い方が良いのと、間奏のキーボードだかシンセだかの音も素敵。

夏の色に憧れてた フツウの毎日
流されたり 逆らったり 続く細い道

という歌い出しは、「海を見に行こう」を思わせますが、こっちはもうちょいネガティブな印象。
フツウの日常の大切さよりも、退屈さや厳しさが感じられます。
しかしそんな中でも

君と巡り合って もう一度サナギになった
嘘と本当の狭間で 消えかけた僕が

と、微かな救いを描いています。
「サナギになった」というのは、蝶からサナギに戻ったのではなく、幼虫からサナギになったということでしょうね。
かつてサナギになりながらも羽化できなかった僕が、もう一度サナギになった......という。
そんな状況からの、

すぐに飛べそうな気がした背中
夢から醒めない翼

というサビが、地に足のついたというか、非常に消極的な前の向き方というか......。
飛ぶところではなく、飛べそうな気がしたところまでを切り取って歌にしてしまうあたりがスピッツの良さだし、実際飛んでる時より飛ぶ前の方が複雑な感情ですからね。そういう曖昧な感情を描くのが芸術というものでしょう(大きく出る)。

そうして飛んで行きたい先のことを、最後の最後まで

遠い 遠い 遥かな場所へ

という距離感を持って歌ってしまうあたりの、希望を抱きつつもまだそこに届かないもどかしさもある感じが強い余韻を残します。
余韻といえば、わらしべ長者を思わせるMVはループ構造になっててこれもまた独特の余韻を残します。併せて観たい名作MVですね。不思議なんだけど、曲のテーマになんとなく合致してる感じで。




11.ガーベラ

虫の声のような機械のノイズのような音から、静かなギターのリフとやはり機械っぽさのある打ち込み?っぽいリズムで1番を丸々やり切ってから、満を辞して(?)バンドが入ってくるとこがカッコいい。
前作『ハヤブサ』に入っててもおかしくなさそうな宇宙的、神秘的なイメージを想起させる曲です。
夜の散歩の時とかに聴きたい感じ。あと学生時代のバイト帰りとかによく聴いてましたね。


上でハネモノの歌詞が難解と書きましたが、これもまたはっきりしません。
スピッツの歌詞を読むときのクセでついついセックス方面を連想してしまいますが、あながち間違ってもなさそうな。
ただ、神秘的な雰囲気やハローハローハローという呼びかけからは、むしろ出産の歌のようにも思えます。
なんにしろよく分からないながら、雰囲気で聴いてても全然泣ける名曲ですよね。

あと個人的には、

ガーベラ 都合よく はばたけたなら ここにいなかった

というところを恋愛のこととして読むとめちゃくちゃ共感できて好きです。




12.旅の途中

「けもの道」はなんとなくボーナストラックに近い位置付けの曲だと思っているので、この曲が実質的なアルバムラストです。

前作『ハヤブサ』あたりから、マイアミショックや9.11の影響で音楽をやることの意味を見失いかけ、新たに模索してきたスピッツが、このアルバムのまとめに「旅の途中」という言葉を持ってきてくれたのが嬉しすぎます。
またこの曲のタイトルが、後のスピッツ20周年記念のドキュメント本のタイトルにもなっていて、本作のリリース時に限らずスピッツというバンドは常に旅の途中なんだよなとも思ったり。

歌も演奏も物悲しくも暖かみのある曲で、シンプルなんだけど愛しさと切なさと心強さがみんな入ってます。


歌詞もまた非常にシンプルで、

正気な言葉をポケットに入れて
たまにはふり返る 旅の途中

という一節が全て。
特に語るほどのこともなく、ただスピッツという旅路に末席ながら同行させていただいていることへの感謝が湧いてきます。一生ついて行くからな!

あ、あと、

腕からませた 弱いぬくもりで
冬が終わる気がした

ってとこは最高でわ。




13.けもの道

てわけで、ボーナストラックあるいはアンコール的な曲。
ここまで暗めの曲が多かったところに、最後にめちゃくちゃストレートな応援歌。
アルバムの流れの中では正直異質なので、ボーナストラックと考えてるわけなんです。

前作の表題曲「8823」と並ぶ、ライブでやらないことがほとんどないキラーチューン。
ゴリゴリしたベースイントロからしてテンション上がるし、ライブではここで田村くんが焦らしプレイで煽ってきてさらにテンションぶち上げっすよね。
あとライブでは冒頭の「東京の日の出」ってとこを会場の地名で歌ってくれますからね。名古屋の日の出、すごいキレイだなぁ。


ストレートな応援歌とは言いつつも、歌詞の各フレーズは今まで見たことのないような言葉ばかりで、「夢を追いかけて虹を架けよう頑張ろう君は一人じゃない」みたいなことは全くないので安心して聴けます。

細胞 全部に与えられた
鬼の力を集めよう

とか。
言ってる内容は分かるんだけど、言い方がこうも面白いと、「応援ソングとか嫌いなんで......」と切って捨てることなど出来ず。

スピッツの曲の中ではわりと暑苦しいので、普段からそんなに聴くことはないけど、テンション上げたい時とかドライブの時とかにはめちゃくちゃ聴く名曲ですよね。

スピッツ『ハヤブサ』今更感想

はい、それでは今回はこのアルバムについてです。
2000年リリース、9枚目のアルバム、『ハヤブサ』。

ハヤブサ

ハヤブサ

  • アーティスト:スピッツ
  • 発売日: 2000/07/26
  • メディア: CD


本作はスピッツのアルバムの中でも個人的に最も思い入れのある作品です。
理由はシンプルで、はじめて自分のお小遣いで買ったCDがこれだからです。たしか中二くらいの一番多感な時期で、まだスピッツに対してパブリックイメージくらいのことしか印象がなかった私にとってはかなりの衝撃。
スピッツってこんなカッケェのか!と。
CDが擦り切れるくらい聴きました。比喩だけど。
夏休みに、クーラーの効いた自室で夏の匂いのするこのアルバムを聴きながら絵を描いたことを今でも覚えています。あの絵、なんか異文化なんたらに入選してインドネシアに送られてしまったんですよね。嬉しくもあり悲しくもある。

......なんて、どうしても思い入れが強いだけに余計な思い出話になってしまいますが、今回改めて聴いてもやっぱりカッコいい。

スピッツディスコグラフィーにおいて本作は大きなターニングポイントになっていると思います。
詳細は省きますが、本作リリース前の時期にスピッツサウンド面での悩みや望まぬベスト盤のリリース(所謂マイアミショック!)に直面していました。
そんなショックを突き破るため、海外でのミックスを行うなどの取り組みの結果生まれた本作は、『フェイクファー』までのセンチメンタルでメランコリックなスピッツから、少し前向きで力強く、よりポップでロックな今のスピッツへの変貌を感じさせる金字塔的作品になっています。
とはいえ、ロック感強い曲ばかりではなく、曲調的にもアレンジ的にも色んな味が楽しめるバラエティ豊かなアルバムでもあります。

要は、最高っすわ。



では、以下で各曲の感想を。




1.今

「花泥棒」「エトランゼ」に続いて短い1曲目シリーズ。
爽やかなギターの音からすぐに弾けるようなバンドサウンドへ。爽やかな歌声に少し低いところから聴こえるコーラスが心地よく、「こんな音出してたっけ?」と思うほどキマってる間奏のギター、そして「いつかは〜〜」のところの突き抜けるようなハイトーンボイスで完全に海へ連れて行かれます。
"ウミガメの頃"を歌っていた「エトランゼ」から一転して、海から上がってきて今、浅瀬にいる。
「海」というモチーフには死の匂いが付き纏いますが、海から浅瀬へ上がってきたと考えると、まさに「死と再生」という、『醒めない』に至るまで描かれるテーマが現れてきます。
さらには、「放浪カモメ」や「ハヤブサ」になって空へ......と、様々な悩みから吹っ切れたような痛快さのある曲ですね。

歌詞は、シンプルな恋の歌のようでもあり、同時にバンドとして吹っ切れたスピッツ自身の今を歌っているようでもあり。
どっちにしろ、いつかは終わってしまうという儚さも湛えながらも、だからこその「今」を切り取ったエモすぎる歌ですね。
スピッツの好きな曲は?」と訊かれて真っ先には挙げないけど、実は大好きな曲です。




2.放浪カモメはどこまでも

アウトロのない「今」の終わりから畳み掛けるように煽るようなアガるイントロ!

短いAメロからすぐにサビが来てテンアゲ!と見せかけて、さらなる第二のサビがやってくる......という。
ここまで盛り上がる曲、これまでなかったよね?ってくらい、突き抜けたような、あるいは吹っ切れたようなテンションで突き進みます。

曲の構成も、サビが2段階あってA→サビ→A→サビ→大サビ→間奏→サビ→大サビ→大サビという、後半に行くにつれて怒涛の盛り上がりを見せるかたちになってます。間奏のキラキラしたサウンドでどんどんテンション上がってきて、それ以降はもう飛び跳ねながら、電車内とかでさえちょっと縦ノリしながら聴いちゃう、そんな曲です。

あと、改めて聴くとベースの動きっぷりが凄くて、ライブで暴れ回る田村くんを連想しちゃいます。

歌詞は復縁?ソング(そして、この時期のスピッツのベストアルバム騒動からの復活ソング)として読めそうです。
そして歌詞もまたテンション高めというか、今までのスピッツにはないようなざっくばらんな口調になってます。「見つかんね〜」とか、「ムチャ」とか。
これまでのスピッツだったらフラれたのに付き纏ってるストーカーみたいなニュアンスで聴いちゃいそうですが、本作においては普通に前向きな歌に聴こえてしまうから困りますね。
終盤の自分で歌いながらどんどん気がデカくなっていくような歌詞のテンションの上がり方も面白くて、「ムチャ」も良いけどその直前の「差し上げたい」って変な丁寧語がどんなテンションやねんって思いました。




3.いろは

続いて今度はテンション高いというよりは、チャラい、みたいな曲ですw
イントロからして打ち込みとハードロックな生演奏とのコラボがカッコよく、Aメロはラップではないんだけどちょっとラップっぽいようなチャラい(?)歌い方で初めて聴いた時はびっくりしました。似合わねーけどそこが良い。

あと、この曲の間奏のギターソロがめちゃくちゃかっこいいんすよね。

波打ち際に 書いた言葉は
永遠に輝く まがい物

というところは、「フェイクファー」を彷彿とさせつつも、より肯定的に聴こえます。

俺の秘密を知ったからには
ただじゃ済まさぬ メロメロに

は何回聴いても笑います(おい)。

そして、サビの

まだ 愛はありそうか?
今日が最初のいろは

というところは、やはりスピッツの再出発を思わせます。

歌詞の全貌はいつもどおりよく分かんねえけど、逆境からまた始めるための歌、という感じでアガりますね。




4.さらばユニヴァース

ここまでのハイテンションな流れを一旦落ち着けるようなしっとりした曲。
とはいえ、イントロのエレキギターの音はなかなかハード。
メロの部分はアコースティックな感じが強いながらもサビや間奏でこのハードなギターサウンドが印象的。
特に間奏はそのまま歌えそうなメロディアスなギターが気持ち良すぎます。

A→A→サビ→間奏→サビ→長めのアウトロ
という構成もオシャレ。なんせ全体の4分の1はアウトロですからね。
で、このアウトロのだんだんカオスな感じになってくのがなんとなくビートルズっぽい気がします。はっきり似てるとは言えないものの、ストロベリフィールズとか、アイアムウォルラスとかみたいな。

歌詞はまだよく分からないんですが、「指輪」というワードから安直にプロポーズを連想してしまいます。

会えそうで会えなくて 泣いたりした後で
声が届いちゃったりして
引き合ってる 絶対そう 君はどう思ってる?

という可愛くも卑近な恋愛模様から

それは謎の指輪
さらばシャレたユニヴァース
君が望むような デコボコの宇宙へつなぐ

と一気に宇宙にまで発想を飛ばしてしまうのが草野流。
仮にプロポーズの歌とすると、1人の状態を「シャレたユニヴァース」とした上で、君と2人で生きていくことを「デコボコの宇宙」と呼ぶところがらしさですね。


......ただ、別の読み方をすると、「"謎の"指輪」というところから既に結婚している君に懸想している、という解釈もできるように思います。
その場合、「君はどう思ってる?」は限りなくキモくなっちゃいますけど......。


ともあれ、聴き方次第で不穏にも暖かくも聴こえる絶妙のサウンドがまた解釈を迷わせる、つかみどころのない名曲ですね。




5.甘い手

静かなギターのリフから始まるこの曲は、幻想的で、浮遊感があって、切実で、どこか不穏でもあり、スピッツの全楽曲の中でも異彩を放っています。
歌詞の中に直接そういう描写はないものの、サウンド的には「宇宙」という本アルバムに通底するモチーフを最も強く連想させる曲でもあると思います。

ハイトーンで囁くような歌い方は、歌というよりはひとつの楽器のようで、歌モノでありながらなんとなしにインストっぽい聴き心地もあります。
特にサビの高音は凄い。美しいというよりは、怖いですね。説明が難しいけど、歌のメロディ自体が何か禁忌を犯しているかのような不気味さを感じます。

間奏ではソ連の映画の音声が引用されています。「昔あった国の映画」とはこのことでしょう。

歌詞はかなりワケ分かんないですが、

遠くから君を見ていた
いつもより明るい夜だった

という冒頭から、私は死別の歌なのかな、と思っています。いつもより明るいのは、君が夜空に輝いているからなのかな、と。
全体に抽象的で具体的な描写は皆無なだけに、内省的な切なさや物悲しさ、そしてちょっと狂っているような怖さが感じられます。
そしてタイトルの「甘い手」という言葉はエロいけど切実で。

スピッツお得意の「死とセックス」を感じさせつつ、かつてない異様な雰囲気を獲得した名曲です。




6.Holiday

スピッツの曲でベスト10を選ばないと殺す」と言われたらうんうん唸りながらも入れるであろう、それくらい好きな曲です。

軽快なギターが心地よくも儚い夏の夕のようなイントロからして、楽しくも苦しい初恋を思い出します。ドラムのタタンッってとこも、ベースラインの切なさも好き。

んで、何が良いって歌詞が良いよ。
「ストーカーソング」というニックネームがついてるくらいストレートにストーカーの歌なんですけど、初期の曲のようなキモい感じのストーカーではなくて中学生の純情な片想いみたいな、ある種健全なストーカーの歌なんですよね。

もしも君に会わなければ もう少しまともだったのに
もしも好きにならなければ 幸せに過ごせたのに

わかるそれな、としか言いようがない。

朝焼けの風に吹かれて あてもないのに
君を探そう このまま夕暮れまで
Holiday

休みの日の朝から夕まで......ほどではなくても、「あてもなく君を探す」ということをしたことがある人間ならば共感せずにはいられません。
私も中学の頃はそんな感じでしたよ。
わざわざ少しでも好きな子がいそうな場所に行くんですね。彼女がよく行くって言ってた本屋とか、彼女の住んでるマンションの近くのファミリーマートとか。「スーパーカップの抹茶味がここにしかないからさぁ」なんて、もし彼女に会えてしまった時のための言い訳まで用意して。でも実際に会えてしまったらきっと何も話せなくて気まずいから、永遠に見つけられずに探し続けるだけでいたい、という気持ちもあって、それはこの恋自体に関しても言えることで、片思いのままでいることがつらいけどどこか甘美な気もして......。

......みたいな、そういう初恋の痛みを思い出させる曲ですよね!

2番サビの「あみだを辿るように」という比喩の絶妙さに自分の無意識を見透かされたようで怖くなります。

いつか こんな気持ち悪い人 やめようと思う僕でも
なぜか険しくなるほどに すごく元気になるのです

わかるそれな。




7.8823

スピッツファンのキャッシュカードを拾った人はラッキーです。なぜなら、スピッツファンは全員暗証番号が「8823」だからね!

......というのは誇張にしても、私自身TwitterのIDは8823だし、車のナンバーとか、あらゆる数字を決めるときに8823を使いたがる傾向がスピッツファンにはあります。

私の知る限りライブで演奏されなかったことがない定番曲を超えてセトリの初期設定みたいな曲でもあり、なによりはじめてお小遣いでこのCDを買った私にとっての最初ガーンとなったあのメモリーこそこの曲です。

テンション上がりすぎて思わずつんのめりそうになるイントロから、しかし抑えたAメロが始まる焦らしプレイ。
焦らされて一瞬溜まったフラストレーションを一気にカタルシスへと変えてしまうギター炸裂なサビは、ライブなら飛び跳ねるし、家で聴いてても若干は飛ぶ。
テンションが上がりすぎて未だにサビを聞くたびに頭が真っ白になります。

歌詞はこれまでにも書いてきたようなバンドの再出発を思わせるものでもありますが、普通に読めば逃避行を思わせるロマンチックなラブソングでもあります。

さよならできるか 隣り近所の心
思い出ひとかけ 内ポケットに入れて

という出だしからして、未知の世界への助走としての不安とワクワクとが詰まっています(そしてこの後の短いギターソロがまたカッコいい)。

全体にかなり強烈な言葉で書かれている歌詞ですが、一方でやや客観的な描写を取り出してみると、「愚かなことだって風が言う」「クズと呼ばれても」というように、主人公が世間的には良しとされていない破滅への道を駆け抜けようとしているようにしか見えません。
「LOVEと絶望の果てに」というスピッツ史上でも極めて珍しい英語表記からもそうしたやぶれかぶれ感が伝わってくるようでもあります。
しかし、そこに初期の曲のような憂いや儚さ、諦念などはなく、ある種の真摯さやひたむきさを感じさせるところが良いっすね。
あと、最後の「君と......」という余韻も絶妙。

なんというか、私なんてしょせん世の中の下のほうにいる人間でしかないので、「夢を諦めないで希望の虹を渡ろう!」みたいな歌よりも「クズと呼ばれても笑う」くらいの方が刺さるんですよね。
クズはクズなりに頑張ろうと思える名曲ですね。

ちなみに初めてスピッツのライブに行った時緊張のあまり体調悪くなって途中退出したんだけど、この曲が始まった時だけ吐きそうになりながら会場に戻って聴いた思い出があります。




8.宇宙虫

あまりにもテンアゲな表題曲がアルバム前半のクライマックスとなり、一旦幕間のインスト曲。
幕間とは言っても、普通にめちゃくちゃ良い曲なんで飛ばしたりせずに毎回ちゃんと聴き入ってしまいます。

インスト曲の感想ってのも難しいですが、イージーリスニング的な癒し系っぽさもありつつ、タイトル通り宇宙空間を漂うような壮大さにハッとさせられたりもしつつ、しかし同時にどこか内省的な気分にもなるような不思議な曲ですね。
なんつーか、8%くらいの不穏さを隠し持った穏やかさみたいな。
あと、ところどころに入ってるシュ〜〜って音でなんとなく科学館とか水族館を思い出します。私だけの感覚かもしれませんが。

スピッツにはインスト曲が今んとこ3つあってどれも良いんですが、中でも個人的にはこの曲がお気に入りですね......と、他の2曲にも言ってそうですが......。




9.ハートが帰らない

前の曲のアウトロからアハ体験のようにすぅ〜っと繋がって入るイントロが素敵。

タイトルといいメロディといいコーラスといい歌詞といい、めちゃくちゃ謡曲テイストで、8823で一旦盛り上がった後だけにすっと沁みます。とにかくシンプルに泣けますよね。こないだも仕事中に頭の中でこれ歌ってたらそんだけで泣きそうになりましたもん。聴かなくても脳内再生だけでですよ?

Aメロは穏やかに始まって「もう何もい〜〜」「筋書き浮かべ〜〜」くらいでぐっと感極まってまたスンと抑制されるメロディラインがエモいですやん。
サビは「あれから〜〜〜ハートが〜〜〜」の「〜〜〜」の部分で珍しく歌上手いなぁって思う。いや、ディスってるわけじゃなく、普段は「上手く見せない上手さ」のある人だと思ってるので。
あと、コーラスがまた美しい。「ウサギのバイク」や「ヘチマの花」でも思ったけど、スピッツの曲に女性ボーカルのコーラスがつくとまた絶妙な倦怠感とか場末感のような味が出てめちゃくちゃ良いですよね。


歌詞と構成も良いっすね。
スピッツにしてはかなり普通の失恋ソングだとは思うんですが、

君の微笑み 取り戻せたらもう何もいらないと
都合良すぎる 筋書き浮かべながら また眠るよ

というストレートな歌詞でも、一番最初に君の微笑みという映像のインパクトを持ってきて切なくさせるあたりとか上手いですよね。
「チクチク」なんていう"らしさ"溢れる言い回しも、普遍性の強い歌詞の中にひとつ大きな個性となって印象的です。
サビは

あれから ハートが帰らない
飛び出た ハートが帰らない

というシンプルなものですが、A→サビ→間奏→サビ→Aというシンメトリックな流れで君との思い出に浸るような間奏を挟んで二度歌われることで悲しみと虚しさの間の感情が伝わってきます。

そして、

優しい人よ 霧が晴れたら二人でジュースでも
都合良すぎる 筋書き浮かべながら また眠るよ
また眠るよ ああ もう少しだけ

という結び。
「ジュースでも」というセレブ(?)で平和なイメージがより切なさを際立たせます。

1番では君との日々を「そんな春だった」と歌っていたのに対して、冬眠を思わせる「また眠るよ」というフレーズが、ただ春を待つ気怠さと甘い切なさとを思わせてまた泣けますよね。アウトロとも呼べないくらいの短いちゃらららららん〜っていう締めが歌の余韻を残します。

実はこないだまで別にそこまで好きでもない地味な曲だと思っていましたが、今回改めて聴いてその良さを再発見しました。
誰も読まないような下手糞な文章でわざわざアルバム感想書いてることの特権ですね。




10.ホタル

切なさを纏ったアルペジオのイントロがとても印象的で、その音だけが鳴っている中で歌い出す、それこそ悲しいほど澄んだ歌声が染みます。
......からの、「悲しいほどささ〜」のところでベース、ドラムが入ってくるもまたカッコいい。良いところで出てくるやん田村〜〜ってなります(何目線)。

んで今回改めて聴くとこの曲のベースめっちゃ好きなんですよね。意外と動きが激しくて。
音楽的知識がないので説明が難しいけど、ちょっと高めの音のベースが好きで、この曲ではそれが絶妙に盛り上がるタイミングで入ってくるからエモいんですよね。エモベース。
間奏の終わりのとことか。

そして間奏終わりはまた静かな中で歌い出し、「汚してほしい」のところからまた最後の光を放つように激しくなり、アウトロは短めで潔くパッと散っていくのも美しい。


歌詞は、思い出の話なのかな、と思います。

時を止めて 君の笑顔が
胸の砂地に 浸み込んでいくよ
闇の途中で やっと気づいた
すぐに消えそうで 悲しいほどささやかな光

冒頭と間奏明け、バックの演奏が静かで歌が最も際立つ2箇所でこの「時を止めて」というフレーズが歌われます。

「変わり続ける街の中で」や「生まれて死ぬまでのノルマから」というあたりも合わせると、毎日毎日代わり映えのない労働の日々その中でもう既に微かなものになってしまった君との思い出を、それでも大切に抱えてそれだけを頼りになんとか生きている自分、というイメージですね。
私自身はそんな経験はないにもかかわらず、しかし生まれて死ぬまでのノルマの中で生きていることは同じなので今改めて聴くと非常にわかりみが強く、紙のような翼のあまりの頼りなさに足が竦みます。

最後の「それは幻」の、諦念とも希望ともつかぬ余韻が切ないです......。




11.メモリーズ・カスタム

からの、いきなりノイズのような音から始まる、「いろは」に続くチャラい枠のこの曲。

元は「メモリーズ」としてシングルになってたのが、アルバムにそぐわないということで大幅に加筆修正して「カスタム」として生まれ変わったものです。

無印メモリーズに関してはいずれ『色色衣』感想で書くとして、こっちのカスタムの方ですが、めちゃくちゃかっけえっすね。
無印の方はイントロのギターもチャラいからチャラい印象ばかりが目立ちますが(初めて聴いたの小学生の頃だったから、私の中では当時流行ってたオレンジレンジとかと同じ枠に入ってる)、カスタムはゴリゴリのロックという感じ。


歌詞はかなり遊んでるというか、感覚的に面白い言葉が並んでるんですが、内容としては「ホタル」に続いて「思い出」についてのお話ですね。

ホタルでは辛い現実と美しい恋の思い出をセンチメンタルに対比していましたが、こっちは同じような題材ながらより投げやりな感じで、そこにリアリティがあります。

「飛んでゆけたなら...」の「...」の飛べなさそうな感じがつらい。

そして、シングル版からカスタムになって丸ごと追加されたのが、

嵐が過ぎて 知ってしまった 追いかけた物の正体
もう一度 忘れてしまおう ちょっと無理しても
明日を描いて 幾つも描いて

というところ。
このアルバム感想の最初の方から書いてますが、これもやはりマイアミショックへの言及でしょう。
ロビンソンあたりからの大ブームという嵐の中を通って、エンタメビジネスの正体を知ってしまって、それでもちょっと無理してもスピッツを続けるという、これまた「ロック宣言」なんですね。
この10数年後に「醒めない」とか言い出すのもまたエモし。




12.俺の赤い星

イントロなしにいきなりの歌い出しで一瞬驚きます。
そんな冒頭からシリアスな雰囲気が通底していて、バンドサウンドが入ってくると気怠さや諦念のようなものも滲み出てきます。
不安定なようで力強くもあるメロディ、2つのメロだけを並べた奇妙な展開にも、何とも言えぬ不穏さが漂います。

タイトルの「赤い星」について、私はてっきり死のメタファーだと思ってたんですが、他にも「望みが叶うこと」とか「セックスのメタファー」とか色々な説があってなるほどな〜と思いました。

でも個人的にはやはりを連想してしまいます。
やっぱなんとなく赤い星って凶兆っぽいし、「一度だけ現れる誰にでも時が来れば」というのも「誰にでも」とまで言い切れるのは「死」だけなんじゃないかと思います。
まぁ、何より自分が今死にたいからそう聞こえるんでしょうけど。

全力の笑みもやがて ざわめきに消されていく
他人のジャマにならぬように生きてきた

目もくれず迷う夜の果て ただループして明日になっても

というあたりが好きですね。
「ホタル」「メモリーズ・カスタム」から続く現実社会を思わせる描写......。大人になって聴くと沁みますわ。




13.ジュテーム?

草野マサムネ and 二胡のシンプルな歌。
間奏までは完全に草野の弾き語りで、間奏からラストにかけては二胡の独特な音色が静かにエモさを盛り上げてくれます。
アルバムのラス前でしっとりした曲を持ってくるというありがちな演出ですが、ここまでハードな曲が続いたせいか、ここでホッと一息って感じでかなり癒されます。

タイトルの「ジュテーム」とは愛してるという意味のフランス語。
「ジュテーム?」→「ジュテーム...」→「ジュテーム!」と曲が進むにつれて確信を得ていくように表記が変わっていきます。
こういう歌詞カードを見ないと分からない仕掛けってのもスピッツには珍しい気がしますけどね。可愛いですね。

「カレーの匂いに誘われるように」というとこは、比喩表現ではあるものの、子供の頃の遊びに行った後の帰り道を思い出してノスタルジックな気持ちになります。

シンプルなラブソングに見えつつも、ところどころにネガティブワードが入ってきたりもするんですが、それも含めて恋の醍醐味だと思わせてくれる余韻はやっぱり優しいですね。

2回あるサビはそれぞれ

君がいるのは ステキなことだ
優しくなる何もかも

君がいるのはイケナいことだ
悩み疲れた今日もまた

と対極なことを言ってるんだけど、どちらも恋の真正面。
恋は悩んでもいいんだ、と思える素晴らしい歌詞です。




14.アカネ

静かな曲の後はもちろんアップテンポな曲。
しかし、最後にふさわしい物寂しさもあって、でも切ないのに前向きな、地味にかなり好きな曲です。

サウンド的には、凝った曲が多いこのアルバムの中ではかなりシンプルに聴こえます。
具体的な技巧性については分からないけど、聞き心地としてはインディーズ感すらあるくらいシンプルで、最後にこの曲があることで気持ちが整えられる感じがします。

歌詞もシンプルに失恋ソングとして聴けばいいとは思うんですが、そんなシンプルな内容でもやっぱり普通じゃない(のに共感できる)表現を入れてくるのが天才草野マサムネの所業。

ゴミに見えても 捨てられずに
あふれる涙を ふきながら

好きだった気持ちをゴミと言っちゃうとこも、それでも捨てられないとこも、めちゃくちゃ分かりすぎて自分かと思った。

身体のどこかで 彼女を想う
また会おうと言った 道の上

普通なら、頭とか心のどこかでありそうなところを、「身体のどこかで」というのがリアル。そして、スピッツの曲で「彼女」という呼称は非常に珍しく(ほかにナデナデボーイくらいしかぱっと思いつかない)、「君」ではないところに2人の距離が見えてつらいですね。

それでも、最後の1行でなんのわだかまりもなく前向きな気分になれるのが、このアルバム以後のスピッツのあり方を示しているようです。

実際自作以降もアルバムの最後の曲って前向きなのがほとんどですもんね。
本作こそスピッツのロック宣言にして人間開花
第3期の始まりを告げる名盤です。

島田荘司『夏、19歳の肖像』感想

夏なので、読みました。

新装版 夏、19歳の肖像 (文春文庫)

新装版 夏、19歳の肖像 (文春文庫)



19歳の夏。
バイク事故で入院していた私は、病室の窓から見える谷間の家の娘に恋をした。
しかし、ある日その家で恐るべき光景を目撃し......。


夏、それは恋の季節

本作は島田荘司作品の中でも青春ミステリの傑作としてファンの間で根強い人気を誇る作品です。
文庫本で250ページという短さですが、それが一夏の儚い恋を描くのにはぴったりの分量で、腹8分目くらいの読後感が切ない余白を残します。


物語の発端は覗きから始まる片想い。
当時の道徳観念はともかく、今読むと普通にストーカーだし気持ち悪いところはありつつ、しかし19歳の頃を思い出せば共感せざるを得ません。
相手のことを何も知らない思い込みのような恋だけど、それゆえの純粋さというものも確かにあると思います。

窓からの片思いのパートも面白いんですが、やはり2人が実際に出会ってからは一気に読むスピードが上がりましたね。
ヒロインがちょっと都合良すぎる感はありつつ、年上のお姉さんってやっぱ良いなぁと思うわけですね。
そんな綺麗なお姉さんの前で道化を演じながら憧れながら破れかぶれで大体にアプローチもしちゃうあたり、むずキュン。

しかし元々の発端が秘密めいて重いものなだけに、後半からは悲恋を予感させる(しかしそれだけにロマンチックでもある)展開が続いてハラハラしました。

最後どうなるのかはもちろん言えませんが、映像的にも映えるクライマックスからの余韻の残る結末は、この夏の間は忘れられなさそうです。だってもう自分で恋する機会なんてないもんね。

(ネタバレ→)彼女がほんとに主人公を愛していたことに驚いてしまいました。絶対この童貞野郎騙されてやがるぜ!と思ってたのに。
そうなるとちょっとヒロインが男の願望の権化に見えなくもないですが、そういう都合の良いラブストーリーもフィクションとしては好きなので面白かったです。
そしてちょっと物足りないくらいのところで終わる結末が、失恋の喪失感を表していると思います。