偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

目次(小説)

≪あ行≫

相沢沙呼
『medium 霊媒探偵 城塚翡翠』

青山文平
『半席』

朝井リョウ
『世にも奇妙な君物語』

芦沢央
『今だけのあの子』

飛鳥部勝則
『堕天使拷問刑』

綾辻行人
『深泥丘奇談・続々』
『Another エピソードS』

伊坂幸太郎
『火星に住むつもりかい?』

井上ひさし
『十二人の手紙』

井上悠宇
『誰も死なないミステリーを君に』

井上夢人
『ダレカガナカニイル』

今村昌弘
『屍人荘の殺人』

上田早夕里
『魚舟・獣舟』

歌野晶午
『ずっとあなたが好きでした』
『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』

海猫沢めろん
愛についての感じ

浦賀和宏
《安藤直樹シリーズ》
1.『記憶の果て』
2.『時の鳥籠』
3.『頭蓋骨の中の楽園』
4.『とらわれびと』
5.『記号を喰う魔女』
6.『学園祭の悪魔』
7.『透明人間』
《萩原重化学工業シリーズ》
8.『HEAVEN 萩原重化学工業連続殺人事件』
9.『HELL 女王暗殺』
10.???
《メタモルフォーゼの女シリーズ》
1.『Mの女』
2.『十五年目の復讐』
《ノンシリーズ》
『こわれもの』
『ファントムの夜明け』
『姫君よ、殺戮の海を渡れ』
『緋い猫』
『ハーフウェイハウスの殺人』


小川勝己
『撓田村事件』
『イヴの夜』



≪か行≫

加門七海
『蠱』

楠田匡介
『いつ殺される』

倉野憲比古
『スノウブラインド』
『墓地裏の家』

甲賀三郎
『蟇屋敷の殺人』

小林泰三
『忌憶』
『殺人鬼にまつわる備忘録』


≪さ行≫

坂木司
『和菓子のアン』
『アンと青春』

桜木紫乃
『ホテルローヤル』

沢村浩輔
『夜の床屋』

朱川湊人
『都市伝説セピア』
『いっぺんさん』

住野よる
『君の膵臓をたべたい』



≪た行≫

太宰治
『人間失格』
『走れメロス』

多島斗志之
『クリスマス黙示録』
『不思議島』
『少年たちのおだやかな日々』
『私たちの退屈な日々』
『追憶列車』
『黒百合』

谷崎潤一郎
『谷崎潤一郎マゾヒズム小説集』

千澤のり子
『シンフォニック・ロスト』

辻真先
『郷愁という名の密室』(牧薩次名義)

辻村深月
『かがみの孤城』

積木鏡介
『誰かの見た悪夢』

友成純一
『ホラー映画ベスト10殺人事件』



≪な行≫

中西鼎
『東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う』

夏目漱石
『こころ』

七河迦南
『アルバトロスは羽ばたかない』

西澤保彦
《腕貫探偵シリーズ》
『腕貫探偵』
『腕貫探偵、残業中』
森奈津子シリーズ》
『小説家 森奈津子の華麗なる事件簿』
『小説家 森奈津子の妖艶なる事件簿 両性具有迷宮』
《ノンシリーズ》
『殺意の集う夜』
『死者は黄泉が得る』
『夏の夜会』
『パズラー 謎と論理のエンタテインメント』
『笑う怪獣』
『いつか、ふたりは二匹』
『からくりがたり』

貫井徳郎
『修羅の終わり』※全編ネタバレのみ)

野崎まど
『【映】アムリタ』

法月綸太郎
『頼子のために』
『一の悲劇』
『ふたたび赤い悪夢』
『パズル崩壊』
『犯罪ホロスコープ Ⅰ』
『怪盗グリフィン、絶体絶命』



≪は行≫

深緑野分
『オーブランの少女』

深水黎一郎
『大癋見警部の事件簿』

藤野恵美
『わたしの恋人』『ぼくの嘘』
『ふたりの文化祭』
『おなじ世界のどこかで』



≪ま行≫

柾木政宗
『NO推理、NO探偵?』
『ネタバレ厳禁症候群』

松井玲奈
『カモフラージュ』

三田誠広
『永遠の放課後』

道尾秀介
『向日葵の咲かない夏』
『月と蟹』
『カササギたちの四季』
『水の柩』
『光』
『笑うハーレキン』
『鏡の花』
『透明カメレオン』

三津田信三
『碆霊の如き祀るもの』

武者小路実篤
『友情』

望月拓海
『毎年、記憶を失う彼女の救い方』

森見登美彦
『ペンギン・ハイウェイ』



≪や行≫

山田風太郎
『伊賀忍法帖』

山田正紀
『ブラックスワン』
『人喰いの時代』

米澤穂信
『真実の10メートル手前』



≪ら行≫

連城三紀彦
『明日という過去に』
『白光』
『小さな異邦人』



≪わ行≫




≪海外作家≫

陳浩基
『13・67』

トマス・H・クック
『夏草の記憶』
『心の砕ける音』
『蜘蛛の巣のなかへ』
『緋色の迷宮』

マーガレット・ミラー
『まるで天使のような』

メアリー・シェリ
『フランケンシュタイン』



≪アンソロジー

角川ホラー文庫「現代ホラー傑作選」
2.魔法の水
3.十の物語

『謎の館へようこそ 黒』

『有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー』

≪その他≫

2017年に読んだ小説ベスト20
2018年に読んだ小説ベスト10

目次(映画)

〈あ行〉
アバウト・タイム 愛おしい時間について
アンダー・ザ・シルバー・レイク
イエスタデイ(2019)
イット・フォローズ
エターナルサンシャイン
エンジェル、見えない恋人
オリーブの林をぬけて



〈か行〉
キートンの探偵学入門
きみに読む物語
きみに読む物語その2
キングスマン
キングスマン : ゴールデン・サークル
狂い咲きサンダーロード
軽蔑
(500)日のサマー



〈さ行〉
サスペリア
サスペリア(ルカ・グァダニーノ版)
三月のライオン
シェイプ・オブ・ウォーター
シャークネード・シリーズ(1〜5)
シャークネード6 ラストチェーンソー
スウィート17モンスター
スプリット
そして人生はつづく
ゾンゲリア



〈た行〉
ダンケルク
チェイシング・エイミー
ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌
チャイルド・マスター
天気の子
ドグラ・マグラ
友達のうちはどこ?
トラフィック
トリプルヘッド・ジョーズ
ドント・ブリーズ



〈な行〉




〈は行〉
ハイテンション
バッファロー'66
HOUSE
パラドクス
バリー・リンドン
フォレスト・ガンプ/一期一会
フォロウィング
冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜
ザ・フライ
ブルーバレンタイン
ベイビー・ドライバー
ボヘミアン・ラプソディ



〈ま行〉
マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり
ムーンライズ・キングダム



〈や行〉



〈ら行〉
ラースと、その彼女
ルチオ・フルチの新デモンズ



〈わ行〉
若者のすべて
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド



〈その他映画記事〉
失恋の傷口に塩を塗る恋愛映画7選
【閲覧注意】極私的、ランク別どんでん返し映画紹介
好きなゾンビコメディ15選
My Favoriteホラー映画10選のリスト〜〜。








〈今月のふぇいばりっと映画〉
2018/9
ジャンゴ 繋がれざるもの/レディプレイヤー1/P.S.アイラブユー/禁断の惑星/巨大クモ軍団vs GoGoダンサーズ

2018/10
サタデー・ナイト・フィーバー/ニュー・シネマ・パラダイス/カビリアの夜/プールサイド・デイズ

2018/11
エンドレス・ポエトリー/君の名前で僕を呼んで/マルホランド・ドライブ/ストレイト・ストーリー/早春 (DEEP END)

2018/12
柔らかい殻/普通の人々/フィールド・オブ・ドリームス/メッセージ/時計仕掛けのオレンジ/ブロンド少女は過激に美しく/ドライヴ/エド・ウッド

2019/1
お熱いのがお好き/リバディ・バランスを射った男/ストレンジャー・ザン・パラダイス/ソナチネ

2019/2
アクアマン/新婚道中記/道

2019/3
夜の大捜査線/ヤコペッティの大残酷/タワーリング・インフェルノ

2019/4
暗殺のオペラ/ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ/地球に落ちてきた男/地上より永遠に

2019/5
search サーチ/怪怪怪怪物!/クーリンチェ少年殺人事件/ヘレディタリー 継承

2019/6
ブルー・ベルベット/パターソン/ライフ/11:46/カランコエの花

2019/7
トゥルーマン・ショー/スリザー/ラストベガス/セブン/メリーに首ったけ/愛と青春の旅立ち/ネクロノミカン

2019/8
ベンジャミン・バトン 数奇な人生/とらわれて夏/孤独なふりした世界で/メイクアップ 狂気の3P/世界一キライなあなたに/トイストーリー4/チャイルドプレイ(2019)

2019/9
アス/イングロリアス・バスターズ/サスペリアpart2

目次(音楽・漫画・その他)

〈音楽関連〉

indigo la End

02nd AL『幸せが溢れたら』
03rd AL『藍色ミュージック』
04th AL『Crying End Roll』
05th AL『PULSATE』


スピッツ

〈アルバム〉
08th『フェイクファー』
13th『とげまる』
15th『醒めない』

〈曲〉
「エンドロールには早すぎる」
「子グマ!子グマ!」


サカナクション

『834.194』感想 -東京version-
『834.194』感想 -札幌version-


年末ランキング
2017年、私的アルバムランキング!
2018年、私的アルバムランキング!!





〈漫画関連〉

駕籠真太郎
『殺殺草紙 大江戸無惨十三苦』
『ブレインダメージ』

加藤元浩
Q.E.D 証明終了』全巻読破計画
① 1巻〜10巻
② 11巻〜20巻
③ 21巻〜30巻
『C.M.B 森羅博物館の事件目録』全巻読破計画
① 1巻〜10巻

さくらももこ
『ちびしかくちゃん』(全2巻)

アンソロジー
怪談マンガアンソロジー『コミック幽』





〈その他雑文〉
感想を書くときに気をつけていること

山田正紀『人喰いの時代』読書感想文

第二次大戦の少し前、北海道はO市。
船の上で出会った呪師霊太郎と椹秀助という2人の若者がいくつもの不可解な事件に遭遇する......という連作短編探偵小説。


人喰いの時代 (ハルキ文庫)

人喰いの時代 (ハルキ文庫)


タイトルの「人喰いの時代」というのは大戦を控え、日本が軍国主義化していって一般市民の間にも暗い影が落ちていたような時代。
本書は、そんな時代を象徴するような人間心理の闇が表れる事件から、探偵小説の形で昭和前期の歴史を描き出した作品なのです。

また、作中で当時の探偵小説の衰退が語られているように、当時は戦争へと向かう大きな流れの中で、個人の小さな事件を暴く名探偵は不要になった時代でもあり、そんな中で生き急ぐように事件に首を突っ込む霊太郎の姿から名探偵というもののありようを自覚的に描いた探偵小説でもあると言えます。

また、各話で特に印象的なのが女性たちの姿であり、2人の青年の視点から「女」を描いた作品集でもあると言えるかもしれません。

もちろん、そんなふうに重層的なテーマを含みつつ、普通にミステリとして意外性や捻りもたっぷり効いてて面白い。
そして、物語としても、各話に必ずお話に引き込むための仕掛けがあって、すらすらと読んでいくとラストで暴き出される人間心理に戦慄する......という見事としか言いようのない出来栄えなんですね。

そんなわけで、いろいろな良さ詰まっていつつも一貫してコンセプチュアルな素晴らしい短編
集でした。

以下、各話の感想も。



「人喰い船」

カラフトへと向かう船上で、椹秀助は呪師霊太郎という青年に出会う。
そしてその夜、貿易会社の社長が船上で怪死を遂げ......。


寒々しく未来の見えない舞台と時代とに引き込まれる第一話。
いくつかの謎が一つの事実から解かれ、オマケでちょっとバカミス的なネタもあり、インパクトは弱いながらも綺麗にまとまってます。読み返してみればもちろんフェアプレイにも配慮されてるし、本書全体に関わる伏線もさらっとあったり、なかなか大胆不敵な一編でもあります。
また、女の恐ろしさと人間心理の恐ろしさが描き出されるラスト数ページが印象的。



「人喰いバス」

秀助と霊太郎がとある旅館で出会ったのは、元特高警察の男と翳のある美女。旅館から帰るバスの中で、事件は起こった......。


前半は旅館でのあれこれですが、後半になるとバスの中に6人というクローズドな状況設定になります。これが舞台劇でも見ているかのようで、物語に引き込んでくれます。
で、事件が起きる場面からの緊張感もまさに舞台に見入るような感覚。
謎解きというよりは、置かれた状況を機転で解決するというところが主眼なのも新鮮で面白く、ユーモアさえ漂ってくるラストのビミョーな余韻も良いっすね。



「人喰い谷」

よこしまな恋心を持つものを飲み込むという"邪恋谷"。三角関係の果てにそこへ墜落した2人の男。しかし、春になり谷底が捜索されるが彼らの遺体は見つからず......。


薄暗い山小屋の食堂で語られる邪恋の物語。2人の美青年に挟まれた女は、清楚な美少女か、それとも魔性の妖婦なのか......という、いかにも戦前の怪奇探偵小説な趣が素敵ですね。
オチは今読むとなんとなく分かってしまうものの、伏線の巧妙さに唸るとともに、とあるホワイの意外性に戦慄しました。
悲恋としか言いようのない物語に切なくなりつつ、あの一言が強烈な余韻となって残る、よく出来たお話ですね。



「人喰い倉」

霊太郎はとある遊郭に滞在中、娼妓から恋人の死の謎を聞かされる。男は密室状態の倉で手首を切って死んでいたが、現場からは凶器が消失していたという。やむを得ず安楽椅子探偵を務めることにした霊太郎だが......。


安楽椅子探偵ものですが、かなり捻りが効いていて面白かったです。
事件自体は当然過去に起こったものなのですが、霊太郎が安楽椅子探偵にならざるを得なくなった理由付けの方でサスペンス性を演出しているので、やはり引き込まれます。
そして、娼妓の幸さんという人の姿がとても印象的。(ネタバレ→)芝居がかった幸への"解決編"のやり方自体が実は不可欠なものだったというところの捻りが見事。そして、美談が実は汚れたものだったとことのやるせなさと、そんな真相を幸の中でだけは白雪のような無垢なものにしてしまった霊太郎の優しさが沁みます
トリックのバカバカしさそのものが切なさを引き立たせているのも凄い。お話としては本書でも特に好きな一編です。



「人喰い雪まつり


老女は幼少期を回想する。思想犯として取り調べられていた父は、釈放後、雪まつりかまくらの中で事切れていた。周りの雪には足跡がなく......。


このお話では事件の何十年も後からはじまり、当時少女だった老女の回想という形なのが面白いところ。孫がファミコンばっかやっててみたいな話が本書の雰囲気の中に出てくるところで無常を感じつつ、回想の謎に誘われます。
で、その謎はというと、雪の周りに足跡はなかったけど雪が降ってる間なら犯行は可能でしたみたいなぼやっとしたもの。
だからHowではなく、あの事件は何だったのかというWhatのところから謎めいているのが面白いですね。
明かされる真相はかなり重めに切ないものですが、このお話が回想であることによって全ては遠く霞んでいってしまうような、不思議な読後感が良いですね。最後の一言が呪いを解くような軽妙さでありつつじわじわと余韻を残します。



「人喰い博覧会」

開催を目の前にした北海道博覧会の会場で、特高の刑事が塔から墜落した。被害者は墜落する前に死んでいたことが分かるが、塔の中には他に人がいたとは思えない状況で......。


読み始めてみて、あまりにも違和感が目に付くのでこの後何が起こるかってのは読めてはしまうんです。
でも、分かっちゃうからこそ「でもどうやってそんなことになるの?」というところへの好奇心にせっつかれるように読み進めたのですが......。
まぁ焦らすこと焦らすこと!
重要なシーンが出てきたかと思えば、その説明をしないままに別のパートに移るみたいなことが繰り返されてなかなかタネ明かしに進まない。なまじ何となくは読めるだけに、ラーメン屋の前に並んで匂いだけ嗅がされるような待ち遠しさに襲われます。

そして、いよいよ明かされる真実はやはり思った通りのものではありましたが、それを成立させるための演出が素晴らしい。
普通ならこのネタを、しかも方向性は読めてる上でやられたら興醒めするところですが、物語としてあまりに美しく構成されているのでやはり「そういうことだったのか!」というカタルシスと激動の時代を生きた人々の想いへの切ない感動にやられました。

そして、本書の終盤にして、一転してこれまでとは違い何の外連味もない事件が現れるのが凄いです。
これまでのいかにも探偵小説然とした空気から一転して、生活臭のあるような、あまりに身近な事件。それが読者を現実に引き戻すとともに、本書全体を覆う"人喰いの時代"という暗雲が取り払われるようなカタルシスにも繋がります。
やはり切なくやるせない結末ではありつつ、それでも悪くない読後感でもあって、短編集でありながら大作の長編のような深い余韻に浸れました。

ブルー・バレンタイン

ここんとこ、500日のファッキンサマー、アバウトタイムと、時間ラブストーリーを観てきたので、ここらでこいつをぶち込んどこうかなと思いまして......。


町山さんのトラウマ恋愛映画の表紙にもなってるくらいのトラウマ恋愛映画ですね。

ゴズリング演じるディーンと、ミシェル・ウィリアムズ演じるシンディの夫婦。
2人が破局するまでの数日と、5年前の出会い愛し合った日々を交互に描いた夫婦崩壊映画です。



とりあえず、この構成がお見事というか、残酷というか、クソファックというか......。

とある普通の朝、ディーンと娘がシンディママを起こすシーン。子供っぽいディーンは一見いい父親。でもシンディの態度にはうんざりした感じが隠しきれず......。冒頭のこの現在の時間軸の日常描写だけでこの家庭に横たわる不穏な空気が察せてしまうのがすごい。
そんな不穏な現在パートはデジタルな機材で淡々と撮られています。2人が同時に画面に映ることすら少なく、これはまるで、実はどっちかが死んでて幽霊でした〜ってどんでん返しなんじゃないかって思うくらいに、"同じ世界にいない"感じが出てるんですよね。ザ・ン・コ・ク......っ!

一方の2人が出会った5年だか6年だから前のパートはフィルム撮影らしく、自主制作みたいな粗さが逆に温かみや人間味を感じさせます。ここだけ見たらビフォアなんちゃらとか、きみに読むなんちゃらみたいなロマンチックなラブストーリー風。
でも、ダメになっちゃってく過程と交互に見せられるせいで、このラブラブな時点で既に「ああ、これが後々効いてきまんがな......」と怪しい関西弁になっちゃうくらいの破局伏線がモロ見えに見せられちゃって切ねえすぎるんすよね。これまたさらに残酷。



なんせ、2人とも本当にいそうなくらいのリアリティでもって描かれてますからね。

幼い頃に両親が離婚したディーンは、家庭というものへの憧れが人一倍強くてロマンチストだけど、実際に家族の愛に触れてこなかったからその作り方が不器用で。
基本的に良いやつではあるんですが、なんも出来ないくせにプライドだけは高くて学がないしキレると暴れるし家の壁にペンキ塗るなんて簡単な仕事で低収入だし......って散々書いたけどだいたい私にも当てはまるからつらいよね〜。私はこんなイケメンじゃねえしな!

一方のシンディは両親の不仲のせいでヤケッパチで何人もの男と肉体関係を結んでしまい挙句の果てには元カレに中出しされ、と、まじあの元カレは死んだ方が......。
いや、話が逸れたけど、看護師として多忙にしてて頑張ってるからそりゃ夫がたらたらへらへらしてたらウザいのは分かるけどでもさぁ......っ!

とまぁ、ある種分かりやすいキャラ造形ではありますが、それだけに2人がそれぞれどういう気持ちでその言動をしてるのか、がだいたい伝わってきちゃいますからね。
こんだけ分かりやすく伝えといてそれをすれ違わせるなんていう鬼畜の所業、許すまじ......。



で、そんな2人の愛の始まりと終わりをこんな構成で見せられることで、「このシンディって女まじでうんこやな」「いやいやディーンの前頭部がこんなんだから」なんて具合に、どっちが悪いだの何がいけなかっただのと議論できちゃう、議論したくなっちゃうのが凄い。掌の上で弄ばれてる感。
これねぇ、迂闊になんも言えねえけどさぁ。100%俺の主観で言うなら、シンディはガチで意味わかんねえし、あんなに頑張ってるディーンでダメなんて贅沢言うなって思うし、何より元カレはやっぱり100回死んで欲しいですけど......。
でも巧妙な構成によってシンディの気持ちも分っちゃうんですよ。分かっちゃうから手放しで責められないし、ディーンにも生理的に不快なところは多々あるよな......とか思ったりもして......。



それではここで一曲、米津玄師で「こころにくだもの」

りんご〜レモン〜ぶどう〜メロン〜♪
いちご〜バナナ〜みかん〜キウイ〜♪


はい、果物って美味しいですよね。
でも、買ってきてもすぐ腐っちゃう。すぐ腐っちゃうのは甘いからなんですね。
恋も果物と同じで、甘いからこそ時間が経てば痛んで腐って崩壊してきちゃう。糖度が高いほど余計にね。
だから、どっちが悪いだの、あの時ああしてればだのといくら言ったところでね、恋なんてほっときゃ腐るわけです。何言ったって止まらんねえんだよな、と。


そんな、人知を超えた恋愛のワンダーを描き出した超絶ホラー映画でして。
これを観て私はどうすりゃいいんだと。
やっぱり結婚なんかしたくねえよ!と思わされるのも思うツボっぽくて嫌だし、かと言って結婚してえ!とはなるわけもないし......。
結局、本作をケーススタディとして、石橋を叩いて渡る根性と、最悪の場合への諦観だけ自分の中にインストールしとけばいいのかねぇ、なんていう、非常に悲観的な形でタメになるラブストーリーでした。

それにしても、きみに読む物語のゴズリングも似たような肉体労働者のダメ男をやってたんですけど、きみ読むはなんだかんだ美しすぎて神話の領域に達したロマンチックファンタジックなお話だったのに本作のリアリティといったら。
でもこの表裏一体のどちらも恋愛の一面の真実ではありまして、どちらの映画も愛さずにはいられなかったりなんかもして。
しかし、タバコ吸いながら娘を抱っこするのだけは心臓に悪いからやめてほしいです。

山田正紀『ブラックスワン』読書感想文

実を言うと山田正紀氏は私の通っていた学校のOBで、50近く年が離れているとはいえ同窓の人間としてシンパシーを抱いていたりしまして。
とは言いつつ、『ミステリ・オペラ』を読んだ時に長い割にあまりハマれず、それ以来きちんと読んでこなかったのですが、本書はかなりタイプなお話でとても楽しめました。

ブラックスワン (ハルキ文庫)

ブラックスワン (ハルキ文庫)


世田谷のとあるテニスクラブで女性が焼死する事件が発生。しかし焼死したと見られる橋淵亜矢子は、18年前に失踪していた。
当時大学生だった亜矢子は、友人らと7人で瓢湖を訪れ、そこで"ブラックスワン"に出会っていたという。
自費出版の事務所を営む桑野は、当時の関係者たちの手記を集めながら失踪事件の謎を追うが......。


というわけで、白昼堂々のショッキングな焼死事件と、若者たちの刹那の青春とが交錯する、非常に私好みの作品でした。



青春がテーマの作品ではありますが、それが直接描かれるのではなく中年になった関係者たちが当時を回想する"手記"として描かれるのが良いと思います。回想だから曖昧なところや美化したようなところもあって、どこかおぼろげに霞んでいるような青春の描き方。それが逆に刹那を思わせて情景や心情を印象付けます。
また、手記の文章自体も絶妙にリアルに素人が描いた臭くて、でもちゃんと読みやすいので凄いです。

そして、今風に言うとリア充組が半分に非リア組が半分みたいな7人の若者たちのメンバー構成が秀逸。
特に第一の手記を書いてるのが非リア側だけど一番下ではない感じの男の子なので、非常に感情移入しちゃって。チャラ系男子に誘われて旅行に行ったら綺麗な女の子が2人もいたらね、そりゃあね。惚れてまうやろ!
......の後に今度はあの人の手記が続くあたりはずるい。やり場のない切なさに胸を締め付けられます。若いって、切ない。

と、そんな感じで、青春小説としての魅力に酔っていたら、ミステリとしての真相にガツンとやられちゃいました。
まぁ、つっこみどころというか、やや腑に落ちないところもあるにはあるし、それを全部「青春だから......」で済ますのは乱暴だとも思いますけど、でも青春小説として素晴らしいからその辺のつっこみどころもそこまでは気にならず。
それまでは手記で語られる青春にばかり感情移入してたのが、ラストに至って思わぬ別のストーリーのエモさに不意打ちされるという、ミステリと物語の融合がね、やばたにえんです。
しかも、(ネタバレ→)手記自体には何のトリックも仕掛けられていないのがまたうまくて、物語の余韻を殺さずにサプライズを決めることに成功してます。

そして、作中でも何度か言われているように、読み終えてみるとそれぞれの青春模様がブラックスワンに象徴されているような気がして、タイトルと共に過ぎ去りし青春への追慕が胸に残る、うん、やはり私好みの傑作なんでした。

歌野晶午『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』読書感想文

歌野晶午による、江戸川乱歩の名作短編たちへのパスティーシュ短編集。



歌野さんは以前にも長編『死体を買う男』で乱歩オマージュをやってて、今作は2度目。
ただ、『死体を買う男』は乱歩本人が出てくるある種の時代ミステリだったのに対し、もしも本作は乱歩のアイデアを現代に再現したら......というIfもしもな翻案モノなので、読み味は全く異なります。

第2話で「高度に発達した科学技術は魔法と見分けが付かない」という有名な言葉が引かれています。
この言葉の通り、乱歩の奇想に最先端の科学技術をプラスすることで、夜の夢の世界をリアリティをもって現代に再現しよう、というSFにも近い試みが楽しいですね。

また、乱歩短編といえばどんでん返し!
本書ではどんでん返しもまた現代風に上乗せしまくって楽しませてくれます。

一方で、恋愛や結婚や介護やニートやオタクやストーカーといった、歌野作品ではお馴染みのキャラクターやテーマも多数登場して歌野ファン的にも楽しめました。

まぁ、正直なところ、各話綺麗にまとまりすぎていてだいたいオチは読めてしまいますし、乱歩のあの雰囲気を再現するには文章が軽すぎるというのもあります。
しかし、歌野さんらしい遊び心に満ちた短編集であり、変に期待しすぎなければサラッと読めてなかなか楽しい一冊だと思います。

以下各話感想。





「椅子?人間!」

作家の主人公のもとに元カレからのメールが届くという、シンプルに原典を現代化したようなお話。

原典が手紙という性質上、直線的に話が進んだのに対し、こちらはやり取りが出来るって点の緊張感がありましたね。
また、主人公が執念深いのは同じながら、どちらかというと本作の元カレくんの方が原典の椅子人間よりも一見カラッとしてるようで実はより粘着質に感じられます。
で、そんな元カレくんの底辺クズ野郎なのに共感出来ちゃったりもして、そのへんの痴情のもつれ具合がとても歌野さんらしいです。

オチはまぁこの流れならこうなるよねと読めてしまうものではありましたが、意外性の量で言ったら本家よりも多く、なにより(原典と本作のネタバレ→)原典では嘘ぴょんオチだったのが、本作はきちんとオチが明かされることで嫌な後味が残る......かつ、全部は見せきらないことで結局どっちだったんだろうという宙ぶらりんな余韻もあって、その辺はアップデートされてると言っていいと思います。





スマホと旅する男」

タイトルが本書で最も秀逸だと思います。変に長くせず、元ネタそのままのシンプルさが好き。

内容は、旅行に行ったらスマホ画面に映るアイドルとお話ししながら旅してる変な人と知り合って......というお話。
全体に『女王様と私』のような雰囲気なのでアレが好きだとコレもハマりそう。

現代のアイドルビジネスの病巣に切り込んだ社会派のようでもありつつ、原典の持つ幻想性を科学という名の魔法によって再現しているのが面白いです。
オチはなんか想像すると笑っちゃうような光景ですが、幻想小説ってのはそれくらいがちょうどいいのかもしれないですね。まだ現実の範疇にあった物語が白昼夢の世界にフェードするようなラストシーン、好きです。





「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」

表題作。
坂とラブホテルの多い街。浮気調査を生業にする半フリーターみたいな主人公が早熟な小学生の聖也とともに薬局で起きた事件に関わっていくお話。
現場が視線の密室だったり、被害者が裸で背中にミミズ腫れがあったりなど、原典の謎を引き継ぎつつ、歌野さんらしく鬱屈とトリックを贅沢に盛り込んだ作品。

原典は明智小五郎初登場作品ですが、本作では変わりに生意気小学生の聖也くんがキャラ立ちを発揮。
解決編のダミー推理の量がめちゃくちゃ多くてそれだけでもなかなか楽しい上に、最後のブラックな真相からさらにダークなオチまで、まさに最後までチョコたっぷり。
イデア満載で表題作の名に恥じない力作です。





「『お勢登場』を読んだ男」

「読んだ男」というくらいですから、まんま原典が出てきちゃうお話。

倒叙のような形で、乱歩の小説に触発された主人公が舅を殺そうとするところに共感できちゃうのが面白いですね。人殺しなのに。
で、そうかと思えば逆にお勢登場をやられちゃうトホホな展開にも笑えます。笑いつつも、なかなかピンチでサスペンス......。

ただ、この状況になっても、現代だとスマホという秘密兵器があるので「お勢登場」は成り立たなそうなもの......。そこんとこをクリアするためのアイデアの数々が面白く、テクノロジーの使い方の細かさでは本書でも随一の一編です。




「赤い部屋はいかにリフォームされたか?」

江戸川乱歩の「赤い部屋」を原作とする舞台の上演中、観客の視線の中で、出演者が殺されて......。

そもそも舞台劇のような「赤い部屋」という短編をまさに舞台化しちゃうっていうアイデアが面白いです。
まぁ内容はなんとなくわかっちゃうんですけど、それよりなにより作者の、そしてミステリ作家の心の叫びとしか思えない長台詞があるのに笑いつつも身につまされましたね。こんなブログやってると特にね......。
どんでん返しというよりは趣向そのものが楽しい一編でした。





「陰獣幻戯」

女性を完全に性の対象としてしか見れない教師というヤバい主人公の一人称で、偶然知り合ったアンティークショップの美人店主のストーカー事件の顛末が語られるお話。

かく言う私もわりと女性を性的に見がちなのでこれも身につまされますわ。そんでもって、若い子への興味がだんだんなくなって熟女に目覚めていくあたりも共感()。
そんな主人公がストーカーの謎に挑むという倒錯した状況設定も絶妙。普通なら甘美な大人のラブストーリーになりそうなところですが、主人公がこんなんだから妙に不穏な読み心地なのがいいっすね。
オチは部分的には分かりやすいものの、あれはさすがに予想外でした。しかし、本書のコンセプト的には必要ですよね。

まぁともあれ、どこか懐かしくも一種異様な雰囲気は、本書で最も普通に乱歩っぽい作品と言えそうで、個人的には一番好きな偏愛の一編です。





「人でなしの恋からはじまる物語」

トリを飾るこの作品はもう非常に変則的な構成の短編。そんなプログレな構成を楽しむお話なのであらすじとかも紹介しない方がよさそう。

人でなしの恋の要素は導入部くらいなもんで、後半からは変わりに別の乱歩作品の要素が入ってきます。とはいえそれもさらっとで、わりと歌野晶午みの強い短編なんですね。
で、ラストの余韻がこれまでの話とは一風変わっていて、気持ちのいい肩透かしを食らわされました。まさかこうくるとはね。歌野さん、アンタに一生付いていくよ......。

(ネタバレ→)
二次と三次の入り混ざるスマホゲームの悲劇だけで一本書けそうなところから、丸っきり話変わって暗号ミステリになるというキメラ的構成が楽しいです。
ラストに至るまで主人公に対して共感が2の反感が8くらいで読んでいたので、まさかの温かみのあるオチに泣きました。おじいちゃんめちゃくちゃいい人なだけに、イヤミスにならなくて良かった......。
......からの、喜劇的なもう一つの結末には確かに「二銭銅貨」らしさもあり、ただのいい話では終わらせない飄々とした佇まいが粋な一編ですね。