偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

原田高夕己『「たま」という船に乗っていた 〈さよなら人類編〉』

「たま」という昔いたバンドが好きです。
彼らの魅力については以前拙いながらブログに書いてみたこともある(「たま」はすごいんだぞ!)くらいには好きなのですが、彼らが解散したのは私が8歳の時。
当時は音楽なんてB'zくらいしか聴いたことなく、後に大学生になってたまを知った時にはもう解散しちゃってて、当時の熱狂も知らなければライブにも行けず、あと15年早く生まれてたらと悔しい思いです。

さて、本書は、たまのパーカッション担当で山下清風の格好から「たまのランニング」とも渾名される石川浩司さんの同名の自伝的な本を、たまファン歴30年で今に至るまで毎日たまのことを考え続けてきたという著者が漫画化した作品です。



上記の通り、私は後追いでファンになった新参者のにわかの若造で、アルバムを全部聴いてるくらいには好きでありつつ曲は知っててもメンバーのことやバンドのヒストリーについてはWikipedia読んだ程度。
だから、当時の時代の空気やメンバーの人となり、交友関係などまでリアルに描かれた本書はWiki知識に肉付けをしてもらえるようでめちゃくちゃ面白く、終始ニヤニヤしながら読みました。
特に、たまの中でも推しメンである滝本さんがやっぱりメンバーの中でも一番ヤバい人でますます好きになりました。「なんでもいいよ」「別にいいよ」しか言わないのほんと怖いです。

こんな本が令和の今出たことが嬉しくてたまへの想いを吐露してしまいましたが、内容としてはエッセイのように短いエピソードが20話くらい入っていて、その中でだんだんとメンバーが出会ってバンドをやりはじめて......という本筋も進んでいくような構成になっています。
本筋に当たるメンバー加入とかのエピソードはやっぱテンション上がりますよね。それぞれ「ドーン!」って感じで登場するので「キター!」ってなります。
そして、本筋以外のエピソードはいい意味のしょーもなさがあって、笑いながらどんどん彼らに愛着が湧いてしまいます。
石川さんがコレクターとして何冊か本を出してるらしいことには驚きました。

その上で、一冊の最後には当時のたまにとっての一つの集大成というかブレイクスルーというかの「イカ天」初出場の様子が描かれていて、カッコ良すぎる演奏シーンには鳥肌が立ちました。曲を知ってるから、ここだけは頭の中で曲を流しながらゆっくり味わって読んじゃいますね。

漫画の歴史に全く詳しくないので、めちゃくちゃざっくりですが、絵柄はそれこそトキワ荘にでも住んでそうな懐かしさがあって「たま」という題材にピッタリ。それでいて、色々と他の漫画のオマージュが挟まれる中には結構最近の作品もあって「急にどうした!?」となって面白いです。
基本的にたまへのリスペクトがビシバシ感じられるだけに、ちょいちょいこういうたまと関係ない悪ふざけがあるとほっこりします。バランスが良い。

あと、小ネタとして、柳原さんが一度脱退を申し出る場面で、たまがカバーしたビートルズの「Girl」の歌詞がパロディ的に使われていて、芸がこまけえ......と思いました。たぶん私が見逃してる小ネタとかもいっぱいありそう。
また小ネタではないけど、メンバーの「たま」での作品以外の昔の曲の歌詞とかが引用されてたりするのも楽しいですね。



そんな感じで、ゆる〜く読めつつ、バンドを組んだ青年たちの青春の物語としてのエモさもところどころに効いてきて、「たま」をそんなに知らなくても楽しめそうだし知ってればより楽しい最高な漫画です。
解散までやるのかどうかわからないけど、とりあえず次巻は出る予定があるみたいなので楽しみです。