偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

西部戦線異状なし(1930)

1930年、2つの世界大戦の間の時期に製作された反戦映画の大作。


老いた(=徴兵されない)教師にけしかけられて「なんかカッコいい!」「女にモテる!」「栄光!」みたいな軽いノリで学生たちが軍隊に志願するところから始まります。

しかし実際に軍に入ってみれば訓練が厳しくデートしてる暇もないし、戦場に行けば華やかでカッコいい戦闘よりも空腹に耐えながらただ待機する時間の方が長く、満を持して戦闘が始まれば仲間はぼこぼこ殺されていく......。
前半はそうした戦争への憧れと現実との対比が描かれるのですが、凄いのはキャラクターというものが一切描かれないんですね。言ってみれば全員がエキストラみたい、もっと言えば蟻の群れでも見ているような感覚で、戦場では個性など必要ないし誰の命も平等に軽いことが示唆され、戦争という現象そのものを切り取っていくような感じです。
そして、後半からはその中でポールという兵士が主人公としてピックアップされ、彼の家族や友人との関わり方から、個人の目線での戦争の悲惨さが浮き彫りになるという2部構成になってます。
特に後半には一旦帰郷するシーンやその後戦場に戻ってきて友と話しながら歩くシーンなど印象的な場面が多く、なんといってもあのラストシーンは衝撃的。戦争という大きな流れと小さいものとの対比が鮮烈でした。

兵士が駄弁ってる時の冗談に出てきた「王様や政治家や将軍を下着姿にさせて棍棒で戦わせればいい」というような台詞が良かった。

以下ネタバレ。


































終盤、戦場に戻ったポールが友人と再会し、話しながら歩いてたら空襲を喰らってそれであっけなく友人が死んでしまうのがすでにかなりショッキング。
そしてそのポールも主人公の特権などあるはずもなくあっさり死んでしまうラストシーンが衝撃的。
昆虫標本が趣味の彼が蝶々を見つけて思わず手を伸ばしたところを撃たれるというのがまた皮肉であり悲しい。
趣味だとか小さなものへの愛着だとか、そういう戦場ではクソの役にも立たないものが人間らしさだなぁと思います。
戦争の話を矮小化するようで恐縮ですが、仕事でもまあまあ心を病むくらいしんどくなるとやっぱり趣味に気力を割けなくなるし、どうでも良くなってしまいますからね。呑気に歌って踊って自然を愛でて生きていきたいです。