偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

スピッツ『花鳥風月』今更感想。

めちゃ久しぶりになってしまいましたが、スピッツ今更感想シリーズ!


1999年発表の、B面曲や提供曲のセルフカバー、インディーズ曲などを集めた「スペシャル・アルバム」の1枚目です。
本当かどうかは知りませんが、日本で初のB面集とも言われています。スピッツらしい天邪鬼さだと思うし、B面曲も大事にしてくれてファンとしても嬉しい限り。
実際、本作は決して捨て曲の寄せ集めではなく、スピッツのA面曲では見られない一面が見られる名盤になってます。

アルバムとしてのコンセプトのようなものはあまりないので内容については特に触れませんが、本作はジャケ写が最高なんすよね。
『フェイクファー』と並ぶ2大童貞を殺すジャケ写。もちろん私も死んだ童貞の1人です。
そして我が家にある『花鳥風月』は歌詞カードかCDケース本体にくっついたブックレットみたいな形になっててそこも含めて装丁が好きです。

ちなみにこの度インディーズ時代のミニアルバム『ヒバリのこころ』の全収録曲を本作にくっつけた『花鳥風月+』がリリースされましたが、その全曲について書いてると卒論くらいの長さになってしまうので、『ヒバリのこころ』収録の6曲については項を改めることにしようと思います。



では以下各曲の感想。




1.流れ星

昔は地味な曲という印象しかなかったのですが、最近歳を取ったせいかじわじわと沁みてきてる超名曲です。

元はもっと激しい曲調でインディーズ時代からあった曲で、辺見えみりに提供した後にスピッツ本人がセルフカバーしたという紆余曲折のある曲。


穏やかで物悲しいような、でも温かみも感じられるイントロからして、スピッツには珍しいくらい重厚なバラード。
しかしピアノや弦とかは入ってなくてバンドの音だけなのがシンプルにカッコいい。
イントロが終わると一旦消えて、「作りかけの大きな街は〜」のあたりで入ってくるベースの、入ってき方が好き。


そんでこの曲はなんといっても歌詞だよね。

流れ星のように儚く刹那く消えていった恋人へのラブソング。
独特のわけわからん言い回しながらも、描かれている内容はとてもシンプルで、わけわからん言い回しだからこそ胸に突き刺さります。
私の好きなエッセイスト(歌人)の穂村弘が詩に大切なのは「共感と驚異」と言っていて、スピッツの歌詞、特にこの曲なんかは、見たことのない表現(驚異)を使って、胸を締め付けるような(共感)内容を謳っているあたり、素晴らしい詩だと思うんです。
全ての行にいちいち泣きそうになりますからね。いらない単語がない。全ての言葉が美しく、切なく、儚い。もちろんスピッツの歌詞どれもそうなんだけど、特にこれは。

「造りかけの大きな街」という言葉に溢れる諦念、「分からない君の言葉包み紙から取り出している」というフレーズは悲しくも愛おしさに満ち溢れていて、君をどれだけ大切に思っているかが伝わってきます。

君の心の中に棲むムカデにかみつかれた日
ひからびかけていた僕の 明日が見えた気がした
誰かを憎んでたことも 何かに怯えたことも
全部かすんじゃうくらいの 静かな夜に浮かんでいたい

というところがスピッツの全歌詞でも最上級にエモい。
私もムカデにかみつかれたあの日のあの光景を一生忘れないと思うので......。
この歌詞のエモさを際立たせるように、珍しくメロの部分で転調しているのも沁みますよ。

転調といえば、ラストのサビでもさらに転調してて、地味にめちゃエモい構成になってるんですよね。あとカラオケで歌いづらい。

本当の神様が同じ顔で僕の窓辺に現れても

という、何か絶対的なものへの不信感と、それに対して「君への気持ち」という宇宙の中ではとても小さなものを愛でる感覚が草野節ですよね。



2.愛のしるし

この曲もセルフカバー。
オリジナルのPUFFYバージョンは誰もが知るくらいの有名曲。
私もスピッツファンになる前からPUFFYの方で知っていたので、「これ奥田民生じゃないんだ」とびっくりしたのを覚えています。
でも人には「この曲スピッツが書いたんやで」ってドヤ顔で言ってしまいます。

オリジナルはロックサウンドながらポップ感も強いですが、スピッツverはかなりロック寄り。
イントロからして印象的なベースのリフと小気味良いドラムのリズムとクソかっけえギターのジャッジャッでブチ上がります。

サビでは一瞬ギターで超有名曲のフレーズがモロに引用されていたりと、セルフカバーという成り立ちだからこそ、普段よりもこだわりを緩めて遊び心が詰め込まれている気がして好きです。
遊び心といえば、この曲はMVもかなり遊んでますよね。メンバーがコスプレして美女に弄ばれる(?)なんてのはセルフとはいえカバーならではじゃないかな。

そして、自分では歌わない前提で女の子に歌わせるために書いた

ヤワなハートがしびれる
ここちよい針のシゲキ

という可愛くてちょいエロい歌詞を草野が歌うのに思わず笑っちゃうと共になぜかPUFFYより可愛いと思ってしまうのはファンの欲目ですかね?(そうです)

愛のしるし」とはタトゥーのことらしいですが、「ここちよい針のシゲキ」ってのはあるいはえっちな意味にも聞こえるし、あるいは恋をした時の気持ちのようにも聞こえます。

嬉し泣きの宝物
何でもありそうな国で ただひとつ

というところが好きです。
スピッツの歌詞で「国」という言葉が出てくる時って、「誰もさわれない2人だけの国」とか「ラクガキ王国」みたいに、ホントの国ではなく「ここではないどこか」を表すことが多いと思うんですが、この曲では珍しくそのまま日本のことだったり。
ずっと後年になってからは「遠吠えシャッフル」なんかがありますが、この時期のマサムネがここまでストレートな言葉遣いをするのはやはり提供曲ならではかな、と。
そして「何でもありそうな国」と、「ただ一つ」との対比はスピッツらしい。
思えば針もシゲキもトゲトゲしたものなのに描かれる世界は可愛らしいというのはまさに「とげまる」ですしね。

スピッツらしさとスピッツらしくなさが同居した名曲だと思います。


3.スピカ

「楓」との両A面。
スピッツの曲の中でもファンの間では屈指の人気曲。
もちろん曲自体めちゃくちゃ良いんですけど、私見ですが、バンド名にも似た『スピカ』というタイトルもまたファンには特別な感じがして人気に拍車をかけている気がします。

冒頭のノイズ音からしてもうワクワクしちゃって、シューゲイザー"感"のあるイントロからして優しくも力強い印象。
ドラムとベースもズンズンと重い音で地に足つけて歩んでいるような感じで、バリバリなロックサウンドなんだけど聞いてて安心感があります。
メロディに関しても起伏が激しすぎず、しかしもちろんめちゃくちゃ美メロで、地味だけど名曲と呼ばれるのがわかります。

歌詞もまた昔のスピッツには珍しく幸せについて歌った安心感のあるもの。
といっても、安易にハッピーサイコーイエーってならないのがスピッツ流。

幸せは途切れながらも続くのです

というフレーズはスピッツでも屈指の勇気をもらえる歌詞。感動をありがとう!な歌詞。
苦しみを経ての幸せ、長くは続かずにまた途切れるかもしれない幸せ。でもだからこそ今の幸せが尊いし、時に途切れることがあってもまた続くんですよね。
私は基本的には早めに死にたいタイプだしあんまり押し付けがましい応援ソングは嫌いなんですけど、この曲くらいの慎ましいキレイゴトには前向きなエモになってしまいます。
というのも、たぶん私自身が去年までの坂道のピークを超えて今は幸せを感じることもできる時期に入ったからだと思いますが。

やたらマジメな夜 なぜだか泣きそうになる

古い星の光 僕たちを照らします
世界中 何も無かった それ以外は

セックスを暖かく真面目に描いた歌は好きで、例えばアジカンの「架空生物のブルース」とかインディゴの「ダンスが続けば」とかが私の中ではアンセムなんですけど、この曲もその一つ。
幸せを噛み締めるようなやたら真面目な夜、あの遠い星が産まれた太古の昔から続く人類の愛の営み......なんて説明すれば陳腐だけど、春の夜空の星を見上げながら、スピッツにしては壮大な物思いに耽っている曲。
こんな歌があるからなんか生きていけるんだと思います。




4.旅人

「渚」のカップリング。

ミスチルアンチのスピッツファンなので「ミスチルにも旅人ってあるけどスピッツのがええやん」と思ってましたが、Wikipediaで調べたらミスチルの桜井の方からスピッツに「同じ旅人ってタイトルでどっちが良い曲書けるか勝負しようぜ」って持ちかけてきたらしいっすね。まぁその話がほんとかどうかは知らないけど、なんにしろスピッツ先生の大勝利ですわ。

冒頭短いドラムとベースの音が入りつつほぼ歌始まりで美しいサビのメロディが歌われます。この、旅人に〜〜↑↑の伸びがエゲツない。絶対カラオケで歌えない!
んで、そっから極端に言えば能天気と言っても良いくらいのウキウキするようなイントロとAメロに入ります。
Bメロではやや切なさも混ざりつつ、一旦Aに戻って2往復するところのウキウキと切なさの緩急の付け方が良いですよね。
また、2番ではAメロのバックがベースメインになってまさに「ぐったり疲れた」感じが出てて、そっから大サビ前の「おぉいえぇ〜!」でのぶち上がりまで、やっぱり緩急の付け方が良いっす。

歌詞の方は、これはシンプルに受け取ってよければ失恋したけど頑張ろう的な感じですかね?
というか、君を忘れよう!と決意してるような、でもわざわざ決意を歌にしちゃってる時点で忘れられてないよねみたいな、そういう強がりの歌なんだと思います。

バッサリ切られてなんでそーなの 俺だけが
頭ハジけて 雲のベッドでフテ寝して

というあたり、軽めの失恋の時にありがちな感じで面白いですよね。
「ランデブー」「カンガルー」みたいな軽めのカタカナ言葉で微妙に韻を踏んでるあたりもそれこそ不貞腐れてる感じが出てて面白いです。




5.俺のすべて

「ロビンソン」のカップリング。

これもサビ始まり。
表面上はおよそスピッツらしからぬ(強がってる感はむしろめちゃスピッツらしいけど)「これが俺のすべて〜」のインパクトはなかなか。
そっからこの曲もやっぱりAメロBメロあたりはやや能天気に聴こえるところからのサビやCメロの綺麗さや切なさへのギャップが良いです。旅人と同じことしか言ってないですけど。
あと、間奏の終わり方がカッコいいですよね!ライブではここで崎ちゃんがワンツーカウントするのも凄く気持ちいい!
ライブといえば、ライブでは本編ラスト付近で演奏されることが多く、マサムネがハンドマイクにタンバリン持って歌うのがカッコよく可愛いです!
アウトロの、どんどんギターソロが激しくなりながら最高潮のところでフェードアウトしてくところが好きです。なんか昔の歌謡曲っぽくて。

歌詞は小さい犬ほどよく吠えるみたいな感じ。

燃えるようなアバンチュール うすい胸を焦がす
これが俺のすべて

と、なんかよう分からんけどカッコつけたことを言っておきながら、

真夏よりも暑く 淡い夢の中で
何も知らないお前と ふれてるだけのキスをする
それだけで話は終わる 溶けて流れてく

と、Cメロでは何やら夢オチっぽいことを言い出して、

山のようなジャンクフーズ 石の部屋で眠る
残りもの さぐる これが俺のすべて

と引きこもりくさい結末へ......。
俺のすべてとか強いことを言っときながら結局こうなっちゃうあたりめちゃくちゃスピッツって感じで良いっすよね!

俺の前世は たぶんサギ師かまじない師

というところが個人的には一番ツボです。
言葉で説明するのは難しいけど、この感覚分かる気がしますね。なんていうか、自分は生まれる前からもう偽物というか、拠り所のない存在だという実感みたいな。
このブログのタイトルに偽物と入れたのはこの感覚から来ているので。




6.猫になりたい

青い車」のカップリング。
「スピカ」と並びこれもファン人気の非常に高い曲です。
ゴースカのファン投票では「殿堂入り」として毎回演奏されることが決まっている唯一の曲でもある、それくらいの人気曲。
地味ではあるけど、切なさや寂しさとあたたかさがあるエモい曲です。

イントロのメロディアスなギターからしてもうめちゃくちゃエモいっすよねぇ。
Aメロは単調な感じのドラムとベースが伴奏になり、Bメロに入るとギターも入ってきつつリズムもちょっとだけ不規則になるところが良いです。
そして、スピッツの曲はどれも楽器が歌を邪魔しない(でも演奏もカッコいい)ものばかりですが、中でもこの曲は、歌がいいんだよなぁ。
例えば冒頭の「灯りを⤴︎......」「消したまま⤴︎......」と、語尾でちょっと上がりながらフワッと消えちゃうところの儚さとか。
例えばサビの「なりたぁいぃ」「いぃたいよぉ」などの伸ばす部分の美しい声の掠れ具合の儚さとか。
結構語尾の伸び方がねっとりしそうな曲だけど、伸びつつもフワッと消えていくので下品さが一切ないのが凄いっす。これHYDEさんとかが歌ったらネッチネチでしょ(いや、好きですけど)。
あともちろん普通にメロディが神。
さらっと歌ってらっしゃるけど、カラオケで歌えないとかじゃなくて脳内ですら歌えないくらいの美メロ。

歌詞はまた妄想の話みたいなんだけど、切実さが強いのでキモい感じではなく、後の『醒めない』期にも通じる別れと再会のようなテーマが見え隠れしている気がします。
とはいえ、それが『醒めない』のような救いのカタルシスを持つことなく、悲しいままで終わってしまうのがこの時期のスピッツ。それはそれで美しくて好きです。

灯りを消したまま話を続けたら
ガラスの向こう側で星がひとつ消えた

という歌い出しからもう、主人公と君の親密で幸福な関係が窺われると共に、「星が消えた」というのが君の死を暗示しているようにしか読めず、たった2行で悲しみのズンドコに突き落とされます。

からまわりしながら通りを駆け抜けて
砕けるその時は君の名前だけ呼ぶよ

というところには、恐らく当時そこそこ売れてきて多忙になりつつもこれからどこへ向かっていけばいいのか悩む草野マサムネの姿をどうしても重ねてしまいますが、そんな空回りしながら駆けている状況で失った君のことを想い続けているのがなんとも切ないっすね。

広すぎる霊園のそばの このアパートは薄ぐもり

というワンフレーズだけで、霊園→死別のイメージ、アパートは薄曇り→主人公の心境・孤独感がヒシヒシと伝わってきます。
言い方が無粋ですが、言葉のコスパの良さが凄いっす。

暖かな幻を見てた
猫になりたい 君の腕の中
寂しい夜が終わるまでここにいたいよ

あえてサビ前とサビの歌詞を一緒に引用してきましたが、サビで歌われる君の腕の中にいること自体が「幻」でしかない、という風に読めてしまい辛いです。

猫になりたい 言葉ははかない
消えないようにキズつけてあげるよ

「言葉ははかない」というフレーズはスピッツの写真集のタイトルにもなった印象的なワードで(てかおっさん4人の写真集なんか誰が買うんだよ!俺か!)、言葉をどれだけ費やしても伝えられないものだったり、言葉で伝えてもすぐに消えてしまうということ、だから消えないようにキズつけてあげるよっていう、これはもうエチエチですよね。エチエチとか言ってごめんなさい。でもエロっすよ、消えないようにキズつけてあげるよ、は。

余談ですが、言葉ははかないから、言葉を話せない猫になりたい、というこの曲の歌詞の内容を踏まえたindigo la Endの「猫にも愛を」という曲も切なく孤独で暖かい名曲です。この曲のファンの方にはぜひ聴いて欲しいっす。




7.心の底から

口笛の音とブイブイしたベース、さらにホーンの音まで入ってどうしちゃったのってくらい陽気で楽しそうな曲。
たぶん、スピッツでも1番能天気な曲なんじゃないですかね......。

シングル「裸のままで」のカップリングということで、『Crispy!』期の売れようともがいているスピッツの様子が伝わってくるような、売れ線っぽい(そして狙いすぎてて全然売れそうにない)曲ですね。
そういう下手に狙ってる感が嫌で、実は昔からあまり好きじゃなかったんですけど、とは言っても改めて聴いてみると良い曲ではあるし、ブレイク前のバンドの苦悩と試行錯誤の跡を感じられるという意味でも貴重な一曲だと思います。
特に、口笛の後にギターが合いの手みたいに短いフレーズを弾くところが好きです。

歌詞もまた売れ線を狙ってか奇妙なことになってて。
1番はスピッツとは思えないような、小っ恥ずかしいくらいフツーなもの。

心の底から愛してる 今でも奇跡を信じてる
天使のパワーで 悪魔のパワーで
取り戻せ ありふれたストーリー

「愛してる」「奇跡」「ストーリー」と、サビだけでJ POP激ダサ歌詞ワードベスト10のうち3つまでも取り揃えたヤバヤバJ POPなんすよね。
ちなみにベスト10は他に「未来」「夢」「明日」「虹の橋」とかですね。

ただ、2番からはスピッツらしい奇妙奇天烈な表現も出てきます。

陽の光まぶたに受けて真赤な海で
金縛りみたいに ごろごろもがいてる
とばせ!魂を 高い柵の向こうまで
白い小さな花になる いつかは

というところなんかは、私の心が汚れているからなのかも知れませんがオナニーのことにしか聴こえません。
そうすると、

銀河のシャワーを バベルのタワーで
吸い込め 涙のグローリー

というところも泣きシコっぽい感じがしちゃいますね。雰囲気でしか分からないけど、銀河のシャワーの恍惚感やバベルのタワーの背徳感はきっとそういうことでしょう。
そうすると、激ダサJ POP的な表現を使って片想いのあの娘を思って泣きシコする様を描いたロックな曲だと言えるかもしれません。




8.マーメイド

「惑星のかけら」のカップリング曲。
そう言われて聴いてみると、あの時期のハードめなロックとぼや〜んとした歌のギャップがこの曲にもありますね。
しかしカップリングということで遊んでるのか、冒頭からスティクスの「ドモアリガトーミスターロボット」のパク......オマージュで始まります。
それがカタカナで聞こえるオマージュ元と反対に「どもありが〜とみすま〜め〜ど」とひらがな表記にしか聴こえない気の抜け方がさすがっすよね。
そんな歌のゆるさに対して「世界の真ん中で〜」のところの後のギュイーンっていうギターとか、ところどころで一瞬激しいのが入ってくるのが気持ちいいですね。
あと、イントロの印象的なリフがサビとか間奏の前半とかでも出てくるのも気持ちいいし、間奏後半のギターソロもカッチョよい!
でも歌は最後までゆるい!ギャップ萌えですね。

歌詞は一夏の恋みたいな感じ?
それ以外そんなに言うべきこともないんですけど、

カラカラだった魂に水かけて
不死身のパワーを僕に注ぎ込んだ

生まれた意味をみつけたよひとつだけ

というあたりの、基本は生きてる意味ない派みたいな言い回しに共感できます。

この曲を聴くといつも中学生の頃、合宿で行ったビーチで一緒に砂のお城を作っていた時にはじめて好きな子の胸の谷間を見たことを思い出します。




9.コスモス

日なたの窓に憧れて」のカップリング。

個人的にこの曲はスピッツの全曲の中でも特異な立ち位置にあると感じます。

それはやはり歌詞のせいで。
スピッツの曲には詩を描いたものが多いですが、その中でもこの曲では唯一、「君が生きてたなら」と、比喩ではなく直接的に死を表現しています。全曲の中で一曲だけストレートに死が描かれることで、やけに深刻さを感じてしまいます。
仮タイトルは「ベルモンド」で、ジャン=ポール・ベルモンドが死ぬ映画にインスパイアされたそう。そのベルモンドも本当に亡くなってしまいましたね。

ささやく光 浴びて立つ 君を見た秋の日
さびしげな真昼の月と西風に
揺れて咲くコスモス 二度と帰れない

というサビの歌詞がスピッツには珍しくかなり写実的で、その光景の中に今はもう君がいないということが喪失の大きさを感じさせます。

鮮やかなさよなら 永遠のさよなら
追い求めたモチーフはどこ
幻にも会えず それでも探していた今日までの砂漠

「今日までの」という一言で後追い自殺を示唆していて、どこか崇高さすらある恐ろしさを感じます。

サウンドも歌詞にばちこんと合っています。
くぐもってぼんやりとした感じの音に白昼夢のような幻想味があって、音の少なさが喪失感を掻き立てます。
間奏は「宇宙虫」あたりを連想してしまう壮大ささえあり、走馬灯を見ているようなイメージです。
メロディも最初は淡々として抑揚がないところから、サビで徐々に起伏が出てきてサビの最後の「二度と帰れない」で頂点に達する感じがエモいです......。

正直あまりの辛気臭さに昔はあんまり好きじゃなかったんですが、大人になってから聴くとめちゃくちゃ良さがわかってきちゃってつらい曲です。




10.野生のチューリップ

インディーズ時代からある曲で、アルバム『名前をつけやる』のアウトテイク。

「コスモス」の後からインディーズ曲コーナーに入る曲順がエモいっすね。

まずイントロが「君は天然色」の陰気バージョンみたいな感じで面白いです。
テンポがよくて音だけ聴いてる分にはるんるんるんとテンション上がっちゃう感じの楽しげな曲とも言えそうですが、歌詞を見るとやっぱり暗そう......。
というか、たぶんこれも後追いの歌ですよね......?

夜空にいつもの星が見えない
ポケットに破れた地図をつめ込んで

という歌い出しからして、君を喪って行き先を見失ってますよね。

スズメのざわめき かためた木々も
野良猫 サカリの頃の歌声も
紛々に砕かれて ここには何もない

「スズメのざわめきかためた木々」「野良猫サカリの頃の歌声」がそれぞれ何かこう、生命力のようなものを表すモチーフだと思います。それが粉々に砕かれてるわけですからね......。

いますぐ行くよ まわっているよ
いますぐ行くよ 壊れた時計の力で

スピッツでお馴染みの輪廻のモチーフ。壊れた時計というのも分かりやすいですね。
そして、最後が「さよなら さよなら......」の連呼ですからね。完全に逝ってますね。

恐ろしいのが、この曲実は女性シンガーへの提供曲であるらしいこと。人にあげるならもうちょい穏当な曲がなかったのかよ、と思っちゃいます。




11.鳥になって

魔女旅に出る」のカップリング。
これもインディーズ時代からある曲で、古いバージョンをどこかで聴いたことがありますがまぁ酷かったですね。
それに比べればだいぶマシになっているとはいえ、3枚目のシングルのカップリングですから相当古いことには変わりなく、やっぱり今と比べるとだいぶ酷いです。
しかしそれも味!

ジャッジャッっていうギターのイントロからデンデケデンデケデンデケデンデケっていうノリノリなベースで飛び跳ねたくなっちゃうシンプルなロックナンバー。
テンポがいいので短い印象でしたが実は5分以上あります。最後の「鳥になって〜鳥になって〜」の繰り返しがやや長いんすよね。でも、「なって〜」のところの歌い方が実はめちゃくちゃ可愛いので長くても許せちゃいます。

そして歌詞!
ノリノリな曲調からてっきり「鳥になって大空へ羽ばたくぜ!」っていうワタリドリっぽい感じかと思いきや、まさかの他力本願!!鳥になるのお前ちゃうんかい!!と全スピッツファンが突っ込んだことだろうと思います。
スピッツの歌詞でいわゆる男らしいものってのもないんですが、この曲は中でもなよっててムカつくくらい(同族嫌悪)。てかまぁ言ってしまえばヒモの歌ですよね。

ああ 覚悟ができないままで
僕は生きている
黒いヘドロの団子の上に棲む
笑い話じゃないね

「死とセックス(ドヤァ)」とか言ってても現実の自分は覚悟ができないまま中途半端に生きながらえている醜い存在なんすよ。
死がどうのこうの言うなら死んじゃえばいいのに!っていう。でもそれができないやるせない現実!!
あまりに等身大のダメ男ソングすぎて(好きなんだけど)聴いててイラッと来ちゃいますね。



という感じで、『花鳥風月+』ならぬ『花鳥風月−』の感想でした。
残る『ヒバリのこころ』部分についてはまたいずれ......。