偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

高橋源一郎『恋する原発』感想


世の中のことに疎いので『ことばに殺される前に』や『ぼくらの民主主義なんだぜ』といった新書を読んで勉強させてもってますが、この度小説作品の方を初めて読んでみました。


3.11東日本大震災を受けてチャリティーAVを作るというぶっ飛んだお話です。
お話、といってもとにかく不謹慎(なのか?)なネタ(なのか?)が脈絡なく(あるのか?)連ねられていくという仕様になっています。なので物語らしい物語はないし情景描写だの人物描写だのもほとんどありません。
これが小説なのかどうかも私如きにはよく分かんねえけど、ただ凄いスピードで羅列される言葉の怒涛に圧倒されます。
とにかくめちゃくちゃなようでいて、しかし一つ一つの話を拾っていくと著者の新書の方の著書で語られているトピックしか描かれていないことが分かります。
個人的には避難所のおばちゃんが語る新しい学校の形がとても印象的でした。あと、途中で急に挟まれるそこだけ「真面目」な震災文学論も。

そういう、本当は非常時にこそ語られるべきことが「自粛」という雰囲気によって抑え込まれる。それをぶっ壊して胸ぐら掴んで考えさせるために、「不謹慎」の形を取っているけど、真摯な作品なんですね。
本書は本来は2001年、9.11の時から構想があったらしいです。それが2011年に形を変えて出版され、コロナ禍の最中にある2022年に読んでもな心を......というより頭を揺さぶられるのは、20年前から今に至るまで世界が歪んだままだからなんでしょう。
それでも希望を持ってこういうことを書き続けている著者には頭が下がる思いですし、襟を正したくもなる、そんな一冊でした。