偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

佐藤青南『君を一人にしないための歌』感想

名前くらいは聴いたことあったけど読んだことなかった著者。音楽青春ものっぽいタイトルに惹かれ、あらすじを見たら高校生バンドの話だったので思わず買っちゃいました。



高校一年生の森尊(渾名:モリソン)は、中学時代にドラムをやっていた吹奏楽部の最後の大会で冒した大失態を引き摺っていた。
そんな彼の元に現れた見知らぬ同級生の七海は、彼をバンドに無理やり勧誘する。同じく七海に誘われた、ロックの知識豊富な凛という少女がベースを担当するも、ギタリストだけが見つからない。
メンバー募集をかけると、ギタリスト志望者がやってくるが......。


全5話の連作短編集。各話でギタリスト志望者が現れるも、それぞれの事情でバンドを辞めることになり......というパターンが繰り返され、その「事情」の部分が"日常の謎"になってる青春音楽ミステリです。
なので、ギターが一向に正式加入せず、バンドものかと思って読んだら正直やや肩透かしではありました。
とはいえ、1話につき一つのバンドがフィーチャーされ、その名曲が事件のモチーフになっていたりするところはめちゃくちゃテンション上がります。その選曲も絶妙に初心者に優しくて良いですね。今の私は聴いたことくらいはあるバンドばっかだったけど、高校生の頃だったらビートルズとクイーン以外は知らなかったので、ここからロック聴いてみよっかなってなってもとっつき易い選曲だと思う。
あと文章による曲の紹介の仕方もバンドやってた作家さんだけあってめちゃ上手くて羨ましい......。

ミステリとしては各話とも丁寧な伏線と見えていた景色に違う意味が与えられる真相が面白く、それによってギタリスト志望者たちそれぞれのドラマが描き出されてるあたり上手いと思います。

一方で、主人公たち、特に本作の主役とも言える七海というキャラクターの魅力はなかなか見えてこず、なんならちょっとウザく感じてしまうところもありましたが、最後まで読むとタイトルの意味と共に一気にこのバンドの全員のことが好きになってしまう構成もニクい。
正直かなり終盤までそんなにハマってなかったけど、最後一気に持っていかれました。前半のゆるさを取り戻すように終盤からややシリアストーンになるのも好き。最初と最後の対比も激エモいっすね。

軽めにさらさらっと読めて、しかしかけがえのない時間を共に過ごす少年少女の姿が爽やかな余韻を残す、素敵な作品でした。バンドやっとけばよかったわ高校時代!