偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

本岡類『白い森の幽霊殺人』感想

新作が出て話題の著者の代表作。
本格ミステリフラッシュバックか何かで名前を見て前々から気になっていたんですがこの機会に読んでみました!


脱サラして長野のスキー場で妻とペンションを営む邦彦。スキー客で賑わうシーズンの彼のペンションの裏庭に作られた雪だるまの中から、両脚を切断された女性の死体が発見される。さらに彼のペンションの常連客も不可解な死を遂げ、邦彦は友人の樫尾刑事とともに事件の推理に乗り出すが......。

本作は新本格ムーブメントの少し前の1985年刊行の作品。死体の脚を切断した上雪だるまに隠したのはなぜか?という強烈なホワイ?の謎と、その後も続く事件とでグイグイ読ませる、新本格にも通じるような遊戯性の強いミステリで、なかなか面白かったです。

冒頭でモーレツ商社マンとして働いていた主人公が体を壊したのをきっかけにペンション経営を始めるまでの流れがやけにリアルに描かれているのが、時代だなぁと感じつつも私も現代の感覚ではブラックめな会社で働いてるので共感できるところもあり引き込まれてしまいました。
それをはじめ、スキーとか当時の流行歌とか昭和後期の風俗が感じられる描写に古臭さを感じつつも逆に新鮮でもあり面白く読めました。あとキャラクターたちの軽妙な会話もどこか懐かしくて微笑ましく感じます。ところどころ今の感覚ではアウトな表現もあったりして、時代柄しょーがいけどそこは残念ですが......。あと直接的な性描写はないけど妙に生々しい描写があったりするのもどこか昭和の香りがしますね......。

ただそういう俗っぽさはあれど、ミステリとしては遊び心に満ちていて楽しい!
奇想の大トリックとか度肝を抜かれる大どんでん返しとかではないものの、それぞれの事件にトリックがあり、真相の意外性も十分で、何より伏線が質量共にすごい。なんかちょっと頭の片隅に引っかかるけどその時は大して気に留めなかった描写が最後に炸裂する爽快感にはシビれましたね。
また推理過程であーでもないこーでもないと推論をこねくり回すんですが、そうした謂わばダミー推理もなかなか面白くてお得感アリ。

コンパクトで読みやすくも小ネタがふんだんに盛り込まれ、ほろ苦くも爽やかな読後感に至るまで常に楽しませてくれる長編ミステリでした。これは隠れた良作。おすすめです。