偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

鵜林伸也『ネクスト・ギグ』感想

学園ミステリアンソロジー『放課後探偵団』に短編「ボールがない」が収録された著者ですが、それからしばらくのブランクを開けての本格的デビュー長編となったのが本作。
単行本が出た時から気になってはいたんですがこの度文庫化されたので読んでみました。




音楽ファンから絶大な支持を得るロックバンド"赤い青"。
しかし、ある日のライブのアンコールのステージで、ボーカルが胸に千枚通しを刺されて死亡した。
ライブの直前にボーカルが語っていた「ロックとは何か?」という疑問、そして、事件の直前に天才ギタリストが犯した稚拙なミスは、事件となにか関係があるのか......?


ロック×本格ミステリ、ということでどっちも結構好きなので楽しみに読んだんですが、めちゃくちゃ良かったです。
ミステリにロックが出てきても味付け程度なことが多く、「ロック」をメインテーマとして扱った作品は私は他に読んだことがないし思いつかないですね。
なんせ、ミステリとしての謎のメインが「ロックとは何か?」である、と言っても過言ではない内容。
実在のバンド名もバンバン出てくるし、作中のバンドの架空の作品名や来歴などがそれと並列で出てくるのも面白くて、サウリバも赤青もかいわれ大根もめちゃくちゃ聴いてみたくなりました。
読んでいると、登場人物の個々にというよりは、赤い青というバンドやロックというものに感情移入するみたいな感覚になり、ロックを愛するかれらの中に犯人がいるなんて思いたくない気持ちになりました。
また、本作の発表は2018年ですが、この時点で既に逼迫したライブハウスの懐事情が描かれていて、その後コロナ禍でさらに大打撃を食らってるわけで、なんかライブ行かなきゃなと思いました。なんせ3年以上行ってないですからね......。ライブ行きたい。

そしてミステリとしては、事件の謎はシンプルなロジックでするすると解かれるのが気持ち良く(話としてはつらいけど)、一方で人間ドラマとしての意外性は伏線の巧さがモノを言ってるように思います。
なにより、「ロック」そのものを謎解きと密接に結びつけているのが最高!解決編への導入の演出もエモすぎます。
終わり方は2人も死んでるのにちょっといい感じすぎる気もしますが、彼らには転がる石であり続けて欲しいですね。


そんな感じで、私はロックファンとまで言っていいのか分からんけどバンド音楽好きだしミステリも好きなので好き×好きでめちゃくちゃ楽しみました!
またそういう人はもちろん、ミステリが好きだけどロックに興味ない人にもぜひ読んで欲しい作品ですね。