偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

深緑野分『この本を盗む者は』感想



本の町・読長町の名物である巨大書庫御倉館は、元は図書館のように一般に開放されていたが本の盗難が絶えず現在は閉鎖されている。そして、御倉館から本が盗まれると、本の呪い(ブック・カース)が発動し、町は物語の世界に変わってしまう。
御倉家の人間でありながら本嫌いの高校生・深冬は、父が入院することになって御倉館の管理を任されるが、途端に本の盗難が相次ぎ、深冬は何度もブックカースの世界に連れて行かれることになり......。


注目してる深緑野分先生の第4長編。
これまでに読んだ作品は海外が舞台のものが多かったですが、本作は珍しく日本が舞台。とはいえ、「本の中の世界」が舞台なのでかなりファンタジー色が強く、現代日本モノって感じではないですが。

章ごとに違った本の世界に入るという、ちょっと連作短編っぽい構成。そのため、それぞれマジックレアリズムやハードボイルドなど章ごとに世界観がガラッと変わる楽しさが味わえます。
一方で、町の人々が章ごとにその話の登場人物になってしまうので、結局どういう人なのか分かんなくて、主人公以外の人物のキャラがあんま立ってない感じはしてしまいました。作中作の設定が結構作り込まれているのが凄いんだけど、それだけに結局は世界観が「本の呪い」として使われているだけなのがちょっともったいなく感じてしまいました。

前半はそんな感じで本の世界に入って冒険するみたいなノリなんですが、その中で本嫌いの深冬が本を読み終わった後の寂しさを体験するあたりが本好きとしてはエモいです。一方、最近は子供の頃みたいに本の世界に飛び込むような気持ちで本を読めてないよな......と純真さを失った自分を恥じました。
そして後半からは徐々に本書全体の謎に迫りつつ新たな謎もどんどん出てきて俄然面白くなってきます。
ファンタジーなんだけど結構いろいろ説明が付くあたりはミステリファンとしても読みやすかったです。
主人公以外のキャラには上記の通りあんまり愛着が湧く暇もなかったですが、その分主人公の深冬のことは大好きになったので、本書でも描かれていたような読み終わって彼女とお別れになってしまう寂しさを強く感じました。
......しかし、先日出た著者の短編集に本作の外伝みたいなのが入ってるらしいので、そっちも読みたい。