偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

オテサーネク(2000)


不妊に悩むホラーク夫妻。ある日夫が庭で赤ん坊に似た形の木の切株を掘り起こして妻に贈るが、妻はそれを本当の子供のように扱って偽装妊娠をする。
やがて妻が「出産」すると、オチークと名付けられた切株は生命を持って......。

オテサーネク [DVD]

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  • ヴェロニカ・ジルコヴァー
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ヤン・シュヴァンクマイエル監督が描くダークファンタジー

いやぁ、凄かった......。
あらすじは作中にも絵本として出てくるチェコの民話『オテサーネク』を下敷きにしてるんだけど、その民話自体がまずヤバいなという感じ。
しかし本作は、その民話の主軸となる切株のオテサーネクの暴走よりも、それを通してヤバい人間たちを描いた群像劇のようになっているのでより奇妙で捻くれた気持ち悪さがあります。
それを幻想的だけど妙な生々しさのある独特の映像美でやられるととても気持ち良い。話の筋は別に大したことないんだけど、あの不思議な映像を観られるだけでもめちゃくちゃ面白いです。

不妊ノイローゼから妄執に取り憑かれる妻と、それにキレながらも巻き込まれてだんだん追い詰められていく夫が、デフォルメされて過剰にはなってるもののリアリティはあってしんどい。物事がどんどん悪くなっていくイライラと面白さ。
そして、もう1人の主人公である夫婦の隣家の少女が話を引っ掻き回すのがまた面白いです。隣家の異変に敏感に気付いて探偵と野次馬の間くらいの詮索をするのが可愛らしいんだけど、絵本の存在によって物語における特権的な立場になることでさらに暗躍し出してからは純粋ゆえの不気味さも出てきてより存在感を増していきます。
その少女の両親やロリコンの老人などのサブキャラもみんな濃く、ヘンテコな世界観をよりカオスにしててワケワカランかった。

中盤まではそんな感じで結構気持ち悪さやイライラと裏腹の面白さみたいな感じで、夫婦が破滅へと向かって行くのをハラハラしながら見ている感じなんですが、最後の方はなんかもう吹っ切れちゃっていいぞもっとやれ!みたいな気持ちになっていきました。その果てでのあの終わり方もオシャレで好き。