偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

根本尚『怪奇探偵・写楽炎1 蛇人間』感想

以前読んでめちゃくちゃ良かった『少女探偵火脚葉月最後の事件』の著者による、別の少女探偵・写楽炎ちゃんの活躍を描いた短編集。
怪奇探偵というタイトルですが、炎ちゃんは別に霊能力が使えたりはしない普通の少女探偵でして、対する犯人たちが毎話毎話奇天烈な怪人ばっかりで、要はこいつらが怪奇なんすよね。
そう、本シリーズは一つ目ピエロだの吸血鬼だのに扮した犯人たちと名探偵の知的バトルを描いた昔懐かしの怪奇探偵ジュブナイル。なので、犯人はなんでこんな凝ったトリック使ったのかとか、動機がどうこうとか、そんなこたぁどーでもよろしく、ただただ昭和レトロな探偵物語に浸れるっつーのが良い!
子供の頃に江戸川乱歩ジュブナイルに夢中になってた人はぜひ読むと良い......と書こうとして、江戸川乱歩ジュブナイル読んだことないことに気づいた。ともあれ、幻想と怪奇と推理に彩られた夜の夢の世界へと誘ってくれる素敵なシリーズです。



「一つ目ピエロ」
第1話だけど特にキャラ紹介とかもなくぬるっと始まりますね。
犯人は分かりきってるしトリックやダイイングメッセージもだいたい読めちゃうのでちょっと物足りなさはありつつ、中高生くらいの少年少女が自分たちの住む街の怪談とか都市伝説に挑む系の話が大好きなのでそんだけで楽しめました。一つ目ピエロという、片方だけでも怖いものを合わせることでむしろちょっと滑稽味も出てる怪人のキャラが味わい深い。


「血吸い村」
吸血鬼のビジュアルがなんか微妙に可愛いのが気持ち悪くてよかった。
これも容疑者が少なすぎて犯人分かりやすいものの犯人特定のロジックとか事件で使われるトリックとかアイデア満載で前話より格段に面白かった。


「踊る亡者」
スピード感がやべえ。
事件が起きた次の瞬間にもう炎ちゃんが「犯人はわかってる」とか言い出すしその途端に犯人出てきて正体明かしちゃうしと、解決が早すぎるし真相も単純すぎて物足りない......んだけど、動機がめちゃくちゃ笑えたのでなんかもうそれだけでインパクト凄かった。そんなことで人を殺すな大賞2024。


「蛇人間」
表題作で1番長いお話だけあって面白かった。
怪しいやつだらけの関係者たち、沼を歩いて渡る怪人「蛇人間」、千本鳥居の先にある蛇神の祠、手首のない死体、ジャスコ......。おどろおどろしい要素をたっぷりぶち込みつつ、あまりに突然の転校などのギャグ(?)も入ってて異様ながら軽妙な雰囲気が面白い。
ダイイングメッセージは毎度のことながら超簡単で、これで犯人丸わかりになっちゃうのが惜しいけど、なによりシンプルで意表をつかれる物理トリックがなんかもはや痛快!そして皮肉な後味も素晴らしい。
(ネタバレ→)転校して行った彼からのあからさまにアリバイ工作くさい不自然なメールが全くなんの関係もないという無茶なミスリードには笑った。