偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

高畑京一郎『タイムリープ あしたはきのう』感想

たぶん高校生くらいの時から「SFミステリ要素のあるラノベ」として気にはなってた作品なんですけど、昨年メディアワークス文庫より復刊されてたので買ってみました。


普通の高校二年生の翔香が月曜日の朝登校すると、今日は火曜日だと気付く。昨日は日曜日だったはずなのになんで......?
記憶のない月曜の日記を見ると、そこには「若松くんに相談なさい」とあった。
わけもわからぬままクラスの秀才だが冷たい男・若松に助言を求めると、半信半疑ながらも協力してくれることに。しかし、やがて翔香は記憶喪失ではなくタイムリープをしていることが分かり......。


初刊は1995年で30年近く前なので、今読むとキャラのノリに古さを感じたり展開やオチが読めてしまうところもありましたが、一方でそれを補う良さもあり、楽しく読めました。

冒頭のプロローグでいきなりキスシーンからはじまりつつ、主人公がなんでクラスの秀才とキスしてるのか分からなくて大混乱......みたいなところからもうなんかノリが懐かしくて良いっすね......。そこから序盤ではいかにも伏線くさい描写がガンガン積み重ねられつつ、主人公と秀才イケメン若松くんが徐々に信頼関係を築いていくところにキュンとします。

そういう軽めのラブコメっぽいノリでありつつタイムリープに感する部分ははかなり緻密で複雑なんですが、それをさらっと読ませる分かりやすさが本作の1番の凄さだと思います。『』を多用して用語や状況をぽんぽんと整理しながらシンプルな文章で手際よく説明していく様は、作中で若松くんが翔香に数学を教えるシーンみたいに、良い先生に問題の解き方を教わるような楽しさがありました。
また、これは賛否あると思いますがタイムパラドクスとかのややこしい問題をほぼ無視してるのも読みやすさに繋がっていることは確かだと思います。そのため、時間SFというよりはパズルみたいなつもりで読むのが正解かもしれません(私はSF苦手なのでその方が助かる)。

そして、上巻では奇妙な現象への恐怖はありつつもまだ気楽な感じだったのが、下巻でシリアスに寄りつつ核心に迫っていく緩急の付け方も上手くて、下巻からは俄然前のめりで読んでしまいました。
(ネタバレ→)中田が犯人ってのは雰囲気でモロバレだし、結末で初めに戻る円環構造も章題で分かるけど、4通目の手紙とか実は日曜日の夜から始まってたとかの細かい部分の驚きもたくさんあって、大まかなところは分かってもなお面白いのが凄かったです。

ただ、著者の後書きにもありますが「おまけ」の章ははっきり蛇足だと思いますよ私は。あんなん最後まで読んだら分かることをわざわざ余韻ぶち壊してまで解説してるだけで、文字通り蛇足でしょう。
著者は「新装版に際してあのおまけの必要さに気付いた」みたいな日和ったことを言ってますが、私は新装版に際してあれを削除しても良かったとすら思いますけどね!

という一点が不満でありつつ、頭使う内容なのに何も考えずにすらすらっと読めて楽しかったです。