偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

神々の深き欲望(1968)

今村昌平監督、名前はもちろん知ってたけど初めて観ました。



文明から隔絶され、古くからの因習の残る南の孤島・クラゲ島。しかしこの島にも近代化の波が押し寄せる......。


村八分のような扱いを受ける太(ふとり)家の根吉、その息子で島の古い考えを嫌う亀太郎、東京からやってきた測量技師の刈谷、島に建てられた工場の工場長も勤める区長の竜、巫女のような役目を果たす根吉の妹で竜の妾のウマなど、島に関わる人々を群像劇のように描いた3時間の大作。



本作は今村監督初のカラー作品ということらしいですが、海や森の木々が畏怖を感じるほどの美しさで撮られ、暑さや人の汗臭さまで感じさせる生々しさがあり、場面によっては人工的な照明によって島の日常からふわっと異世界へ誘われるようなところもあって、とにかく映像がかっこよかったです。
なんかもう話は難しくてよう分からんのですが映像だけぼんやり眺めてても最高。


ストーリーはとりあえず登場人物が多くて最初の方はついていかれへんかったけど、だんだんなんとなく把握出来てくると一気に面白く感じました。
最初のうちは因習の残る島における、無意味に思える風習やら村八分的な迫害やらテレビもねえラジオもねえ的な不便さに観てるこっちも嫌になってきて、近代人の立場からこの島を未開の野蛮な文化と断罪しながら観てしまいます。
しかし、だからこその美しい自然や人間らしい生活に触れ、一方で工場の誘致に関する政治的経済的な駆け引きとかを観せられ、東京から来た技師の刈谷がもう東京に帰りたくない島人になりたいみたいなことを思い始める頃には観てるこっちも島の側に立たされてしまうという価値観への揺さぶりが凄い。
島の神だろうと近代文明だろうと、結局どっちにしたってその価値観の中で権力を持つ者が支配する構図は変わらないという皮肉も感じたり。
そんな島にとって激動の時代を生きる彼らの生の生々しさにこもる、現代の作品にはないような熱量に頭をぐわんぐわん揺さぶられます。

じわじわと不穏さが積み重ねられた果ての壮絶な海上のクライマックスは圧巻で、掛け声の気持ち悪さや、行きと帰りで表情が違って見える凄みを堪能しました。
そして、その後のラストシークエンスの無情で無常な悲しさがまた非常に印象的。完膚なきまでに変わってしまったことを見せつけられることで、本編の内容がよりくっきりと心に刻み込まれる、やるせなくも素晴らしいラストだと思います。

そんな感じで頭悪いので長いし人多いし難しかったけどめちゃくちゃ楽しめました。