偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

道満晴明『バビロンまでは何光年?』感想

『ぱら⭐︎いぞ』『ニッケルオデオン』は読んだことがあって結構好きな道満晴明さんのわりと最近の作品。


宇宙で最後の人類となってしまった記憶喪失の青年バブは、ロボットのジャンクヒープ、"完全生物"のホッパーと共に宇宙を旅しながら様々な星で女遊びをしながら記憶の片隅にある「バビロン」と言う場所を目指していたが......。


主人公たちが旅をしていくという長編でありつつ、1話1話は掌編の分量で1話ごとに色んな星を訪れてその星の食やセックスの文化を味わう(そして大抵ひどい目に遭う)というショートストーリー集でもある本作。
以前読んだ著者の別作品でも感じた、短い話の中に奇抜な設定と小ネタをふんだんに盛り込み、バカバカしく狂騒的でありながらもどこか情感(エモみ)もある読み心地が相変わらず素敵。
ひっでえ下ネタばかりで文章に起こしたら間違いなく下品だと思うのにこの絵で読むとあまり下品に感じないのもなんかずるいよね。こういう風に下ネタを言える男になりてえよ。

そんで本作は失った過去という時間と広大な宇宙という空間を旅して回る壮大なSFでもあり、後半では文字通り時空を超えたわちゃわちゃが繰り広げられ、伏線やフラグを全部回収し意外な事実が明かされたりもするんですが、シリアスにやればミステリとして凄え感じを出せそうなその辺のネタもみんなギャグ漫画として軽〜く流していくのが贅沢でオシャレです。
また、後半ではそんなSFミステリー展開と並行して双子の父親にならなきゃいけなくなるバブの若者から大人への成長も描かれてアラサー人間としてはたいへん身につまされるものがあり良かったです......。

そんな感じで、基本は1話完結の短いギャグ漫画の連なりでありつつ全体で壮大なSFと小さな1人の男の成長とが描かれたエモい長編でもある、1冊でがっつり盛りだくさん楽しめる傑作でした。