偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

カワカミ『死人とサーカス』感想

Twitterのフォロワーで、尊敬しつつ勝手にライバル視してるブログ『蒼ざめた犬』の管理人でもあるカワカミさんがカクヨムで連載長編を完結させておられたので読ませていただきました。

なんつーか、仲のいい(と思ってるけど向こうはどうかしら......)フォロワー、しかも同年代、がこんだけちゃんとした長編を完成させてる一方で私は短編だろうとなんだろうと小説自体書いたことすらないということに嫉妬悔しさ劣等感を抱かざるを得なかったです。まぁ書こうとしたこともないので同じ土俵かのように悔しがるのすら失礼です。
まぁ、それはそれとして作品はめちゃ面白かったので以下で感想書いていきます。



https://kakuyomu.jp/works/16816927861018619749


犬の散歩をしていた少年が出会ってしまう殺人ピエロが生首をジャグリングする異様な光景......がプロローグとして置かれていて既に垂涎。本編においても"地獄の道化師"を名乗る殺人鬼、バラバラ死体、密室、暗号、連続自殺事件......などなど、探偵小説的ガジェットがこれでもかと詰め込まれていて、なんだか新本格ミステリに夢中になっていたあの頃を懐かしみながら読みました。
作中にも示されるような江戸川乱歩の名探偵vs怪人という構図。四大奇書の後半『虚無への供物』『匣の中の失落』のような探偵小説的であることへの自己言及と高校生のノリ。冒頭に坂が出てきますが、「暗闇坂島田荘司ケレン味や「眩暈坂」京極夏彦のデビュー作の夏の空気感とか、、、他にも二階堂黎人とか、町にバラバラ死体がばら撒かれる光景はちょっと西澤保彦『解体諸因』なども彷彿とさせ、ミステリファンからしたら「うおおおぉぉぉぉ!!」としか言いようのない、ミステリが持つ雰囲気や様式美へのオマージュが散りばめられていてニヤニヤしながら読んでしまいました。

とはいえ、古臭い探偵小説をそのまんまやってるだけじゃなく、その型に現代的なテーマをよそって出してくれるのが良い違和感があり面白いです。
好奇心、野次馬根性剥き出しでセンセーショナルな事件に食いつく群衆。「痛ましい」と言いながら次の死体が出るのを期待し、容疑者も被害者も批評する。
それはTwitterのトレンドを見ては政治家の失言にも芸能人の不倫にもバイトテロにも一家言持ち出して裁いて捌かなければ気が済まない私の姿のようでもあり、身につまされました。つまつま。

そして、ある衝撃的な展開から一気にスピード感が上がって解決編へ雪崩れ込んでいく勢いが良いし、その解決もめちゃ面白かった。
まぁネタバレになるのであんま書けんけど物証からシンプルなロジックで犯人を詰めていく面白さがありつつ事件自体の構図とか密室トリックとかの現象的な意外性にもヤラれたし、捻くれたホワイの観念的な意外性にもヤラれました。
つーかまぁ正直「うわ、俺もこういうの書きてえ......」と思ってかなり凹むくらいには好みのミステリそのものですね。
ストーリーは深刻に、でもミステリとしてのトリッキーなアイデアはぎゅうぎゅう詰めで、でもトリッキーなだけじゃなく伏線回収や論理的推理が下支えしてるってのがやっぱ一番好きですね。
あと、両作品のネタバレになるのでこれも詳しくは書けないけど、作中に言及される『ジョーカー』の結末を思わせる部分があり、ついでに言えばノーラン版のジョーカーみもあって、探偵小説とハリウッド映画を「ピエロ」で接続するアイデアが映画ファンでもある著者ならではで面白いです。

あとミステリ部分やテーマ性意外で個人的に好きだった点が3つほどあります。
まず、著者のブログ読んでても好きなところなんだけど、独特の醒めたユーモアがあるんすよね。淡々と突き放すように面白いこと言うから一瞬笑っていいのか迷う感じの。
それと、地元の小さな田舎町を少年少女があちこち動き回るところ。私も中学の頃に町内のお寺を全部回るみたいな無意味な冒険をしてましたが、こういう町内探検的な感覚って大人になって車で移動するようになると薄れてしまうのでなんか懐かしくて泣きそうでした。
あと、食べ物の描写がなんか独特でそこも良かったです。紅茶にあれ入れるとか、西瓜に砂糖かけるとか、私にはない嗜好でへーえと思いました。カレー屋のシーンもなんか好き。

とまあそんな感じでデビュー作らしく著者の好きなミステリがこれでもかと詰め込まれている(のであろう)作品で、それが私の好きなミステリともかなり重なる部分が大きかったので刺さっちゃいましたね。喰らっちゃいました。
連載完結お疲れSummer Daydream‼️