芥川賞候補にもなり話題になった著者の、「おじさん」の悪口を言うコラムを本にまとめた一冊。
どうしても啓蒙活動と抗議運動より、
狂騒のレディキュールとクリティークで
男社会を蹴っ飛ばしたくなる
まえがきに宣言されているように、男社会の価値観を作り蔓延させそれに乗っかってる有名おじさんについて、批評っぽい切り口を交えつつ基本的には言いたい放題に馬鹿にして嘲笑うという内容。
いわば放言に近いような本ではありつつ、切れ味鋭くもユーモアのある素敵すぎる文章で書かれることで毒気はあっても変なイヤミはなくさらさら読めてめちゃくちゃ面白かったです。
そして、槍玉に挙げられるおじさんもミュージシャンのミスチル、オザケンから、芸人の渡部建、岡村隆史、作家の村上春樹、内田康夫、政治家の麻生太郎、安倍晋三、ガースーなど各界にわたり幅広く網羅されているので、文化論的でもあり政治論、社会批評のようでもあり、しかしあくまで居酒屋で友達同士で悪口言うくらいのノリは保たれてる温度感が好きです。
そもそも何で買ったかっつーと、タイトルが気になって著者名も最近話題になってて知ってたからぱらぱらめくってみたら、Mr.Childrenの桜井おじさんの項で、
日本語の国に生まれて良かったと思えることなんて、努力せず漢字が書けることと、スピッツを母国語で聴けることくらいしかない
と書かれていて、俺が普段言ってること本当にそのまんまだったので気が合うやんと思って衝動買いしちゃったんですよね。
そして私はミスチルおじさんのこと嫌いなので、ミスチルのキモい歌詞にツッコミ入れるくだりとか読んで爆笑しながら「せやねん!」「よくぞ言ってくれた!」「やっぱミスチルなんかおっさんが聴く音楽やなぁ」とか溜飲を下げてたんですが。
しかし私がミスチルのこと大嫌いなのにミスチルのファンやり続けてるのはやっぱ私にもおじさん的感性があるからなのかもしれん.......と、ふと我に返って著者の軽蔑の視線は私にも向けられている気がしてひやりとします。
それで言うと、『ボクたちはみんな大人になれなかった』の著者・燃え殻おじさんの項なんかはまさにグサグサ刺さりましたね。
なんせこのブログでもあの『大人なれ』をベタ褒めしてる記事を書いたくらいなので......。
好きな女のことブスとか言いたくなっちゃう気持ち、すごい分かるもんなぁ......あかんわ。
という感じで、私もなんつーかこう、おじさんらしいおじさん嫌いだし女の側に立っていたい気持ちはあるんだけど俺も間違いなくおじさんでもあってミスチルにほだされたりしてしまうのが悲しい......。歌詞が好きなミスチルの曲ベスト10は「アナザーストーリー」「ファスナー」「未来」です。感性おっさんやんけ!!!
そんでスピッツは年齢性別で言えばちょうど脂の乗ったおじさんのはずが全然おじさん臭くない、少年であり続けておじさんになることなくお爺さんになりそうな感じが憧れしかない。この本には「スピッツ」という単語が3回出てきた(はず)。本にスピッツって書いてあると何回書いてあったか数えてしまいます。
そんなこんなで個人的に本書で一番印象に残ったフレーズはこちら。
嫌われる自由を奪ったのは実はテレビなんかじゃなくて、嫌いながら許す力、嫌いなものの存在を認める力を失った人々である
本書自体が、なんつーか対象のおじさんを嫌いながら軽蔑しながらもどこがあかんかをここまでしっかり考えて書いてる時点で認めてもいるわけで。
私なんか気に入らないとすぐ「麻生死ね」とか言っちゃうので、反省。
私もいかなる場合でも誰の死を願ってはいない(原文ママ)
すぐ死ね死ね言っちゃいけないね......。