偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

LETO(2018)


1980年代、西側諸国の文化が排斥されていたソ連において、アンダーグラウンドではデヴィッド・ボウイTレックスの影響を受けたロックが流行していた。そんな中、ミュージシャンを目指し弾き語りをするヴィクトルはバンドマンのマイクと出会う。彼と音楽活動に励むヴィクトルだったが、次第にマイクの妻のナターシャに恋心を抱くようになり......。



実在のソ連のバンド「キノー」をモデルにしつたロシア・フランスの音楽青春群像劇。

社会主義の抑圧の中で西側の文化であるロックをやってる若者たちの鬱屈した日々を淡々としたモノクロ映像で描きつつ、そこからの解放を願うようにトーキングヘッズやルーリードやイギーポップらの曲を歌うシーンはMVのように文字や稲妻がそれだけカラーになったりして飛び交うポップな演出になってて爽快でした。そこに警告のように「これはフィクションだ」と言い続ける眼鏡イケメンが好き。

ただ、全体にはシリアスで重いトーンの映画で、よくあるバンド初めてどんどん売れていくサクセスストーリーみたいな話では全然ない。
世の中からの圧力の他にも、アングラのバンドシーンでも「コミックバンド」扱いされてその芸術性を汲み取ってもらえず苛立つヴィクトルがいじましかったり、音楽仲間の妻と恋してしまって半ば公認の不倫状態みたいになるフクザツすぎる人間関係などもけっこうしんどくて、MVシーン以外は全然爽快じゃない。でも観終わった後は若者たちの生き様が焼き付いて悪い後味ではなかったです。

あとアジア系の血が混ざってる感じの主人公ヴィクトルの薄いようで不思議な存在感のある顔や、ヒロインであるナターシャの美しさが印象的で、あんなお姉さんが近くにいたらそりゃ人妻だろうがなんだろうが好きになる以外ないよな......と思う。というか、夫マイクへの愛はありつつも夫よりヴィクトルの方が自分に近く感じて彼に心を寄せていってしまう彼女の、傍目には拙僧がないと思われそうなフクザツな乙女心こそが1番印象的だった。彼女こそ影の主人公だと思う。