偽物の映画館

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夕木春央『十戒』感想


非常に話題になった前作『方舟』に連なる、聖書関連の二字熟語タイトルシリーズ第2弾。


亡くなった叔父が遺した枝内島をリゾート化する計画の下見として、父や不動産会社、建築業者などの関係者たちと共に島を訪れることになった里英。
しかし、島の視察を終えた翌朝、1人の男が殺される。別荘には、犯人によるものと思われる十の戒律を書いた紙が残されていた。
そこには、「犯人を見つけようとしてはならない」などの戒律を守らなかった場合は、島内に大量に存在する爆弾の起爆スイッチを入れるとあり......。


というわけで、シリーズ2作目。内容的には独立した作品であるので、一応本作から読んでも大丈夫にはなってます。
ただ、個人的にはやはり結末のインパクトは前作『方舟』に軍配が上がると思うので、順番通り読んだ方がより楽しめる気はしてしまいます。

とはいえ、本作もなかなか面白かった!

とりあえず、前作の衝撃と何とも言えない嫌な味わいを求めて読みましたが、その点では本作も期待通りに楽しめました。
オチはどうしても前作の免疫があるので「どっひゃー!びっくり!」とはいかず、なんとなく予想の範囲内ではあったものの、しっかりインパクトある結末をやってのけてくれた満足感はデカい。
また、物語の不穏さで言ったら第4章「証拠隠滅」の異様な状況における一連の流れがゾワゾワしてとても良かった。うわぁ......って感じ。
あと、ネタバレになるので言えないけど事件の謎解きとはまた別にオチが好きな方向性だったので良かった。


ただ、物足りなかった点もあります。

まず、前作では印象的な小道具を使ってシンプルかつ読み応えのあるロジックが展開されたわけですが、本作はそのロジックの部分がだいぶ弱くなってしまった気がします。私が溶けたわけではないけど、いかにも怪しい点に関して、いかにもありがちな小道具を使って、とある一点に気づけば一直線に解けてしまう易しめの問題だったので、ロジックにあんま興味ない私でも「あれ、そんだけ?」という感は否めませんでした。
また、タイトルにもなっている「十戒」というのが、実際は十戒というよりは犯人からの作業指示書みたいになってるのもちょっと拍子抜けで、タイトルと状況のマッチング度も『方舟』ほどじゃなかったかなぁ、と。

まぁとはいえ、あんだけ話題になった前作から短いスパンで局所的には期待通りの作品を出してきてくれるのはやっぱ凄えし、シリーズ化というか、3部作くらいで出して欲しいっすね。次はタイトルなんやろなぁ。原罪?福音?聖霊?みたいな感じで、シリーズ次作も楽しみにしてます。出るか分からんけど。





以下、本作及び『方舟』のネタバレを含みます。




































































































綾川さんがなんか一枚噛んでそうな気はしてたものの、主人公によってアリバイが確認されているから犯人その人だとは思わなかった......というかちょっと頭をよぎったけど消去しちゃってました。
それを踏まえてみると、綾川さんが機転を効かせるように見せて犯人との交信手段を発案したりしてるのに笑った。
そして「証拠隠滅」で犯人が暗躍するのがめちゃくちゃ怖かったんだけど、綾川さんが全裸で死体を処理しに行ってたんだと思うとちょっと興奮してしまいますよね。
あと、ラストも百合っぽくて興奮してしまいます。

そんな綾川さんが、『方舟』のあの人だった(ってことだよね?)のには仰天しつつも納得。彼女ならやりかねん......。
しかし、この人が2作通しての黒幕ということで、たぶんこのまま終わらずに次もありそうだけど、さすがにまた犯人だったらすぐ分かっちゃうし、どういう手を使ってくるのかとても楽しみです!