偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

オールド

とあるリゾートホテルを訪れた主人公たち一家は、何組かの他の客たちと一緒に特別にプライベートビーチへ連れてこられる。
最初はその美しい景色を満喫していた彼らだったが、やがて時間の過ぎ方がおかしいことに気付き......。

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待望のシャマラン最新作!
かれこれ10年くらい前にシックスセンスを観てからシャマランのファンですが、映画館で新作として観たのはスプリット、ミスターガラスに続いて3作目。
前の2作が個人的にあまり興味のないヒーローものだったのもあり、劇場鑑賞したシャマラン作品では一番好きでした。

とりあえず冒頭のご挨拶で笑いました。なんなんだこいつ。可愛いかよ()。

さて本編ですが、毎度奇妙な設定の面白さで楽しませてくれるシャマちゃんですが、今回は老いるスピードが速くなるビーチというなんかノーラン感のある設定。
ノーランに比べて色々ツッコミどころがあるのを無理矢理な説明セリフでなんとか押さえ込もうとしているあたりとても可愛いです。

しかし、この設定によって登場人物がどんどん成長し老けていく描写は絵的に面白いし、設定を駆使した嫌な死に方とかもちょいちょいあって面白かったです。
特に洞窟のシーンのアレとかはトラウマもの。グロい場面すべてはっきり見せずにどうなったのか示す撮り方も上品で良いですね。
また、本作はシャマランには珍しくエロもあります。
といってもエロもまたおっぱいポロリみたいな直接的で分かりやすいものではなく、抑えていつつ奇妙にフェチっぽい描写なのが良かったです。

ストーリーに関しては、先に言ってしまうと終盤は蛇足に思えてしまいました。
シャマランといえばどんでん返しという世間の間違ったイメージに応えようとしてか、なんだか取ってつけたようなオチがついています。
これが凄い微妙なんですよねぇ......。
それまでの話とはジャンルが変わる、テーマが変わる......というのもあるんだけど、もっと根本的に映画からテレビドラマに変わったみたいな安っぽさが急に立ち現れて残念な限り......。
迷走期以外はホラーやスリラーのみを撮り続けてきながら、持ち前の優しさから決して純粋なバッドエンドを描かなかったシャマランですが、今回はそれが悪い方に出てるように感じてしまいました。

ただ、そこに至るまではめちゃくちゃ良かったんですよね。
両親と姉弟から成る主人公たち家族は最初から分かりやすく問題を抱えていて、それがビーチでの現象をきっかけに表面化しつつ他の客たちも何か訳ありな感じを徐々に出してきて......という、人間ドラマ、特に家族ドラマを淡々と、しかし丁寧に描く筆致は俺たちの好きなシャマラン節!
今回はそこに"老い"というテーマを加えることで、死への恐怖と人生の尊さを一つに重ねて描き出す、恐ろしくも優しい哲学スリラーになってるんすよね。
また、いつものサラッと流れすぎてユーモアなのかどうか気付けないレベルのユーモアも健在。
いつものように気持ち悪いシーンにこそそういうユーモアが入ってて、ビビりつつもかなり笑っちゃいました。
そして、個人的にクライマックスだと思ってる夜の場面ではもうギリギリ泣いてないくらいまで涙腺がうるうる来ちゃったんだけど、そっから前述の蛇足な結末へ入っていくことで潮が引くようにすぅ〜っと醒めてしまいました。

ちなみに主演の姉弟(青年期)はそれぞれ『ジョジョラビット』『ヘレディタリー』という大好きな映画に出てて印象的だった若き俳優たちで、前作のアーニャちゃんといい絶妙にエモいキャスティングしてくるあたり好きですね。

そんな感じで、いつも の悪い癖が出ちゃってるところもありつつ、全体には非常に面白く、かつ考えさせられる作品でした。
また、リゾートという舞台や、中盤の卒業式に関するセリフなど、コロナ禍を念頭に置いているような部分も多々見受けられるのも感慨深いです。
このご時世だからこそ映画ファンにちょっとでも癒しと息抜きを......という、シャマランなりの映画愛とファンへの愛を堪能しました。