偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

LEGO®︎ムービー

すべては最高〜♪


......というわけで、数年ぶり2回目に観ましたがやっぱりめちゃくちゃ面白かったです。



平凡なLEGO®︎ブロックの作業員エメットはひょんなことから賢者の予言にある「伝説のパーツ」を手にし、悪の帝王"おしごと社長"の魔の手から世界を守ることに!

......って感じのお話でした。


本作の大きな魅力は2つ。



一つは圧倒的なサービス精神!

導入からもの凄いテンポでセリフとギャグと歌が詰め込まれていて、そのハイテンションのまま最後まで突っ走ります。吹き替えで見たので山寺のせいもあるかもしれないけどまさにノンストップ。ギャグの質もなんか身も蓋もないというか、ユーモアとかじゃなくてバカなギャグなんすよね。そうとても馬鹿馬鹿しい。それがなんか分かりづらい冗談でしか笑えなくなってしまった捻くれた心に染みるのです。

そしてLEGOの映画って「バットマン」とか「ハリーポッター」とか「スターウォーズ」みたいに決まった世界観がないのに何をやるんだろう?って思ってたら、バットマンハリーポッタースターウォーズも出てきました。他にもいろんな有名キャラや何故か有名映画監督も出てくるあまりにもごった煮闇鍋な多重世界観がとにかく楽しいです。
故人的にはやっぱバットマンのキャラが好きですが、師匠も可愛いしメンヘラユニコーンも異彩を放ってて好きでした。あと二段ソファ、俺は良いと思うぜ。

また、アクションもキレッキレ。LEGOブロックでアクションやったってチャチいっしょ......とか見くびってたけど、ブロックだからこそ実写では出来ない変形もめちゃくちゃな動きもありえないスピード感も搭載された超絶アクションの楽しさよ!動いてるものを観てるのが楽しいという、ある種シンプルで原始的な映像体験をさせてもらえました。



と、娯楽映画としての突き抜けたサービス精神で一瞬たりとも飽きさせない(まぁ詰め込まれすぎておじさんには疲れるところもあるけど......)ところが本作の魅力の一つです。
しかし、それでいて物語のテーマとしては重層的で、LEGOブロックのように緻密に組み上げられたドラマとしても観られる、というのがもう一つの大きな魅力。

なんせ、主人公のエメットが毎日労働してみんなが好きな音楽、テレビ、食べ物を好きだと言う個性を持たない男でして。

私自身はみんなが知らない音楽を聴いて映画を観てテレビは見ない個性的な人間であるつもりでしたが、そうやって外側にマニアックなものを纏おうとしても結局そういうこと思ってること自体普通オブ・ザ普通でしかなく、しかも働き出してからはそういう趣味への関心も少しずつ擦り減らされてきてたりもして。
だから彼が「誰それ?」とか「自分の意見がない奴だよ」とか言われるシーンはマジでグサグサ刺さりましたわよね。そんな何かしら中身が欲しいと思ってる中身のない人間が私です。
そんなアイデンティティとは?という哲学的なテーマ、また資本主義における労働者のモノ化みたいなものも込められているように思えます。

ボスキャラである"おしごと社長"によって気付かぬうちに統制された世界はディストピアSFそのもので、現代社会そものもでもあります。

また、そうした社会風刺的な面とはまた別に、「自由な発想」を賛美しつつも、そのためにはマニュアルも重要、というメッセージも新鮮です。小学生の頃、書き方も教えられずにただ読書感想文を書けとか言われてどうしていいのか全く分からなかった身としては、ただただ「自由にやれ!」とだけ言われるよりどれほど救われることでしょう。

また、これはネタバレになってしまうのでここには書けませんが、終盤のとある展開によって、これまで観ていた物語が全く別の顔を見せて、ようやくファミリー映画らしい真っ直ぐなメッセージが現れるあたり、ミステリ映画としても完璧なんですよね。思い返してみればあからさまな伏線が大量に張られているのも気持ち良すぎる。
そして、絶望的な(?)結末からの、すべては最高〜♪が最高。このテーマ曲めっちゃ中毒性あってしばらくは毎日歌ってしまいまそうです。


そんな感じで、ファミリー向けの娯楽映画としての過剰なまでの観客を楽しませようという意識と、大人が見ると色んなテーマを発見できる懐の深さを両立した軽くて重く、浅くて深い大傑作です。
まじで初めて観た時はこんなに面白いと予想できるはずもなく、面白すぎてびっくりしちゃいましたからね。

以下ネタバレ。

































































序盤の個性を失った労働者みたいなエゲツない描写からして大人向けであることには気付くべきでしたが、それにしてもあのメタなどんでん返しには驚かされました。
現実パートの役者さんたちがテレビの再現VTRとかに出てきそうな「いかにも」さがあるのも好き。

んで、そこまではそれこそ労働とか人生の意味とかアイデンティティとかいう大人の悩みが寓話的に描かれた映画だったのが、ここに来て同時にそんな大人になりきれない親に対する子供からの対話の呼びかけのようになっていくことでより立体的な物語になるあたりがめちゃくちゃ上手いと思います。
まぁ考えてみれば冒頭のフラッシュバックやら、上にいるお方やら、絆創膏やら、お仕事社長というネーミングにしたって全てが伏線なわけだけど、ナメてたせいで気づかなかったよこれ......。

最終的にはかなりベタで泣けるメッセージが込められていつつ、過程の部分が尖っているのと最後の最後のちゃぶ台返しみたいな(しかし必然性のある)オチのおかげで説教臭く感じさせないところも上手いっす。
きっと私みたいに純粋だからこそ捻くれたフリをしなきゃ生きていけない人が作ったんだろうな、と真偽は定かじゃないけど思ってしまって愛おしい傑作です。