偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

怪談マンガアンソロジー『コミック幽』

先日友人と小牧古書センターへ行ってきました。お店の広さはブックオフの小型店より小さいくらいでしたが、雑誌(バイクとか音楽多め、『幻影城』なんかも!)、エロ本、そして漫画が充実したお店でした。

そこでなんとなく手に取って、収録された作家のメンツの豪華さに思わず買ってしまったのがこちら。


コミック幽 (MFコミックス)

コミック幽 (MFコミックス)



収録作品は、以下の通り。



実際にこの中で過去に読んだことあるのは諸星さんと中山さん、摩耶さんくらいですけど、高橋さん五十嵐さんも名前は聞いたことあって気になってた作家さんだったので、そりゃ買いますよ。



収録作のバラエティに富んでいるのがなんといっても良かったです。
収録作品は大半が6ページ程度の超短編です。
そんな縛りがありながら、実話系怪談風のものから怪奇幻想、現代ホラーに小泉八雲にエッセイ漫画まで、ひとくちに怪談マンガアンソロジーといっても幅広い作風を網羅していて、一冊で飽きずにいろんな世界を楽しめました。
ホラー系の漫画を読んでみたいけど何から読めばわからない!という私みたいな人にはオススメ。
一方、最後に書きますがアンソロジーとしては収録順がまずいような気がするのが難点です。もちろん、あえてなのかも知れませんが......。

では以下各話の感想をちょっとだけずつ。





諸星大二郎
「ことろの森」「あもくん」「呼び声」「呼び声」「ドアを閉める」「猫ドア」


守という息子を持つ平凡な父親の「私」が体験した六つの怪談の連作。
同じく幽から出てる実話系怪談の本に載ってそうな感じの、日常と地続きの怪異を描いたオーソドックスな怪談集です。
各話とも導入から結末まで常に一定のトーンで淡々と語る主人公が一番怖いみたいなところがあって面白いです。いやいや、そこもっとびびれよ!と言いたいくらい、怪異に対しても淡々としてる。でもたぶん私が実際こういう現象に遭遇しても「ウワーッ!!」とは言わないと思うので、そのへんすごくリアルで怖かったです。
特に気に入ったのは、オチがお話として不気味な「あもくん」、オチが絵として不気味な「猫ドア」のふたつですね。

ちなみにこのシリーズ、その後単行本化もしているようなので気になります。諸星さん結構好きだしいずれ読もう......。





押切蓮介
「赤い家」「黄泉の風」「暗い玄関」

最近、といってもちょっと前からですがホラー系マンガの話題になるとたびたび名前を聞くようになった作家さんで気にはなっていたので読めて嬉しいです。
諸星さんのノスタルジックな作風に比べ、こちらは現代の日常の中に恐ろしいものを描いています。陰鬱な「赤い家」、中身のない「暗い玄関」はイマイチでしたが、「黄泉の風」はオチが見事に決まっていて二重の怖さがある傑作ですね。
あと絵柄も可愛くてちょっと不気味で良かったです。また読んでみたい。





五十嵐大介
「背中の児」「しらんぷり」

短いページ数で、説明しすぎることなく不気味なものの姿を描き出した二編。ショートショート・ホラー漫画という縛りに期待するものを本書で最も見事に体現していると思います。ノスタルジックな雰囲気も素敵。





中山昌亮
「呼んでる?」

『不安の種』を何冊か読みました。この話もああいうビジュアルインパクト重視の作風ですね。ただこの短さでこれをやると「そんだけ??」という拍子抜けのような感想を持ってしまいますね。ストーリーがないのに冒頭だけなんかストーリー仕立てなのもその要因かもしれません。なんにせよ、こういう作風だともっとじっくり焦らすべきなんだろうなと思います。





伊藤三巳華
「憑々草」

見える著者がホラーな体験を憑々なるままに綴ったエッセイ漫画。
なんというか、もう私の好みの問題として、こういう自分の世界に浸った感じのエッセイ漫画自体好きじゃないんですよ。しかも私はまるっきり、"信じてない"から、エッセイとしてホラーな体験をガンガンぶつけられると引いちゃうところもあり......。
すみません、要は合わなかったんですね。





高橋葉介
「陰陽」「紅い蝶」「ふらんそわ」「蛇女の絵」「森を駆ける」「心霊写真」

これは大好き!
BUMP OF CHICKEN曰く、胸を張って誇れるもんは名前と誕生日とキュートな指紋くらいあれば十分らしいですが、私は誕生日が江戸川乱歩と同じことだけは胸を張って誇ってるんですよ!......どうでもいい。
で、そんな感じに乱歩先生をリスペクトしている私なので、こういう怪奇幻想探偵小説的アトモスフィアをぶちかました作品は大好物なのです(小説じゃないけど)。
だから、一本目の「陰陽」を読んでもう、やられました。そこから「蛇女の絵」までの4編は、いずれもエログロと戦前ロマンに溢れた作風。とにかく絵がステキですね。これらの作品で描かれる女たちは可愛らしくも艶やか。エロさに喜ぶとともに、女という存在への根源的な畏怖が湧き上がってきます。
お話としてはオチがオシャレすぎる「紅い蝶」が、ヒロインでは可憐な少女から生々しい妖女への返信が印象深い蛇女さんがそれぞれお気に入りました。ふぁぼ。



この画風はサブカル厨殺し


一方、後半の二話はここまでの話とは雰囲気がガラッと変わります。
「森を駆ける」は、童話から材を取っただけあってメルヘンな雰囲気。しかし不思議な構造の中に取り残されたような読後感はやはり怪奇小説ならではですね(だから小説じゃないってば)。
「心霊写真」はというと、もう最初っから奇抜な構成で楽しいですね。コピペのようですが、一応ちゃんと一コマごとに書き直してるようで微妙に顔が違ったりします。ラストは爆笑もの。というか、これ駕籠真太郎ですよね!?駕籠真太郎がよく書いてるのこういうの。

ってわけで、本書収録の中でダントツ一番好みな作家さんでした。好きすぎて4冊単行本を買ってしまいましたよ。それの感想もまたいずれ......。





秋山亜由子
「安芸之助の夢」

ラフカディオ・ハーン......おっと失礼、教養が滲み出てしまいました。いわゆる小泉八雲氏の作品を基にしたお話です。
夢の中でひとつの人生を体験する、という出来事自体が非常に詩的で素敵です(押韻技法)。
ここまでのものはなかなかないものの、自分も普段夢の中で妙にリアルな自分以外の人生を体験することが昔はたまにありました。そんな時、起きてからなんとも言えない気持ちになるものですが、その「なんとも言えない」がラストの安芸之助の表情に見事に表れていて余韻が残ります。この辺は漫画ならではの醍醐味ですね。
読者もたった数ページでめくるめく夢を見た後のような心地に浸れる傑作。





花輪和一
「柿」「魂魄」「浸水」「みそぎ虫」「迷路」「祟り」

どのお話も、戦前くらいの雰囲気の田舎が舞台で、ものすごく日本のホラーらしい空気感が楽しめます。絵の感じも、決して綺麗ではない、むしろどこか汚らしい絵ですがそれが内容にマッチしていて雰囲気はいや増すばかり。
ストーリーは魂魄などの怪異が出てくる話が多いですね。9割方シリアスなのですが、ラストだけ妙にギャグになってて、たぶんわざとそういう作風なんでしょうけど、その不思議な読み心地がクセになりますね。最初はなんぞこれと思いましたけど、案外好きです。





魔夜峰央
トランシルバニアの化け猫」

パタリロのミステリーの巻を読みましたが、だいたい同じ感じ。怪談というよりゴシックホラーミステリですが、吸血鬼の末裔に会いに行くという設定の時点でめちゃくちゃ面白いです。ヒリヒリするやりとりにするっと潜ませたギャグのセンスも抜群。やっぱこの人の作品好きかもしれません。パタリロもっと読も。





波津彬子
「幽霊、恩を謝する事」「化鳥」

前者は「耳袋」の中の一話、後者は泉鏡花の同名短編を、それぞれ原作にしています。
前者はなんてことない話ですが、絵が付くことで叙情が際立ってます。
逆に後者は小説で読むとちょっと難しく感じる話ですが、絵で書かれるとすんなりと感情移入できちゃいます。
いずれにせよ、文章を漫画にすることがいい方に出た二作品です。





大田垣晴子
「あなたが怪」

妖怪図鑑。しかしただの妖怪図鑑ではなく、妖怪の特徴を挙げ、それに似た特徴を持つ人間をあげつらって「あなたが怪!」とやっつけるコラムみたいな漫画です。
発想は面白いけど個人的にはあんまり合いませんでした。というのも、だいたいが見開き2ページだけで妖怪の紹介とエッセイを詰め込めんでるから内容が薄いんですよね。
絵の可愛らしさに騙されそうになりますが、内容はだいたいがしょーもないor品のない性に関する話題ばっか。それでも箸休め的に他のお話の間に入ってればいいものの、なんでか知らんけどこれが本書のトリなのでなんとも尻すぼみになってしまっているのが惜しいですね。