偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

王谷晶『ババヤガの夜』

本棚探偵さんで借りた話題作。


北国で生まれ育った新道依子。暴力の世界に生きる新道は、暴力団内樹会の男たちに捕獲されて会長の一人娘の尚子の護衛を務めることになる。住む世界が違う新道と尚子だったが、次第に心を通わせるようになり......。


男の世界における2人の女性の紐帯を描いた中編......が、エグいバイオレンスアクションなのが捻くれてて凄い。
主人公の新道はヤバい祖父にしごかれて育ったせいで鬼つえーんだけど、大勢に取り囲まれて瓶で殴られたら卒倒するくらいのちゃんと生身の人間なのが良かった。
暴力が趣味ってのがやべえけど、私もやはり暴力にどうしても惹かれてしまうところがあるので新道の暴れっぷりは痛快で。
作中にもありましたが、男による暴力には権力とか社会的地位とか力の差を笠に着たものが多いので胸糞悪いんですが、彼女がヤクザたちをぶちのめすのはそういうの一切ないし、お互いヤル気の純粋な喧嘩なので、ただただ「うおーっ!!!」ってなった。
一方、もう1人の主人公である尚子はヤクザの家で丁重に扱われているとは名ばかりの実質幽閉状態で、幼さの中にその環境から来る強さがあるのが痛々しい。
そんな、あまりにも育ってきた環境が違う2人のトボけたやり取りも面白くて、殺伐とした物語の中でも少しほっこりします。

しかし後半ある出来事から一気に加速する物語は、意外な転調も経てさらにバイオレントな方向へと加速していきます。この辺、胸糞悪さもめちゃくちゃありつつぐいぐい読まされちゃいますね。

そして、狂騒の物語の果てにある静かで烈しいエンディング。
「2人の関係性は言葉にできない」ということを丁寧に言葉で説明しているのが少し野暮には感じましたが、切なくて美しくてかなり好み。
短い分量ながら密度がエグく、しかし短さによるスピード感もあって、とても面白かったです!

タイトルのババヤガの意味は作中では明かされませんが、調べてみてまた余韻が深まるあたりも良い......。ババヤガの生き方、できないけど憧れてしまう......。