偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

山田風太郎『忍法八犬伝』感想

風忍法帖、時々無性に読みたくなりますよね!!


というわけで読んでみました!


南総里見八犬伝』から遥か後の江戸時代、里見家に代々伝わる「忠孝悌仁義礼智信」の珠は、8人の伊賀の女忍者によって「淫戯乱盗狂惑悦弄」にすり替えられた。
甲賀での忍術修行を抜け出して好き勝手に生きていた若き八犬士の末裔8人は、主君のため......ではなく、その奥方の村雨姫のために珠を取り返そうと奮闘するが......。


そもそも滝沢馬琴氏によるフィクションであるところの『南総里見八犬伝』を史実とした上で、実際の史実と混淆する、山田風太郎らしい虚実入り乱れる忍法絵巻......であるらしいです。
残念ながら日本史も知らなければ原典の八犬伝の内容もろくすっぽ知らない私はその辺の妙味は全く味わえませんでしたが、それでもめちゃくちゃ面白かったです!


まず、忍法バトルが実際に始まるまでの前置きがやたらめったら長くって、なんせ里見家での出来事から始まり珠のすり替えや主人公たちの父親たちの奮闘などなど、そこからさらに江戸で各々好き勝手に生きている若き八犬士たちそれぞれのキャラ紹介パートなんかがもう200ページくらい続いて、一向にバトルが始まんないんすよ。
でも、その辺の前置きパートがもうすでにべらぼうに面白いっていうね。
バカ殿のバカっぷりも笑えるし、お堅い老八犬士のカッコ良さと奔放な若き八犬士のカッコ良さのギャップも良いっす。
そして何より村雨姫たそが可愛すぎるんですよね。彼女が少林サッカーみたいにやる気のない仲間たちの元を回って「サッカーしようぜ!」って説得していく流れが楽しい。純情可憐なのに天然で男を破滅させてしまう魔性が堪らんっす......。

そんな感じの長い導入が終わるといよいよ忍法バトルが開幕するわけですが、正直本作は忍法バトル部分だけで見るとそんなに派手さはないですね。
もちろん蝋燭の忍法みたいにやべえ技も出てきてかなり笑えるんですけど、女側がそんなに変な忍法を使わないから出てくる忍法の数自体が少ないし、基本1vs1の戦いなので中盤まではそんなに戦略云々もありません。
しかし、物語が佳境に差し掛かってくると、軍学者の犬村を中心に政治的な面まで含めた戦略バトルに変わっていき、さらには元々強く団結してはいないだけに仲間同士でもそれぞれに思惑があって......という複雑な話になってきて、ミステリ的な面白さも一気に増していきます。
それと同時に、だんだんとオタサーの姫こと村雨姫を中心とするラブコメ要素も色濃くなっていって、ジャンプのバトル漫画かと思ってたらジャンプのお色気漫画になるみたいな感じで大変面白いです。

なんだけど、ラストは切なく美しい余韻が残る......というのは忍法帖のお約束ですが、本作では(ネタバレ→)珍しく生存者が1人いるんだけど、それをこういう切なさで描くというのがやっぱ凄いと思います。

という感じで、バトル部分よりは人間ドラマ要素が強いですが、そっちの面ではめちゃくちゃ面白い傑作でした。