偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

村崎友『風琴密室』感想

『夕暮れ密室』が一部ミステリファンの間で話題となった寡作な著者の、同じく『密室』を冠した最新作。
本作もTwitterで主にフォロワーの間で賛否両論含めて話題になっていたので読んでみました!



小学校5年生の夏、3ヶ月間だけ一緒に過ごした転校生の少女「雨ちゃん」。しかし、凌汰の兄「コーちゃん」の事故が起き......。
それから6年、高校生になり、廃校になった小学校を片付けるバイトをしていた凌汰たちの前に2人の少女が現れる。1人は、あの「雨ちゃん」だった。
しかし台風が訪れ、翌朝、仲間の1人がプールで死体となって発見されて......。


まず先に率直な感想を言っておくと、めちゃくちゃ好きになりそうでいてそんなにだった......という感じです。
それは主に真相とか結末に関わるところなんですけど、それは後でネタバレありで語ることにして......。少なくともそこに至るまでの過程は確かにめちゃくちゃ好きでした。

小学5年生、転校生の少女、夏、螢、田舎、川、高校2年生、廃校、プール、少女との再開、風をあつめて、密室......。
全部好きやん!という感じで全部好きなんですよね。
プロローグ的な位置付けの小学生時代のお話はとにかくノスタルジー全開で、存在しない「あの夏」にいとも簡単に連れ去られてしまい、恋のような恋とは言い切れないようなあの微妙な気持ちとか美しいあの光景とかその後の絶望とか全てがフェチに突き刺さった。
そして本編にあたる第2章からの高校生編もThe・青春という感じでなかなか良かったです。
ただ、男女問わずちょっとキャラ付けが弱いかなと感じるところもあり、特に女の子たちの魅力がいまいち伝わって来ないのがそのまま物語としての魅力を損なっているように思います。回想の中の雨ちゃんはとても魅力的だっただけに、高校生になってからももうちょいあざといくらいでもいいからキュンキュンさせてほしかったかなぁ、と。

そして、真相・結末っすよね。
まず犯人についてはあまりにもノーガードというか、全員が怪しいと思う奴がそのまま犯人だったりするから意外性は期待しない方が良いと思います。
そして、最後の最後の展開なんだけど、あれがまぁネタバレなしには上手いこと言えないんですけど、個人的には『ミスト』とか『セブン』みたいな後味悪い系の映画のラストで無理やりハッピーエンドに持っていくような無粋さを感じてしまいました。
そこが逆に青春の歪みを表現しているのか......?とも思うけど、それこそもうちょいキャラが立っていないとそれは成立しないんじゃないかと思ってしまいました。

そんな感じで期待しすぎたのもあって微妙な感じでしたが、それでも読んでる間は面白くて半日くらいで一気読みできたし賛否問わず語りたくなってしまってはいるので、ある意味めちゃくちゃ楽しめたとは言えると思います。

以下ネタバレ感想。





































































































はい、ではネタバレ感想。


とりあえず、まずミステリとしての真相についてですが、犯人がそのまんま過ぎましたね......。
1人だけ途中から行動が全く描かれていない人物がいたらよっぽどぼんやりしていない限りは「あいつどうなったんだっけ?」ってなるし、登場人物の誰も彼に言及しなくなってくるといよいよ怪しい......というか、怪しすぎて逆に彼が犯人なワケじゃなくて何らかの人物誤認トリックとかが仕掛けられているのかしら......とすら疑ったけど普通に犯人だったので肩透かし。

......と、ここまで書いてきてみんなの感想を見たら「叙述トリック」って書いてあったんだけど、叙述なんてあったかしらと思ってフォロワーに聞いたところ、「八夕」と「ハタ」を混同させる叙述トリックだったようですが......。
「なんか似た名前だから間違えないようにしなきゃ〜」と思いながら2人とも認識して読んだのでトリックだったこと自体に気付かなかったんですよね......。というか、登場人物表にまで乗っている人物をまるっと隠匿するのは無茶というか、読者を低く見積りすぎてる感じはありましたね。



密室トリックに関しては、面白いけど、ちょっと状況が分かりづらいかな、という感じではあります。また、タイトルが風琴密室なのに水ってのも、風流なタイトルなだけにそれがまるっきりただのミスリードってのは無粋に感じてしまいます。
また、暗号はシンプルすぎて特にトリックとかにならないのはしょうがないとして、畳語も使い方がちまちましすぎててすぐ分かっちゃいました。



犯人の悍ましく歪んだ動機にしても、あまりにもハタという人物が描かれていなさすぎて特に何も感じなかったです。



そして、あの結末ですよ!なんなんあれ。
いやもう、雨ちゃんのこと好きだったけどハタに寝取られててしかもそいつが殺人犯でしたバッドエンドならまだ感傷マゾ的な嗜好は満たされたんだけど、結局セックスしてた女は別人だったしこれから雨ちゃんと仲良くなります!みたいな開き直りに近い無理やりな救済はこれはもう救いとは呼べないでしょ......。
仮にも雨ちゃんだと思い込んでた美空ちゃんに惹かれてる部分があったならそんなにあっけらかんとするな!って感じだし、小学生の頃の「雨ちゃん」に囚われているだけで今はどっちでも構わないならそれはそれでサイコっぽいし、なんにしろ主人公の気持ちがよく分からない上にどっちに転んでも気持ち悪い......というのがある種高校生くらいの恋愛=自意識、承認欲求、思い込み、性欲、みたいな価値観がガッツリ表れていてリアルではあるのかもしれない。安易なハッピーエンドかと思ったけど、そこまで読むならかなり歪んだ身勝手な結末とも取れて、そう考えれば意外と好きかも。


全体として、ハタと八夕、雨ちゃんと美空という2つの人物誤認のせいで計4人のキャラが交換可能な薄さでしか描かれておらず、タイトル含めて「風」にこだわったわりに「風を集める」という浅いエピソードと水によるトリックを隠すためのミスリードでしかなく、タイトルからキャラに至るまで全てが空疎な物語。
トリックと物語の融合が好きな私としては、こういうトリックによって物語の魅力が死んでいる作品はやはりあまり好きにはなれなかったです。