偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

門前典之『卵の中の刺殺体』感想


『屍の命題』に感銘を受けて何冊か読んだものの、近作は追っていなかった著者の最新刊を久々に読んでみました。


とある一点を除いて、かなり好きでした。

とにかく外連味に溢れるいくつもの事件の数々。卵の形をしたコンクリートの中での、世界最小の密室殺人。
巷を恐怖のズンドコに陥れるドリルキラーの連続猟奇殺人は、人間をバラバラにしてコンクリートと繋ぎ合わせて遊ぶというミステリファン垂涎の怪事件。
そして、宮村が遭遇するのはそれより5年前の、カフェチェーンの社長が密室で殺害される事件......。

......といった具合に、やりすぎヘビーなこってりミステリでありつつ、文章は知らん間にめちゃくちゃ読みやすくなってました。
状況も分かりやすいし、キャラもそれぞれ区別が付くし、会話も軽妙でするする読めました。
事件そのものの謎が魅力的なだけでなく、いくつかの時系列の話が並行して語られ、どう収拾を付けるのかも気になってしまいます。

そして久しぶりすぎてあんま覚えてないけど宮村くんってこんなに有能でしたっけ?
蜘蛛手探偵が突然海外に自分探しの旅に行くという御手洗みたいなことをしてる中、石岡とは違って仕事もバリバリこなしつつ事件に巻き込まれても頭を使って生き延びてて、えらい!と思います。彼は稀に見るデキるワトソン役ではないでしょうか。
とはいえ、やっぱりおっちょこちょいなところもあって、そのおっちょこちょいによって無駄な謎が一つ増えてしまう辺りは笑いました。

それぞれの事件のトリックに関しては、『屍の命題』のバカバカしさに比べるとかなりマトモになってしまっているのがこの著者の場合はむしろ物足りないとは思ってしまいます。
とはいえ、卵の密室のトリックは映像で思い浮かべるとかなり笑っちゃうし、密室殺人の方もシンプルで面白いと思います。
また、蜘蛛手と犯人との対決シーンも好きです。犯人のイキってるキャラけっこう好きです。

ただ、一点だけ、あれだけが許せねえ!......ってのをネタバレで書きます。











































はい、ネタバレで少しだけ。

たぶんそういう人多いと思うんだけど、無駄に共犯者が出てくるミステリが好きじゃないんです。
もちろん、納得のいく理由付けやガッカリ感を上回る意外性があれば共犯でも全然良いんですよ。実際、戦後を代表する某人気シリーズの有名作なんかほとんど共犯のバリエーションだけどめちゃくちゃ面白いですからね。
ただ、本作の場合は萎えるだけの共犯でした......。そもそもアリバイもので共犯者ってのはナシでしょ。いや、やるとしても2人まででしょ。アリバイのタイムテーブルを頑張って理解しようとしながら読んでたら4人がかりでしたって言われたらもう何でも出来るやん!ってなります。
それでも動機に説得力があればまだ良いんですが、普通に利害関係だけですからね。まぁ1人目の社長はめちゃウザかったから殺してくれてありがたかったですけど......。

ドリルキラーと別荘の事件との連結も、正直微妙なところ。真犯人のキャラが掘り下げられていないから、ここまでやったことにも説得力があんまないんですよね......。

ただ、二つの叙述トリック的な仕掛けは面白かったです。
時系列誤認という手記の型式ならではのひっかけを、メインとしては使わずオマケみたいにさらっと処理しているあたりスマートでオシャレです。
また、野黒美ルポの「こいつは殺してないけど犯人じゃないとは言ってない」みたいなのも、真犯人の歪んだ稚気であるという点も込みで好きですね。こういうことする奴だから......と最後の蜘蛛手とのやり合いに説得力が増します。

そんな感じで、読者への挑戦まで挟まれてからの犯人の正体が大勢いましたではちょっとガックシってのがだいぶ大きいですけど、他の部分はかなり楽しめました。未読のも読んでいきたいところ。