偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022)

アカデミー賞を受賞したから観に行ったわけではないんですが、たまたま受賞翌日に行ってしまいめちゃミーハーみたいになった。
そんなんどーでもいーけど、なんかんけわかんなくて、でもめちゃくちゃ面白かったです!


コインランドリーを営む中国系アメリカ人のエブリンが確定申告のために国税庁に行くと夫のウェイモンドが突然「全てのマルチバースを消去しようとする悪者がいてそれを止められるのはこの世界の君だけなんだ」とか言い出し、訳もわからないうちに国税庁の監査官とのバトルが始まり......。

......という感じの導入。
突然覚醒したかのような夫は、実は他のマルチバースに介入することに成功した"αバース"の夫で、エブリンは他のバースの自分の能力を借りて悪と戦うことになります。
そもそも私なんか「マルチバースってなんなの?ああ、パラレルワールドか......」レベルでSFに疎いので、正直何が起きてるのか全然分からんかったです。
しかし、冒頭のコインランドリーのシーンの生活感と、SFバトルアクションとのギャップにはテンション上がりました。あと、他のバースと"跳ぶ"には「考えつかないような変なこと」をしなきゃいけないという設定により、シリアスなバトルの中でも常に誰かが奇行に走ってるというバカすぎるギャグ映画としても観れて、ついていけなくてもとにかく楽しかった。
さらに「指がソーセージだった並行世界」みたいなナンセンスなバースも出てきたりして、とにかくガチャガチャしてます。
また、いろいろと先行作品のオマージュもあって、キューブリック要素とかは分かりやすかったけど、犬のシーンがキル・ビルとか誰かが言ってんの見てなるほどそれは気づかなかったわ〜と思いました。

しかし、そういうガチャガチャした情報量の多さ自体が、「超・情報化社会で私たちはどう生きるか?」という本作のテーマを体現してるから上手いなぁと思う。
映画も音楽も友達も正しさもスワイプするようにぱっぱっと消費して処理していかなきゃならんこの世界で、真面目に生きようとすればするほど、なんかどーでも良くなっちゃう感じとか、あんまりはっきり意識したことなかったけどこうやって物語として突きつけられると刺さります。
そして、人生のIfや家族の絆(......というと安っぽいですけど、息苦しさとかも込みで)もテーマになっていて、そこんとこのメッセージ性はめちゃくちゃベタなので、どんだけガワがカオスでも話を見失わずに済んだのが良かったです。
ピアノのシーンとか岩のシーンとかさ、ああいうナンセンスギャグみたいなのでめちゃくちゃ泣かせにくるのがズルいわ。

あと、アカデミー賞の俳優賞を(主演男優はいないので他は)総なめにしてる通りキャストもめっちゃ良かった。
主人公と夫の凸凹コンビっぷりとかも最高なんだけど、ホラーファンとしては『ハロウィン』シリーズでお馴染みのジェイミー・リー・カーティス氏がオスカー獲ったってのがエモいっすね。おめでとうございます!