偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

吉野源三郎『君たちはどう生きるか?』感想

宮崎駿監督による同名映画が話題になっているため本作も読みました。
ちなみに映画は本作の影響を受けているだけで直接の原作とかではないです。


コペル君という渾名の15歳の本田潤一少年が、友達や家族、叔父さんとの関係の中で成長していく物語。
児童文学の形をとった、タイトル通り「どう生きるべきか?」ということを考えさせてくれる人生の教科書みたいな本。各章でコペル君が学校などで起こった出来事から自分なりの意見を持ち、章末に「叔父さんのノート」としてその出来事から学ぶべき見方や考え方が教示されるような構成になっています。

とりあえず、単純に少年の日常を描いたお話として面白くて、虐められているクラスメイトと仲良くなっていく過程とかクライマックスの友達を裏切ってしまい苦悩するあたりなどは時代を超えて普遍的に感動できる物語だと思います。
その上で、倫理や道徳について考えさせられるわけですが、この辺も大きな社会や歴史というものと自分との繋がりを示した上でその中でどう生きるべきかが問われているので、なんつーか小学校の頃の胡散臭い道徳の授業なんかよりよっぽどスッと入ってくるんですよね。
現代だと個人が歴史とか社会とかとの繋がりを感じるのも難しく、そのせいか本書やジブリ同名映画が「説教くさい」なんて言われているのもよく見かける気がします。しかし曲がったことが権力によって平然と行われ、小判鮫みたいなよく分かんない人たちがそれに追従してるアホくさい今の世の中を思うと、こうやって「真っ当であろう」と言ってくれる大人に憧れてしまうし、出来ればそうありたいと思う。
まぁはっきり言って私は子供を作る気がないんだけど、そんでもせめて本書の叔父さんのように甥っ子たちにだけでも良い影響を与えられる大人であれたらと思いました。

本書が最初に刊行されたのは1937年、日本が戦争に向かってどんどん軍国主義になっていった時代のことらしいですが、その時代にこれを描いたこと自体が本書で示される善良×英雄の賜物という感じがして頭が下がります。