- 作者: 法月綸太郎
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 1996/07/01
- メディア: 文庫
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法月綸太郎シリーズ第4弾は、前作の後遺症からか、綸太郎視点ではなく視点キャラ・山倉の一人称という形式になっています。
山倉の元へ「息子を誘拐した」という電話がかかって来るも誘拐されていたのはご近所の富沢さんチの息子さんでした、という"誤認誘拐"がテーマになっています。人間関係は入り組んでいますが、そもそも登場人物がほぼこの山倉家と富沢家の人たちだけなので『誰彼』なんかと比べるとシンプルで読みやすかったです。
そして、その読みやすいシンプルさの中に詰め込んだアイデアの量が地味に凄かったです。早い段階で明かされるアリバイトリックはそれしかないとはいえなかなか大胆ですし、誘拐に関するトリックは更に大胆不敵。そして怪しい人たちそれぞれを物語の流れの中 で自然に犯人として名指しするところは多重解決のような趣があります。アホなので「こいつが犯人だ!」「と言ったぁこういう理由で違うので実はこいつが!」「それはどうかな?こいつだよこいつ」といった塩梅に説が披露されては消えていくだけで楽しくなっちゃいますよね。
また、前作でも感じましたが、今作も物語として面白かったです。ただでさえ誘拐事件という題材には緊迫感があるのに、主人公が抱える秘密が更にサスペンスを増していて、前作以上のスピード感で読むことができました。ラストも前作に劣らぬ後味の悪さですが、今作ではただ後味が悪いだけではなくほんの少しだけですが前向きさも感じられました。
1つだけ、残念というかしょうもなく感じてしまったのはタイトルの意味でしょうか。一の悲劇ってそんだけかい!という。この時点で悲劇シリーズにしようという構想があったのでしょうか?というか、もしなかったらもっと内容に合ったタイトルが他にあっただろうと思います。些細なことですが、全体にとてもよかっただけにそこが目に付いてしまいました。