偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

バリー・リンドン

最近映画記事をまるっきりサボっていたので、久しぶりにこないだ見た最高な映画について載せときます。まぁ転載だけども......。

バリーリンドン [Blu-ray]

バリーリンドン [Blu-ray]


製作年:1975年
監督:スタンリー・キューブリック
出演:ライアン・オニール、マリサ・ベレンソン、パトリック・マギー、ハーディ・クリューガー





時は18世紀。
アイルランドの貧しい青年バリーが、戦争を経て英国で"バリー・リンドン卿"として地位を築くまでを描いた第1部と、バリー・リンドンが没落していく様を描いた第2部から、バリーという1人の男の半生を描いた壮大なドラマ。


長い時間軸で1人の男の半生を描いている点や、戦争、悲恋が影を落としている点など『フォレスト・ガンプ』を連想させるところがあり、舞台こそ違うものの、裏 フォレスト・ガンプみたいなお話でした。

とにかく主人公のキャラクター像が凄いです。凄いといっても、特にキャラが濃いわけではなく、なんというか人間としてのリアリティが凄い。
フォレスト・ガンプ』のフォレストは知能指数が低くいろんな才能を持っていましたが、彼がもし平均的な知能を持ってて才能といえば賭博のイカサマくらいしかなかったら、つまりは普通の人間だったら、どうなるか......というのが本作です。

バリーもね、最初は純情な青年なんですよ。
だからさして可愛くもない従姉妹の清楚系ビッチクソ女に恋をしちゃうわけですが、なんせ相手は清楚系ビッチゲロクソゴミ虫ですから手酷い失恋を味わうわけです。
......とさらっと書いたけど、冒頭の30分もないくらいのこのシークエンスで早くも泣きましたね。別にこの場面そんな重要じゃないのかもしれないけど、なんというか、恋を失う時の「取り返しのつかなさ」感がどちゃくそリアルに表現されてるわけですよ。こんな清楚系ビッチ腐れ外道ハリガネムシ女に人生狂わされるなんてもったいないよバリー!と思うんですけど、一度の失恋で人生は簡単に狂っちゃうわけでして......。

はてさてそんな泣けるラブストーリーぶちかました後は戦争どんぱち!ブラック企業(軍隊)からブラック企業(軍隊)へと渡り歩きながら酷使されるバリー。派手じゃないけど生々しい戦闘シーンは恐ろしく、軍隊の規律の厳しさは後のフルメタを想起させます。
この辺以降は、フォレスト・ガンプと同様にバリーの身に様々なことが降りかかってなすすべもなく状況に流されていくことになります。そんな中でうまく立ち回りつつも、普通の人間であるバリーの心はもう歪みに歪んでいってしまう。これはしょうがないですよね。

で、そんな過酷な運命で「性格歪んでもしょうがないよな......」と思わせてからの、第2部の貴族社会の仲間入りを果たして腐れ外道として開花していくバリーがえぐいっす。

なんせ、まだ清い心を持っていた頃に清楚系ビッチに酷い目に遭わされたので、女なんてモノですよね。貴族のリンドン夫人を金と地位のために利用しつつその辺の女を誑かして愛なきセックスに耽る日々。奥さん可哀想!とは思うんですけど、フォレストならぬバリーがこうなっちゃうのも当然みたいなものなので、どうしようもないやるせなさだけが胸に突き刺さります。

また、幼い頃に父親がいなかったことも彼の性格形成に深刻な悪影響を及ぼしておりまして......。
実の息子は必要以上に溺愛し甘やかして、義理の息子はちょっとでも歯向かえば打擲するというめちゃくちゃなイクメンっぷりを見せてくれます。
そう、気づけばバリーは若い頃には軽蔑していた汚い大人に成り下がってしまっているのでした。義理の息子が彼を見る目は、かつてバリー自身が故郷の村で清楚系ビッチの夫となったおっさんを睨む目と同じだったのです......。

みたいな皮肉めいた顛末がなんともつらくて、さらにその後の絶望越して虚無やんけ!みたいな展開で最後まで持ってくのがしんどすぎる〜からの最後のバカリズム......じゃなかった、アホリズムめいた一節で、全てを本当の本当に虚無へと押し流してしまうちゃぶ台返しギャグにはもはや「ハハッ......」と渇いた笑いを漏らすしかないわけで......。
しかし、虚無というのは絶望すらも無化する、そういう意味ではバッドエンドですらないから後味悪くさえないのが面白かったですね。

また、最後になりますが、もちろん映像も素晴らしかったです。
絢爛豪華......ではありながら、どこか余白を感じさせる、圧が強過ぎない上品さもあり憂いもあり、素敵でした。

というわけで、絢爛な映像美と、共感できる主人公像が凄い大作でした。やはりキューブリックは天才。