偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

青春の殺人者(1976)

本作と『太陽を盗んだ男』の2本しか撮っていない伝説の監督・長谷川和彦のデビュー作。



スナックを営む青年・順は、実家に帰った際に父親から恋人のケイ子を悪く言われ、衝動的に父を刺し殺してしまい......。

主人公の順を演じるのは若かりし頃の水谷豊。
私なんかは水谷豊≒杉下右京という認識しかない世帯なので、右京さん若っ!ってだけでびっくりだし、右京さん人殺しとるやんけ!でちょっと笑っちゃいました。
しかし、水谷豊、とても良かった。
あの独特の棒読みっぽい演技の中に青い焦燥感と虚しさが篭っています。なんせ声が魅力的なので、姿よりも声が脳裏に焼き付いてしまいました。
ヒロインの原田美枝子さんはたぶん初めて観ましたが美しすぎて冒頭とか画面スレスレまで近づいて観てしまいました。彼女も能天気な棒読みの中にミステリアスな暗さを宿していて怖かった。
そして怖いと言えば、市原悦子演じる主人公の母親がめちゃ怖かったw 完全に頭おかしいんだけどなんか変に感情移入させられてしまうところもあり、彼女の壮絶な殺されっぷりはホラーでありつつコントみたいでもあり、わりと序盤だけどあそこがクライマックスでした。しかも結構スプラッタだしな。

しかしそうやって序盤でクライマックスを迎えながらその後もダラダラと続く倦怠感が素晴らしい。この時代の邦画特有の濃密なやるせなさにクラクラしました。
こういう馬鹿なのに強がってる男と、強いのに馬鹿ぶってる女の関係性が好きすぎる。順は痛みを知らないから、それを知るケイ子に憧れるのかしらとか思うとわかりみが強く、なんだかだんだん自分を見ているように思えて順のかまってちゃんぶりに共感故の苛立ちを覚えたり、へこたれないケイ子に畏怖を感じたりしました。

サントラはヒットする前のゴダイゴのファーストアルバムらしい。ゴダイゴは999とガンダーラと猿魔法と美しい名前しか知らなかったけど聴いてみようかなと思うくらい良かったです。特にマジックペインティングという曲が1番好きで、三拍子のリズムから来る可愛らしさと不気味さが最高です。


目的も行く当てもなく常に弛緩しているような気だるさがありながら、一方で常に緊張感もあり、最後まで飽きずに見れたし、クライマックスの暗い熱量や、虚しく苦いラストなどもめちゃエモい映画でした!この空気感が好きすぎた。