偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

西澤保彦『小説家 森奈津子の妖艶なる事件簿 両性具有迷宮』読書感想文


『両性具有迷宮』を改題、『小説家 森奈津子の華麗なる事件簿』と同じく実業之日本社文庫から新装文庫化された、森奈津子シリーズの2冊目です。


宇宙人の手違いにより男性器が生えた体にされた、小説家・森奈津子を含む女性たち。
ちんちんによる新たなプレイを楽しむ奈津子だったが、やがて、彼女と同じように男性器を生やされた女子大生らが惨殺される連続殺人事件が起こり......。



なんやねん、それ。
こんなん何て感想書きゃええねん......。
はい、というわけで、アンドロギュノスSF官能ミステリーです。なんだよそれ!
うーん、参った......。

まぁ、とりあえず適当に書き始めます。

本書はセンス・オブ・ジェンダー賞という、名の通りジェンダーSFに贈られる賞の特別賞か何かを受賞した作品らしいです。
そんなこともあってか、フザけたおしたギャグエロ小説でありながら、ジェンダーにまつわる真面目な話もしっかり入ってるのが面白かったです。

私もまぁギリギリ平成生まれの今時の人間なのでLGBTが何の頭文字かくらいは知ってるんですが。
例えば......外見上同じ女性同士のセックスでも、女性として女性が好きなレズビアンと、自分のセクシャリティは男性であってヘテロ的に女性が好きな人とは違うとかなんとか......。
喩えが不謹慎かもしれませんが、数学で習った組み合わせの問題みたいにパートナーの数だけ性の組み合わせというのがあるんだなと目から鱗でした。

そうした性の多様性を説きながら、射精だけを目標とする男根主義的セックスの貧しさを指摘し、度重なる濡れ場を使ってセックスの奥深さを描き込んでいく様は、男としてはなかなか身につまされるものがありましたね。
しかし、畢竟一発出したら終わりな男の身としては女の体が持つ可能性の途方もなさに嫉妬してしまうのも正直なところですね。
男の場合はどこをどうしたって結局は性器に意識が集中し、その上射精しちゃえば賢者タイム発動ですから、引き出しが少なすぎますやんね......。


などと真面目に読むこともできますが、しかしロマンポルノよろしく一章ごとに必ず濡れ場を入れなきゃいけない構成(初出が雑誌連載の作品だからでしょう)のため、内容の半分くらいはエロいシーン。さすがにこうも続くと食傷してしまい、濡れ場を削って分量を減らしてほしかったと思ってしまうのもまた正直なところではあり......。


そして、SF百合ミステリだのとのたまってはいるものの、ミステリとしてはまぁ適当。
「女性に男性器が生え、一度射精すると消えるが寝るとまた生えてくる」という設定ながら、それを『七回死んだ男』とかみたいにパズラーとして唸ってしまうような使い方をするなんてこともなく。正直もう事件の謎とかどうでもいいよと思ってきてる終盤に至って、しかし予想以上にどうでもいい真相だったり。あげく説明しきれずに「心の闇」みたいに投げ出す始末だったりなど。
まぁお世辞にもミステリとして面白いとは言えず、これならいっそ最初から事件とかなくしてただのエロ小説ですという顔をしててくれればこっちもそのつもりで読めたものを......とか思っちゃうのもまあ正直なところではありまして......。


まぁとはいえ、ジェンダーとセックスについてひとつ勉強になる内容ではあり、面白かったとは言いづらいものの読んで損はしなかった作品だとは断言できます。
あと、倉阪鬼一郎など実在の作家たちが登場するのも笑える。倉阪鬼一郎の著者近影を見ながら読みたいですね。あの人の著者近影もギャグなんだよなぁ......。