偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

シンドラーのリスト(1993)


第二次対戦中のドイツ、ナチスによるユダヤ人の迫害・虐殺のさなか。ユダヤ人たちを自身の工場に雇うことで最終的に1100人以上の命を救った実業家のオスカー・シンドラーを描いた伝記ドラマ。



スピルバーグ監督が『カラーパープル』での雪辱を晴らすべくアカデミー賞を狙って作ったと言われる3時間超えの社会派大作。実際に作品賞を含む7部門を受賞してるから凄いですね。

まずモノクロの映像美がすごくて、冒頭のパーティーのシーンから構図のカッコよさとタバコの煙とかのモノクロだからこそ映える美しさに見入ってしまいます。
リーアム・ニーソン演じる主人公のシンドラーが、ベン・キングズレー演じるユダヤ人の会計士で後に自身の右腕となるイザック・シュターンと対面する場面で、シンドラーの顔の半分には光が当たり、半分は影になっているところとかも映像としてかっこいいし、人間の二面性を表していて後の展開を暗示してるのもかっこいい。

そう、私はてっきりシンドラーさんという人は最初から正義感が強くてユダヤ人への迫害に憤っていて彼らを救おうと必死になってる人......なんだと思ってたんてんすよね。でも実際には序盤のシンドラーは典型的な嫌な金持ちという感じで、ユダヤ人を雇うのも安い労働力を確保するためだし妻がいながらあちこちで女とやりまくりみたいな感じでイケスカナイ野郎なのにびっくりしました。
そして中盤までずっとシンドラーさんはそんな感じなので、正直あんまり応援できない感じなのかな〜......と思ってたら、中盤で彼が正義を遂行しようとしはじめるきっかけのシーンが素晴らしかったです。
ほぼ全編がモノクロの本作の中で、このシーンにだけ赤い服の少女が出てくる演出になっています。血や炎を連想させる赤い少女が、迫害や虐殺の悲惨さを表しているようで、それを目の当たりにして心境の変化を迎えることが印象的に示されていて、この辺からさらにぐいぐいと引き込まれました。

そんなシンドラーと対をなすのがレイフ・ファインズ演じるアーモン・ゲート少尉。
(レイフ・ファインズ、名前を呼んではいけないあの人と『胸騒ぎのシチリア』のクソ親父の印象しかなかったので若い頃こんな綺麗だったのかと衝撃)。
彼はたぶん元は職務に忠実なために容赦なく人を殺していたのが段々と暴力の虜になってしまった、本作における悪役で戦争の悪を体現したような人物。こいつがもう本当に最悪で同情の余地とか一切ないんだけど、でも彼もまた異常な状況下だからこそああなってしまったんだろうという切なさはあります。どんなに残虐な人間だって平常時からこんなにぽんぽん人を殺すはずもないので、戦争によって善の面が引き出されたシンドラーとは反対に戦争によって悪に目覚めてしまった感じで、この2人が表面上は友人同士として振る舞うところの緊張感が凄かった......。

後半では重厚な物語の雰囲気をぶち壊さない程度にエンタメ的なドキドキハラハラもたっぷり盛り込まれていて、助かったと思ったらあれれ......みたいなのが繰り返される手に汗握る展開はさすがのスピルバーグクオリティ。
それで終盤にかけてどんどんスピード感が増して一気に観れて、しかしラストでは静かな感情の爆発に泣きそうになってしまう......。この辺の緩急の付け方とか上手いよなホント。
......という感じで、実話を元にした重厚な社会派ドラマでありつつ極上のエンタメ映画でもある傑作で、3時間超の長さを感じないくらい引き込まれました。