偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

川澄浩平『探偵は教室にいない』感想

第28回鮎川哲也賞受賞の連作短編集。


ある日、中学2年生の少女・海砂真史の机に入っていた差出人不明のラブレター。校内の友達には相談しづらいその「謎」を、幼稚園の頃の幼馴染で9年間会っていない鳥飼歩に相談することにした真史。その件をきっかけに、今は学校に通っていないという歩にたびたび身の回りのちょっとした「事件」の謎解きを相談するようになり......。


というわけで、4話の短編が収録された、東京創元社らしい雰囲気の日常の謎青春ミステリ。

とりあえず、ミステリとしてはかなり地味であることは確かで、伏線の拾い方や論理展開の面白さはしっかりあるものの、例えば第1話は謎が出てきた時点で真相が想像できてしまったり、他の話も全体に意外性が少なくて「まぁ、そんなところだろうな」と思ったところに着地してしまうきらいはありました。
また、創元社らしいと言ったものの、創元社の連作短編集にお馴染みの「アレ」は本作にはなく、あっさりと終わるのもミステリ的にはちょっと物足りない。

ただ、中学生を主役にした青春モノのミステリとしてはめちゃくちゃ良さがあって、それだけで大満足だし続編もあるらしいと知って絶対読まなきゃと思っています。
主人公の真史と、親友のエナ、バスケ部仲間の男子の総士くんと京介くんの4人が主要キャラクターで、全4話の1話ごとにかれらの1人ずつがフィーチャーされていく構成。
真史が友人たちそれぞれの秘めた謎に直面することで、友人の知らなかった面を知り、自分の中に新しい視点を持つようになる様が等身大に描かれています。各話の終わり方がまたさらっとしていながらちょっとドキッとさせられる繊細な切れ味があって好きですね。
また、軽やかで瑞々しく、しれっとしたユーモアもあって愛着の湧く文体も素敵。
ただ、タイトルロールである「探偵」鳥飼歩のキャラクターが他のキャラたちに比べてあまり掘り下げられておらず、「学校に行ってない」という設定も特に活かされていないのがちょっと気になったので、この辺が続編で掘り下げられてたらいいなと思います。

少しだけ各話の感想。


「Love letter from......」
謎が提出された瞬間に真相が予想できてしまいましたが、ラブレター1枚から論理を捏ね回すところは日常の謎の醍醐味そのものだし、その「真相」の示し方も上手くて、これが1話目であることがじわじわ効き続けるのも良い......。


「ピアニストは蚊帳の外」
合唱コンクールには良い思い出がないので、正直こういう合唱コンに関する揉め事の話は読んでて気持ちのいいものではないけど、そんでも自分らの時にやった曲が出てくるとなんか懐かしい気持ちになってしまうから中学時代の思い出というのも自分の中で不思議な位置を占めているなと感慨に浸りました。
まぁそんなことはどーでもいーけど、ちょっとしたことだけど不可解な謎が、とあるシンプルな事実から解き明かされるのが鮮やか。また、なんとも言えんラストの一言も印象的。ラストの切れ味で言ったら本書でも随一かも。


「バースデイ」
青春モノだけど恋愛要素がやたらと押し出されていないところが本書の良さだとも思いつつ、やっぱり1話くらいはこういう恋愛モノもあるとトキメキますからね!
そして、10月の雨の日に海を見に行くというおよそインスタ映えしないけどめちゃエモいシーンが青春そのもので良い。そうだよね、青春ってのはこういうことだよね、と嬉しくなっちゃうけど、フォロワーさんから彼らが海まで乗って行った電車が近いうちに廃線になると聞いて悲しくなってます。
伏線の散りばめ方や小道具の使い方、ドラマチックな解決の仕方などミステリ的にも見どころが多く、ミステリとしても青春小説としても本書で1番好きな短編です。


「家出少女」
最後は主人公・真史自身のお話であり、だからこそ視点は真史のものじゃなくなるのが新鮮で面白い。
家出の理由がありきたりといえばあまりにありきたりで、それが等身大の中学生らしさでもありつつ最終話としてはちょっとショボく感じてしまうのも事実。謎解きもローカル知識が必要なもので他の話に比べると論理を捏ねる面白さが薄く、最終話にして正直1番印象に残らない話でした......。
ただ、歩と真史の関係性の変化への兆しのようなものが微妙に見える気がしなくもない......くらいのほんのりした終わり方で、続編があることを知っていれば続編への期待が膨らむ結末ではあると思います。