偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

グレアム・グリーン『情事の終り』感想

『第三の男』などで知られるグレアム・グリーンによる、2度映画化された作品です。
私も2度目の映画化である1999年ニール・ジョーダン監督による『ことの終わり』の方は観ていて、結構好きだったのですが、やはり小説で読んでみると終盤が特に結構違ってたり、単純に心理描写が細かく描き込まれていて分かりやすかったりしたので、映画だけじゃなくて原作も読んでみるの大事ですね。



作家の主人公モールスは、友人のヘンリーの妻であるサラと1年半前まで不倫の関係にあったが、サラは突然彼の元を去る。
そして現在、ヘンリーから「サラに男ができたようだ」と相談されたモールスは、サラと通じている"第三の男"を突き止めるために動き出し......。


読みやすくも読み応えのある傑作でした。

というのも、不倫を題材にしていて、疑惑と嫉妬、愛と憎しみ......といったラブストーリーらしいテーマも描かれつつ、後半では特に「信仰」というテーマがそこに重なってくる深みのある純文学でありつつ、ストーリーの展開に関してはかなりエンタメ性も高く、ミステリのようにも読むことができるんですよね。

実際のところ、ミステリでいうところの「解決」にしても、描き方によってはかなり意外性のあるどんでん返しにすることも出来そうなものです。
本作はそこに重きを置いていないので特に「えー、びっくり!!」みたいにはなりませんが、それでも非常に良く出来たお話なので驚かされてしまいます。
また、構成も視点や時系列の組み替えが多くてとてもミステリ的。特に中盤のとあるシークエンスでそれまでぼんやりとしか見えていなかった物語の全貌が分かっていくあたりはエンタメとしてめちゃくちゃ面白かったです。

ラブストーリーとしては、愛ゆえに嫉妬や疑惑が生まれてやがて憎しみになっていく様にはかなり感情移入してしまいますし、語り手が作家なだけあってか文体が理屈っぽいのでこうでこうでこう、という感じに心理描写がされてより納得しやすくなってます。すげー雑な言い方ですけど日本っぽいドロドロさがない代わりに、いかにも海外文学っぽい比喩表現も多用されていて、異国情緒みたいなものも感じます。普段海外の小説をそんなに読まないだけに。

そして、後半から信仰というテーマが色濃くなってきます。
普段宗教を扱った作品を観たり読んだりしても日本人だし無宗教だしいまいちピンと来なかったりするんですが、本作に関してはあまりそういう感じがしなかったです。
というのも、本作で描かれるのは聖書の内容とかではなくて、神を信じる、あるいは信じないに至る心の動きだからです。
人間、特定の宗教を信じていなくたって運命とか正義とか愛とか何かしら信じるものがなければ生きられないものなので、彼らの気持ちは分かるというか。
終盤の(ネタバレ→)サラを失った男2人で暮らすあたりなんかは、そういう経験はないけどなんか分かる感じがしていいんですよねぇ。
また、終盤から脇役たちもまたいい味を出し始めてそこらへんも良かったです。

そんな感じで、旅行中に読んだから余計に良かった気がしちゃいますがそれを差し引いてもめちゃ良かったです!