偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

歌野晶午『間宵の母』感想

2019年のノンシリーズ作品。

間宵家の父、母、娘をそれぞれ主役にしたサイコスリラーの連作短編集のような形を取りつつ、最終話で長編としてつながる形式の作品です。

歌野晶午の魅力はやはり一作ごとに捻った設定やジャンルの越境などストーリーが凝っていて、決してオーソドックスなミステリは描かないところだと思います。
一方で、その趣向の凝らし方が行き過ぎると『セカオワ(アルハジ)』や『女王様と私』のような賛否両論分かれる問題作なんが出てきたりして、本作はわりとその路線な気がします。
とはいえ私はそっち路線も嫌いじゃないので本作も面白かったです。

まずホラー短編集としては、行ったきり戻ってこないジェットコースターに乗せられているような感覚とでも言いましょうか。
文体の平易さとストーリーの面白さの両面からリーダビリティがエグいのも歌の作品の魅力の一つですが、その読みやすさでぐいぐい読まされていくと気が付いたらヤバい場所まで連れて行かれててそのまま戻ってくることなく話が終わっちゃう、みたいな。
特に第二話が胸糞悪さとハラハラ感と何が起きたんだ感が絶妙に絡み合っていて、怖さと厭さが最高でした。

そしてミステリとしての解決なんですが、こっちはまぁ想像の範囲内に収まってしまったかなぁという感じではあります。着地点がタイトルでネタバレになってしまってるのでぶっ飛んでる感が薄れてるのももったいない気がしてしまいます。
とはいえイヤミス的な悍ましさはさすがで、サラッと読めて人間の醜さがしっかり味わえる良作でした。