偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

panpanya『蟹に誘われて』感想

リーガルリリーのたかはしほのか先生が読んだとツイートしていたので読みました!


前々から名前は見たことあったpanpanyaさん。このたび初めて読みましたがめちゃくちゃ良い......。これ学生時代に読んでたら変なハマり方しちゃってたかもなぁ......ってくらい好き。
背景は線が多く風景を写実的に細密に描いた絵柄であるのに対してキャラクターはラクガキみたいなシンプルでゆるい絵柄で、なおかつ全ての話で主人公が同じ顔の女の子であるため、絵からして日常と地続きだけどどこか非日常的な世界観が表れていてめちゃ好き。
そもそも絶景とか映える景色よりも都会でもど田舎でもないちょっと開けた田舎くらいの自宅周りの風景を愛する私にとって本作に出てくる背景の街並みはまさにどタイプでして、ちょっと知らない道に入ってみたら見たことのない(でもどこか懐かしい既視感のある)風景に出会した時の安心感と寂寥感のようなものを味わえて漫画読むだけでイイ感じの散歩ができた気分になれるので散歩ファンには特におすすめです。

話の内容も、見ている間は現実と見紛うようなしかし奇妙な夢の如しで、詩的でありながら毎ページなんかしら笑えて、ほのぼのとしていながら身もふたもないくらい残酷だったり、絶望的なようでいてその絶望を軽やかに避けるような優しさがあったりと、どの話も感想を一つの形容詞では言い表せないようなところが好きです。というか各話ショートショートみたいな分量でこの複雑な味わいは凄い!
あと最後に索引があるのも良いです笑。

自分が好きそうな感じはしてたけどまさに好みドンピシャな作品で、他のも集めたくなってしまった。
以下各話一言ずつ。


「蟹に誘われて」
蟹に誘われて町をふらふらと散策する様子だけで好き。最後の方のシンプルな一言がいい。蟹が可愛いけど美味しそうで複雑な気持ちになります。


「わからなかった思い出」
思っくそシュールなギャグに振り切った話で、ちょっとやりすぎ感というかもうちょい日常っぽい方が好みではあるけど最後がいい話すぎる......。


「魚の話」
魚の話の「話」ってその「話」かいな!という驚きからの身も蓋もない一言でビミョ〜な気持ちになるこのビミョ〜さが映画や小説ではなかなか味わえない感じで好き。


「innovation」
ココナッツ🥥発電💡というアホな着想を社会の闇みたいな不穏な調理法をしといてからにしょーもない落とし方をするヘンテコさがたまらん。


「地獄」
緊張と緩和(?)。シンプルに好き。


「パイナップルをご存知ない」
「幻の〇〇」を探すハードボイルドな話でありながらその幻の〇〇が幻の果物パイナップルである脱力感。この現実とほぼ同じように見えてパインだけがない世界の微妙で確かな違和感が面白すぎる。


「池があらわれた話」
夏休みの間に突然校庭にあらわれた池.という導入からどうしてもミステリー的な期待をしてしまいオチにはしょーもな!と思ったけど、休み明けに来てちょっとした変化にざわつくけどすぐ落ち着いちゃうあの感じが懐かしくて好き。


「方彷の呆」
電車で降り間違えて見知らぬ町に迷い込むという大好きなお話。終電が昼でもいいみたいな駅員のセリフが面白くも怖い。夢の中のようでどこかにありそうでもある街並みが最高。帰って来て安心しつつもどこか寂しい読後感は旅行帰りの気持ちから楽しい思い出だけ引いたような感じでエモい。これが本書で1番好きかも。


「大山椒魚事件」
山椒魚ってほにゃほにゃじゃなくない......?いやでもこの漫画の世界観だとほにゃほにゃってことになるのかな......?と思ったら普通に違いましたってオチで笑った。


「decoy」
どこか意味深な語りから何の意味もないオチになるのが面白いんだけど、アホすぎてなんか実は深い意味があるのか......?漫画家というものの背負う業の話、みたいな......?あるいは継続は力みたいな......?はたまた繰り返しのような日々でも同じ瞬間は2度とない、とか......?となんだかんだ色々考えさせられてしまう。


「気味」
普通に怖い怪談掌編。話の内容も普通に怖いんだけど絵ヂカラでさらに不気味さUpなのが凄い。やっぱ絵で見るとインパクトありますからね。怖いと言ってもぎゃーって感じじゃなくてなんかよく分からない怖さなのが好き。そして変な緊張と緩和と緊張みたいな構成も良い。


「TAKUAN DREAM」
これはしょーもない。箸休め的なお話かな(たくあんだけに)。


「二〇一四年一月三十一日の夢」
あ〜〜〜テトラポッド登って〜〜♪
海に行くとテトラポッドをついついいつまでも眺めてしまうのですがそんな私の気持ちを分かってくれる漫画家がいたとは!しかしいろんなテトラポッドが出てくるけどやっぱベーシックなやつが1番可愛いよね。こういうよくわからない夢を見たい。


「甲斐」
どういう気持ちになれば良いのさ......という、笑って良いのか?みたいな話。しかし動物って案外こんなもんなのかもな......。


「不穏な日」
あらゆる不吉な予兆に出会いまくる1日のお話。オチが優しくて好き。


「鍋」
ホ〇〇〇〇が出てくるところが最高。闇鍋ならぬ明鍋、やってみたい。


「THE PERFECT SUNDAY」
完璧な日曜日を過ごすために土曜日に全ての準備を終わらせるというあるあるからの「準備」の綿密さ(というかもはや無意味さ)が笑える。「動物黙らせ機」というネーミングセンスが最高。そしてあの番組のテーマソングがあんなに禍々しく描かれるのに爆笑した。絶望を味わいながらも次の希望を見出す優しいラストに癒される、「ほーほーのほー」と並んで本書で1番好きな話。


「計算機のこころ」
賢いからって計算機にしちゃ可哀想なんだけど、めちゃ可愛かった。最後がこういう心温まる(?)お話なのが良いっすね。好き。