偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

池辺葵『雑草たちよ大志を抱け』感想

クラスの中心的な華々しい存在ではない"雑草"的な高校生の女子5人の彼女らなりの全力の青春を描いた群像劇。


なんかもー、めちゃくちゃ良かったわよ。

太眉がちょっとコンプレックスなマイペースのがんちゃんが主人公。
そんながんちゃんと、笑わない俊足ひーちゃん、小柄でゲームと虫が好きなピコ、マラソン苦手な無口な転校生のたえ子、アイドルにハマるオタク少女久子の5人が主役の地味な子たちの青春群像。

キラキラした青春漫画なら間違いなくモブキャラであろう彼女らを主役に据え、キラキラした人たちの方をモブのように背景として描いていくんだけど、けどキラキラした人たちへの悪意もない作風がとても心地良い。
ふわっとしたデフォルメ強めの絵柄も可愛らしさと暖かみがあってとても好き。
自分自身かなりの雑草度を誇る(なんせクラスには友達いなかったし)高校時代を過ごした私としてはなんか常に胸がぎゅっとして苦しくも彼女らがいじらしく愛おしい暖かな気持ちで読み進められました。そういえばうちの高校も私みたいな友達いないやつでもイジメられたりはしないようなのんびりとした校風だったなぁとしみじみ思い出した。

全5話の連作形式で各話で1人ずつがフィーチャーされていくんですが、各話の内容も幼馴染への淡い恋心や苦手なマラソン大会のことや推しを推すことなど、他愛もないと言えば他愛もないような話。なんですが、その中でもヒリヒリするような切実さと友達がいることの安心感を繊細に描いていて、地味に激エモ。
彼女らがお互いの関わりの中でリスペクトしあったり何かを教えあったりする様が美しく、各話にひとつふたつ必ず印象的なセリフがあってそれをメモに書き留めておきたくなるような、大事にしたい作品です。

1箇所ちょっとした伏線回収みたいなところでハッとさせられて、すでに愛着を抱いていたキャラのことをさらに好きになってしまうのも素晴らしかった。かっこよすぎる。
あと本編ではほとんど大人が出てこなくて少女らの関わりだけを描いているんだけど、エピローグで初めて大人のキャラが青春を終えた視点から口にする言葉もまた印象的で、手帳の1ページ目に書いておきたいくらい。手帳持ってないけど......。

最後の話、恋の始まりのようでありつつ、恋よりも友情みたいな感じもあってすごく良い。