偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

サカナクション『834.194』感想 -東京 version-

はい、サカナクション6年ぶりのアルバムです。
もうね、この6年間私がどれだけ待ちわびていたか!毎年のように「今年は出す」と言う山口一郎を信頼してその度に幾度裏切られてきたか!むかつく!
しかしそのことについての恨み言なんて、この際もう言いませんよ(言った)。

そう、今はただ、この大傑作の誕生を祝いましょう。


834.194

834.194


いや、実際本作は最高傑作とか、名盤とか、ヤバイとか、そんなありふれた賛辞では言い表せない作品なんです。
なんせ、一郎は6年間歌詞書いてましたからね。6年もの時間をかけて紡がれた作品を、たった一言で褒めるのも失礼ですからね。
私も6年とは言わないまでもそれなりには時間をかけてしっかり感想を書いていきたいと思います。



まず、アルバム全体の流れについて。

本作は9曲ずつのディスクが2枚組で計18曲という構成になっています。
うち、既発曲はリミックスも含めれば9曲。6年も待たせといて半分知ってる曲かよ!......なんて、聴く前は思ってたわけですが......。
いざ聴いてみれば、この6年間で少しずつリリースしてきたバラバラのシングル曲たちが、このアルバムのために書き下ろしたかのようにぴったりとあるべき場所に収まっていたから驚きました。
なんと言っても、単体で個性もバンドにとっての意味性も強すぎる「新宝島」という曲が本作のコンセプトに組み込まれていることには、なんかもう良質なミステリのどんでん返しを食らったような衝撃が走りましたね。やりやがったぞ......と(詳細は後述)。

で、本作のテーマは、2枚のディスクの最後に、「セプテンバー」という曲の東京バージョン及び札幌バージョンがそれぞれ収められていることからも分かる通り、東京と北海道。
それはつまり、過去のサカナクションと今のサカナクション、すなわちサカナクションというバンドそのもの、更には山口一郎という人間、そして郷愁と死とセックス......。
......みたいに、いろいろ重層的なテーマが含まれているんですが、それら全てを、東京と札幌の距離を表す「834.194」というタイトルに込めてしまうことで、2枚合わせてひとつのコンセプトアルバムとして成立させてしまうという、6年かかっただけの労作にして大作になっているんです。

また、各ディスクはそれぞれ単体でもひとつの物語のようになっていたりもして、片方だけ聴くも良し、通して聴けば感動100倍みたいなヤバいことになってます(褒める語彙が尽きてきた......)。


てなわけで、以下ではとりあえずディスク1 (通称:東京盤)について、全体の感想と、曲ごとの一言感想を書いていきます。

なんせ2枚分書くとめちゃ長くなるので、この記事は「東京バージョン」と題させていただき、ディスク2については別記事でまた書こうかと思います。





......というわけで、東京盤について。

あ、正しくは東京のスタジオの座標を表す長ったらしい数字がディスクのタイトルとしてついてますが、いちいちそれ書いてると煩雑なので東京盤という呼称で統一します(札幌盤も同じく)。

まず、ディスク全体の流れについて。

この東京盤は、山口一郎曰く「作為性」、つまり、簡単に言うとオーバーグラウンドに向けての曲、『魚図鑑』でいう浅瀬にあたる部分のサカナクションを出したものだそうです。

このディスクのテーマをざっくり言うなら、「東京から想う郷愁」と、サカナクション復活の巻!」という感じです。

まず、M1は、タイトルの通り「忘れられないの」と歌う曲で、本作の2枚のディスク全体にも通底する「郷愁」というテーマへの入り口として機能している、アルバムの幕開けにふさわしい一曲です。

続く、M2〜4までは、それぞれ郷愁を描いた短編集のような形になってます。
M2は夜、M3は日暮れ、そしてM4は昼をイメージする曲で、進むにつれて曲中の時間が遡っていくことでも郷愁を表している......と思うのですが穿ち過ぎですかね?

そして、派手な曲が続く中、ディスクの真ん中で真打ち登場とばかりにM5、新宝島パイセンが姿を現します。
丁寧丁寧丁寧に描くよ、という言葉が、シングルの時にはタイアップ先の映画「バクマン。」にかかっていましたが、本作の流れの中だとここまでの郷愁編の3曲を描いてきたことも想わされます。

そして、続くM6の「モス」という曲こそが、この東京盤のクライマックスにして肝心要な曲。
「このまま君を連れていくよ」と歌う新宝島がシングルリリースされて以降、しかし一向にニューアルバムの世界へ連れて行ってくれなかったサカナクションに我々ファンは正直業を煮やしていました。
しかし、この曲のラストの「連れてく蛾になるマイノリティ/君はまた僕を思い出せるなら」というフレーズで、私は山口一郎に惚れ直しましたよ。
いや、別にサカナクションのことを忘れていたわけじゃないんですけど、個人的な事情や、アルバム出す出す詐欺などのせいでどうしても聴いてない時期が結構あったんですね。
でも、かつてはスピッツに次ぐ大好きなバンドだっただけにサカナクションへの想いは「忘れかけていただけか」であり、本当のところは「忘れられないの」だったんです。
そんな私に、山口一郎は「君はまた僕を思い出せるなら」と語りかけてくるんですよ。
......なんかこう、例えが下手だけど、夫が海に出てしまうとなかなか戻ってこないけど、だからこそ帰ってきた時にはめちゃくちゃ安心しちゃう漁師さんの妻みたいな感覚......って伝わりますでしょうか。
とにかく、このアルバムを初めて聴いた時に、この曲のこの部分を聴いて、ようやく本当にサカナクションファンに戻れた嬉しさを実感したんですよね......。
あの、これも伝わりにくいけど、少林サッカーの「......みんなが戻ってきた」の場面みたいな。そういう気分ですよね。


そして、続くM7は、連れてく連れてくと言ってたサカナクションに実際に連れ込まれた先はリキッドルームでした!みたいな。
そういう「新宝島という曲でサカナクションを知ったファンたちを連れていく先がリキッドルーム(=NF)である」というコンセプトはこの曲が新宝島カップリングとしてシングルに入った時からあったらしいです。
しかし、その2曲の間に「モス」が加わることで3部作のような形になってより感慨深いものがあります。

そして、M8とM9は共に札幌盤に入る曲のリミックス、リアレンジ。
東京盤の最後にこの2曲が入ることで、東京にいながら札幌を想うような、あるいは、札幌にいた頃の自分が東京に染められていくような感じもあり、札幌盤へのイントロダクションのようにもなっています。
そして............と、これ以降は札幌盤の方になってくるのでまた次回の記事で書かせていただくことにします。


というわけで、ここまでは東京盤全体の構成について。
以下では収録曲それぞれについても単体で少しずつ触れておきます。




1.忘れられないの

サカナクション / 忘れられないの - YouTube

ちょっとこのPV最高すぎません?
我々の親世代だと杉山清貴じゃん懐かしいwってなるし、うちら世代だとなにこれ逆に新しい!ってなる、サカナクションらしい80sへの愛に満ちたビデオ。
お姉ちゃんと向かい合ってややニヤつく山口一郎の顔を見て、なぜか「俺はこの人のことが本当に好きなんだなぁ」と実感させられました。からの、サビのダサい振り付けがかっこよ過ぎて早くカラオケで真似したい🎤
サカナクションのPVの中でも、スローモーションに次ぐ2番目に好きなやつに既になっちゃいました。あとは多分風とかユリイカあたりかなぁ。


っていうふざけ......遊び心に満ちたPVですが、曲自体は切なさと美しさと、どこか暖かさも感じるいい歌です。なのにPVの映像が思い出されて聴いてると笑っちゃう体になってしまったやないか......ちくしょうめ......。
音的には何と言ってもベースがひゅーちゃーされてるのが最高。スラップをキメまくったベースソロはかっこよ過ぎて気が狂いそうになるし、サビに入る直前のとこも好き。
サカナクションの曲でスラップベースのってほかにほとんど思いつかない(「もどかしい日々」とかはそうだったかな)ので、新鮮な感じで良いですね。
そして、アウトロでフェードアウトしながらギターが流暢に歌い出すあのパターンも、具体的に何っぽいとかは思いつかないけどすごく懐かしさを感じます。

歌詞は夢を追って上京した主人公が、札幌に置いてきた恋人を想う......まぁ地名はアルバムに引っ張られてますが、そういう感じの歌。
最初の

忘れられないの
春風で揺れる花
手を振る君に見えた

というところでもう切なすぎて吐きました。

一人称は「僕」ですが、タイトルは「忘れられないの」という女性的な言い方。そういうタイトルにして女々しさのようなものが滲み出ていますが、それをこうやって美しい曲にしちゃうことで女々しくてもええやんって肯定されるような優しさも感じるんですね。

あと、サビの「夢見たいな"この"日を」の、「この」っていう言葉がめちゃくちゃ良い。
この曲は歌詞を180パターンも書いてようやくたどり着いた完成形ということで、文字数を削ぎ落として生きながらこういう一言のニュアンスで行間が広がっていくような、そういう洗練のされ方がとても美しいと思います。




2.マッチとピーナッツ

からの、いきなりエロい曲でびびります。

まずイントロのどエロいシンセの音と、少し遅れて入ってくるバスドラのリズムとのギャップにつんのめりそうになって、この時点でもうめちゃくちゃ好きになりました。

歌が始まるとなんかビーナスがどうのこうの言ってると思ったら滑舌が悪いだけでピーナッツの話でした(突然の悪口)。
滑舌といえば、ヴィーダン!ヴィーダン!とかテュラシタ!テュラシタ!のとことかもサイコーですよね。

しかし、この歌詞がとてもエロい。
マッチとピーナッツとか、湯呑みの水という小道具の昭和感......。
どうやらつげ義春の世界観をイメージして書いたらしいですが、つげ義春の作品を読んだことないのでさっぱり分かんなくて悲しいです。
でも、良い。

深夜に部屋でひとり座っている男......というあまりにもソリッドなシチュエーション。
でもそこに満月の光やマッチの火の仄かな明かりが映像となってハッとさせられます。
そうした明かりがあるからこそ夜の暗さが強調され、そうした火であの頃の幸せのように消えたピーナッツを探すという映像に仮託された心象の虚脱感というか倦怠感のようなものの表現がすごい。
それはまるで射精したあとの倦怠感のような、いや、ようなではなく、実際にそういう、いわゆる賢者タイムを描いた曲のようにも聴こえるし......。

まぁなんにせよ、タイトル見たときに近藤真彦スヌーピーを思い浮かべたことを謝りたいくらい、完璧なタイトルですよね。「マッチとピーナッツ」って。

そして、歌詞カードも綺麗です。
シンメトリックな字組が最後の一箇所だけで崩れているところに視覚的にもドキッとさせられて、繰り返される「心が〜」という音の中に取り残されたような気分にさせられます。

そして、なんといってもね、最後の一郎の喘ぎ声(?)ですよ。今までサカナクションにあまり(直接的な)色気とかを感じたことがなかったのでふぇっ!?って思いました。




3.陽炎

この曲が映画の主題歌になった時、私はまさにサカナクションいやいや期で、そんな中でたまたま映画館に行ったら予告編で無理やり聞かされて、不覚にもかっこいいと思わされてしまったというクソどーでもいい逸話のある曲です。

めっちゃ聴き覚えのあるイントロのモンキーマジック部分には笑っちゃいます。
そこから先は、新宝島以降のサカナクションらしい非常にキャッチーなポップチューン。
しかし歌い方は完全に新機軸で、やけにこぶしの効いた「くあぁ〜〜げろう!くあぁ〜〜げろう!」は、最初「映画バージョンだけこれでアルバムバージョンはもうちょい大人しくするんじゃね?」と思ってたけどこのままでしたね。
映画バージョンとの違いは、大サビの前の部分がちょっと追加されて1分ほど長くなっていること。映画バージョンはわりと短めだったので、アルバムの前後の曲と合わせる意味もあって長くしたんじゃないかと思いますがどうでしょう。

で、音はキャッチーだけど歌詞は説明が少なくて感覚的。
ほとんど風景描写でありながら、その具体性のなさは現実の風景というより心象風景を描いているようで、夕日とともにやってくる何か決意のようなものが感じられます。
このへんもっと聴き込めばもう少しはっきりと掴めるのかもしれませんが、掴みどころが分からない状態でもその力強さとノスタルジックな雰囲気は聴いてて気持ちいいので好きです。
気持ちいいといえば、歌として歌った時の語感の良さはピカイチですよね。ついついカラオケで歌いたくなっちまう(でもあのこぶしは無理)曲ですわよ。




4.多分、風。

サカナクション / 多分、風。 -New Album「834.194」(6/19 release)- - YouTube

サカナクションファンが風邪を引いた時に「多分、風邪。」とツイートすることでおなじみのこの曲です!

アネッサのUVなんちゃらのCMソングとして2016年の夏に放映され、さぁサカナクションが今年最高のサマーアンセムをぶちかますぜ!......と思っていたら、例の「歌詞が書けません」によって秋も深まる季節にリリースされたという経緯を持つ一曲です。歌詞書き直すついでに「渚のアップビート」というダサ懐かしい仮タイトルもちょっと落ち着いて「多分、風。」へ。

YMOくらいしか知らないけど80sテクノポップ感全開ながら今風なオシャレ感もありーのなサウンドがツボりましたね。ポポポン ポポポン ポポポンっていうドラム(シンセドラム?)の音が最高。

歌詞も頑張って書いてただけあって良いですね(笑)。

知らない女の子とすれ違う瞬間を描いた歌詞。こういう一瞬を切り取るのが詩らしくて良いですよねサカナクション
実体験とは関係なく、なんかこう人類共通の郷愁のようなものに襲われる凄まじい歌詞なんですが、私の家はそこそこ田舎で中学の頃とかには畦道とは言わないけど河原の道を自転車で走る君を追いかけたりもしてたので、個人的には忘れかけていたあの頃を思い出す曲でもあります。

とはいえ、もう昔のことですからそこまで自分を投影することもなく、頭の中では理想のショートヘアの美少女を思い描いて聴いてますけどね。

で、タイトルの出てくる

畔 走らせたあの子は 多分 風

というフレーズは、なんかこう、あの子が風になって消えていくような、あるいは最初からいなかったかのような儚さがあって、「風〜」がディレイしてくことでよりいっそう白昼夢の中にいるような感覚になります。
ちょっと違うけど、夢の中で知らない女の子と恋をするようなことが昔は結構よくあって(キモいって言わないでください)、その瞬間だけの、恋というには短すぎるけれど何か後を引くあのざわざわした気持ち。それを、「ざわざわ」という曖昧な言葉に逃げずに詩として描き出した見事な作品だと思います。

ちなみに、「連れて行かれたら」という最後のフレーズが、意味こそ違いますがそのまま次の「新宝島」に引き継がれる構成も上手いっす。




5.新宝島

サカナクション / 新宝島 -New Album「834.194」(6/19 release)- - YouTube

で、これ。
もはや説明不要ですが、インパクトのあるイントロからしてカッコよくてキャッチー。イントロの音がもうなんか揺れたり震えたりしてる感があって良いっすね。

歌詞はやはり長いこと書いてただけあって、バクマンのストーリーとサカナクションのストーリーの両立された、ある種ダブルミーニングみたいな歌。
しかしこれ、このアルバムが出るまではあまりにキャッチーだしサカナクションの延期癖の象徴のようであんま好きじゃなかったんですよ。
ただ、前述の通り、「モス」によってこのアルバムのここに位置付けられることで、ようやくちゃんと好きになれた気はします。

特に歌詞カードを見ると、字組がサビで「連れて行くと」と言ってるとこと「連れて行く"よ"」と言ってるとこで改行されてて胸熱でした。それは、今ようやく、とりあえずニューアルバムに連れて来てもらえたからというのも大きいですけどね。

あと、どうでもいいけど最初は丁寧丁寧丁寧のところを「ベイベーベイベーベイベー」だと思ってて、なんやこのキザったらしい曲!ってキレてました。




6.モス

山本リンダ感なイントロで始まるこれまた浅瀬側のキャッチーな曲ではあるんですが、歌詞が良い。

アルバムの流れにおけるこの歌詞の凄さについては前述の通りで、わりと説明的な詞ではあるのでこれ以上にあまり語ることはないのですが......。
「繭割って蛾になるマイノリティ」というフレーズがとにかく素敵ですよね。
この場合のマイノリティというのは捻くれ者みたいな意味でもあって、蛾であることをアイデンティティとして生きていこうと肯定された気持ちになります。
まぁ、正直なところを曝け出すならば、私は虫の蛾がこの世でも片手の指に収まるくらいに嫌いなので聴くたびに少しだけ「うえっ、蛾じゃん」という気分になってしまうのも事実ではあるんですけど......。

ちなみに、MVはなんぞこれ手抜きやんという気持ちが半分ではありつつ、後半の演技の上手さに笑ったのと、オチが秀逸だったのでオッケー。なにより、最後に出てくるあの人を演じてる方のことを知った時にもう一度「繭割って蛾になるマイノリティ」というフレーズを思って衝撃を受けました。そこまで含めて作品になっているのが凄いので、MV見た方は「あの可愛い女の子誰〜?」くらいの気持ちで役者さんを調べることをお勧めします。




7.『聴きたかったダンスミュージック、リキッドルームに』

で、これは個人的にサカナクションの曲の中でもトップクラスに好きな曲です。
今アルバムで初収録の完全な新曲を除けば、この「聴きっドルーム」と、「スローモーション」と、「mellow」が私の好きなサカナクションの曲ベスト3だったりします。

これはちょうど草刈姐さんの産休中に作られた曲で、ベースはモッチが弾いてて、だからギターはなくってリズムとキーボード主体のオシャレ感全振りな音になってます。

ファルセットのコーラスパートは、全然詳しくないけどアースウィンド〜っぽさがあって気持ちいいですよね。
あと、間奏(?)のキラキラ〜っていう音と「おお〜〜おお〜〜」ってとこもなんかこう、終わりゆく夜の特別感への愛着が湧いてきて切なくなります。

で、歌詞は「新宝島」でサカナクションを知ったリスナーを連れて行く先としてのクラブイベント"NF"のことを描いたものだと本人は言ってますが、そういう小理屈は置いといて......。夜にクラブでだけ会う名前も知らない君のことを描いたラブソング未満な儚いお話だと思います。

リキッドルームってのは東京は恵比寿にあるライブハウスで、名古屋民の私にはピンと来ませんが、キャパは900人ということだから名古屋で言えばダイアモンドホールとかあんくらいの、小さいとまでは言わないけどホールとかアリーナにはない一体感もあるような、そういうイメージですかねきっと。

そこでしか会えない君。
それは「多分、風。」で一瞬すれ違ったあの子への感情も彷彿とされ、あるいはこの歌の僕は君を待ちながら「多分、風。」のあの子を思い出しているのではないか、なんてことも想像しちゃいます。

そんな君と過ごす時間は、しかし夜明けとともに終わりゆく。
コーラスのパートで「続きまして夜は朝に変わります」「続きまして夢は朝には覚めます」と丁寧語で宣言されるのが儚くも、それを受け入れつつも最後の抵抗とばかりに「AM5時から始まるこの夜を踊ろう」と歌うのがうーん、エモい(語彙を喪失した)。

あと、「僕は東京生まれのフリをして」というとこも、地方民からすると東京という街への想像が膨らみますね。




8.ユリイカ(Shotaro Aoyama Remix)

からの、「ここは東京」と歌うユリイカのリミックスです。
こちらのリミックス版では、「いつも夕方の色 髪になじませてた君を」「空を食うようにびっしりビルが湧く街」「なぜかドクダミとそれを刈る母の背中を」といった具体的な情景描写は排され、「東京」「生き急ぐ」といった部分が強調されています。
そのため、東京盤の終盤にはぴったり。
また、この曲と次のセプテンバーで、「札幌にいた自分たちが東京に染まっていくこと」が体現されているようにも感じられてそこも感慨深いですね。

音的には、難しいことは分かんないすけど、オリジナルのギターのリフとかを印象的に使いながら静かに始まってだんだん踊らせてくる感じがカッケェすね。
ただ、私は最近は平日は車くらいでしか音楽を聴けないので、この曲の頭の方は走行音にかき消されて全く聴こえないのが悩みです。静かな車が欲しいよ......。




9.セプテンバー -東京 version-

この「セプテンバー」は、山口一郎が中学か高校かくらいの時に書いたという、初期とか以前の曲ですが、こちらの東京バージョンは打ち込み感の強いアレンジでオシャレな仕上がりになってます。
最後が「セプテンバー」というタイトルコールでアウトロもなく終わるので、そのまま札幌盤の方も聴きたくなってしまいます。

曲自体の感想は、10代の頃の原曲に近い札幌バージョンの方で改めて書くことにします。
ひとつだけ。「ここで生きる意味 探し求め歩くだろう」という歌詞の「ここ」がこの東京バージョンだと東京の街としてイメージされるのが良いですね。





というわけで、6年ぶりの新作『834.194』のディスク1=東京盤について語っただけで1万文字近く費やしてしまいましたが、長いこと待ったんだからそれくらいは語らせてくだせえ。たぶん次の感想札幌バージョンについてはもうちょい短くなるだろうと予測されるので、いずれはそちらの方もよろしくお願いいたします......(本当に書ききれるか不安やけど)。

それでは、長々とお付き合いいただきありがとうございました。ここで一旦ばいちゃ!