偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

『C.M.B 森羅博物館の事件目録』全巻読破計画③21〜30巻

例年忙しくなると漫画を読むのですが、今年のお盆は別のやつ読んでたし去年の年末はわりと死んでたので、なんだかんだ丸2年ぶりのQ.E.D、C.M.B全巻読破シリーズとなってしまいました。

そして今年はここまでにしておくので、本当に全巻読めるのはいつになることやら......。しかも新しいのもどんどん出てますからね。計画倒れになりそうな予感しかしませんが、さっそく参りましょう。





(各話採点基準↓)

★1 →→→→→いまいち
★★2 →→→→まあまあ
★★★3 →→→普通に面白い
★★★★4 →→とても面白い
★★★★★5 →めっちゃんこ面白い




21巻

op.61「冬木さんの1日」★★★3」

"ななせ湯"の常連の男が亡くなり、アメリカ在住の娘が「父の秘密を知りたい」とやってくるお話。

ミステリとしては、「見方を変える」というただそれだけの話なんですが、「ただそれだけ」というのがキーワードになった人情モノでもあり、お話としてはかなり好きです。泣ける。
冒頭の読者に仕掛けられるトランプマジックも一瞬引っかかって「え、なんで!?」ってなっちゃって楽しかったです。こういう次元を超えて読者をも巻き込んでくるサービス精神がさすが。



op.62「湖底」★★★3

企業グループの一族の娘・藍の婚約者は一年前に溺死した。事故死と見られたが、藍は家族に殺されたと考え、神羅に謎を解くよう頼むが......。

ある種バカミス的なトリックが面白いですが、分量的にトリックが明かされるまでが短すぎてやや唐突に感じてしまうのは仕方ないところ。
そんなトリックとはギャップのある悲しいストーリーも良いですね。藍というキャラクターが魅力的で、悲愴なラストシーンの彼女の姿がなにより印象的でした。



op.63「エルフの扉」★★★3

マウの店を訪れた森羅たちは、これから"仕事"がありそうなマウを尾行するが、彼女はふらふらと遊び歩いているばかりで......。

森羅くんに燈馬くんほどの深みがないのをカバーするようにミステリアスな魅力を放つのがマウというヴィランだと思いますが、そんな彼女のまた違う一面が見られる一編です。
これまでは軽いノリの悪役って感じだったマウちゃんが背負うものが明かされ、彼女を見る目が変わってしまいました。
また、ある意味燈馬くんの方のシリーズではありえなそうな構図の逆転も面白く、CMBならではの面白さが味わえるお話です。



op.64「バレッタの燭台」★★★3

マルタ島に住む老人が傷害事件を起こすが、彼は「自分の土地は聖ヨハネ騎士団の領地だ」と治外法権を主張。更に彼の所有するバレッタの燭台を巡って4国の論争に発展し......。

個人の揉め事から国を跨いだ論争になっていき、そこに歴史も絡んでくる贅沢な一編。
また、騎士の誇りを捨てない老人の生き様を描いたドラマとしても読めます。
要素が多すぎてミステリとしてはネタが細かくなりすぎているようにも思えますが、このスケール感の物語を1冊の4分の1の分量で読めるのがこのシリーズの強みだと思います。




22巻

op65「夏季補講授業」★★★3

夏季補講の授業が終わり、それぞれが部活に精を出す夏休みの午後。電研が作ったソーラーカーが壊される事件が起こり......。

QEDの方にはよくある学園回ですがこっちではそんなに頻度が多くなく、たまにこういうご近所の話も良いですね。
夏休みの登校日の午後のあの空気感とか、万年青春ゾンビ〜マンとしては凄くエモみでいっぱいになってしまいます。
絵で手がかりを配しつつ、意外な伏線を一個張っといて「ああ!」と膝を打たせる地味な巧さもさすが。
ちょっとだけ苦い後味もまた思春期の夏ですよねぇ。いいなぁ、青春だね。



op66「ガラスの楽園」

ガラパゴス諸島のとある島で漁師が崖から転落。彼は海洋学者のアイリスに突き落とされたと証言する。一方、ダーウィンは調査に行っている間に弟子を失い......。

スケールの小さな前話からのからの、久しぶりの2話分の中編で現在のガラパゴスでの騒動と進化論のダーウィンの物語とが交差して描かれる壮大な構成がまずドラマチックで面白い。
謎解きの意外性よりは進化論や生態系についての講釈の面白さと人間の関わり方を描いた物語としての面白さが勝りますが、そこがちゃんと面白いので面白かったです(文章力......)。



op67「螺旋の骨董品店」★★2

螺旋の構造を持つ骨董品店で起きた店主殺害事件。祖母の掛け軸を盗まれたと言いながら乱入してきた若い男が容疑者として逮捕されたが状況には不自然な点もあり......。

シンプルに不可解な状況設定から、シンプルな真相まで、どストレートに短編ミステリ漫画らしいお話。
(ネタバレ→)変わった構造の館が出てこれば当然仕掛けがあるものなので意外性は薄いですが、それでもこれだけしっかり作ってくるのは凄いっす。他に比べると見劣りするけど十分面白い。




23巻

op68「4枚目の鏝絵」★★★3

美人画ばかりを描いた鏝絵師の幻の作品を追い求める美術専門出版社の社長。しかし、その絵に近づく者には禍いが起こるという"呪い"があり......。

ミステリというより、怪奇幻想モノとしての面白さで、こういう変化球も投げてくるから凄いですよね。
真相は意外性は強くはないものの悍ましく、ラスト1ページの強烈な後味も凄い。振り幅の広さと、変わり種でもきっちり料理してくる著者の器用さも堪能できる一編。



op69「足摺厚焼き卵店」★★2

年末、卵焼きを買いに来た森羅たちだったが、店内には争ったような痕跡があり、店主夫妻は忽然と姿を消していて......。

年末の卵焼き屋さんでマリー・セレスト号をやるという奇抜な発端が良いっすね。
推理に関してはあまりに想像の域でしかなくて、この状況でそれを確信してしまえるのにはメルカトル鮎かよと言いたくなりますし、その真相もまぁしょうもないっちゃしょうもない。
ただ、こういう下町情緒みたいなの嫌いじゃないというか憧れちゃう部分もありますよね。



op70「Nobody」★★★★4

密売組織絡みの死体遺棄現場を取り押さえた警察だが、遺棄されたのは人間に似せたダミー人形だった。殺害されたとみられる組織の裏切り者の遺体は見つからず......。

ダミー人形を残して消えた死体という魅力的な謎の提示。
そこから、容疑者を洗っていくうちにさらに深まっていく謎の解決も鮮やか。
衝撃、というほどではないですが、ミステリ的にも凝っていてなおかつストーリーのシリアスさも好みだったので迷いつつ4点で。



op71「グラウンド」★★2

ある朝、高校のグラウンドが一面水浸しになる事件が。そして、グラウンドを使えなくなった野球部の部員の一人の様子がおかしくなり......。

謎を提示する見開き1枚絵が鮮やかで引き込まれます。
その謎は早々に明かされてしまい、そこから野球部のお家騒動みたいになっていくのが面白いとも言えますが、好みでいうとあんまり......。水浸し事件が魅力的なだけにそっちを掘り下げてほしかったと思ってしまいます。




24巻

op72「二笑亭」★★★★4

昭和初期に建てられた奇妙な屋敷「二笑亭」。現代、幼少期に自宅に放火し両親を殺したと疑われる若者がこの二笑亭を模した建物を作り始め......。

いやぁ、良いですね。
不勉強で二笑亭ってのを知らなかったんですが、この元の二笑亭自体がミステリアスで魅力的であり、それを題材にしちゃうケレン味が堪らんっす。
そして、この「館」の魅力に幻惑されすぎて真相にまんまと驚かされてしまい、お話としても綺麗に締めてくれれば、もう文句なしで面白かったです。



op73「ダイヤ泥棒」★★★★4

「驚異の部屋をご案内します」。そう言って、森羅はダイヤ盗難の真相を語り始める......。

冒頭から解決編で、犯人視点で語られていく倒叙もの。いきなり解決編が始まるからページをめくり間違えたかと焦りました。
読者としては森羅が犯人を捕らえることは知っているので、「ガキのお手並み拝見してやるぜ」とかイキってる犯人に「ふふっ」って思いながら読めて楽しいです。
普段と変わった構成を持ってくる遊び心で既に掴まれてしまい、そこにシンプルながらアイデア満載の真相がくれば、もう文句なしで面白かったです。



op74「レース」★★★★4

結婚を控えた姉と、その妹。父は1年前に自分の船を燃やして焼死した。姉は、かつて叔父が父の大切にしていたレースを盗もうとして撃ち殺された事件の真相解明を森羅に依頼して......。

これも良いっすね......。
なんかこの巻だけ点数爆上げしちゃって申し訳ないんですけど、正反対の姉妹が好きすぎてそれだけで4点付けてます。
いや、嘘です。もちろん話も面白い。
ベタっちゃベタなのかもしれないけど、論理的な推理の果てに明かされるこの真実の重みと、そこから現れる深い愛の姿には涙腺が緩んでしまいました。



op75「箪笥の中の幽霊」★★★3

闇市場の魔女ことマウちゃんが主役のスピンオフ短編。
いわくつきの箪笥の競売会で行われた降霊会の最中に殺人事件が起きて......。

「エルフの扉」の話で一気に好きになったマウちゃんの主演作ですが、この話でもやっぱりもっと好きにさせてくれました。
最後のあれはもうずるいよね。水原さん並みに推すようになる日も近いのか......!?
話も面白いです。シンプルなトリックをゴテゴテの雰囲気で包み隠し、それを明かす解決編の派手さも探偵役がマウだからこそな気がします。今後もこのスピンオフちょいちょい書いて欲しいですね......。




25巻

op76「掘り出し物」★★2

横槍くんの従兄弟があまりにも辺鄙な地で別荘を開業するという。心配になって様子を見にいく横槍くんと、便乗して遊びに行く仲間たちであったが......。

シリアスな話も意外と多いシリーズだけに、横槍くんたちが出てくるとほっと気が抜けて安心しますね。
ただ、宝物の在処については映像的には面白いけど意外性はそんなに。恋愛要素があるのは好みではありつつ、そこはわりと軽めの扱いなのでエモみまでは感じず、地味な印象ではありますが、この巻は後の話が好きなので第一話はこれくらい軽めでちょうどいいかも。



op77「バッグストーリー」★★★★4

輸入雑貨会社の新人の青年は、かつて別れた元恋人の結婚の知らせに感傷的になりつつも、フィレンツェで孤高のカバン職人を見つけて買いたいと申し出る。しかし、職人は「考える人」が何を考えているかを教えてくれたらという条件を出してきて......。

前話でエモいまで行ききらなかった恋愛要素がこの話で激エモきゅんきゅん丸に!!
もはやミステリなのかどうかも怪しいくらいミステリとしては薄味ですが、「考える人」の蘊蓄の面白さと、彼が何を考えているのかという謎は魅力的。
それに対する回答のあのエモさと言ったらもう!!あの1枚絵には涙ちょちょぎれそうになりました。
そんなわけなので、ミステリではなくお話としての4点です。



op78「その朝、8時13分」★★★★4

彼女とうまくいっていないことに悩む青年は、毎朝通勤時に見かける女性がニュースで見た行方不明者に似ていると気づき......。

どうもこの巻は恋愛絡みの話が多く、これも恋人との不和が発端となって奇妙な出来事に魅入られてしまう男の物語。
同世代の同じような境遇の男が主人公でありながら、読後感は前話と丸っきり違うのはさすがで、これもこれでめちゃくちゃ好きです。
幻想的な謎を現実的に解体しつつも、真相からまた別の幻想みが漂ってくるあたりが素晴らしい。



op79「香木」★★2

部屋に女の幽霊が現れたと言う男。その原因が香道の師範が持つ正体不明の香木なのではないかと調査を依頼された森羅たちだが、第二の幽霊騒ぎが起き......。

これは、あまりにもお騒がせ男が鬱陶しいので減点しました()。
殺人事件も起こるシリーズなんだからこんな奴殺しちゃえば良かったのに!
というのは置いといても、幽霊騒動の真相はどっちも思ったまんまだし、香木の正体は面白いけど特殊知識の範疇なので意外性はないしで、さらっと読み流してしまうお話。師匠のキャラは好きです。というか、この作者は地味に魅力的な女性キャラを描くのが上手いのでは。





26巻

op80「ゴンドラ」★★2

料理研究家の男は、義弟に脅迫され金を無心されるのに憤り、雪山の山荘でのパーティの名目で呼び出した義弟をゴンドラから転落したように見せかけて殺害するが......。

香木の話に引き続き鬱陶しい男が出てきますが、こっちはちゃんと殺されるのでスカッとジャパン。でもさすがに犯人が可哀想。
倒叙ものですが、犯人が使ったトリックの見せ方は面白かったですが、犯人特定の決め手はちょっとうっかりしすぎでは......とは思っちゃいますね。これは森羅じゃなくても現場に行けば分かる。警察は雑魚。



op81「ライオンランド」★★★★4

ケニアの野生動物保護区で現地の勇敢な戦士がライオンに襲われ殺された。現場に立ち会った少年は恐怖で口を閉ざしてしまい......。

いい加減、世界中どこにでも現れる森羅と立樹にも慣れましたが、しかしジャングルにいる彼らの場違いさはやっぱり半端ねえっすわ。
ミステリというよりは冒険ものの読み味で、ライオンの群の近くを通りながら徒歩で行軍するところの手に汗握るドキドキ感も珍しくて良かったです。
ただ、ミステリ要素がないわけでは全然なく、フーダニットでありつつホワイダニット的な驚きも備えた真相も普通に面白い。ミステリと壮大な冒険とを一度に楽しめる大作です。



op82「兆し」★★★★4

森羅博物館に唐辛子のお守りを売ってほしいと訪れる男性。理由を尋ねる森羅に、彼は文化大革命の記憶を語り始め......。

こちらはミステリ要素はかなり薄く、言ってしまえば漫画でわかる世界史シリーズなんですけど、ストーリーテリングが上手いからめちゃくちゃ引き込まれました。
「特別なことじゃない」という森羅のセリフが印象的です。身体的な暴力でこそないものの、現代日本ですらインターネット上での匿名の残酷な暴力などは日常茶飯で、確かに特別なことではないのだと思い知らされます。非常に陳腐な言い方にはなりますが、こうして歴史の過ちを知ることで学んでいきたいものです。




27巻


op83.「アステカのナイフ」★1

コレクターの男がアステカのナイフで刺殺される。警察は第一発見者の元妻を容疑者として捜査し、彼女の息子は母の無実を晴らすため事件の解決を森羅に依頼する......。

うーん、これは微妙ですね。
まず、事件自体があまりにも普通。ライオンと戦ったり文化大革命で壮絶な体験をしたりの後で「ナイフで男が殺される」では地味過ぎます。
かろうじてアステカのナイフなどの骨董品が出てくるものの、それもそんなに重要な意味を持たず。ミスリードはあまりにも見え透いていて引っ掛からなかったし、なにより警察が無能すぎる!はっきり言って警察が普通の捜査能力を持ってたら謎でもなんでもない単純な事件ですからね。
最後のちゃぶ台返しみたいな終わり方も、それはそれで面白いけどこれをやっちゃあおしまいでしょ......という感じもします。
珍しくハッキリと駄作と言えそうな作品があることで逆に普段のアベレージの高さが浮き彫りになるので、たまにはこういうのもありかな、とは思います。



op84.「爆破予告」★★2

有名家電メーカーが主催する夏休みの恐竜展。森羅もアドバイザーとして準備に参加する中、夜中に社員のメールに「会場に爆弾を仕掛けた」という爆破予告が届き......。

倒叙じゃないのに犯人が見え見えすぎて倒叙みたいな気持ちで読めるお話。
しかし、犯人が誰かはともかく、この歪な犯罪の目的にはなかなか唸らされました。現実問題としてそんなに上手くいくものなのか?とは思いますが、予想外な発想の飛び方とそこから見えて来る登場人物の本心がなんともやるせない余韻を残します。



op85.「幸運」★★★3

ネットゲーム制作会社の社長のオフィスで経理部長の死体が発見された。現場は密室で鍵を持っていたのは社長だけ。しかし彼は事件の発生時には外出していて......。

小説でこのトリックをやられたらあまりにしょうもなく感じてしまいそうですが、絵面のインパクトで「おお!」と思わされるので漫画向きのネタなのかもしれません。
容疑者と目された男の一人称で語られていくため森羅は突然現れて推理をし出した謎の子供みたいな扱いなのも面白いです。森羅が報酬に何を貰ったのかは気になるところですが......。
そしてちょっとベタなもののドラマ的な結末もしっかりしててお話としても楽しめる一編です。



op86.「大入道の屏風」★★★3

経理のミスから資金がショートし倒産寸前のマウ美術商。至急で現金を調達するため、とある富豪宅で「100年間見つかっていない大入道の屏風を見つけてくれ」という難しい依頼に挑むことに......。

マウちゃんのスピンオフ再び!
前回はマウの過去と、そこから作られた人生観のようなものが主題でしたが、今回はプロの商売人としてのマウに密着する「情熱大陸」みたいな話。
ミステリとしてのネタは見た瞬間に分かっちゃうけど、これこそ漫画ならではで、こういうアイデアを思いついて実行しちゃう稚気が好きです。
また、そのトリックが使われた背景にドラマがあり、それがマウのドラマと重なり合ってあのエモい結末に至るあたりの話の作り方がやっぱり上手くて、今回もまたマウというキャラをより好きになってしまう良いスピンオフ回に仕上がってます。

28巻

op87「キジムナー」★★★3

キジムナーってこんなんだっけ?というビジュアルの可愛く怖いキジムナーのビジュアルインパクからして惹かれます。
話の内容はいい意味で不思議なもので、幻想小説のような雰囲気さえ漂います。
言ってみれば、島田荘司の『眩暈』などを彷彿とさせるもの。もちろん大長編の『眩暈』と比べたらショボいですが、人間の記憶が1番のミステリー......みたいなノリは不気味さと不思議さがありつつ、わりと爽やかな話でもあってバランス良く面白かったです。



op88「空き家」★★★3

取り壊しの決まった空き家からホームレスの遺体が発見された。森羅にコレクションの査定を依頼した男は、亡くなったホームレスとは友人だったと言い......。

こちらも個人の思い出を巡るお話。
近所の誰にも存在を知られていない、けれど確かに友人だったホームレスの男との交流の様子が切ないです。
都会の中の孤独、また孤独死というテーマと密接に結びついた真相と、ラストの森羅のセリフにゾワッとさせられる、現代の怪談です。



op89「ホリデー」★★★★4

アフリカの2国間の悲惨な戦争を止めるべく、外務次官のジルは国連安保理に停戦決議の申し立てを行う。しかし、戦いを止めるためには常任理事国の否認を受けないことが条件になる。ジルは知人の森羅に依頼をし、共に理事国への交渉を行うが......。

2話跨ぎの大作。
現在進行形の悲惨な戦争を止めるという、これまでのエピソードの中で最も重いと言えそうなお話です。
いつになく凄惨な殺戮の場面もしっかり描かれています。その上で、常任理事国との交渉をしていくわけですが、ここはきちんとエンタメとしてのミステリーに仕上げています。
このトリックがけっこう馬鹿馬鹿しいくらいのものなのですが、「国益」のために他国の命をあっさりと見捨てることの方が馬鹿馬鹿しいとは言えそうです。
テーマとのギャップのあるこのトリックが印象的で、しかしミステリとしては正直薄味。あくまでも正義を遂行するために戦う男のドラマとして、傑作でした。



29巻

op90「プラクルアン」★1 or ★4

半年前に亡くなった石油王。その孫に依頼され、タイのお守り「プラグルアン」を鑑定した森羅。結果は量産品だったが、孫はこのお守りにはそれだけじゃない秘密があるはずだと言い......。

これはなんて言えばいいんでしょうか。
やってることは面白いと思いますが、好きか嫌いかで言うと嫌い。でもこれだけ強烈に嫌だと思わされているのはもはや面白かったということですね。
何を書いてもネタバレになりそうですが、(ネタバレ→)めちゃくちゃ良い話に出来たところを無理矢理みたいに狂気的すぎるイヤミスに変えてしまうのは、どうなんでしょうね。



op91「被害者、加害者、目撃者」★★2

初詣に来た立樹は、誰かが誰かのカバンをひったくるのを目撃する。犯人が落として逃げたカバンを見て、1人の男と1人の女が「自分のものだ」と主張し......。

発端の謎は魅力的。日常の謎にして、正反対のことを言い続ける2人の関係者は不可解でありつつおかしみも感じてしまいます。
ただ、解決で明かされる計画はちょっと無理がありそうな気がします。
ただ、そこから「目撃者」の介入で事件が歪な形になる構図は面白いと思います。
ただ、こういう地味に嫌な話の方が、いわゆる「後味悪い系」よりも後味悪いんすよね。



op92「椿屋敷」★★2

祖父から受け継いだ屋敷を売りたいが大き過ぎて売れないことに悩むボンボン若社長。祖父は「屋敷のことで困ったら森羅博物館に相談しろ」と遺言を遺していて......。

たった一つの小さなアイデアから話を一本作ってしまう職人っぷりは凄いですが、やっぱりたったそれだけ、という気はしてしまいます。私はかろうじて知識があったからいいものの、知らなかったらほんとにふーんという感じだと思う。
そこに、老執事(じゃないけど)と人はいいけどアホなボンボン若社長という魅力的なキャラクターを突っ込むだけでこれだけ面白くなるわけですからね。
トリックを作る技術ももちろん、一話で使い捨てるのは惜しい魅力的なキャラクターを量産する技も凄まじいと思います。




op93「自白」★★★3

容疑を否認し続けていた殺人の容疑者が、「やってないけど誰も信じてくれないから」と容疑を認めるようなことを言い出した。果たして彼は冤罪なのか......?

(ネタバレ→)どうしても警察より弁護士の側に感情移入して読んでしまうことで、「容疑者がそのまま犯人」という捻らないことが捻りみたいな真相のショックが増します。
そこに細かい物理トリックを加えて説得力を増し、最後に森羅が一言もの申す流れ。なんか、最近の森羅くんはただ好奇心と謝礼目当てで謎解きしてた頃の彼ではなくなってきて裁きを下す者のような風格が漂ってきてて、頼もしい一方で少し寂しさも覚えます。




30巻


op94「ドリームキャッチャー」★★★3

恋人の鷹夫が新しいドリームキャッチャーを作ると言い残して姿を消した。戸惑う小春の元を弁護士が訪れ、鷹夫に会社の金を横領した容疑がかけられていると告げる。小春は鷹夫を探すため森羅たちとともにアラスカへ向かう......。

結婚しないままずるずると付き合ってきて停滞しているカップルに試練が訪れるというベタなラブストーリーをベースに、なぜかアラスカで野生動物と戦ったりする展開の飛び方がめちゃくちゃ面白いです。
森羅の推理に関してはさすがにそれだけの伏線からそこまで断言出来ないでしょ、メルカトル鮎じゃあるまいし、と思ってしまいますが、ラストの着地点も含めて話としてはとても好きです。



op95「宗谷君の失踪」★★★3

関西から東京に出てきた大学生の隼人。大学とバイトが同じで友達になった宗谷が突然失踪したことに悩む彼は、ななせ湯で知り合った森羅に宗谷の居場所はどこかと相談し......。

周囲に馴染めない大学生の彼らが自分を見ているようでついつい引き込まれてしまいます。
謎の答えは本当に「それだけ?」っていうようなことですが、それが逆に意外性を持っていてグサッと刺さります。
毎度単発キャラが魅力的な作品ですが、本作の方言全開の女の子がめちゃくちゃ可愛くて、なんとかレギュラーキャラになってほしいと思ってしまいますが故郷(くに)に帰ってしまったのでならなそうで悲しい。



op96「JOKER」★★★3

顧客のベルナルドの結婚式で、ベルナルドを刺した容疑で不運にも逮捕されたマウ。森羅に冤罪を晴らすよう頼むが......。

レギュラーキャラでは1番の推しになってきたマウちゃんが冤罪で捕まるという愉快なお話。
トリック自体はシンプルすぎて「あれじゃないよな......?」と思ったのがそのままそうだったんですけど、(ネタバレ→)車の「ぶつけろ」まで伏線とは思わず、そこは驚きました。
C.M.B完結しちゃったらしいし、M.A.Uが始まってくれたら嬉しいんだけどなぁ。



op97「ピーター氏の遺産」★★2

マウに連れられてやってきたフランスの豪邸。主人のピーターは膨大な遺産をどこかに隠したまま殺されてしまった。妻のカティアは遺産の在処を探すようマウと森羅に依頼し......。

続け様のマウちゃん回。
と言っても今回はほぼそこにいるだけで出番少なめ。
しかし話が普通に面白かった。射殺された当主が遺したはずの遺産を探す宝探しの要素と、彼の死を巡って何が起きたのかというホワットダニットのような興味の二本立て。それぞれがしっかり結びついて隠されていたドラマが浮かび上がってくるあたりの話の作り方がやっぱ上手いです。まぁ全部お前が悪いやんとは思うけど。
あと、この真相だと犯人に当たる人物の言動が相当不自然に思えてしまうのがかなりネックかなぁと。もちろん人の心なんてミステリーですけど、それにしてもってところで......。