偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

大いなる幻影(1937)


第一次大戦下、ドイツ軍の捕虜となったフランス兵のマルシャル。収容所の同室の仲間たちは脱走のための穴を掘っていて、彼もその計画に加わるが......。



別に好きなわけじゃないけどなぜかジャン・ギャバン3連チャンしてます。

本作ですが、筋立てだけ見れば脱獄モノの先駆みたいな作品で、実際『大脱走』の元ネタの一つとも言われるそうです。
ただ、実際のところは脱獄のサスペンスではなく収容所という特異な空間での人々の交流が見どころ。
ドイツ軍とフランス軍という敵対する国同士の軍人同士の間にお互い軍人としての敬意があったりして、それを象徴する収容所長のラウフェンシュタインさんのキャラクターがとても良かった。
また、国の違い以外に貴族の出だったり平民だったりという身分の違いもあり、そうした様々な立場の違いから反発したり敵対したりしながらもギリギリのところで互いを尊重し合う姿勢みたいなのが通底していて、そんな人たちの在り方が美しくも「戦争中じゃなければこの人らいい友達になれてたのに」という強烈な悲しみもありました。
男だけの世界なのでどこかブロマンス的な味わいやホモソノリの楽しさみたいなのもあってシリアスな中にも気が抜ける場面もあるのが良かった。女の服が配給されるところとかなんとも言えぬ滑稽みと寂しさが同時にあって凄かったです。

終盤で明らかになるタイトルの意味は、本作が1937年に制作されていることも考えるとその反戦のメッセージの強さにグッときます。それとともに、それから100年近くが経ってもなお、それは「大いなる幻影」であり続けていることに絶望もしてしまいました。