偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

A.I.(2001)


ロボットが普及した近未来、親への愛をプログラムされた新型ロボットのデイヴィッドはテスト使用としてとある夫婦に引き取られる。しかし、怪我により冷凍睡眠していた実の息子が帰ってきて......。



いや〜、凄かった。
勝手なイメージからロボットの少年が親の愛を受けて心を持つようになる......みたいなほっこりSFヒューマンドラマだと思ってて、実際序盤は若干そんな雰囲気を出してきてたのでちょっとヌルいかなと思ってたんだけど、ごめんなさい、めちゃくちゃ大人向けの重厚な社会派SFでした......。

イメージ通りなのは最初の30分くらいなもの。その辺からして顔がくぱぁって割れるロボットとかハーレイくんの薄気味悪い微笑みとかでかなりダークでキモい感じは出てたものの、そんでもまぁジュブナイルSFみたいな雰囲気ではありました。でもジュブナイルにはあり得ないとある展開に「え〜っ!?」ってなってるところに、突然サブプロット的に男性型セックスロボットのジョー(ジュード・ロウ!)の物語が入ってくることで一気にダークファンタジーの様相を呈するワンダーが最高。
そっからもラストに至るまであらゆる変なものや光景を見せてくれ、シリアスながら時にユーモアを交えて進んでいくめっちゃエンタメしてるところはさすがとしか言いようがなくただ面白かった。

そういう楽しさがありつつ、個人のエゴによって捨てられたデイヴィッドがさらに人間の巨大なエゴに晒されながらもただ母への愛だけを原動力にてくてく進んでいく様はかなり切なく苦しい。子供や動物への虐待から差別による迫害や戦争まで、スケールを問わず人間の醜い面を生々しく見せて、それに対してロボットであるデイヴィッドたちの方が「人間味」があるように感じさせる皮肉が痛烈。
娯楽作品として作り込みながらこういう悲しみや怒りのメッセージをも観客にストレートに投げかけてくるあたりは更にさすがとしか言いようがない。
そんなつらい旅路の果てにあるラストはかなりインパクトあるもので、序盤との対比も鮮やかで泣けます......。

なんつーか、やっぱり映画が上手すぎて演出とか展開に「おもろいやろ?」というドヤ顔が滲んでしまう感じはするけど、そんなことはどうでもいいくらい面白くも心に残る名作でした。