偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

イノセンツ(2021)

最近よく映画館に行くのですが、こないだなんかの映画を観に行ったときに本作の予告編が流れて「めちゃくちゃ良さそう!」と思い、仕事終わりにふらっと観に行きました。
なんせ仕事終わりだったので、今布団が目の前にあったら一瞬で寝れるわってくらい眠くて、映画始まったら寝るなこれ......と思ってたんだけど全編緊張感が途切れず寝てる暇なんてなかった!最高でした!


夏休み期間中にノルウェー郊外のとある団地に引っ越してきた少女イーダと自閉症の姉アナら一家。イーダは、物を触れずに動かす能力を持つベンジャミンという少年と友達になる。一方アナは彼女の心が読めるアイシャという女の子と過ごすようになる。やがて4人で遊ぶようになった彼女らは、ベンジャミンの念動力とアイシャのテレパスの実験と訓練をはじめ......。

派手なことは起こらず静かでゆったりと進んでいく映画ですが、その中に常にヒリヒリするような緊張感があって、紅茶飲むとき以外はほどんど口を押さえながらはわわわわって感じで観てました。
低音の環境音に近いようなBGMと、団地の中だけでしか話が展開しない閉塞感、美しくも不穏な映像などが醸し出す総体的な雰囲気がもう堪らんて......。

冒頭の、引越しの車中で主人公イーダが自閉症の姉アナの腿を強く抓る場面からしてもう嫌な緊張感に満ちていて、その後出会うベンジャミンと共に無邪気に動物を虐待するところあたりにはもう本作の閉じられた世界に引き摺り込まれていました。
「善悪」なんてのはある程度大人になるにつれて身につく教養であって、「イノセント」な彼らはそういうものを持たないが故の無垢な残酷さがあります。「子供故の無垢な残酷さ」と一口に言ってしまえば単純なんですが、本作ではイーダやベンジャミンがそんな残酷さを発露させるに至る環境とか性格とかが細部の描写から因数分解するようにじわじわと描かれていくのがすごかった。同じ動物虐待を共有して遊ぶ2人にもそれぞれ違った背景や意図がある。同じ気持ちだと思っていたらある一瞬で自分と彼との違いをはっきりと確信してしまう。序盤のあのシーンはほんと名場面だと思う......。
そんな残酷さに恐ろしく思いながらも目を奪われる一方で、テレパシーという共感能力を持つアイシャという少女が殺伐とした本作の唯一の良心みたいなところがあり、彼女を介することで疎ましい姉との絆を再構築していく過程も素敵。

本作の大人たちの扱いですが、子供たちに確かに強い影響を与えているけど、本作のストーリー自体では空気というか、大人が子供たちの問題に介入せずに全てが子供達の間だけで始まって終わっていくところも好きです。子供の頃って「どうして大人ってこんなに何も分かってないんだろう💢」と思ってましたが、その感じを懐かしく思い出した。
しかし今大人になった身としては、子供たちがこういう風にならない環境を与えることの難しさも感じ、本作に出てくる親たちを非難する気もなれずなんとも居心地の悪い気分でしたね。

そして、子供たちの演技がほんと凄かった。
みんな抑えたリアルさがありつつ伝えるべきところはさらっと伝えてくる感じ。説明台詞の少ない映画なだけに、彼らの演技で伝わらなきゃ成り立たないし、そこを完璧にやってのけてんのすごすぎる......。

静かながら緊張感のあるクライマックス、余白のあるラスト、そして作中で「落ちる」モチーフが多用されてるのに対してのあのエンドロールと、最後まで良さが詰まってました......。しかし家でゴロゴロしながら見てたら寝てた気もするし映画館で観て良かったわ......。