偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

レベッカ・ソルニット『説教したがる男たち』感想

様々な分野で多数の著書を持つ著者による、「マンスプレイニング」という言葉が生まれるきっかけにもなった性差別・性暴力に関するエッセイ。

かつて好きだったミュージシャンのことを「ミソジニーその他の差別意識が強い」という理由で嫌いになったのですが、私自身別にフェミニズムを学んでいるわけでもないのに偉そうに一席ぶったのも若干恥ずい感じもして今さらながら読んでみました。

本書は全9章から成っていて、どの章もフェミニズムをテーマにしながらも、エッセイから話題の出来事、作品論や作家論まで幅広い切り口から語られていきます。
また文体は淡々とした怒りが滲みつつも切れ味鋭い皮肉なユーモアも織り交ぜたものなので読みやすく、すっと入ってくるところが良かったです。

第1章で描かれるのは、「著者本人が書いた本について知らないおっさんから上から目線で教えられた」という笑い話のような出来事なんですが、そこから個人による性暴力、男が女を支配するように作られた社会の仕組みまで敷衍して語られていくことで笑えなくなっていく話の展開が流麗で引き込まれてしまいます。

暴力とは何よりもまず、独裁主義のようなものだということだ。その前提はこうだーー私には、お前をコントロールする権利がある

小さな出来事から大きな事件まで、その根にあるのは自分には他人を支配する権利があるという傲慢。

女を殴ったり、レイプしたり、脅したりしてないから、ご褒美にクッキーでもくれってこと?

「それをしていない自分は善良、理解がある」という考えも要は「権利がある上でそれを放棄してる」ということなので根は同じなわけですね。こういう本を読んで分かってるフリをしてる私も同罪で、そのことをちゃんと自覚させてもらえました。

あと、同性婚に反対するのは、同性同士の対等な関係をヘテロカップルの間に持ち込まれて男性優位を崩されるのを恐れている、という見方には目から鱗が落ちました。今までは「自分に関係ないならなんで反対してるんだろう」と思ってたんだけど、そういうことだったのね......。

なんかまぁ小説じゃない本っていつも以上にまとまりのない感想になってしまうけど、女として生活できない時点でどうしても分からんことが多いのでそれを女性視点で教えてもらえたのは良い経験になった。