うっかりミスから不祥事を起こしてしまった刑事・寺田聡は、警視庁犯罪資料館、通称〈赤い博物館〉に左遷されてしまう。
過去の事件の証拠物件にラベルを貼るという単調な仕事にうんざりする聡だったが、そんなある日、館長の緋色冴子警視が迷宮入り事件の再調査をし始めて......。
久々の大山誠一郎。......というか、まぁこの人の場合は寡作なので久々なのもしゃあなし。
本書は、時効になった事件を〈赤い博物館〉の2人が再捜査するという連作短編集です。まあ時効警察みたいなもんっすね。
過去の事件の資料を読んだ探偵役の冴子が、聡に簡単な事実確認をさせた上で事件の隠された真相を暴く、というフォーマットのほぼ安楽椅子探偵もの。
そのため、読者にも手掛かりが開示され、なおかつ聡による確認事項が事件のヒントにもなっているという親切設計。
にも関わらず、なかなか真相を見抜かせないところも(私がアホなだけかも知れんが)見事です。
一方、著者の作品にありがちな、ちょっとしたご都合主義や推理の飛躍もちらほらと見られたりはするので、その辺はパズルと思って割り切って読むのが吉ですね。
ともあれ、短い分量で推理パズルとしてもトリック博覧会としても面白かったです。
例によって1話も真相わかんなかったけど......。わたしゃ探偵にはなれねえな。トホホ。
以外、各話感想。
「パンの身代金」
とある製パン会社の商品に異物が混入され、社に"パンの身代金"として1億円が要求された。犯人の指定する取引場所へ向かった社長は、警察の監視の中で殺害され......。
まず、商品に悪戯をするという普通に嫌な感じの発端が物珍しくて面白かったです。
ただ、トリック自体はありがちですし、とある事象との関連も飛躍しすぎていて「何でそうなるん」という気がしてしまい、素直に納得できなかったのが残念。
「復讐日記」
「麻衣子が殺された」
死んだ女子大生の元恋人は、彼女を殺したと思われる犯人への復讐の一部始終を日記に綴っていた。だが、冴子は日記の中に謎を見出し......。
不謹慎ですが恋人が死ぬ青春ミステリに滅法弱いので、冒頭からぐわっと引き込まれてしまいました。
日記部分に引き込まれてしまっただけに、ミステリ的な解決が物語を無粋にしやしないかと心配しつつも、それもわりと杞憂。冴子の推理はミステリとしてもえげつねえびっくりもんではありつつも、それが青春小説としてのエモさをも加速させるものだったので凄えっす。
本書でダントツ好きな一編でした。
「死が共犯者を別つまで」
聡はたまたま居合わせた交通事故現場で、死に瀕した男の過去に行った巷間殺人の告白を聞く。断片的な男の話から当該の事件を探っていく聡だが......。
はい。
とある男が死に際に過去の罪を告白する......のですが、肝心な部分だけが見事に聞き取れないというご都合主義の極みのような発端が、むしろ安心安定の味わいという気さえしますね。ディスってるようにしか見えないけど、このパズルとしての人工性こそ大山誠一郎。
そもそもややこしい交換殺人っちゅうもんをこねくり回すのでアホの私は話についていくので必死でしたが、終わってみれば単純なことだったのに気付けないので、手を上に上げて、降伏のポーズ。
「炎」
幼少期に両親と叔母を凄惨な事件で亡くした若き女性写真家。彼女のインタビュー記事を読んだ冴子は、事件の再捜査を決めるが......。
復讐日記と似て事件関係者の文章からはじまるお話。その形式から滲み出る切ない物語性が好きってのもありますが、やはり本書で二番目のお気に入りになりました。
トリック自体はよくあるものでもありますが、伏線の張り方などの見せ方であっと言わせてくれます。
そして、これもまたミステリとしての解決が隠されていた物語を浮かび上がらせる点が好みドンピシャ。ストーリー性を排した作風という印象のある著者ですが、物語性がギリギリまで切り詰められているからこそ、こうやって上手くいくとすごく印象に残るって気もしますね。
「死に至る問い」
河川敷で起きたごく普通の殺人事件。それから26年が経った今になって、現場や凶器などが当時の事件とそっくりな模倣犯らしき事件が再び起こり......。
意外性は本書でも一番。
指摘される犯人の正体には「は?」と思いつつ、論理的に納得できる説明がされるので脱帽です。また、逆説の論理のようなものもあって泡坂連城あたりを連想します。
ただ、そこら辺がちょっとやりすぎでマジかよと思ってしまい、説得力の点ではやや弱いかなとは感じます。
とはいえなかなかびっくりしました。
ラストではちょっとしたほっこり話と続編への目配せもあり、赤い博物館リターンズを期待してしまいますね。