トクマの特選のカジタツ3冊目にして、個人的には今までで一番好きです。
冬の清里高原のとある別荘に忍び込んだ義信たち5人の男女。ある連絡を待つための隠れ家としてそこを選んだ彼らだったが、そこには謎めいた雰囲気の女がいた。そして、彼らの仲間の1人が不可解な死を遂げ、連続殺人の幕が開く......。
タイトルこそ2時間ドラマっぽいですが、新本格ムーブメントの翌年の刊行で、狙ったのかどうなのか本作も新本格っぽさが漂う意欲作となっています。
大学生らしい5人の若者と1人の謎めいた女によるクローズドサークルで、雪も降ってないし電話もあるのに逃げられないという状況設定が面白いです。
彼ら6人のキャラ立ちもしっかりしてて会話も軽快で、緊迫感よりは読みやすいライトさが魅力の作品です。といっても終盤最後の殺人あたりのクライマックスはスリリングでしたしね。
主人公の義信と、恋人のルリ子、ヒロイン役の秋江との三角関係的な部分(前面には押し出されないけど)にドキドキしちゃいますね。本作はトクマの特選の分類では『青春迷路』系統ではないけど、青春要素も魅力の一つかと思います。
ミステリとしては、基本はどんどん人が死んでいくオーソドックスな吹雪の山荘ものでありつつ、そこに主人公たちグループの側の秘密と、秋江というファムファタルの秘密も絡み合い、ただの山荘ミステリでは終わらなそうなところに惹きつけられてしまいます。
真相は、あんま書けないけど、がつーんと殴られるような意外性があってめちゃくちゃ良かったです。
まぁ正直私は頭悪いので細々したロジックとか伏線回収とかよりもこういう「がつーん」てのが好きなんですね。ただ意外性があるというのはともすれば後出しっぽくなってしまうところ、思い出しやすく数も多い伏線によって納得させてくれるあたりは「伏線の魔術師」の面目躍如でもあり。
また作中に「通俗こそ人生の王道」みたいなセリフがありますが、それを体現するようなベタな(でも素敵な)結末も良かったです。こうなってほしい、と思ったその通りになってくれるのがエンタメ全振りという感じ。めちゃくちゃ楽しい通俗小説でした。
以下ネタバレ。
なんか後年の作品で似たトリックのものがあった気がしましたが忘れちゃいました。
銀行強盗だと思わせて、そしてクローズドサークルものだと思わせて、メイントリックは「誘拐」の話だったことの隠蔽にあるという捻くれた着想が凄え。
2人だけになったうちの主人公じゃない方がそのまま犯人というのにガッカリしかけていたところでそれが明かされるというタイミングの演出も上手いと思います。
最後の理屈っぽく破滅的な恋模様もきゅんきゅんしちゃって良いですね。
