偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ザ・クレイジーズ(1973)


とある田舎町で男が発狂して妻を殺し家に火を放つ事件が発生。男の発狂は漏洩した細菌兵器によるもので、人口3000人の小さな町は軍によってロックダウンされた......。



『ナイトオブザリビングデッド』と『ゾンビ』の間にあるロメロによるゾンビものじゃない感染スリラー。

冒頭の男が発狂するシーンは赤や青や黄色がバキッと効いてるカッケェ映像で、そっから本編に入ると田舎町の緑あふれるくすんだ風景と白い防護服の軍人たちとの違和感が面白く、どっちにしろ低予算ながら映像がカッコよくて好き。

お話は主に軍の大佐と細菌兵器を開発した科学者のパートと、軍に捕まらずに町の中を逃亡するグループのパートの2つの視点から進んでいきます。
どっちにも寄りすぎずに淡々と進んでいくのが退屈といえば退屈だけどそれによって客観的なリアリティが出てもいて面白かったです。リメイク版は逃げる側視点でアクション的なエンタメ性があってそれも面白かったけどどうしても俗っぽくはなっちゃうから、オリジナルの本作の方がシリアスなかっこよさがありましたね。

感染してもゾンビになるわけじゃなく発狂するだけであり、そもそもみんなパニクって発狂してるのでどこまで広がってるか分からなかったり、自分の隣にいる人が感染したのか元からこんな感じなのかも分からん怖さがありますね。
そして、感染症そのものよりそれを隠して封じ込めようとする権力と、その命により機械的に動く軍隊の怖さが主眼になってんのもブレない。てか防護服を着て命令通りに動くだけの軍人たちがゾンビ的に描かれてて、怖いっすね。民間人に普通にやられまくっててゾンビみたいにザコいのはちょっとウケるけど。もちろん彼らも権力の犠牲者なので憐れでもあり、その辺をドラマチックさは抑えながら丁寧に描いているのが凄かった。
最後のクライマックスの場面だけはそんでもかなりドラマチックで、これまで抑えめの演出だっただけに泣きそうになりました。つらい。

ゾンビシリーズに挟まれてあんま陽の目を浴びてない印象ですが隠れた名作でした。