偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ナイブズ・アウト:グラス・オニオン(2022)


パンデミック下、名探偵ブランの元に届いたパズルBOX。それはギリシャの孤島で開かれる大富豪マイルズによるパーティーへの招待状だった。
マイルズは余興として自らが殺される殺人ゲームを企画するが......。

ナイブズ・アウト: グラス・オニオン | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト


『ナイブズ・アウト』の続編の名探偵ブノワ・ブラン シリーズ。
前作は大作家の館での遺産相続をめぐる事件でしたが、今作は孤島での殺人事件というこれまた古典的なミステリの意匠と展開。
それでいて、導入部ではみんながっつりマスクをしてきちんとコロナの存在を描き、容疑者は陰謀論系YouTuberに炎上系ツイッタラーといった今風な要素も取り入れ、前作以上に古典的ミステリ感と2022感との良い違和感が味わえるのが凄い。

バカなテンションととぼけた皮肉の同居する絶妙なユーモアも前作よりパワーアップし、笑いながら観ているうちにぽんぽんと伏線らしきものがばら撒かれ事件が起こるスピード感!
そして、ある時点でガラッと展開が変わってジャンルすら変わって観客を翻弄してくれるのも前作同様で期待通り。
そして全てのピースが出揃って明かされる真相は、これまた前作と同じ不満点を感じつつも、やはり前作以上に良い意味で馬鹿馬鹿しくぶっ飛んだ真相となっていて驚きつつ笑えるバカミスの味を久しぶりに味わえました。
さらに謎解きが終わった後のアレコレもより痛快で、個人的には全体に前作より楽しめました。
主題歌も今回はタイトル通りで、なかなか渋い選曲よね、グラスオニオン。そうそう、表面的なモチーフに見えていたタイトルの綺麗な回収も最高でした。

唯一惜しむらくはネトフリ制作だからネトフリでしか観れない点。そもそもこれは映画館で見たかったし、うちネトフリ入ってないから実家まで行って見せてもらわなきゃならんかったわい。

ともあれ、本作ではブラン探偵の魅力もさらに増してどんどん好きな名探偵になって行くので、次作も作って欲しい。国名シリーズや館シリーズのように10作くらいは作って欲しい!そして10作完結したらどれが好きかを話し合いたい!ちなみに館シリーズは時計館派です。ベタ!

以下ネタバレ。




































































中盤からヘレン視点のコミカルサスペンスになったり、名探偵が推理ゲームが始まる前に真相を突き止めてしまったりみたいな"ハズシ"と、ポッケに物が入ってて撃たれても助かったり、チリソースで死んだふりしたりといった"ベタ"が共存しているのが、古典ミステリと現代社会風刺の両立というテーマにも合っていて気持ちよく翻弄されました。
また、「犯人がバカだった」というあんまりな驚愕の真相には爆笑。これぞ本物のバカミスってもんでしょ!なんせバカすぎて逆に事件が複雑に見えわけですからね......。
何枚もの皮があるようで実はただの空洞な「グラスオニオン」というタイトルが、ここにきて島の館の建築意匠から物語そのものを表すモチーフに早変わり。
ちなみにビートルズのグラスオニオンという曲の歌詞も、これまでの曲名を意味深に配置してリスナーを深読みに誘って揶揄うというジョンの皮肉が効いたもの(らしい)ので、そういう意味でも本作の内容にピッタシ合ってて素晴らしい。
そして「絶対なんか企んでるやろ」というガラス割りそのものが爽快な上に、もちろんこれはアレの前振りでドッカーン!っていう、ここ映画館で観たかったわ!!!モナリザもとばっちりすぎてわろた。
どほけたようで切れ者で、無関心なようで強きをくじき弱気を助けるブランさんのキャラクターもどんどん好きになってしまいました。