偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023)


廃村となった哭倉村を訪れた鬼太郎と目玉おやじ(と猫娘)。目玉おやじはそこでかつて体験した、鬼太郎の生誕にも関わる事件を思い出すーー。
ーー時は昭和31年。血液銀行に勤める水木は、取引先である龍賀一族の当主・時貞翁の死を受けて哭倉村を訪れる。そこで彼が出会ったのは妻を探しているという謎の男ゲゲ郎。やがて龍賀一族の人間がひとりまたひとりと異様な方法で殺害され、水木とゲゲ郎の2人は否応もなく事件に巻き込まれてゆくが......。

友達と見に行ったらしい妻に「あなたミステリファンなら絶対好きだから観ろや(意訳)」と言われ仕事終わりに映画館に引きずっていかれて無理やり観せられたわけですがまぁとんでもなかったわ。よくもこんなもんを仕事終わりに観せやがってマジ最高さすが私の趣味を分かってらっしゃるわ......。
観に行く前はあんまよく知らずに鬼太郎くんの幼少期のエピソードとかがあるちょっと怖いけどなんだかんだほのぼのしたファミリー向け映画だと思ってたら普通に「これPG12!?R18の間違いじゃない!?」並にエゲツないお話でとても嫌な気持ちになりました。あとゲゲゲの鬼太郎のこと全然知らなくて勝手に半妖だと思ってたら幽霊族だった。ごめんちゃい。

というわけで、凄まじかったです。

たしかに序盤の封建的な村の旧家の遺言状の開封のシーンなんかは犬神家モロだったし、その後の連続殺人事件のやたらと装飾性の高い死体も大好物。
ただ、本作はミステリとしてかっちり作るよりあくまでエンタメに振り切ってたのがよかった気がします。妖怪が出てくる時点で犯人当てとかに関してはある種なんでもあり感は出ちゃうので、それより怪奇探偵小説的雰囲気の上で妖怪バトルアクションやエモいバディものをやりつつストレート豪速球なテーマをも内包したてんこ盛りな作りによってテンション上げられることで描かれるメッセージに対しても感情的に入り込める感じと言いましょうか。とはいえ「どわっ、そーゆーことか!?」ってなる伏線の使い方とかいっぱいあったし、ミステリとして観ても楽しめました。

そして、なにより大日本帝国から高度成長期、そして現代の日本にまで通じる日本という巨大なムラ社会を一つの村に象徴させ、戦後の日本社会そのものを斬るストーリーがあまりにも絶望的で、かつ「言ってくれた!」という痛快さもあり素晴らしかった。
「国のため」という論理で実際には私利私欲を満たすだけの権力者の姿の醜悪さに殺意しか湧かず、でもそれがそのままこの国の姿だということに絶望してしまう、マジで人気アニメの劇場版とは思えない鬱映画なんすよね。
けどだからこそ、水木とゲゲ郎(目玉おやじ完全体)の最初は利害の一致だけで組んだ2人が徐々に信念の相棒となっていって弱き一個人の矜持を見せつけてくれるところには喝采を送りたくなっちゃう。
そんで、この水木という主人公のキャラクターが、戦争で受けた仕打ちから帝国主義を強烈に憎みながらも、その枠組みの中でのし上がることで復讐しようとするアンビバレンスを抱える人物として描かれているのがスリリングで良かった。彼に感情移入しながら観る私もまた個を殺して生き延びねばという現実とそれによって踏みつけられる弱き者たちとの間で引き裂かれる感覚を味わえました。
だから、そのどっちつかずの状況から正しい側へと踏み出すためのきっかけとしてあの救いの無さがあるんだと思うが、しかしそれにしても救いがなさすぎて苦しかった......。まさか、そんな、ねぇ。でもそれこそこの世界の形なんですからまたしんどい......。
そうした、国家や企業などといった巨大なものに対して個人と個人の繋がりという「小さなもの」を水木とゲゲ郎の友情などを通して描き、その小ささが産まれくる鬼太郎や目玉だけになっちゃったゲゲ郎として結実するようなところもすげえ良かったっす。

まぁなんかそんな感じで「おいっ鬼太郎!」「父さん、霊気を感じますよ!」みたいなのを観れると思ったらゴリゴリの反戦反差別反帝国反家父長映画でロックっつーかもはやアナーキーで最高で最悪でした......。思い返せばつらみ溢るる......。うげえ。
来る大阪万博で日本のスゴさを世界に見せつけてやりましょう!

つか、鬼太郎がイケボすぎてびびったのと猫娘がモデル級美少女でびびったけど今アニメあんな感じらしいっすね......。

以下ネタバレ。


























































女子供が全ての皺寄せを食らって最悪な結末を迎えるのが本当に最悪。
そして国のため繁栄のためとのお題目を信じた結果が戦死か過労死の男の苦しみもガッツリ描かれててつらい。
若者を食いモンにして(なんせ体乗っ取ってますからね)おきながら「若者が不甲斐ないから」「国のために」という糞理屈を捏ねるジジイの最後が地獄行きはザマァみろだけど、どうせグロい映画なんだからもうちょいグロい死に方してほしかったわ。
血の桜の悍ましさに震え、そこに日の丸が重ね合わされるようなイメージにも震え、少年が夢見た東京タワーすら血の色に染まっているのにも震える。
もう、こんな国も、こんな世界も滅びたらいいと思うわ。

ミステリとしては、遺言状の内容が少年の体を乗っ取って実権を握るための伏線になってたのに驚き、2番目3番目の被害者が殺される直前に少女と揉めるきっかけがあったことが示されていつつさりげないから彼女が犯人とはそん時は思わないのも上手い......。
あと少女の水木への妙な馴れ馴れしさというか、女を感じさせる接触の仕方すらアレを仄めかしていることが悍ましくて無理......。