偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

津村記久子『婚礼、葬礼、その他』感想

こないだ『キミソイ』を読んで良かったので。
表題作(「婚礼、葬礼、その他」で一つのタイトル)とカップリングの「冷たい十字路」の2編を収録した中編集。


「婚礼、葬礼、その他」

友人の結婚式の最中に上司の父親の葬式に呼び出されるお話。

会ったこともない老人の葬式に強制招集される理不尽、しかも故人は酷い人間だったらしく愛人だけが悲しみアピールするといういたたまれない状況、さらに抜けてきた結婚式の二次会はスピーチ役兼幹事である主人公を失い迷走しているという電話......。
どういう状況やねん!というシチュエーションが描かれ、著者流のユーモアによるドタバタコメディのような感じでニヤニヤしながら読みました。
しかし、そんな中にも自身の祖父母への想いだとか死に方から見えてくる生き方とか、ちゃんとしたテーマもあるのが凄い。
逆にいうと、ちゃんとしたテーマをユーモアに包んで出してくれるこの作家は凄えというか、信用できる感じがします。



「冷たい十字路」

2つの高校や小学校の通学路となっている交差点。自転車通学の高校生の暴走により、ある日ついに大きな事故が起こり......。

これは打って変わってタイトル通り怖いくらい冷たいトーンで描かれる群像劇。
事故に直接巻き込まれたわけではなく、関係者とすら言えるのかどうか微妙なくらいの人々の視点から事故について語られていく構成となっています。なので、一人一人は事故の全貌など知らずに自分の見える範囲のことを語っていくんだけど、それが交差して読者にだけはだんだん事故が起きるに至るメカニズムが見えてくる......という点ではちょっとだけミステリっぽい風味でもあります。

交差点を通る人たちの悪意というほど自覚的でもない自己中さと、それが悲劇に繋がるとは思いもしない想像力の欠如が描かれるのが恐ろしい。
朝急いでる人は誰もが他の人より自分のが重大な目的を持っていると思っている、みたいな一節が印象的で、これは自分も遅刻しそうな時とかは思っちゃいがちなので普通に気をつけたいです。