偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

高野雀『さよならガールフレンド』感想

コミティア見本誌読書会で1位になったという表題作など6編を収録した著者デビュー短編集。

漫画の後ろに書いてある「ドン!」とか「ガーン!」みたいな擬音語あるじゃないですか?本書はあれも手書きじゃなかったり、背景とかもなんかデジタルな質感があって、そんだけでなんか独特の雰囲気が出てて面白かった。
内容も、エグく描けそうな内容も淡々と描かれているのでそんな画風に合ってるし、淡々とした感じが自身を取り巻く世界の閉塞感への諦念のようでもあり、そんでもところどころで感情を振り回されるようなシーンもあったりして、全体には低体温だけどちゃんと血の通った暖かみが感じられるのもすごい。
ユーモアもなんかさらっと挟まれるから最初は笑うところなのかよく分からんかったけどクセになりますね。
どの話も読後感は軽やかでありつつどこか気にかかって心からなかなか離れないような余韻も残って素敵な1冊でした。

以下各話感想。



「さよならガールフレンド」
日本のどこにでもありそうな地方都市で狭い町のくだらない人間関係の閉塞に淡々と絶望する女子高生が主人公。
彼氏の浮気相手である"ビッチ先輩"と出会い、ギャル系な彼女に反感を抱きつつも徐々に惹かれていく様を描いた作品で、そういうシスターフッド的な関係性を描きながら「さよならガールフレンド」という男ウケしそうなタイトルを付けるのがロックな感じ。まんまとやられました。
東京への進学を希望する主人公ですが、東京に行っても何も変わらないかもしれないという予感もある二重の閉塞感。そこにビッチ先輩が風穴......というほどじゃない小さな穴を開けてくれて、その小さな穴からでも少し新鮮な空気が入ってきて息苦しさが減るような、淡々とした暖かさに満ちためちゃくちゃいい話だった!
つまらない景色でも見方次第でキラキラすることを表すような工場のシーンが印象的で、つまらない自分をまずは受け入れることで世界が面白くなるかも......という予感が爽快。



「面影サンセット」
アラサー(間も無くサー)の主人公が、もう若くないのに若いつもりでいる彼氏と、もう若くない自分自身に失望するお話。
学生時代から10kg太ったけど30歳くらいの大人がどんな服着ればいいのか分からなくて未だに大学生みたいな格好してる(しかし大学時代は中学生みたいな格好してたから進化はしてる)私からしたら実に耳の痛い話で、ファッションだけじゃなくて体も頭もどんどん動かなくなるし目も耳も悪くなるし給料は上がらないしでもう散々ですわ......とただの加齢の愚痴になっちゃったけど、主人公たちと同世代な私にはなかなかクるものがありましたね。
でもそれにしても彼氏がくだらない人間すぎて笑っちゃった。こんな男さすがにいねーだろ、、、と思いたいけどいるのか......?
こういうある種俗っぽい話にサンセット蘊蓄を絡めてちょっと詩情が出てくるのも良いっすね。



「わたしのニュータウン
高校時代の親友が彼氏と結婚して札幌に行ってしまうことになるお話。
親友をぽっと出の彼氏に奪われる寂しさや嫉妬というのはなんか女性特有な気がして「へー」という感じだった。男同士だと友達に彼女が出来たりしても別にそんな変わらないし、たぶんそれはどこか女が男の所有物みたいな感覚があるからなのかもしれないと気付かされた。
しかし私はむしろ彼女の友達に嫉妬してたなぁ。というのを思い出してなんだかんだほろ苦い気持ちになった。
しかし最後の方のあるセリフに救われる、寂しくも爽やかな友情物語でした。



「ギャラクシー邂逅」
毎朝通勤電車の向かいのホームに立っていた人を最近見かけなくなり、その代わりのように、彼に似た新入社員の教育係になった主人公のお話。
見た目しかしらないし向こうがこっちを認知してるかも分からない人を毎日見かけて、別に一目惚れとかでもなくなんとなく気になってしまう......という身近すぎて普段意識しないけどたしかにあるある感覚から重力や宇宙へと広がる発想が美しく素敵。



まぼろしチアノーゼ」
自分には女の子の資格がないと思っている主人公がセフレに適当に扱われるお話。
これも男には分からない女として生きることの難しさが描かれていてほえ〜ってなった。
「女の子」であるべきという不条理な圧力に価値観を形成されてしまう生きづらさは男にはあんまないように思う......いや、でもまぁ、なくはないか......。
読んでてこんなクズと会うのやめたらいいのにと誰もが思うだろうけど、やめられない気持ちも分かるように描かれていて凄い。あと、お姉ちゃんの一言が良かったなぁ。



「エイリアン/サマー」
最後に急に男の子主人公で童貞を殺す青春漫画がはじまるので私は死んだ。
高校時代、ギャルへの謎の憧れ、あった(あった)。未知(との遭遇)。恋とも友情ともつかない、かれらだけの関係。夏。